咳が長く続いている…もしかして喘息?

咳はからだが異物や刺激に反応して行う、自然な防御反応のひとつです。
一方で、咳が長期間続く場合には、単なる風邪や感染症によるものではなく、喘息やそのほかの病気が原因である可能性があります。
「咳が止まらないけれど、風邪だろう」と思って放置してしまう方も少なくありません。
しかし、2週間以上続く咳の場合には、早めに呼吸器内科をはじめとする医療機関を受診することが大切です。
この記事では、咳が長引く原因として考えられる喘息やそのほかの疾患についてご説明いたします。
咳の特徴や原因を理解し、適切な対応を取りましょう。
1.喘息で咳が出る理由
咳が出る原因のひとつとして知られている疾患に喘息があります。ここからは、喘息についてご説明しましょう。
喘息とは?
喘息は気道(空気の通り道)に慢性的な炎症が起きる病気です。
炎症によって気道が過敏になり、さまざまな刺激に対して気道が狭くなりやすい状態になります。
その結果、咳や息苦しさなどの喘息症状が現れるようになります。
喘息はお子さまから大人の方まで幅広い年代で発症する可能性がありますが、とくにアレルギー体質を持つ方やご家族に喘息の既往歴がある方は、発症リスクが高いとされています。
喘息による咳の特徴
喘息による咳には特徴があります。以下に、喘息の咳の主な特徴をご説明いたしましょう。
・夜間や明け方に悪化しやすい
喘息の咳は昼間よりも夜間や明け方に悪化することが多いとされています。この時間帯は気温が低く、気道への刺激が強まりやすいためです。
また、ホルモンバランスも影響していると考えられています。
・季節の変わり目や寒暖差で誘発される
季節の変わり目、とくに秋から冬への移行期は喘息症状が悪化しやすい時期です。
寒暖差によって気道への刺激が増加し、咳や呼吸困難を引き起こすことがあります。
・長期間続く(数週間)
喘息による咳は風邪などの一時的なものとは異なり、数週間以上続くことがあります。このような場合は単なる風邪ではなく喘息を疑う必要があります。
・喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)が伴うことがある
喘鳴とは気道が狭くなることで呼吸時に聞こえる音です。とくに運動後や夜間に喘鳴を伴う場合は喘息の可能性があります。
喘息の引き金となる要因
喘息の症状を悪化させる要因(トリガー)はさまざまです。以下に代表的なものをご紹介しましょう。
・アレルギー物質
ハウスダスト、ダニ、花粉などは喘息を誘発する主な要因です。これらのアレルギー物質への接触を避けることが喘息発作の予防に重要です。
◆『咳が止まらないのはなぜ?アレルギーが原因かもしれません』>>
・運動
運動後に咳や呼吸困難を感じる場合は、「運動誘発性喘息」の可能性があります。このタイプの喘息は、運動の仕方を工夫したり事前に薬を服用するなどの適切な治療で改善できます。
・大気汚染
排気ガスや煙などの大気汚染物質も喘息症状を悪化させる原因となります。特に都市部では注意が必要です。
喘息の治療について
喘息は慢性的な気道の炎症によって引き起こされる病気で、発作が起きたときだけでなく、発作がないときも継続的な治療が必要です。
ここからは、喘息治療の基本と使用される薬についてご説明いたします。
喘息治療の基本方針
喘息の治療は、気道の炎症を抑え、発作を防ぐことを目的としています。
症状がない時でも気道の炎症は進行しているため、以下のような2種類の薬を適切に使い分けることが重要です。
【長期管理薬(コントローラー)】
・気道の炎症を抑えるために継続的に使用します。
・発作を予防し、喘息を安定させる役割があります。
【発作治療薬(リリーバー)】
・発作が起きた際に短期的に使用し、症状を素早く緩和します。
・気管支を拡げて呼吸を楽にする効果があります。
長期管理薬(コントローラー)の種類
長期管理薬には、主に以下のものがあります。
1. 吸入ステロイド薬(ICS)
・炎症を抑える効果が非常に高く、喘息治療の基本となる薬です。
・副作用は少ないですが、声のかすれや口腔カンジダ症など局所的な影響がある場合があります。
【参考情報】Mayo Clinic『Oral candidiasis』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/oral-thrush/symptoms-causes/syc-20353533
2. 長時間作用性β2刺激薬(LABA)
・気管支を広げる作用があり、吸入ステロイド薬と併用されます。
・効果が長時間持続し、夜間や運動時の症状を防ぎます。
3. ICS/LABA配合剤
・吸入ステロイド薬とLABAを組み合わせた薬で、効果が高いとされています。
・一度に炎症抑制と気管支拡張の両方を行うことが可能です。
4. ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)
・アレルギー反応による物質(ロイコトリエン)の働きを抑えます。
・飲み薬として使用され、アレルギー性鼻炎にも効果があります。
5. テオフィリン徐放製剤(SRT)
・気管支拡張と軽度の抗炎症作用があります。
・過剰に使用すると動悸や吐き気、頭痛など副作用が出るため注意が必要です。投与後は、定期的に血液検査を実施して、テオフィリン血中濃度を測定します。
6. 長時間作用性抗コリン薬(LAMA)
・アセチルコリンという物質の作用を抑え、気管支を広げます。
・吸入ステロイド薬と併用されます。
7. 生物学的製剤
・炎症に関与する特定の物質(IL-4、 IL-5、 IgEなど)を抑える新しいタイプの治療法です。
・重症喘息や従来の治療で効果が得られない場合に使用されます。当院では、生物学的製剤が考慮される喘息患者さんは、大学病院へご紹介しています。
発作治療薬(リリーバー)の種類
発作治療薬には、主に以下のものがあります。
1. 短期間作用型β2刺激薬(SABA)
・発作時に最もよく使われる吸入薬で、速やかに気管支を広げます。
2. ICS/LABA配合剤
・通常は長期管理薬として使用されますが、一部は発作時にも使用可能です。
3. 経口ステロイド薬
・吸入薬では効果が不十分な場合に使用します。全身性副作用が多いため短期間のみ使用します。
4. ステロイド点滴
・中等度以上の重い発作時に行われる治療法です。
喘息治療のステップ
喘息治療は、患者さんの症状の重症度や頻度に応じて段階的に進められます。
このような治療法は、日本アレルギー学会のガイドラインに基づいており、以下の4つのステップに分けられます。
各ステップでは、症状をコントロールするために適切な薬を選択し、必要に応じて治療内容を調整します。
ステップ1:軽度で稀な症状の場合
・使用する薬:低用量の吸入ステロイド薬(ICS)を基本とし、必要に応じて短時間作用性β2刺激薬(SABA)を使用。
・対象となる患者さん:症状が非常に軽く、発作が月1回未満の頻度で起こる場合。
・補足:吸入ステロイド薬が使用できない場合は、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)やテオフィリン徐放製剤が代替として使われることがあります。
ステップ2:症状頻度が増加した場合
・使用する薬:低用量の吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の併用。または、中用量の吸入ステロイド薬(ICS)単独。
・対象となる患者:症状が月1回以上現れる場合。
・補足:LABAの代わりに長時間作用性抗コリン薬(LAMA)やロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)、テオフィリン徐放製剤を使用することも可能。
ステップ3:中等度の症状の場合
・使用する薬:中~高用量の吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の併用。
必要に応じて、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)やロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)、テオフィリン徐放製剤を追加。
・対象となる患者:症状が週に数回以上現れる場合や夜間症状がある場合。
・補足:抗体医薬(生物学的製剤)がこの段階から使用されることがある。
ステップ4:重症の場合
・使用する薬:高用量の吸入ステロイド薬(ICS)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の併用。
必要に応じて複数の補助的な薬剤を追加(LAMA、LTRA、テオフィリン徐放製剤など)。生物学的製剤や気管支サーモプラスティを検討する場合もあります。
日常生活での注意点
喘息患者さんは、日常生活において以下のような点に注意が必要です。
・アレルギー物質への対策:ダニやハウスダスト除去、空気清浄機の活用。
・運動誘発性喘息への対応:運動前に医師から処方された吸入薬を使用。
・禁煙・禁酒:タバコやアルコールは気道への刺激となるため。
・定期受診と自己管理:定期的な受診で医師との相談し、適切な治療計画を維持することが重要。
【参照文献】環境再生保全機構『はじめてぜん息と診断された方へ|成人ぜん息(ぜんそく、喘息)』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/first.html
2.咳は、喘息以外の可能性も
咳が長く続く場合、必ずしも喘息だけが原因とは限りません。
咳はさまざまな要因で引き起こされることがあり、その中には病気ではないものや、喘息以外の疾患によるものも考えられます。
ここからは、咳の原因として考えられるいくつかのケースについてご説明しましょう。
2-1.病気ではなくても咳は出る
健康な方でも、特定の状況で一時的に咳が出ることがあります。
これはからだが異物や刺激を排除しようとする自然な反応であり、必ずしも病気を意味するものではありません。
日常生活で起こる咳の原因
日常生活で起こる咳の原因にはさまざまなものがあります。
例えば、熱い飲み物や食べ物を摂取した際に咳き込むことがあります。これは、熱によって気道が一時的に刺激されるためです。
また、お風呂の湯気や料理中の煙、タバコの煙などを吸い込んだ場合にも、気道が刺激されて咳が出ることがあります。
このようなケースは、一時的な反応であることがほとんどです。
さらに、大笑いや長時間の会話によって喉が乾燥し、咳き込むこともあります。これが一時的な場合は、特に心配する必要はありません。一方で、同様の症状が喘息でも生じることがありますので、注意は必要です。
同様に、寒い空気に触れた際にも咳が出る場合があります。冷たい空気は気道を刺激し、反射的に咳を引き起こすことがあります。
また、ホコリや花粉などのアレルギー物質を吸い込んだ場合も、からだが異物を排除しようとして咳が誘発されることがあります。
加えて、胃酸が逆流して喉を刺激する胃食道逆流症(GERD)も日常的な咳の原因のひとつです。この場合、食後や横になったときに咳が出やすくなる特徴があります。
最後に、ストレスや緊張など心理的要因によっても咳が出ることがあります。
ストレスによる自律神経の乱れが咳中枢を刺激し、「心因性咳嗽」と呼ばれる症状を引き起こすことがあります。一方で、喘息患者さんの症状悪化に、ストレスなどの自律神経の乱れが影響を及ぼすこともありますので、軽視はできません。
このように喘息やほかの疾患でなく日常生活で起こる咳には多くの原因があり、それぞれ適切な対処法が必要です。
病気ではない咳への対処法
これらの日常生活で起こる咳は一過性のものであり、通常は自然に収まります。
ただし、頻繁に起こる場合や症状が悪化する場合は、ほかの原因が隠れている可能性があるため、一度医師に相談すると安心です。
2-⒉喘息以外のほかの疾患による咳
咳は喘息以外の疾患によって引き起こされる場合もあります。ここでは、咳の出る代表的な疾患についてご説明いたします。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の咳
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は主に喫煙者の方に多く見られる進行性の病気です。
COPDでは肺や気道が徐々に破壊され、呼吸機能が低下していきます。
COPDによる咳の特徴
以下は、COPDが原因で出る咳の特徴です。
・湿った咳(痰を伴う)
COPDでは痰を伴う湿った咳が特徴です。痰は透明から白色の場合もあれば、感染症を伴う場合には黄色や緑色になることもあります。
・朝方に悪化しやすい
痰が夜間に溜まりやすいため、朝方に激しい咳が出ることがあります。
・息切れや呼吸困難を伴う
COPDは進行すると日常生活でも息切れを感じるようになります。階段を上る際や軽い運動でも呼吸困難を感じることがあります。
COPDの主な原因
COPDの最大の原因は喫煙です。
長期間喫煙している方は特に注意が必要です。また、大気汚染や職業上の粉塵への曝露もリスク要因となります。
COPDへの対応
COPDは早期発見・治療が重要です。
喫煙歴がある方で湿った咳や呼吸困難を感じる場合は、自己判断は避け、一度呼吸器内科をはじめとする医療機関への受診を検討しましょう。
肺炎の咳
肺炎は細菌やウイルスなどによって肺に炎症が起こる病気です。高齢者の方や免疫力が低下している方では重症化するリスクがあります。
肺炎による咳の特徴
肺炎によって起きる咳の特徴は以下になります。
・高熱を伴う
肺炎では38℃以上の高熱を伴うことが多く、それに加えて悪寒や発汗など全身症状が現れることがあります。
・痰が黄色や緑色になる
痰は黄色または緑色になることがあります。このような痰は感染症によるものと考えられます。
・胸痛や全身倦怠感を伴う
咳とともに胸痛を感じたり、全身的なだるさ(倦怠感)が強くなる場合があります。
肺炎への対応
肺炎も早期治療が重要です。
特に高齢者の方の場合、症状が軽度でも放置すると重症化する可能性があります。これらの症状がある場合には速やかに医療機関を受診してください。
3.おわりに
咳はからだが異物や刺激に反応して行う自然な防御反応ですが、長期間続く場合には何らかの病気が隠れている可能性があります。
「ただの風邪だろう」と思って咳を放置してしまうと、さまざまなリスクを伴う可能性があります。
まず、病気が進行してしまうリスクがあります。例えば、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺炎などの疾患は早期発見と治療が非常に重要です。
しかし、咳を軽視して放置してしまうと、これらの病気の症状が悪化し、治療がより困難になることがあります。
また、咳が続くことで生活の質(QOL)が低下することも見逃せません。
とくに夜間に咳が止まらず睡眠が妨げられると、疲労感やストレスが蓄積し、日常生活にも悪影響を及ぼします。
さらに、日中でも息苦しさを感じることで仕事や家事などの活動に支障をきたす場合があります。
さらに、咳が長引くことで周囲への影響も懸念されます。
職場や家庭で頻繁に咳をすることで、コミュニケーションが円滑に進まなくなったり、周囲に不安を与える可能性もあるでしょう。
特に感染症が原因の咳の場合には、ご自分だけでなく周囲への感染リスクも考慮する必要があります。
このように咳を軽視せず適切な対応を取ることは、ご自身だけでなく周囲の方の健康や生活にも大きく関わる重要なポイントとなります。
呼吸器内科では、咳の原因を専門的に診断し適切な治療を受けることが可能です。特に次のような場合には早急な受診が必要です。
たとえば、咳が2週間以上続いている場合や夜間や明け方に咳がひどくなる場合、痰が黄色や緑色になっている場合、息切れや胸痛を伴う場合などです。
咳が長期間続いている場合には、一度呼吸器内科への受診を検討しましょう。