しつこい咳。喘息?ほかの病気?喘息と間違いやすい病気
咳はよくある風邪の一般的な症状ですが、風邪ではないさまざまな病気が原因の場合もあります。
喘息は咳がでますが、COPDやアトピー性咳嗽、肺がん、肺結核、急性気管支炎、百日咳、細菌性肺炎、マイコプラズマ肺炎なども、喘息と似た症状です。
そのため、咳が2週間以上続く場合は、自己判断せずに呼吸器内科などの医療機関で診察を受けることが重要です。
この記事では、喘息と間違いやすい疾患について、特徴と見分けるポイントをご解説いたします。
1.COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、長期間の喫煙が原因で起こる病気です。
肺の奥深くまで空気を運ぶ気管支を狭くし、空気の通り道を閉塞させて呼吸困難をもたらします。
症状は絶え間ない咳や痰、運動時の息切れなどで、徐々に悪化するのが一般的です。
悪化した場合は常に息苦しさを感じ、呼吸困難になる可能性もあります。
COPDでは、肺の機能は一度低下すると元には戻らず、時間と共に症状は進行します。
COPDと喘息はどちらも息苦しさや咳が特徴ですが、根本的な違いがあります。
COPDは一度損傷した肺が元に戻らないのに対し、喘息は適切な治療で呼吸機能が改善する可能性があります。
喘息では、症状は悪化したり改善したりを繰り返しますが、COPDは徐々に症状が進行するのが特徴です。
【参考情報】Mayo Clinic 『COPD』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/copd/symptoms-causes/syc-20353679
2.アトピー性咳嗽
アトピー性咳嗽は、特にアレルギーがある方にみられる病気です。アトピー性咳嗽と喘息はどちらも咳が主な症状でアレルギーが関係しています。
症状は喉や気管がかゆく感じる乾いた咳がでます。
咳は長引くことが特徴です。喘息のような喘鳴(呼吸時にヒューヒューゼーゼーする音がでる)や、息苦しさ、呼吸困難は引き起こさないことが多いとされています。
アトピー性咳嗽では、喘息に有効な気管支拡張薬が効かないことが特徴です。
就寝時や深夜、早朝、起床時に症状がでやすくなります。タバコの煙、ほこり、ストレスなどが、咳を引き起こすきっかけです。
アトピー性咳嗽は、主にアレルギー反応によって起こります。
3.肺がん
肺がんの症状は、咳や痰が出ること、血が混じった咳(血痰)が特徴です。
症状は2週間以上続き、胸痛、息苦しさ、発熱、体重減少などが伴うことがあります。
初期では自覚症状が少なく、多くの場合、健康診断やほかの理由で行われる検査で偶然に発見されます。
肺がんには「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」の2つの主要なタイプがあり、それぞれ症状の現れ方や治療後の結果(予後)が異なります。
小細胞肺がんは進行が早いとされます。
肺がんと喘息はいずれも咳や呼吸困難という共通の症状がありますが、全く異なる病気です。
喘息は気管支が一時的に狭くなる病気で、発作的な呼吸困難や咳を引き起こしますが、適切な治療で症状が改善することが可能です。
一方、肺がんは気管や肺の通り道の気管支が塞がれ、不可逆的で症状は徐々に進行していきます。
喘息では気管支拡張薬が効果的ですが、肺がんにはこれらの薬は通常、効きません。
喘息は症状が出たり引いたりを繰り返すことがありますが、肺がんは一度発症すると症状が徐々に悪化します。
【参考情報】Mayo Clinic『lung cancer』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/lung-cancer/symptoms-causes/syc-20374620
4.肺結核
肺結核は、咳や痰、発熱など風邪に似た症状を引き起こす感染症です。
結核菌によって引き起こされ、感染者の方の咳やくしゃみなどによって空気中に飛散し、ほかの方が吸い込むことで感染します。
症状が2週間以上続く、または改善と悪化を繰り返すことが特徴で、痰に血が混じることもあります。
初期段階では症状が少ないため、健康診断などでたまたま発見されることが多いです。
肺結核と喘息は、咳や呼吸困難などの似た症状があるため、初期には混同されることがあります。
喘息は気管支が一時的に狭まることで起こる状態で、適切な薬で症状を軽減できます。
対照的に、肺結核は結核菌が原因で起こる進行性の感染症で、気管支拡張薬は効果がありません。また、結核の治療には通常、数か月にわたる抗結核薬の服用が必要です。
長期にわたる咳、痰、体重減少、長引く発熱などの症状が見られる場合、肺結核の可能性があります。
喘息と違い、肺結核は感染性があり治療しなければ感染を広げる可能性があるため、速やかに医療機関を受診し適切な診断と治療を受けることが重要です。
5.急性気管支炎
急性気管支炎は、咳や痰が主な症状の感染症です。喘息も咳や痰、呼吸困難を引き起こしますが、原因と経過に違いがあります。
急性気管支炎の咳は乾いたものから始まり、次第に痰を伴うようになります。咳とともに、発熱や鼻水やのどの痛みが症状としてみられ、2週間以内に改善するのが一般的です。
ウイルス感染による原因が主ですが、細菌感染のこともあります。
喘息では気管支拡張薬が症状の管理に有効ですが、急性気管支炎ではこれらの薬はあまり効果がありません。
6.百日咳
百日咳は、初期段階では風邪に似た症状を示す感染症です。
最初の2週間ほどは、普通の風邪と同じように咳や鼻水がみられます。
その後、特徴のある連続的な短い咳発作が現れ、息を吸うときに「ヒュー」という音がみられます。咳発作は激しく、顔の浮腫や内出血を引き起こすこともあります。
百日咳の感染力は非常に強く、特に大人の方から子どもへの感染が問題です。
乳幼児では重症化しやすく、肺炎や脳症などの深刻な合併症を引き起こすリスクが高いとされます。
喘息と百日咳は、咳や呼吸困難という共通の症状がある点で似ています。
しかし、喘息は気管支が一時的に狭まることによるもので、治療により症状の改善が期待できます。
一方で、百日咳は感染症によるもので、気管支の閉塞は症状の進行とともに悪化し、気管支拡張薬は効果がありません。
百日咳は進行性であり、適切な治療を行わないと数か月にわたり症状が続くことがあります。
百日咳には、予防接種が最も効果的な手段の一つです。
7.細菌性肺炎
細菌性肺炎は、発熱、咳、痰、呼吸困難などが主な症状の感染症です。
痰は黄色や緑色、鉄さび色がみられます。
診断には胸部X線(レントゲン検査)やCTスキャンが使われ、肺に異常な影が確認されることが一般的です。
細菌性肺炎の主な原因は、肺炎球菌やインフルエンザ菌などの細菌による感染です。
重症化すると、臓器不全や呼吸不全といった深刻な合併症を引き起こすリスクがあります。
喘息と細菌性肺炎の症状は、咳や呼吸困難で似ていますが、喘息は気管支が一時的に狭くなることで引き起こされるのに対し、細菌性肺炎は肺自体が細菌に感染して炎症を起こす病気です。
また、喘息の場合は症状が悪くなったり良くなったりを繰り返しますが、細菌性肺炎は急激に症状が悪化します。
8.マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は、乾いた咳が主症状の感染症です。
痰が絡まない乾いた咳が特徴的で、発熱や頭痛、倦怠感などの風邪に似た症状も伴います。
症状は発熱が治まった後も3〜4週間続くことがあり、特に夜間や早朝に咳がひどくなるのが一般的です。
マイコプラズマ肺炎は子どもに多く見られますが、大人の方も発症することがあります。
一部の患者さんでは重症化し、肺炎や無菌性髄膜炎、心筋炎などの重い合併症を引き起こすリスクがあります。
喘息とマイコプラズマ肺炎は、咳や呼吸困難という共通の症状がありますが、病態は異なります。
喘息は気管支が一時的に狭まることによる病気で、気管支拡張薬により症状が軽減されることが多いです。
マイコプラズマ肺炎は感染によって起こるため、気管支拡張薬は効果がありません。時間の経過とともに症状が悪化するので、適切な抗菌薬治療が必要です。
長引く場合は、マイコプラズマ肺炎を疑い、医師の診察を受けることが重要です。
【参照文献】独立行政法人 環境再生保全機構『 ぜん息と似ている病気』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/similar.html
9.おわりに
咳の原因は喘息、COPD、アトピー性咳嗽、肺がん、肺結核、急性気管支炎、百日咳、細菌性肺炎、マイコプラズマ肺炎など、さまざまな疾患が考えられます。
これらの病気は、共通する症状がありますが、それぞれに病態や治療法が異なります。
当院では、喘息患者さんの受診が比較的多いですが、咳の精密検査では、積極的に他院と連携して胸部CT検査を実施し、様々な疾患の可能性について確認するようにしております。
咳が2週間以上持続する場合、自己判断をせず、早めに呼吸器内科など専門の病院を受診しましょう。