肺がんとはどんな病気?

がんは日本人の死因の1位であり、がんによる死亡数の中でも肺がんは男性で1位、女性でも2位と高い割合になっています。

肺がんとは気管や気管支、肺胞(酸素と二酸化炭素を交換する袋状の組織)にできるがんで、咳や血痰などの症状が特徴です。

タバコを吸うと肺がんにかかるリスクが男性では4.8倍、女性では3.9倍増加すると言われており、喫煙との関係が深い病気です。

早期発見であれば手術で切除することもできますが、無症状で進行している場合もあり、最も治療が難しいがんの1つと言われています。

1.肺がんの症状について


肺がんの種類や発生部位、進行度によっても症状が異なります。他の呼吸器疾患と似たような症状が多いため、自覚しにくいのが特徴です。

また、はじめは無症状のことも多く、検診で偶然発見される場合もあります。

がんがある程度大きくなると咳や血痰などの症状が見られ、さらに進行すると呼吸困難、胸痛、肩の痛み、手のしびれなどの症状が現れます。特に血痰が出ている場合は肺がんの可能性が高いため、早めに受診したほうが良いでしょう。

咳が2週間以上続いている場合は、肺がんに限らず何らかの呼吸器疾患の可能性があるので、念のため呼吸器内科を受診しましょう。

【参考情報】日本呼吸器学会『肺がん』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/e/e-01.html

2.肺がんの原因について


肺がんの原因で最も多いのが喫煙で、約70%を占めています。タバコには約60種類もの発がん性物質が含まれており、喫煙数や喫煙本数が多いほどリスクが高くなります。

その他にも、受動喫煙、大気汚染、食生活、放射線、薬剤などが原因として挙げられます。

これらの有害物質により肺の細胞が傷つき、遺伝子変異を繰り返すことで肺がんになる可能性が指摘されています。通常、がん化する前に遺伝子変異を修復しようとする機能が働きますが、変異した細胞の増殖力が修復力を上回ってしまうと、がんが発生してしまいます。

【参考情報】Mayo Clinic 『Lung cancer』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/lung-cancer/symptoms-causes/syc-20374620

3.肺がんの種類


肺に発生した「原発性肺がん」と、他の臓器に生じたがんからの転移により発生した「転移性肺腫瘍(しゅよう)」があります。

また、原発性肺がんは発生部位によって「腺がん」「扁平上皮がん」「神経内分泌腫瘍(小細胞がんなど)」「大細胞がん」などの組織型に分けられます。

3-1.肺腺がん

腺がんは、肺がんの中でも最も多い組織型で、約50%を占めています。特にタバコを吸わない人が肺がんになる場合、ほとんどが腺がんです。

肺の末梢(気管支から遠い胸膜側の部分)に発生し、胸膜に浸潤*して引きつれを起こすこともあります。
*浸潤:がんが周りに広がっていくこと

初期には無症状のことも多く、早期発見が難しいのが特徴です。進行すると他の肺がんと同様に、胸痛、咳、痰などの症状が現れます。

また、肺腺がんが転移しやすい臓器として、脳、骨、肝臓、肺の別の部位、副腎、リンパ節などがあります。転移してしまっている場合、脳転移による頭痛・めまい・ふらつきや、骨転移による骨折・骨の痛みなど、一見肺とは関係ないような症状が現れることもあります。

【参考情報】国立がん研究センター『肺腺がんについて』
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/thoracic_surgery/200/20201211234617.html

3-2.肺扁平上皮がん

肺扁平上皮がんは腺がんの次に多い組織型で、肺がんの約30%を占めています。喫煙者に多いのが特徴です。

扁平上皮細胞とは、食道、口腔など食べ物が通る場所の細胞で、他の部位に比べて負担が大きいため丈夫な作りになっています。通常肺には扁平上皮細胞はありませんが、喫煙などの大きなダメージを繰り返し受けることで扁平上皮化し、腫瘍が形成されます。

肺門部(肺の気管支側)に発生し、閉塞性無気肺*や閉塞性肺炎*を起こすこともあります。

*閉塞性無気肺:気管支がふさがってしまうことで肺に空気が入らなくなる状態
*閉塞性肺炎:腫瘍などが原因で、肺までの空気の通り道がふさがれて細菌が蓄積するためにおこる肺炎

【参考情報】国立がん研究センター『肺がんについて』
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/thoracic_surgery/060/010/index.html

3-3.小細胞肺がん

肺がんのうち特徴的な小型のがん細胞から形成される肺癌を、小細胞がんと言い、肺がんの10~15%を占めています。

小細胞がんは他の組織型に比べて進行速度が速く、転移や再発を伴いやすいという特徴があります。

肺門部に発生することも多く、喫煙との関連が深い組織型です。

また、がん細胞が分泌するホルモン様物質により、次のような随伴症状が見られることもあります。
・副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)によるクッシング症候群
 :肥満、ムーンフェイス(満月様顔貌)、皮膚が黒くなる、血圧上昇、血糖値上昇など
・抗利尿ホルモン(ADH)による低ナトリウム血症
 :けいれん、意識低下、頭痛、吐き気、嘔吐、食欲不振など

小細胞がんは進行が速いため診断時には何らかの症状が出ていることが多いです。転移や随伴症状による症状の場合は肺の病気だと気づきにくい可能性もありますが、手遅れになる前に速やかに受診しましょう。

3-4.肺大細胞がん

非小細胞がんのうち、腺がんや扁平上皮がんの特徴にあてはまらず比較的大きなものを大細胞がんと言い、肺がんの約5%を占めています。

主に肺野部(肺の奥の部分)の末梢に発生します。薬物療法や放射線療法が効きにくい傾向にあり、進行が速く予後が悪いのが特徴です。

3-5.その他の肺がん

肺がんには他にも、カルチノイド、腺様嚢胞がん、粘表皮がんなど様々な種類があります。

肺の神経内分泌細胞から発生する腫瘍を「肺神経内分泌腫瘍」と呼びます。

肺神経内分泌腫瘍として代表的なのは小細胞がんですが、希少なものとしては大細胞神経内分泌がん、カルチノイド腫瘍などがあります。

カルチノイドは気管支や肺野に発生し、咳や血痰などの他に皮膚の発赤や肥満、下痢、血管拡張などの症状が現れる場合があります。

【参考情報】国立がん研究センター/希少がんセンター『肺神経内分泌腫瘍』
https://www.ncc.go.jp/jp/rcc/about/pulmonary_neuroendocrine_tumor/index.html

4. 肺がんの検査


肺がんの検査としては、まず「スクリーニング検査」を行い、肺がんが強く疑われる場合は正確な診断のために「確定診断検査」へと進みます。

4-1.スクリーニング検査

肺がんのスクリーニング検査には胸部X線検査、喀痰細胞診、胸部CT検査があります。

胸部X線検査(レントゲン)と喀痰細胞診は早期発見のための検査で、健康な人が受ける肺がん検診の項目にもなっています。それぞれ、肺に異常があるか、痰の中に異常な細胞が含まれていないかを調べる検査です。

検診などで肺がんが疑われた場合は胸部CT検査を行います。X線では見つけることが難しい小さな病変、気管支や心臓などの重なって見えにくい部分の病変も発見することができます。

4-2.確定診断検査

肺がんの確定診断検査には気管支鏡検査、経皮的肺針生検、胸腔鏡検査、外科的肺生検などがあります。

病変部から細胞や組織を採取してがん細胞の有無を確認し、確定診断を行います。

4-3.その他の検査

肺がんと診断された後、肺がんの広がり方や進行度、転移の有無を調べるためにPET検査や腫瘍マーカー検査などを行う場合があります。これらの検査結果をもとに治療方針を決定します。

5.肺がんの治療


肺がん治療方法には「外科手術」「薬物療法」「放射線療法」があります。がんの種類や進行度を考慮して、その人の状況にあった治療を組み合わせて行います。

基本的には手術が最も根治が期待できる治療法ですが、すでに進行して切除が難しい場合や体力的、肺機能の面から難しいと判断される場合は、薬物療法や放射線療法で治療を行います。

5-1.手術

切除可能ながんの場合は、外科手術が行われます。肺切除範囲は腫瘍の大きさや呼吸機能の状態に応じて決定します。

もし喫煙習慣がある場合は、喫煙によって悪化・再発リスクが高いこと、術後の回復に遅れが出ることなどから、禁煙が大前提です。

5-2.放射線治療

放射線治療は、放射線をがんに照射することでがん細胞を破壊する治療法です。

増殖が盛んながん細胞のほうが放射線への感受性が強いという特徴はあるものの、がん細胞周囲の正常な細胞も傷つくことがあります。そのため、皮膚炎や肺炎などの副作用が起こる場合があります。

また、手術の前に病巣を小さくするために行う「術前照射」や、手術の後に残った微小な浸潤巣を破壊して再発を防ぐ「術後照射」もあります。

5-3.薬物療法

薬物療法として、化学療法、免疫療法、分子標的療法などがあります。

化学療法は一般に、転移を伴う肺がんに適応があります。抗がん剤には様々な種類があり、がん細胞の増殖を抑制してがんによる症状の緩和や、延命効果が期待されます。

がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を及ぼすため、吐き気や倦怠感、下痢、便秘、脱毛、皮膚障害、骨髄抑制、末梢神経障害などのさまざまな副作用が見られることもあります。

点滴で投与される場合が多く、治療効果や副作用を考慮しながら薬の投与と休薬を繰り返して行います。

免疫療法とは「免疫チェックポイント阻害薬」を使って免疫本来の力を回復させる治療法です。

分子標的療法は、がん細胞の発生や増殖に関与する遺伝子に狙いを定めて働く「分子標的薬」を使った治療法です。近年開発が盛んにおこなわれております。

【参考情報】日本肺癌学会『抗がん剤治療(化学療法)とはどのような治療ですか』
https://www.haigan.gr.jp/guidebook2019/2020/Q40.html

5-4.緩和ケア

肺がんのがん細胞自体を破壊したり、病気の進行を遅らせる効果はありませんが、がんに伴う苦痛症状やがん治療の副作用を軽減する方法として、緩和ケアが有ります。従来は、一通りの肺がんに対する治療が終了した後の治療法と認識されていましたが、近年は、肺がんを根治したり進行を遅らせたりするような、手術・放射線治療・薬物療法と同時に並行して緩和ケアを実施することが一般的になっています。

6.肺がんを予防する方法


肺がんの予防法としては禁煙が第一です。喫煙習慣のある人は禁煙し、そうでない人も受動喫煙を避けて生活しましょう。
喫煙による体への影響を予測する指標として、「ブリンクマン指数」というものがあります。

健康診断の問診票などで、喫煙本数や年数を記入する項目を見たことがある人も多いのではないでしょうか。

ブリンクマン指数は「1日あたりの平均喫煙本数」×「喫煙年数」で計算され、この値が400を超えると肺がんになるリスクが高いと判断されます。

タバコは肺がん以外にも、口腔・咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がん、胃がん、膵臓がん、子宮頸がん、膀胱がんなど様々ながんのリスク因子になることが分かっています。

がん以外にもCOPDや喘息などの慢性呼吸器疾患にもなりやすく、まさに百害あって一利なしです。

◆『COPDについて』>>

◆『喘息について』>>

1人では禁煙が難しいという方は、専門家のアドバイスや薬による治療が受けられる、禁煙外来を受診するのもおすすめです。

また、早期発見のためには定期的ながん検診も大切です。

市町村によって異なりますが、がん検診は公費で補助が受けられることが多く、40歳以上の人は1年に1回受けることが推奨されています。

がん検診では問診と胸部X線検査を行います。また、50歳以上かつブリンクマン指数が600以上でハイリスクとされる方は喀痰細胞診を行うこともあります。

手遅れにならないためにも、対象年齢の方はがん検診を受けましょう。

【参考情報】日本医師会『肺がん検診の検査方法』
https://www.med.or.jp/forest/gankenshin/type/lung/checkup/

7.おわりに

肺がんは、はじめは無症状のことも多く、進行していくと治療が難しい場合もあります。他の呼吸器疾患と似たような症状が多いため自覚しにくい病気ですが、血痰が出ている場合は速やかに専門の病院を受診しましょう。

予防や早期発見のためには、禁煙と定期的な検診が大切です。

また、咳が2週間以上続いている場合は肺がんだけでなく喘息やCOPDなど他の病気の可能性もありますので、呼吸器内科を受診してください。

◆『呼吸器内科受診の目安~咳が止まらない・長引く病気』>>