咳が止まらない時の薬の服用について妊娠中・授乳中の注意点
「咳が止まらないのに、妊娠中だから薬は我慢した方がよいのでは」「授乳中に飲んだ薬が赤ちゃんに影響しないか心配」と悩んでいませんか。
長引く咳はつらいだけでなく、眠れない、食事が進まない、体力が落ちるといった問題につながります。
妊娠中・授乳中こそ自己判断で我慢せず、検討できる薬と薬に頼りすぎない対処法を知ることが大切です。
1.妊娠中・授乳中の咳を我慢しない方がよい理由

妊娠中や授乳中の咳は、「薬を飲めないから様子を見る」だけで済ませない方が安心です。
胎児や乳児のためにも、まずは母体が健康であることが重要になります。
大切なのは、咳のつらさだけではなく、咳の原因の両方を考えることです。
【参考情報】『Cough』MedlinePlus (U.S. National Library of Medicine)
https://medlineplus.gov/cough.html
1-1.まず守りたいのは母体の体調です
強い咳が続くと、横隔膜や腹筋など全身の筋肉を使うため体力を消耗しやすくなります。
さらに、夜の咳で眠れない状態が続けば、寝不足で日中の生活にも影響します。
咳がすぐに赤ちゃんへ直接悪影響を与えると決めつける必要はありません。
しかし、咳によって体力が消耗する、食事や水分が取りにくい、眠れないといった母体の消耗が間接的に胎児への悪影響となる可能性があります。
妊娠中はもともと体に負担がかかりやすいため、咳を我慢し続けるより、医師や薬剤師に相談し、早めに原因を確かめて、服薬などで母体への負担を減らすことが大切です。

◆「夜に咳が止まらず眠れない時はどうすればいい?」について>>
【参考情報】『Pregnancy』MedlinePlus (U.S. National Library of Medicine)
https://medlineplus.gov/pregnancy.html
1-2.長引く咳の陰に別の病気が隠れていることもあります
咳は風邪だけで起こるとは限りません。
喘息、肺炎、鼻水がのどに落ちる後鼻漏、胃酸の逆流などでも長引くことがあります。
妊娠中・授乳中は「薬を避けたい」という気持ちから受診が遅れやすいですが、原因が違えば必要な治療も変わります。
咳止めだけで済むと思い込まず、長引くときほど原因の見極めが大切です。
◆「咳が止まらない時に疑うべき病気と受診の目安」について>>
2.妊娠中・授乳中でも医師の管理で使われることがある薬

妊娠中・授乳中でも、すべての咳の薬が一律に使えないわけではありません。
ただし、使えるかどうかは咳の原因、持病、他の薬との飲み合わせなど様々な理由で変わります。
代表的な薬剤名と共に、薬剤の特徴や注意点を押さえておきましょう。
2-1.候補になる薬の例を知っておきましょう
妊娠中でも処方が検討されることがある薬に以下のような薬があります。
・咳を抑える薬:デキストロメトルファン
・痰を出しやすくする薬:アンブロキソール
【デキストロメトルファンとは、中枢に作用して咳反射を抑える代表的な鎮咳成分のこと】
これらは添付文書上、妊婦では「治療上の有益性が危険性を上回る場合にのみ投与」とされるものが中心です。
国立成育医療研究センターでは、授乳中に使用を検討される薬として「メジコン(デキストロメトルファンの先発薬)」が挙げられています。
【参考情報】『授乳中に安全に使用できると考えられる薬 – 薬効順 – 』国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/lactation/druglist_yakkou.html
【参考情報】『Dextromethorphan』National Center for Biotechnology Information (NIH)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK538216/
2-2.同じ「咳の薬」でも注意点は同じではありません
ここで大切なのは、名前だけで安全性を判断しないことです。
前章で挙げた咳止め成分・去痰成分は、妊婦では有益性投与(治療上の有益性が危険性を上回ると医師が判断した場合にのみ使用)、授乳中では授乳の継続または一時中止を検討するとされています。
一方で、コデインリン酸塩という薬は、胎児への悪影響が指摘されており、慎重な判断が必要とされています。
【コデインリン酸塩とは、オピオイド系の鎮咳成分の薬】
つまり、同じように見える鎮咳薬でも選び方に差があるのです。
咳の原因が喘息なら、鎮咳薬だけでなく吸入薬など原因に合った治療が必要になることもあります。
【参考情報】『Codeine Use While Breastfeeding』U.S. National Library of Medicine (LactMed/NIH)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK501212/
3.市販薬を自己判断で選ばない方がよい理由

妊娠中・授乳中の咳で特に注意したいのが、市販薬を「とりあえず」で選ばないことです。
ドラッグストアで手に入りやすくても、妊娠中・授乳中に向くとは限りません。
ここでは、市販薬の成分や特徴を紹介し、自己判断で選んではいけない理由を解説します。
3-1.市販の咳止めは複数成分の組み合わせが多いです
市販の咳止め薬や、かぜ薬・のどの症状に使われる薬には、以下のような成分が含まれていることがあります。
・デキストロメトルファン
・チペピジン
・ジヒドロコデイン
・dl-メチルエフェドリン塩酸塩
・トラネキサム酸
これらのうち、複数の成分が組み合わされていることがあります。
【参考情報】『Dextromethorphan』NIH
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK582669/
厚生労働省は、妊娠中でも必要な薬・成分がある一方で、使用を避けるべき薬・成分もあるため自己判断で中断や開始をしないよう案内しています。
市販薬は、複数の成分が組み合わされているため、判断が難しいです。
市販のかぜ薬や鎮咳去痰薬であっても、妊婦や授乳中の人は服用前に医師・薬剤師・登録販売者へ相談するよう心がけましょう。
【参考情報】『妊婦・授乳婦を対象とした薬の適正使用推進事業について 』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/ninshin_00002.html
【参考情報】『Over-the-Counter Medicines』MedlinePlus(U.S. National Library of Medicine)
https://medlineplus.gov/overthecountermedicines.html
3-2.症状を抑えても原因の治療にはならないことがあります
咳止めで一時的に楽になっても、喘息や肺炎、百日咳など原因の治療が遅れることがあります。
【百日咳とは、百日咳菌による感染症で、激しい咳が長期間続くことが特徴の病気のこと】
特に息苦しさ、ゼーゼーする感じ、高い熱、血の混じる痰、長引く咳がある場合は、単なる風邪と決めつけない方が安全です。
妊娠中・授乳中は「薬を避けたいから様子見」という気持ちが強くなりやすいですが、必要な治療を先延ばしにすると、かえって回復が遅れることもあります。
◆「呼吸器内科で扱う症状と受診をすすめる理由について」について>>
【参考情報】『Whooping Cough (Pertussis)』Centers for Disease Control and Prevention(CDC)
https://www.cdc.gov/pertussis/
4.薬に頼りすぎないセルフケア

薬を使うかどうかにかかわらず、咳を悪化させにくい生活の工夫は大切です。
セルフケアだけで原因そのものが治るとは限りませんが、つらさを和らげる助けになります。
ここでは、すぐに実践できるセルフケアについて紹介します。症状がつらいときに実践してみて下さい。
4-1.今日からできる対処法があります
夜の咳が強いときは、横向きや上半身を少し高くした姿勢を試してみてください。
鼻水や痰がのどに流れにくくなり、呼吸が少し楽になることがあります。
白湯など温かい飲み物でのどを潤す、マスクや加湿器、濡れタオルで乾燥を防ぐ、無理のない範囲でこまめに水分を取ることも役立ちます。
【参考情報】『Chronic cough』MAYO clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/chronic-cough/diagnosis-treatment/drc-20351580
妊娠中はお腹を圧迫しない姿勢で休むことも大切です。
4-2.寝室や生活環境の見直しも重要です
エアコンの風、部屋の乾燥、ホコリやカビ、たばこの煙は咳を悪化させる原因になります。
寝室は掃除をこまめに行い、エアコンのフィルターも清潔に保ちましょう。
加湿はやりすぎるのではなく、温湿度を見ながら調整することが大切です。
セルフケアで改善しない場合は、環境の問題だけではなく病気が隠れている可能性も考えましょう。
◆「エアコンが原因で咳が治らない?室内環境の改善策と受診の目安」について>>
5.早めに相談したい症状と受診時の伝え方

「どこまで様子を見てよいのか」が分からないと、受診のタイミングを逃しやすくなります。
ここでは具体的に受診すべき症状と、受診の際に医師に伝えるべきことを紹介します
迷うときは、咳の長さと強さ、息苦しさの有無を目安にすると分かりやすくなるでしょう。
5-1.こんな症状があれば早めに相談しましょう
以下のような症状がある場合は早めに相談しましょう。
・咳が2週間以上続く
・夜眠れないほど咳が強い
・息苦しい
・ゼーゼーする
・発熱が続く
・胸が痛い
・血の混じる痰が出る
・周囲に百日咳などの感染症の人がいる
授乳中は自分の体調悪化だけでなく、赤ちゃんへの感染対策も考える必要があります。
妊娠中に咳が続くときは産婦人科に加えて、呼吸器内科などで原因を確認すると治療の選択肢がわかりやすくなります。
5-2.受診時は「妊娠週数」「授乳中」を必ず伝えましょう
診察で安全な薬を選ぶためには、妊娠何週か、授乳中か、持病があるか、今飲んでいる薬やサプリは何かを最初に伝えることが大切です。
お薬手帳があれば持参し、いつから咳が出ているか、痰の有無、熱、息苦しさ、夜に悪化するかも整理しておくと役立ちます。
【お薬手帳とは、服用している薬や処方歴を記録し、飲み合わせや重複処方を確認するための手帳のこと】
妊娠と薬情報センターでも、妊娠中・授乳中の薬について相談体制を整えています。
【参考情報】『妊娠と薬について知りたい方へ』妊娠と薬情報センター
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/process/
6.おわりに
妊娠中・授乳中の咳は、薬を避けたい気持ちが強いほど我慢しやすい症状です。
しかし、実際には医師の判断で使える薬もあり、反対に自己判断では避けたい薬もあります。
大切なのは、市販薬でごまかすことでも、ひたすら我慢することでもありません。
咳が長引く、眠れない、息苦しいといった時は、妊娠週数や授乳状況を伝えたうえで専門医に相談し、安全に治療を進めましょう。
【参考情報】『Pregnancy and Medicines』U.S. Food and Drug Administration(FDA)
https://www.fda.gov/consumers/womens-health-topics/medicine-and-pregnancy
