じん肺症ってどんな病気?

じん肺症とは、肺の組織が硬くなって弾力を失ってしまう病気です。

小さな土埃や金属の粒などの粉じんが発生する環境で仕事をしている方が、長期間に渡って多量に吸い込むことで発症し、ゆっくりと進行します。

主に、鉱山や工事現場、建設業での作業に関連して発症する病気であるため、「職業性肺疾患」とも呼ばれています。

今回の記事では、じん肺症の原因や症状、検査、治療について、わかりやすく解説します。

1.原因


じん肺症は、吸入する粉じんの種類によってわけられます。

1-1.珪肺症

珪肺症(けいはいしょう)は、遊離珪酸の粉じんを吸い込むことが原因です。

発症リスクが高いのは、鉱山や採石場などで働く人です。

珪肺症は、「急性」と「慢性(古典的珪肺)」にわけられます。

急性の場合は、わずか数年場合によっては1年に渡って圧倒的高濃度の遊離珪酸の粉じんを吸い込むことで発症します。

息切れが急速に悪化し、数年以内の呼吸不全で死亡する可能性が高いです。

慢性(古典的珪肺)の場合は、通常20年以上に渡って遊離珪酸の粉じんを吸い込むことで発症します。

運動時に呼吸困難があらわれるようになり、最終的には安静時にも息切れを起こす状態になります。

心臓にも負担がかかるようになるため、肺性心と呼ばれる心不全に陥り、死に至る可能性もある怖い病気です。

1-2.石綿肺

石綿肺(いしわたはい)は、アスベストの粉じんを吸い込むことで、肺の組織が広範囲に瘢痕化する病気です。

アスベスト症とも呼ばれています。

アスベストは、建築資材や造船資材、自動車のブレーキなどに使われていたため、これらに携わる職業の人にみられます。

また、アスベストは肺がんや悪性胸膜中皮腫を発症する原因です。

【参考情報】『アスベスト(石綿)とは?』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/asbestos/what/higai/shikkan.html

1-3.有機じん肺

有機じん肺は、綿じんや農業に伴う粉じん、小麦粉などの穀物粉じん、有機化学物質など、さまざまな有機粉じんを吸い込むことで発症します。

有機粉じんは、主に農夫肺、職業性気管支喘息や職業性過敏性肺炎を起こします。

◆喘息について>>

◆過敏性肺炎とは>>

1-4.溶接工肺

溶接工肺は、1,200~1,400℃に熱せられた酸化鉄を主体とする金属粉じん(溶接ヒューム)を吸入することで発症します。

我が国においては、新規のじん肺発生者数で、もっとも多いじん肺です。

1-5.超硬合金肺

超硬合金とは、タングステンとコバルトを主成分とするニッケル、タンタル、クロムなどの微量金属を配合した合金の総称です。

超硬合金肺は、超硬合金の製造や使用する際に発生する原末や粉末を吸入することで発症します。

主たる原因物質はコバルトで、タングステンとの相互作用でより肺への傷害が強くなる可能性が指摘されています。

粉じんの吸入を回避することで、病気の進行を止めることが期待できますが、繰り返し気胸を発症したり、肺癌を合併したりする患者さんもおり、見通しの良い疾患とは言えません。

◆気胸ってどんな病気?>>

2.症状


じん肺症の初期段階に症状はほとんどありませんが、病状が進行するにつれて症状があらわれます。

主な初期症状は、息切れや咳、痰が増えるなどです。

さらに病状が進行すると、呼吸困難を引き起こします。

また、以下のような合併症を起こしやすくなります。

・肺結核
・結核性胸膜炎
・続発性気胸
・続発性気管支炎
・続発性気管支拡張症
・原発性肺がん

じん肺の症状は数年から数十年かけてゆっくりと進行するため、粉じん作業に従事しているときには気づかない場合もあります。

離職後も少しずつ病状が進行していくため、低酸素血症が進むと酸素吸入療法が必要になる人もいます。

【参考情報】『じん肺について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/0309-1a_0002.pdf

【参考情報】『Pneumoconiosis』Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/niosh/topics/pneumoconioses/default.html

3.検査


診察時に、職業や粉じん作業歴、職場環境などの聞き取りをおこないます。

じん肺が疑われる場合におこなう検査は、以下のようなものがあります。

・胸部X線検査
・胸部CT検査
・呼吸機能検査(スパイロメトリー)
・採血
・血液ガス分析

胸部X線検査や胸部CT検査では、肺に線維化を始めとする様々な影があるかを確認します。

肺活量など呼吸機能の障害を評価するために、スパイロメトリーと呼ばれる検査をおこないます。

採血では、炎症の状態の確認と、血液中の酸素濃度を評価するために血液ガス分析もおこないます。

◆呼吸器内科の検査について>>

4.治療


じん肺は、不可逆的であるため、一度発症すると根治は期待できません。

そのため、原因となる粉じんを吸入しないよう環境の改善をおこない、日常的な防じん対策が重要です。

じん肺を発症した場合には、症状に合わせた対症療法がおこなわれます。

咳に対しては鎮咳薬を、痰に対しては去痰薬を使うなど、薬物治療が中心です。

また、気管支拡張薬やステロイド薬、免疫抑制薬を使った治療がおこなわれる場合もあり、低酸素血症が進行している場合には、在宅酸素療法の導入が検討されます。

呼吸法の訓練をおこなう、呼吸リハビリテーションもおこなわれる場合があります。

合併症を発症している場合には、合併症に合わせた治療も必要です。

肺がんなどの悪性疾患を発症している場合には、手術療法や化学療法、放射線療法がおこなわれることもあります。

また、じん肺の人は肺炎を起こしやすく、重症化の可能性が高いです。

◆当院の肺炎治療について>>

そのため、可能な限り呼吸器感染症には注意し予防していきましょう。

じん肺の進行を抑え、合併症を予防するためにも、日常生活の中で特に気を付けるポイントがあります。

<日常生活での注意するポイント>
・禁煙
・風邪に注意
・バランスの取れた食事
・規則正しい生活
・適度な運動
・痰を積極的に出す

これらのことを意識し、適切な健康管理をおこないましょう。

5.おわりに

じん肺は、原因となるさまざまな粉じんを吸い込むことで、肺が弾力を失って硬くなる病気です。

じん肺は、一度発症すると元には戻りません。

また、呼吸器感染症にかかると重症化しやすく、さまざまな合併症を引き起こします。

そのため、原因となる粉じんを吸い込まないよう防じん対策をすることが大切です。

粉じんを扱う職業の人で、咳や痰などの症状が気になる方は、早めに呼吸器内科を受診しましょう。