COPD患者が注意すべき病気とは
COPDは肺の病気と思われがちですが、全身にも影響するので全身の病気とも言われています。
合併症が起きてしまい、それにより亡くなることもあるため注意が必要です。
もちろん、肺にも大きく影響し、肺がんや肺炎の危険性もありますが、心筋梗塞、睡眠障害、骨粗鬆症など関係なさそうな病気もCOPDの合併症として挙げられます。
1. COPDってどんな病気?
「COPD」という病気を知っていますか。簡単に説明するとタバコの煙によって肺の炎症が起きる疾患です。
喫煙習慣のある中高年が発症することが多い病気でもあります。
そして、COPDには、合併症もあります。タバコは喫煙者だけでなく、副流煙によって周りにも影響を与えるので、COPD、合併症の存在を知り、ご自身と周りの人の健康を守りましょう。
1-1.原因
最大の原因は喫煙で、喫煙者の15~20%が発症します。
タバコの煙や他の有害物質を吸うことで、肺の中の気管支に炎症が起きます。それにより咳や痰が出たり、気管支が細くなることで空気の流れが低下してしまいます。
また、肺胞が破壊され、肺気腫という状態になります。
肺気腫になると、酸素の取り込みや二酸化炭素の排出機能が低下します。そして、この状態になると治療しても、元に戻ることはありません。
【参考情報】『慢性閉塞性肺疾患(COPD)』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html
COPDでは、タバコの煙などを吸い続けることで肺の機能が徐々に低下していきます。喫煙歴が長く、1日でタバコを吸う本数が多い人ほど重症化する傾向があります。
そして、恐ろしいことに喫煙者だけに発症のリスクがあるのではなく、受動喫煙でも発症してしまうことがあることです。
例として、ヘビースモーカーの男性の妻がCOPDを発症したということがあります。
理由は2つ考えられ、結婚歴30数年間で食卓でも吸っており、女性は非喫煙者ですが日常的に副流煙による受動喫煙をしていたことになります。
2つ目が男性はタバコに強い体質(=喫煙感受性が低い)で、女性は弱い体質(=喫煙感受性が高い)ということが考えられます。このような事例があるので、家族のためにも禁煙をお勧めします。
◆『タバコで咳がでる。長引くときに疑う病気は?』>>
【参考著書】「長引くセキはカゼではない」大谷義夫
ここまで、タバコの煙が主な原因と説明しましたが、他にも粉塵、大気汚染や乳幼児期の呼吸器感染、遺伝も原因として挙げられます。
1-2.症状
タバコの煙などの有害物質を吸うことによって、気管支が炎症を起こし、痰が詰まることで空気が通りにくくなります。
具体的な症状としては、
・歩行や階段の昇り降りなどの少しの動作で息切れしやすい
・1日に何度も咳が出る
・黄色や粘り気のある痰が出る
・呼吸のときに喘息患者のような「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音がする
このような症状があると、COPDの可能性が考えられます。
進行すると、食事の時も呼吸がしづらくなるため、食事量も減り、呼吸困難の症状によって身体も動かさなくなり、さらに食欲もなくなります。
このような悪循環により、体重の減少に繋がってしまいます。
【参考情報】Mayo Clinic 『COPD』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/copd/symptoms-causes/syc-20353679
2.COPD患者におこる合併症
肺胞や気管支という単語が並び、肺の病気と思われがちですが、COPDでなくなる患者さんの死因の多くは、合併症や併存症によるものもあるため、全身の病気とも言われています。
自覚症状をあまり感じていないこともあるため、注意が必要です。
COPDの診断治療のためのガイドラインでは、COPDに伴って肺の中に起こってくる病気のことを「肺合併症」、COPDの患者さんに起こりやすい全身の病気のことを「全身併存症」と区別しています。
【参考情報】『すこやかライフ COPDは全身の病気です~知っておきましょう、肺合併症と全身併存症のこと~①(全4回)』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202209_2/
2-1.循環器の病気
COPDの合併症でかなりの高い頻度で現れるのが、心不全、心筋梗塞、不整脈などです。
喫煙感受性が高いと、動脈の血管が固くなり弾力性がなくなったり、血栓ができたりして血管が詰まりやすく、動脈硬化になりがちです。
動脈硬化になると、血液を送り出す心臓の負担も大きくなり、心臓の病気に繋がってしまいます。
COPDの症状の代表として、少しの動作で息切れしやすいと挙げましたが、心臓の病気の特徴的な症状とも重なります。
「COPDだから息切れするのはあたりまえ」と考えず、息切れの度合いが少し悪いなどの異変があると、別の病気も発症していることがあります。
不安点が少しでもあれば、かかりつけ医に相談しましょう。
【参考情報】『すこやかライフ COPDは全身の病気です~知っておきましょう、肺合併症と全身併存症のこと~③(全4回)』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202210_2/
2-2.消化器の病気
胃潰瘍、胃食道逆流症が合併症として挙げられます。
胃潰瘍は胃の粘膜、内壁がただれる病気です。
症状はみぞおちの痛み、胸やけ、ゲップ、黒い便、貧血などで、原因はピロリ菌、ストレス、細菌やウイルス感染、暴飲暴食、解熱剤が考えられます。胃食道逆流症は食道に起きる病気です。
胃酸が何らかの原因で食道側に逆流することで生じ、不快症状や食道粘膜に炎症を起こします。この原因の1つとしてストレスが挙げられます。
ストレスにより、自立神経が乱れ、胃液の分泌量がコントロールできなくなります。
症状はみぞおちの痛み、胸の痛み、背中の痛みがあり、ひどい時は夜間の不眠症状や食欲不振に繋がることがあります。
COPDの患者さんは胃潰瘍のリスク因子であるピロリ感染率が高く、胃潰瘍を合併している患者さんは、肺機能低下が大きいです。
胃酸の逆流 を生じる胃食道逆流症の頻度も高く、COPDの症状が急に進行してしまう危険因子でもあります。
輪状咽頭筋(食べ物を飲み込み、胃にスムーズに流れ込むための働きをする、喉にある筋肉)機能不全や喉頭挙上障害(食べ物が気管に入らないように防ぐ喉頭挙上筋群が衰えてしまい、気管に食べ物が入ってしまうこと)によって、嚥下障害の頻度が高く、誤嚥リスクも上がります。
【参考情報】『全身性疾患としての COPD─なぜ全身病として扱う必要があるのか─』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/18/2/18_95/_pdf
2-3.呼吸器の病気
呼吸器との合併症として、肺がん、肺炎、肺高血圧症、気管支喘息が考えられます。
COPDは肺がんのリスクがあり、タバコを吸うことで抵抗力が弱い人ほど肺組織は壊され、COPDになりやすいです。
一度COPDになると、肺の組織は常に炎症を起こしているため、これが原因となりがんが発症しやすくなります。早期には症状がないことも多く、進行して初めて症状が出ることもあります。
主な症状は、咳、痰に血が混じる血痰、胸の痛み、動いた時の息苦しさ、動悸、発熱などがあります。
COPDによって、気管や気管支などの粘膜が傷ついており、病原体に感染しやすく肺炎を発症しやすい状態になっています。
症状は、発熱、咳、痰、呼吸困難、胸が痛いなどがあります。
高齢になると肺機能の低下があるため、肺の症状があまりなく食欲低下、意欲の低下などが主な症状としてみられることもあります。
肺炎を疑いにくいことがあるので、高齢者の肺炎は注意が必要です。
肺高血圧症は、心臓から肺に送る血管である肺動脈の血流の流れが悪くなることで、肺動脈の血圧が高くなる病気です。
聞きなじみのある高血圧は、血圧が高いという病態で、それに似た病名で高血圧症というものがありますが、これは繰り返し測定しても血圧が通常より高い場合を言います。肺高血圧症とは別物だと言えます。
肺動脈の血圧が高くなると、心臓に負担がかかり、息切れ、だるさ、足のむくみ、失神、気道(気管・肺)からの出血である喀血といった症状が出ます。
【参考情報】『肺高血圧症』効率循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/pph/
気管支喘息との合併は高齢者によくみられます。
最近では、気管支喘息とCOPDが合併している状態を指す、「ACO(エイコ)(Asthma COPD Overlap)」という概念も注目されています。
気管支喘息と合併していると、気管支喘息が悪化する頻度が高くなり、生活の質も低くなります。
【参考情報】『ぜん息との合併症に気を付けたい病気』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/complications.html
2-4.中枢神経の病気
中枢神経との合併症ではうつ病、睡眠障害、認知症が挙げられます。
COPDは進行性の病気で完治しないことにより、メンタル面が落ち込んでしまいうつ病に繋がってしまう場合があります。
悲観的になってしまい、治療への意欲が下がりがちになってしまいます。よって、食事をとらない、運動をしない、喫煙を再開してしまうなどの結果により、症状が悪化してしまうという悪循環にもなってしまいます。
COPDの症状だけに集中せずに、メンタルケアも頭に入れておくことが必要です。
COPDが原因で睡眠障害が起きて、睡眠不足になることが多くあります。
COPDは肺機能が低下しますが、睡眠時はより悪化します。これにより、睡眠時無呼吸症候群のリスクも高まります。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に、気管の空気の通り道が閉鎖されてしまうことで起き、何回も呼吸が止まってしまいます。
COPDの患者さんは呼吸困難の症状があるうえに、睡眠時に十分な酸素を身体に送ることができなくなります。そして、質の良い睡眠が取れず、睡眠不足状態になってしまいます。
認知症に関しては、COPDの進行度が増すと、認知機能が低下することが明らかにされています。
合併の原因は低酸素血症が関係している可能性がある、とまではわかっているものの他の原因に関してはいまだに不明です。
2-5.筋骨格の病気 骨粗鬆症、筋力低下
骨の健康のためには、エストロゲンが大きな役目を担っています。
エストロゲンは骨密度の低下を抑える働きをしていますが、タバコにはエストロゲンの分泌量を抑制する成分が含まれています。
喫煙歴が長いと、骨密度低下が進行し、骨折しやすくなる病気の骨粗鬆症になります。
少しの動作でも息切れをしてしまうため、運動もなかなかできなくなります。すると、運動不足により筋力が低下してしまいます。
骨粗鬆症や筋力低下になると、転倒し骨折のリスクが上がります。
高齢者が骨粗鬆症になり骨折すると、骨が弱ってしまっているため、長期間の安静が必要になります。これが原因で寝たきりになってしまう可能性もあります。
高齢者の骨折の原因は転倒がほとんどのため、転倒しない対策が必要になってきます。
【参考情報】National Libruary of Medicine『COPD and osteoporosis: links, risks, and treatment challenges』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4820217/
2-6.代謝の病気
喫煙歴のあるCOPDの患者さんは2型糖尿病発症のリスクが高いと言われています。
2型糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンの働きの低下、つまりインスリンの作用不足が原因とされています。
そのインスリンの作用不足は、膵臓の働きが弱くなってしまうことと、肥満や運動不足、食べすぎといった生活習慣の乱れから引き起こされることもあります。
適度な運動で、肥満や運動不足は解消されることですが、COPDの患者さんは少しの動作で、息切れがあるので医師への相談が必要です。
COPDの患者さんがメタボリックシンドロームになる可能性もあり、飲みすぎ、食べすぎ、栄養の偏り、運動不足などの生活習慣が重なり、内臓脂肪型肥満になります。
適度な運動が必要となりますが、こちらも医師に相談することが必要です。
3.病気になる前に禁煙をしましょう
COPDへの対策は至ってシンプルで肺などを傷つける有害物質を吸引しないことにつきます。よって、禁煙することや、タバコの煙を吸わないようにすることがCOPDの発症のリスクを下げることができます。
喫煙者はタバコをやめた方がいいとわかっていても、なかなかやめられないという方が多いと思います。しかし、肺機能は加齢とともに低下していき、喫煙者だと肺機能の低下は加速してしまいます。
少しでも早く禁煙し、肺機能の低下の速度を遅くするためにも、ひとりで禁煙が難しいようであれば禁煙外来を勧めます。
禁煙治療にはパッチを貼るタイプがあります。医師と二人三脚でおこなうと成功しやすいです。
4.おわりに
COPDは進行性の病気です。
喫煙者はもちろんですが、長期間の受動喫煙など非喫煙者でも発症する可能性はあります。
咳や痰が続いて、「ただの風邪かな。時間が経てば治るかな」と思わず、長く続く場合や、少しの動作で息切れしてしまう、呼吸のときに「ゼーゼー、ヒューヒュー」鳴る場合は、呼吸器内科に受診するようにしてください。