胸膜炎ってどんな病気?

胸膜炎は、肺を包む薄い膜である「胸膜」に炎症が起こり、胸部に痛みや呼吸困難を引き起こす疾患です。「肋膜炎」とも呼ばれることがあります。

胸膜の炎症により、肺からの浸出液が胸腔内に漏れ出し、胸水が生じます。日本では、がん性胸膜炎と結核性胸膜炎が多くを占め、全体の60〜70%を占めると報告されています。

この記事では、胸膜炎の原因や症状、検査と治療についてご説明します。胸膜炎の理解と早期の対応が、効果的な治療への鍵となります。

1.原因


人間の胸部には、胸椎(背骨)、肋骨、肋間筋(肋骨の間にある筋肉)、胸骨(前胸部にある骨)などからなる筒状の構造(胸壁)があり、その中に肺や心臓などが収まっています。

胸膜は、肺を包み込む2枚の薄い膜です。これら2枚の膜の間には、胸腔と呼ばれるわずかな隙間があり、ここには少量の液体(胸水)があります。

この胸水によって、呼吸時に肺と胸壁が直接擦れ合うことなく、スムーズに動くことができるよう潤滑の役割を果たしています。

胸膜炎の原因は、胸膜に生じる炎症です。炎症が起こると、胸膜の中の血管から蛋白質や水分が漏れ出し、通常よりも多くの胸水が胸腔内に溜まることになります。

炎症の原因は多岐にわたりますが、多くは感染症によるものとがんによるものです。

感染症によるものは細菌やウイルス感染が原因で生じますが、日本では結核感染による“結核性胸膜炎”が多いとされています。

がんが原因のものは“がん性胸膜炎”と呼ばれます。肺がんや乳がんなどの肺転移や胸膜播種、悪性リンパ腫、悪性胸膜中皮腫などが原因として挙げられます。

そのほかにも心不全や関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、血管炎、肺塞栓症、卵巣腫瘍、膵炎などの病気(膵性胸水)、アスベストへの曝露なども原因になるとされています。

また、胸膜炎は薬の副作用によって引き起こされることもあります。原因となる可能性がある薬は抗不整脈薬のアミオダロン、抗がん剤のブレオマイシン、抗てんかん薬のパルプロ酸ナトリウムなどです。

【参考文献】Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pleurisy/symptoms-causes/syc-20351863

2.症状


胸膜炎の症状は、胸水の量や炎症の原因によって異なります。また、原因によって進行の速度はさまざまです。

感染症による胸膜炎は急激に症状が現れることが多いのに対し、がんなどの病気が原因である場合は、症状が徐々に悪化していく傾向にあります。

症状は主に以下のようなものがあります。

【呼吸器症状】
咳や息切れ、息苦しさがみられます。これは、胸腔内に胸水が溜まることで肺が圧迫されるためです。

【胸痛】
胸水が溜まっている側の胸部に痛みを感じます。とくに深く息を吸った時に悪化することが多く、ピリピリと感じることが多いとされています。

【発熱】
感染症が胸膜炎の原因である場合、発熱を伴うことが一般的です。

【呼吸困難】
胸腔内に胸水が大量にたまると、呼吸困難が顕著になります。溜まった水がさらに肺を圧迫し、肺がうまく膨らまないために、正常な呼吸が困難になります。

【心臓への影響】
重症化すると、胸水による圧迫で心臓が影響を受け、脈拍の増加や血圧の低下が生じることがあります。

【参照文献】一般社団法人 日本呼吸器学会『呼吸器の病気 胸膜炎』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/g/g-01.html

3.検査


胸膜炎の検査には、以下のようなものがあります。

3-1. 画像検査

画像検査には胸部X線検査と胸部CT検査があります。

【胸部X線検査】
最も基本的な画像検査で、胸腔内の構造を可視化します。
胸水貯留や肺炎、肺の異常などがある場合にその有無や範囲を把握するために行われます。

【胸部CT検査】
胸部X線検査よりも高い解像度で肺や胸膜の詳細な画像が確認できます。
胸膜の厚みの増加、小さな胸水の貯留、肺炎の特定の形状など、より微細な異常を検出するのに有効です。また、胸膜炎の原因となる可能性のある腫瘍や他の異常も検出できます。

3-2. 胸水検査

胸膜炎の原因を調べるために胸水を採取する検査です。

【胸水採取】
胸腔穿刺とも呼ばれるこの検査では、針を用いて胸腔内の液体(胸水)を採取します。

【胸水分析】
採取した胸水は、細菌感染の有無、がん細胞の存在、タンパク質の量、腫瘍マーカーなどを調べるために分析されます。
これにより、胸膜炎の原因が感染症、がん、その他の疾患であるかを特定できます。

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3-3. 胸膜生検

胸膜の細胞を調べます。胸膜の生検を行う際には、小さなカメラが付いた器具(胸腔鏡)を使用して、胸膜の組織サンプルを直接観察し、採取します。これは、胸膜炎の原因を確定するために必要です。

4.治療


胸膜炎の治療方法は、その原因によって異なります。

感染症が原因の場合は抗菌薬の投与が行われることが一般的です。一方、がんが原因の場合は抗がん剤などの治療が行われます。

感染症の場合、適切な治療により改善することが多いですが、胸水が多くたまり呼吸困難などの症状がある場合には、胸膜腔に体外から管を挿入して胸水を排出させる治療が必要になることもあります。

また、胸水を排出しても貯留を繰り返す場合は、手術が検討されることもあります。胸膜炎の手術としては次の方法があります。

【胸膜癒着術】
胸腔内に胸水がたまるのを防ぐために、胸膜癒着を促進する薬剤を胸腔内へ注入する処置です。

【カテーテル留置による間欠的ドレナージ】
留置カテーテルを用いて胸水を間欠的に排出する治療法です。これにより胸水が貯留しにくくなる場合があります。

【外科的胸腔ドレナージ】
胸腔に外科用ドレーンを挿入し、空気または液体を排出します。再発性、持続性、外傷性、大きい、緊張性、悪性胸水に適応されることがあります。

【参照文献】一般社団法人 日本呼吸器学会『呼吸器の病気胸膜疾患胸膜炎』
http://www.f-seisyukai.jp/pdf/kokyuki_7_1.pdf

5.おわりに

胸膜炎は、肺を取り巻く膜である胸膜に炎症が生じる病態であり、胸痛や呼吸困難などの症状を引き起こします。
症状の早期発見と適切な治療が非常に重要です。

胸痛や呼吸困難など、気になる症状がある場合は、早めに呼吸器内科への受診を検討しましょう。

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