【呼吸器内科医監修】気胸とは?「続発性気胸」についてわかりやすく解説
COPD(慢性閉塞性肺疾患)や間質性肺炎などの持病があると、胸の違和感を「いつものこと」と見過ごしがちです。
しかしその陰に、肺から空気が漏れる「続発性気胸」が隠れていることがあります。
早期発見・早期治療が予後に直結する疾患であるため 、見逃せない初期サインや呼吸器内科での検査・治療の流れを専門医が分かりやすく解説します。
1. 呼吸器内科における「気胸」の基本と続発性気胸の定義

「気胸(ききょう)」という言葉を聞くと、学校の健康診断やニュースなどで耳にする「背が高く痩せた若い男性に多い病気」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、呼吸器内科を受診される気胸の患者さんの中には、それとは全く異なる背景を持つケースが多々あります。それが「続発性気胸」です。
1-1. 続発性気胸の定義とメカニズム
気胸とは、何らかの原因で肺に穴が開き、肺を包む膜(胸膜)のすき間に空気がたまって肺が広がりにくくなる状態です。その結果、呼吸がうまくできなくなります。
このうち、COPDや間質性肺炎(肺線維症を含む)など、もともと肺の病気がある状態で起きるものを「続発性(ぞくはつせい)気胸」と呼びます。
【参考情報】『Learn about Pneumothorax』American Lung Association
[https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/pneumothorax/learn-about-pneumothorax](https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/pneumothorax/learn-about-pneumothorax)
1-2. なぜ慢性肺疾患があると続発性気胸が起こりやすいのか?
続発性気胸は、基礎疾患の影響で肺の組織そのものが脆く、弱くなっていることが原因で発症します。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の場合: タバコの煙などが原因で肺胞(酸素と二酸化炭素を交換する小さな袋)の壁が破壊され、「ブラ」や「ブレブ」と呼ばれる、空気のたまった大きな袋(のう胞)が形成されやすくなります。この脆くなった袋が破れることで、空気漏れを引き起こします。
間質性肺炎の場合: 肺の壁(間質)が硬くなって線維化が進むと、肺全体の柔軟性が失われます。
さらに、病気が進行すると「蜂巣肺(ほうそうはい)」と呼ばれる蜂の巣のような構造に変化し、日常的な呼吸の繰り返しによって自然に破裂し、気胸を発症することがあります。
◆「間質性肺炎とはどんな病気?原因・症状・検査・治療法を解説」>>
続発性気胸は、原発性自然気胸と比べて60歳以上の高齢者に多くみられるのが特徴で、肺全体の組織が傷んでいるため、一度穴が開くとなかなか塞がりにくく、治療が長期化しやすいという側面があります。
【参考情報】『COPD – What Is COPD?』National Heart, Lung, and Blood Institute (NIH)
[https://www.nhlbi.nih.gov/health/copd](https://www.nhlbi.nih.gov/health/copd)
1-3. 続発性気胸が「少しの空気漏れでも苦しい」とされる理由

健康な若い人の場合、片方の肺が半分程度しぼんでしまっても、もう片方の肺や残された肺の機能(予備能力)で十分に呼吸を補うことができます。そのため、診察室に入ってきたときには「少し胸が痛い」程度で、ケロッとされていることも珍しくありません。
しかし、続発性気胸の患者さんは異なります。もともとCOPDや間質性肺炎によって、肺の呼吸機能(予備能力)が著しく低下しているため、画像検査上でほんのわずかに肺がしぼんでいるだけでも、急激な酸素不足に陥り、激しい呼吸困難を起こすことがあります。
呼吸器内科において、高齢者の続発性気胸が「一刻を争う救急疾患」として扱われるのは、このためです。
【参考情報】『続発性気胸を合併した肺気腫・間質性肺炎・気腫合併肺線維症の臨床的検討』日本呼吸器学会
[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrs/9/3/9_09030160/_pdf](https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrs/9/3/9_09030160/_pdf)
2. 呼吸器内科で気胸の発見が遅れやすい理由ー「いつもの症状」との混同

続発性気胸では、患者さん自身が『基礎疾患のせい』と思い込み、受診が遅れるケースが非常に多い点が問題です。
2-1. 症状が慢性肺疾患の悪化(急性増悪)に酷似している
気胸の典型的な症状は「突然の胸の痛み」と「急な息苦しさ」です。しかし、COPDや間質性肺炎の患者さんは、日常的に以下のような症状を抱えています。
・動いたときの息切れ・息苦しさ
・慢性的な咳や痰
・胸の圧迫感や違和感
そのため、気胸によって肺から空気が漏れ始めても、「今日は少し調子が悪いな」「いつもの息切れが少し強いだけだろう」と見過ごしてしまいがちなのです。
また、高齢の方では痛みの感覚が鈍くなっていることもあり、胸の痛みをはっきりと訴えないケースもあります。
2-2. 痛みが引き、あとから息苦しさだけが残ることがあります
気胸の発症初期に感じた「チクチクする」「ズキズキする」といった胸の痛みは、数分から数時間で軽くなることがあります。
これは、胸膜が引っ張られる刺激に体が慣れてしまうためです。
痛みが引くと、患者さんは「あぁ、治ったな」と安心しがちですが、肺の穴が塞がっていない限り、空気漏れは続いています。
その後に残る「なんとなく息苦しい」「体がだるい」という症状を、ただの疲労や基礎疾患のせいにしているうちに、胸の中にどんどん空気が溜まり、病状が進行していくリスクがあります。
【参考情報】『Pneumothorax』Johns Hopkins Medicine
[https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/pneumothorax](https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/pneumothorax)
3. 呼吸器内科が警告する「気胸の危険なサイン4選と緊張性気胸の見分け方」

続発性気胸を早期に発見するためには、日頃の病状からの「急な変化(急性発症)」を見逃さないことが最も重要です。
3-1. 続発性気胸を強く疑う4つのチェックポイント
ご自身やご家族が以下の状態に当てはまる場合は、ただの体調不良ではなく、気胸を含む急激な呼吸器トラブルが発生している可能性があります。
まずは、いつも通っているかかりつけの「呼吸器内科」の医療機関へ、すぐに電話で連絡してください。
1.突然、胸の片側が刺すように痛くなった(深呼吸や咳をしたときに痛みが響く)
2.急に息苦しさが増し、普段ならできる会話や、少し歩く動作がつらくなった
3.安静にしているにもかかわらず、普段よりSpO₂が明らかに下がり、戻らない
4.空咳(痰を伴わない咳)が急に増え、咳をするたびに胸の不快感が強まる
夜間や休日、あるいは「歩けないほど息が苦しい」「冷や汗が出ている」「ぐったりしている」という場合は、 一刻を争う「緊張性気胸(※後述)」などの可能性があるため、救急車(119番)を要請するか、救急外来を受診してください。
【参考情報】『酸素飽和度 SpO2とは 何ですか?』日本呼吸器学会
[https://www.jrs.or.jp/file/pulse-oximeter_general20211004.pdf](https://www.jrs.or.jp/file/pulse-oximeter_general20211004.pdf)
3-2. 一刻を争う「緊張性気胸(きんちょうせいききょう)」の兆候
気胸の中でも、最も危険な病態が「緊張性気胸」です。
肺に開いた穴が「チェックバルブ(逆流防止弁)」のようになってしまい、息を吸うときには空気が胸の中に漏れ出るものの、息を吐くときには外に出なくなってしまう状態です。
一呼吸ごとに胸の中の圧力が上昇し、患側の肺が完全に潰れるだけでなく、健康な反対側の肺や、心臓・大血管までも強く圧迫します。
これにより、心臓に血液が戻らなくなり、急速に血圧が低下してショック状態に陥ります。
緊張性気胸の主なサイン(救急車を呼ぶべき状態)
・猛烈な呼吸困難(横になることもできず、座って肩で息をしている)
・チアノーゼの出現(唇、爪の先、顔色が紫色〜土気色になっている)
・意識の混濁、朦朧(もうろう)とする、強い倦怠感や冷や汗
・急激な血圧低下と脈拍の上昇
これらの症状がみられる場合は、躊躇することなく直ちに救急車(119番)を要請してください。
【参考情報】『G-04 気胸』日本呼吸器学会
[https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/g/g-04.html](https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/g/g-04.html)
3-3. 胸の痛みは気胸以外(心臓など)の危険な病気の可能性も
呼吸器内科において、胸痛と息苦しさを訴える患者さんを診察する際、医師は気胸だけを疑うわけではありません。
以下のような「命に直結する他臓器の病気」ではないか、常に慎重に見極めています。
・心筋梗塞・狭心症: 心臓の血管が詰まり、胸をしめつけられるような痛みが走る。
・肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群): 足などの静脈にできた血の塊(血栓)が肺の血管に詰まり、突然の激しい息切れと胸痛を起こす。
・大動脈解離: 胸や背中の大血管の壁が裂け、引き裂かれるような激痛が走る。
医療機関では、これらの重大な病気を除外(見分け)するため、迅速な検査体制が敷かれます。
4. 呼吸器内科における気胸の診断・検査の流れ

病院を受診した際、呼吸器内科ではどのような手順で気胸の診断を進めるのでしょうか。その具体的なプロセスを解説します。
4-1. バイタルチェックと「聴診」
診察室、または救急外来に到着すると、まず看護師や医師によって、血圧、脈拍、呼吸数、SpO₂などのバイタルサインを測定されます。
続いて、聴診器を胸に当てて「呼吸音」を確認します。気胸が起きている側の肺はしぼんで空気の出入りがなくなっている(または少なくなっている)ため、「片側の呼吸音が著しく弱い、または全く聞こえない」という特徴的な所見が得られます。
4-2. 画像検査(胸部X線・胸部CT)
気胸の確定診断には、画像検査が不可欠です。
・胸部X線検査(レントゲン): 最初に選択される最も基本的な検査です。肺がしぼんで黒い空気のスペース(気胸腔)ができていることや、肺の虚脱(しぼみ具合)の程度を確認します。
・胸部CT検査: 続発性気胸において、CT検査は極めて重要です。レントゲンだけでは分かりにくい「小さな空気漏れ」を発見できるだけでなく、気胸の原因となった基礎疾患(COPDによるブラの分布や、間質性肺炎による線維化の広がり)の詳細な状態を立体的に評価できます。また、次に説明する治療の針やチューブを挿入する安全な位置を決めるためにも役立ちます。
4-3. 血液ガス分析
通常の血液検査(採血)に加え、手首の動脈などから直接血液を採取する「動脈血ガス分析」を行うことがあります。
この検査により、パルスオキシメーター(SpO₂)だけでは分からない、血液中の正確な酸素濃度(PaO₂)や二酸化炭素の蓄積具合(PaCO₂)、血液の酸性度(pH)を測定し、全身の呼吸不全の重症度を厳密に評価します。
◆『呼吸器内科で行う検査の種類と目的を紹介します』について>>
5. 気胸の治療法と選択基準

続発性気胸の治療目的は、①胸の中にたまった空気を抜いて肺を元通りに広げること、②肺に開いた穴(空気漏れ)を塞ぐこと、③再発を防ぐことの3つです。
患者さんの全身状態や肺のしぼみ具合に応じて、最適な治療法が選択されます。
5-1. 軽度の場合は「入院のうえ安静と酸素吸入」
続発性気胸では、たとえ画像上で軽度に見える場合でも、肺の予備能の低下により症状が急変するリスクがあります。
そのため、原発性自然気胸(基礎疾患のない若年者の気胸)とは異なり、「安静のみで様子をみる」という選択は基本的に行われません。
入院のうえ酸素投与と厳重なモニタリングを行いながら、早期に脱気処置(穿刺や胸腔ドレーン)の適応を検討するのが一般的な対応です。
治療方針は患者さんの状態を総合的に評価したうえで、担当医が判断します。
5-2. 中等度〜重度の場合の標準治療「胸腔ドレナージ(ドレーン留置)」
胸膜腔内の空気が多い場合は、針で空気を抜く処置(穿刺・脱気)や、胸の外からチューブを入れて持続的に空気を抜く治療(胸腔ドレナージ)を行います。
【胸腔ドレナージとは、胸腔内にたまった空気や液体をチューブで体外へ排出する治療のこと】
【参考情報】『Collapsed lung (pneumothorax)』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/ency/article/000087.htm
5-3. 難治性の場合の「追加治療」
胸腔ドレナージを数日間続けても、肺の穴が大きかったり、周囲の組織が脆すぎたりして空気漏れが止まらない(難治性気胸)ケースがあります。
特に間質性肺炎を背景に持つ気胸は、組織の修復力が低下しているため治療に難渋しやすく、慎重な対応が求められます。このような場合、以下の選択肢が検討されます。
① 胸膜癒着術(きょうまくゆちゃくじゅつ)
胸腔ドレーンから、胸膜に無菌性の炎症を起こす薬剤(自己血、50%ブドウ糖液または特定の生体組織接着剤など)を注入する方法です。
あえて炎症を起こすことで、肺の表面(臓側胸膜)と胸の壁の内側(壁側胸膜)を「糊(のり)」で貼り付けるようにピタッと癒着させ、物理的に空気の漏れるスペースを無くします。手術が難しい高齢の方や、心肺機能が低下している方に多く選ばれる治療法です。
② 手術(胸腔鏡下手術:VATS)
全身麻酔をかけ、胸に小さな穴をいくつか開けてカメラ(胸腔鏡)を挿入し、空気漏れの原因となっているブラ(空気の袋)を切除したり、自動縫合器で穴を塞いだりする手術です。
根本的な治療になりますが、続発性気胸の患者さんはもともとの心肺機能が低く、全身麻酔そのもののリスクが高いことが多いため、手術が適応となるかどうかは、呼吸器内科医と呼吸器外科医が慎重に協議を重ねて決定します。
③ 気管支鏡下気管支充填術(EWC を用いた治療)
口や鼻から気管支カメラ(気管支鏡)を挿入し、空気漏れの原因となっている肺の区域へ続く気管支に、シリコン製の小さな栓(EWC:気管支充填栓)を詰めて空気の流れを遮断する治療法です。
手術に比べて全身への負担が少ないため、心肺機能の低下が著しく手術適応が難しい患者さんに検討されます。
【参考情報】『Pulmonary Fibrosis Treatment』National Heart, Lung, and Blood Institute (NIH)
https://www.nhlbi.nih.gov/health/idiopathic-pulmonary-fibrosis/treatment
6.おわりに
呼吸器内科の視点から見ると、COPDや間質性肺炎を抱える患者さんにとって、続発性気胸は「いつでも起こりうる、かつ見過ごされやすい重大な合併症」です。
最も大切なのは、『今日の苦しさはいつもと違う』『急に片方の胸に違和感が出た』というわずかなサインや、パルスオキシメーターの数値の急低下を見逃さないことです。
そのような変化に気づいたときは、 、「次の定期受診日まで待とう」とせず、すぐに医療機関に相談してください。早期に発見し、適切な医療処置を行うことが、大切な肺を守り、重症化を防ぐことにつながります。
当院を受診されて、気胸が明らかとなった患者さんは、高次医療機関へ紹介いたします。
