喘息の女性が妊娠中に気になる不安と疑問

喘息の持病がある妊婦さんは、
「妊娠中に喘息発作がでたらどうしよう?」「妊娠中でも喘息の薬は服薬できるのか?」
など不安なことが多いと思います。

この記事では妊娠による喘息症状の変化、薬の使用や赤ちゃんへの影響、妊娠中の喘息コントロールのポイントなどを解説します。

喘息発作が起きると母体・胎児ともに低酸素状態になることもありますので、基本的には妊娠中でも喘息の治療を続ける必要があります。

1. 妊娠すると喘息症状はひどくなるのか


妊娠による喘息への影響としては、喘息症状が悪化する人、変わらない人、改善する人がそれぞれ1/3ずつであると言われています。

◆喘息について>>

1-1.妊娠中に喘息症状が改善する理由

妊娠中に喘息症状が改善する理由としては、次の3つがあります。

①プロゲステロンによる気管支拡張作用
②エストロゲンまたはプロゲステロンによるβ受容体の増強作用
③循環血液中にヒスタミン分解酵素が増加することによる血中ヒスタミンの減少

妊娠中はホルモンバランスが大きく変わる影響で、気管支が広がったり、炎症が抑えられるということもあります。

1-2.妊娠中に喘息症状が悪化する理由

一方、妊娠中に喘息症状が悪化する理由としては、次の3つがあります。

①プロゲステロン、アルドステロンなどが糖質コルチコイドの受容体に競合阻害として働く場合
②プロスタグランジンF2aによる気管支収縮作用
③妊娠中のストレス増加

また、妊娠中は肺が圧迫されて呼吸機能が低下するため通常よりも息苦しく感じることがあります。

その人によっていろいろな原因が複合的に作用するため、妊娠による喘息症状の変化には個人差があります。

【参考情報】日本産婦人科医会『喘息妊婦の臨床的特徴とその対応』
https://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/MEMBERS/TANPA/H11/990308

【参考情報】Cleveland Clinic 『Asthma & Pregnancy』
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/9568-pregnancy-asthma

2.薬の使用はしてもいい?


妊娠中に薬を使うことに抵抗がある方もいるかもしれませんが、妊娠中や授乳中であっても医師の指示通り治療を続け、喘息発作が出ないようにコントロールすることが大切です。

吸入ステロイド薬やβ₂刺激薬などの喘息治療薬は妊娠中でも問題なく使用することができます。

吸入ステロイド薬は気道の炎症を抑える喘息発作の予防薬です。
ステロイドと聞くと副作用が強いと思っている方もいるかもしれませんが、飲み薬のステロイドと吸入ステロイドでは量や作用の仕方が異なります。

喘息に用いられる吸入ステロイドは肺や気管支の粘膜にとどまって直接炎症を抑えるように作られているため、全身への影響はほとんどありません。

β₂刺激薬は交感神経を刺激して気管支を広げ、喘息の発作を抑える薬です。
β₂刺激薬も同様に安全性が高く、妊娠中でも使用することができます。

特に吸入薬では妊娠中でも使うことができる安全性の高いものが多いので、かかりつけ医と相談の上、処方された通りに服薬しましょう。

【参考情報】環境再生保全機構『女性のぜん息患者さんへ』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/women.html

3.赤ちゃんに影響はないのか


妊娠中に喘息発作が起きると、母体だけでなく赤ちゃんも低酸素状態になることがあるため注意が必要です。

また、低酸素状態になると子宮動脈の収縮により胎児の血流低下にも繋がり、大変危険な状態になります。

妊娠中に薬を飲んでもいいのか心配になるかもしれませんが、必要最小量の薬を飲むことで喘息症状をコントロールすることの方が大切だと言われています。

自己判断で薬を辞めたりせず、かかりつけ医に相談して喘息治療を継続しましょう。

【参考情報】『妊娠と気管支喘息』土田朋子
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/63/2/63_KJ00009262743/_pdf

4.妊娠中の喘息をコントロールするポイント3つ


妊娠中は免疫力が低下して感染症にかかりやすくなったり、マイナートラブルなど身体の不調が出やすくなります。

服薬など喘息の治療を継続しながら、発作の原因となる感染症やストレス、過労などをなるべく避けて生活することが大切です。

4-1.喘息の治療を続ける

喘息の治療で通っているかかりつけ医に、妊娠したことを伝えましょう。

治療を継続し、喘息のコントロールがしっかりできていれば問題なく妊娠・出産・授乳することができます。
また、産婦人科医にも喘息の治療中であることや、服用している薬の種類などを伝えましょう。

4-2.風邪やインフルエンザの予防をする

風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症は、気道に炎症を起こすため喘息を悪化させる原因になります。

普段は丈夫で風邪を引きにくいと思っている人でも、妊娠中は一時的に免疫力が低下するため注意が必要です。

なぜ妊娠中に免疫力が低下するのかというと、母体の免疫細胞が赤ちゃんを異物とみなして攻撃しないようにするためです。
風邪などの感染症にかかりやすいだけでなく、普段なら軽い症状で済む感染症でも、抵抗力が落ちている妊娠中は重症化することもあります。

妊娠中のワクチン接種に抵抗がある方もいるかもしれませんが、日本産婦人科学会のガイドラインでも「インフルエンザワクチンの母体及び胎児への危険性は妊娠全期間を通して極めて低い」とされています。

手洗いうがい、マスク、インフルエンザワクチンの接種など、一緒に住んでいるご家族にも協力してもらいながら感染予防を心がけましょう。

【参考情報】日本産婦人科学会『産婦人科診療ガイドライン-産科編2020/54貢』
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2020.pdf

4-3.喘息をおこす「発作の元」を避ける

喘息発作の3大原因は、風邪、過労、ストレスだと言われています。

ストレスが喘息発作を引き起こすメカニズムはまだはっきりとは分かっていませんが、ストレスを感じることで体内のマスト細胞などから炎症物質が放出されるため、喘息発作が起こると考えられています。

妊娠中はこまめな休息や十分な睡眠を取りましょう。

5.おわりに

妊娠中に薬を飲むことに抵抗がある方も多いかもしれませんが、喘息発作が起きてしまうと赤ちゃんも低酸素状態になり、大変危険です。

薬の服用などの治療を継続しながら、アレルゲンやストレス、感染症などの発作の原因となるものをなるべく避けて生活しましょう。

もし発作が起きてしまった場合は自分だけでなく赤ちゃんも苦しいということを念頭に置き、速やかに医療機関を受診してください。