長引く咳は風邪じゃない?高齢になると肺炎に注意
咳が出ると真っ先に疑うことは何でしょうか。大半の方が風邪だと考え、市販薬に頼る、病院に行き薬を処方してもらう、自然治癒で治すという行動をすると思います。
ですが、咳だけが長引くということがあり、その時は風邪以外の原因も考えられます。
その一つに「肺炎」があり、高齢者が罹ると注意が必要です。
1.咳が長引く。それは風邪じゃないかもしれない
高齢者で咳が長引くと、考えられる病名は、喘息、副鼻腔気管支症候群、肺癌、間質性肺炎そして肺炎が考えられます。
1-1.喘息
アレルギーなどで気道が過敏になり、少しでも伸び縮みすることで咳が出やすくなってしまうと、喘息は発症します。吸入薬を使用することで、咳が改善することが特徴です。
1-2.副鼻腔気管支症候群
上気道と下気道に炎症を起こすことで発症します。
慢性気管支炎、気管支拡張症などの、気管支に慢性の炎症が続く病気は、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)といった上気道の炎症と合併しやすいです。
この合併した状態が副鼻腔気管支症候群です。
明確な原因はわかっておらず、副鼻腔から寝ている間に鼻汁が降りて、気道に落ちてしまうことで発症するという意見と、異物を排出するために粘膜の表面に存在する線毛の機能障害という意見があります。
症状は黄色や緑の粘り気のある鼻汁、鼻づまり、頭が重く感じる、鼻汁がのどに落ちることを指す後鼻漏、咳払い、嗅覚障害などの副鼻腔炎の症状がみられます。その他にも咳、痰、微熱などの呼吸器症状もあります。
◆『気管支炎とは』>>
◆『気管支拡張症とはどんな病気?』>>
1-3.なぜ高齢者は長引く咳に気を付けないといけないのか
高齢者は複数疾患がある場合が多く、その疾患との他の疾患の合併や、他の疾患の薬の副作用で咳が出ているのかもしれないという場合を考えないといけません。
例として、気管支炎と心不全が合併しているとします。
心不全という病気は、心臓が血液の循環をする役目をになっていますが、心不全になるとその機能が低下していきます。
全身から心臓に血液を吸い上げる力が低下すると、心臓に帰れない血液が肺や手足に溜まり、血液中の水分が肺に染みだして、痰としてその水分を排出しようと、咳が出やすくなるということがあります。
気管支炎だと思っていたら、心不全で別の病気も患っていたということになります。
もう一つの例は、気管支炎の患者さんが高血圧で血圧を下げる薬を服用していたとします。
高血圧の薬には副作用の一つで咳が出ることがあります。
気管支炎で咳が出ていたとも考えられますが、関係ないと思っていた高血圧の薬の服用で咳が出続けてしまっていたということも考えられます。
このように高齢者になると、疾患が1つだけでないことがあります。咳が出る原因が現在の疾患とは別だったということがないように、より深く考えなくてはいけません。
そして、特に高齢者に注意していただきたい病気が「肺炎」です。高齢者の死亡要因は肺炎が多くを占めていることもあり、ただの長引く咳と思わないように注意しましょう。
2.肺炎ってどんな病気?
肺炎の症状は風邪に似ており、主な症状は、発熱、咳、痰で症状から見分けることは難しいとされています。
風邪は主に鼻や喉といった上気道に、原因となる微生物が感染して炎症を起こすことに対し、肺炎はウイルスや細菌の感染が肺にまで進んでいる状態のことを言います。
上気道までの炎症(風邪)だと、免疫のシステムで2週間もあれば治るものがほとんどです。しかし、日常でかかる肺炎は主に肺の中の感染症で、肺胞に炎症が起こります。
肺胞は呼吸の役目を担っているので、肺胞に炎症が起こると、息苦しさ、呼吸が速くなる、時折呼吸困難になることもあります。重症化すると入院が必要になるので、風邪とは全く別物ということを覚えておいてください。
そして、肺炎は悪性新生物(腫瘍)、心疾患、老衰、脳血管疾患に続き5位の死因で、肺炎で亡くなった方の97.8%は65歳以上です。
歳を取り、身体機能の衰えや免疫力の低下が肺炎のリスクを上げてしまうので、高齢者は特に気を付ける必要があります。
風邪と似ている症状のため、そのうち治るだろうと思っていると重症化してしまうという病気なので注意してください。
【参考文献】「令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei22/
肺炎といっても、細かく分類されるので紹介します。
2-1.誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎は文字通り、食べ物や飲み物、唾液が気管に入ってしまう誤嚥に関係する病気です。
万が一、食べ物などが気管に入ってしまう誤嚥があったとしても咳反射が起こるので、吐き出すことができます。
しかし、高齢者になると飲み込む力や、咳反射が弱くなり誤嚥が起こりやすくなります。
そして、誤嚥した唾液などにウイルス、細菌などが含まれていると肺炎を起こすことがあります。
【参考著書】「長引くセキはカゼではない」大谷義夫
【参考情報】 Cleveland Clinic 『Aspiration Pneumonia』
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/21954-aspiration-pneumonia
2-2.細菌やウイルスによる肺炎
肺炎は、細菌やウイルスをきっかけに発症してしまうことがあります。
①肺炎球菌感染症
肺炎球菌感染症とは、肺炎球菌という細菌によって引き起こされる病気です。
肺炎球菌は空気中に存在しており、日本人の約3~5%の高齢者は鼻や喉の奥に菌が常に存在しているとされています
。
免疫システムが低下している高齢者の場合は菌が何かのきっかけで進展し、気管支や肺に侵入してしまうことで、肺炎、気管支炎、敗血症などの重い合併症を引き起こすことがあります。
2024(令和6)年度以降は、対象者1、2、もしくは3の方が定期接種の対象です。
対象者1 65歳以上の方
対象者2 60~64歳で、心臓や腎臓、呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活を極度に制限される方
対象者3 60~64歳で、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
【参考文献】「肺炎球菌感染症」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/haienkyukin/index_1.html
高齢者は落ちてしまった免疫力を補うために、ワクチンの予防接種を受けるのも良いでしょう。
ワクチンを接種することで、病原体に対する抵抗力ができ、病気にかかりにくくなります。
高齢者の肺炎球菌の予防接種の実施主体は市町村です。まれに、副反応もありますので、接種の際には注意事項などを必ず聞いて受けるようにしてください。
②インフルエンザ
インフルエンザも、肺炎が起こるきっかけになることがあります。
インフルエンザに感染すると、気道の表面の細胞が壊されるため、肺炎球菌などの細菌が肺に侵入しやすくなってしまいます。
そして、肺炎を起こしてしまうという結果になってしまいます。
インフルエンザもワクチンがあるため、高齢者は接種が推奨されています。
2-3.アレルギーによる肺炎
肺炎はアレルギーによって発症することもあり、過敏性肺炎と呼ばれています。
原因となる物質はさまざまあり、羽毛に付着している微細なタンパク質「ブルーム」、エアコンや加湿器のカビや細菌、白いカビの「トリコスポロン」、そのほかにも化学物質やきのこの胞子なども原因とされることがあり、100~200種類もあると言われています。
これらの原因物質は非常に小さいので、気管支や肺胞まで入り、アレルギー反応が起きてしまいます。そして、肺が炎症を起こしてしまい、過敏性肺炎になります。
症状は息切れ、咳、発熱が挙げられます。
【参考情報】Cleveland Clinic『 Hypersensitivity Pneumonitis』
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/17898-hypersensitivity-pneumonitis
3.肺炎で入院。その後の生活に影響を及ぼすことも
肺炎は38.5度以上の高熱が続いたり、強い咳が出ることがあります。
しかし、高齢者の場合免疫システムが低下することで、熱が37度台、高くても38度前半ということが多いです。
高熱が出るということは、免疫システムがウイルスや細菌を倒す働きをしているということです。
年齢とともに免疫システムが低下している高齢者は、そこまで熱が上がりきりません。
同様に、咳、痰などの症状もあまりみられないということがあるので、肺炎と気づかず重症化になることもあります。
そして、高齢者が重症化し入院してしまった場合、入院により足腰の筋肉が衰えてしまう、認知症の症状が加速するなどの心配な点もあります。
3-1.足腰の筋力の衰え
安静や寝たきりの状態により身体を動かさない時間が長くなることで起こる障害を廃用症候群と呼んでいます。
特に高齢者は加齢で身体機能が低下しているため、活動量低下により、廃用症候群になりやすいともされています。
筋骨格系の影響として、筋力の低下、関節が動かしにくくなることが挙げられます。
3-2.認知症
日常生活を送れていた高齢者が、入院でストレスがかかってしまい、軽度認知症が急激に現れてしまうということがあります。
この場合「入院して認知症になった」と思ってしまいますが、入院をきっかけに認知症になることはなく、実は軽度認知症があり、徐々に進行していたものが入院で急激に進行したと考える必要があります。
4.65歳以上は肺炎のリスクがあがる。予防法は?
高齢者の肺炎にはリスクがある上に、風邪と似ていて判断しにくいということがわかりました。
肺炎にならないためには、どうすればよいでしょうか。
まずは、加齢によって免疫システムが低下しているのでワクチンを接種し、病原体に対する、抵抗力を獲得しましょう。
年齢に応じた正しいワクチン、正しいスケジュールで接種をおこなう必要がありますので、詳しくは医師に相談をしてください。
ウイルス、細菌を身体内に侵入させないことも大事です。マスクの着用、手洗い、うがいを日常的におこなうように心がけましょう。
口内の雑菌を減らすことも肺炎の予防に繋がります。特に感染予防に効果的なのは、朝起きた時の歯磨きです。
食後も大切ですので、朝起きた時、毎食後の計4回の歯磨きがおすすめです。
そして、肺炎球菌感染症は喫煙者はなりやすいとされています。健康のためにも禁煙をしましょう。
【参考文献】「肺炎球菌感染症(Pneumococcal Disease)とは」厚生労働省検疫所FORTH
https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/name63.html
5.おわりに
肺炎と聞くと、咳が強いということだけ思い浮かべる方が多いと思いますが、風邪と似ていて高齢者だとよりリスクがある病気です。
ただの風邪と思い込まず、咳が続くようでしたらより専門的な呼吸器内科を受診しましょう。
高齢者がご家庭にいる方は、咳が続いていないかなど気にかけるようにしてください。
重症化して入院にならないためにも、予防法もぜひ実践してみてください。