咳で胸の痛みが生じる理由や病気とは?

感染症や、喘息などの慢性疾患が原因で激しい咳が長引くと、胸が痛くなることがあります。

胸の痛みがあると、何か大きな病気なのではないかと心配になってしまう方もいるかもしれません。
咳のしすぎによる筋肉痛が原因になっている場合が多いのですが、中には他の原因や病気が隠れていることもあります。

この記事では、咳と胸の痛みがある場合に考えられる原因や、受診した際に行う検査、自宅でできる激しい咳への対処法などについて詳しく紹介します。

1.咳で胸が痛い。その理由とは?


咳をしすぎると呼吸に関わる全身の筋肉が疲労し、筋肉痛になることがあります。
また、肺疾患の炎症が胸膜(肺などの臓器を覆っている膜)などに広がって胸痛が起こったり、心臓疾患が原因で胸痛が起こる場合もあります。

1-1.激しい咳・長引く咳による筋肉痛

咳をすると1回で約2~4kcalを消費すると言われています。激しい咳が続くと非常に多くのエネルギーを消耗し、全身の筋肉を総動員して行われるため、筋肉痛になることがあります。
咳による筋肉痛は胸だけでなく脇腹や下腹部にも及ぶことがあり、咳や呼吸時、体動時にも痛みを感じるようになります。

また、激しい咳が長期間続くと筋肉痛だけでなく、肋骨が疲労骨折を起こしてしまう場合があります。
疲労骨折とは、同じ部位に小さな力が少しずつ加わることでひびが入ったり、骨折したりすることです。長期間の激しい咳によって肋骨に負担がかかると、小さなダメージが蓄積して骨折してしまうのです。
特に高齢者など、骨粗鬆症(骨量が減って弱くなり、骨折しやすくなる病気)で骨が脆くなっている方は注意が必要です。

咳が長引く場合は、早く適切な治療を開始することで咳によるダメージも軽減することができます。
筋肉痛になるほど咳がひどい場合は、我慢せずに呼吸器内科を受診しましょう。

【参考情報】環境再生保全機構『第39回日本小児臨床アレルギー学会共催 市民公開講座
「知りたいこどものアレルギー」レポート(全10回)』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202311_1/

1-2.肺炎

肺炎とは、細菌やウイルスの感染により「肺胞」というガス交換を行う部分に炎症が起こっている状態のことです。

38℃以上の高熱、咳、黄色や緑色の痰、息切れ、胸痛などの症状が見られます。風邪に比べて症状が重く、重症化すると入院治療が必要な場合もあります。

肺自体に痛みの神経はないのですが、炎症が胸膜(肺などの臓器を覆っている膜)や横隔膜(呼吸に重要な役割を持つ筋肉の膜)にも広がると、痛覚が刺激されて強い胸痛が起こることもあります。
咳をするたびに胸痛がひどくなるため、痰をうまく排出できなくなってしまいます。

発熱など肺炎の症状に加えて、強い胸の痛みもある場合は「胸膜炎」になっている可能性もあります。重症化する前に早めに呼吸器内科を受診しましょう。

◆『肺炎について』>>

1-3.肺結核

結核は、結核菌という細菌が肺に感染して起こる病気です。潜伏期間が半年から2年と長く、比較的ゆっくり進行して、感染力が強いのが特徴です。

近年では新規の患者は減ってきていますが、日本は先進国の中では罹患率が最も高く、特に高齢者や人の多い都市部で多い感染症です。
感染しても発病する人は5~10%程度で、初感染から長期間を経て免疫力が低下した時などに発病するものを二次結核といいます。

症状としては、咳、痰、血痰、発熱、倦怠感、体重減少、胸痛などがあります。

肺結核で胸痛が起こる理由には次のようなものがあります。
・結核菌が肺に感染して炎症を起こし、炎症が周りの神経や筋肉に影響を与えることで痛みを感じる。
・結核が進行して胸膜(肺の周りにある薄い膜)にも炎症が生じると「胸膜炎」の状態になり、痛みを感じる。

「2週間以上咳が続いている」など肺結核が疑われる症状に加えて胸痛もある場合は、結核が進行している可能性もあります。入院が必要になる場合もありますので、早めに病院を受診しましょう。

【参考情報】厚生労働省検疫所FORTH『結核』
https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/name65.html

1-4.COPD(慢性閉塞性肺疾患)

COPDはタバコの煙などの有害物質を長期にわたって吸いこんだことにより、肺に炎症が起こって呼吸機能が低下していく病気です。
喫煙習慣のある中高年に多く発症する、生活習慣病のひとつです。

症状としては、慢性的な咳や痰、息切れなどがあります。
さらに症状が進行すると、酸素と二酸化炭素の交換を行う「肺胞」という部位が破壊され、肺気腫という状態になります。この変化は不可逆的なものであり、治療をしても破壊された肺胞が元に戻ることはありません。

肺気腫の状態が進行すると、肺の一部が過剰に膨張して周囲の組織や神経を圧迫し、胸痛を引き起こすことがあります。

【参考情報】日本呼吸器学会『COPD』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html

◆『COPDについて』>>

1-5.心臓疾患

胸の痛みがある場合、「狭心症」や「心筋梗塞」などの心臓疾患の可能性もあります。

狭心症は、胸部の中央から左側にかけて締め付けられるような痛みや圧迫感があらわれ、数分で消失するのが特徴です。放散痛(痛みの原因となる臓器とは違う場所に伝わる痛み)として、首や肩、上腹部が痛むこともあります。
労作時に痛むことが多いですが、夜間や明け方などの安静時に起こる場合もあります。

心筋梗塞は、狭心症に比べて強い痛みが長時間続き、冷汗・呼吸困難などの症状を伴うこともあります。

このような症状がある場合は命にかかわることもあるため、すぐに病院を受診しましょう。

【参考情報】日本呼吸器学会『Q8.急に胸が痛くなり続いています。心臓や肺の病気でしょうか?』
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q08.html

1-6.気胸

胸の痛みがある場合、気胸(ききょう)という疾患である可能性もあります。
激しい咳の衝撃によって、肺に穴が開いてしまうことがあり、肺に穴が開くと、風船のような肺はしぼんでしまって、呼吸のたびに胸の痛みを感じたり、息が苦しいといった症状を生じることがあります。
気胸は、重症度によって、通院での経過観察であったり、入院治療であったりと治療方針が異なりますが、軽症で通院経過観察となった場合でも、急に悪化した場合には入院治療への変更が必要になることもありますので、当院では気胸の患者さんは、高次医療機関へご紹介いたします。

2.胸が筋肉痛になるほど、咳が出る疾患


激しい咳が長期間続くと、胸が筋肉痛になってしまうこともあります。

2-1.喘息

喘息は気道に炎症が生じることで気道が狭くなり、発作的に咳や呼吸困難などの症状が現れる病気で、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」のような喘鳴(ぜんめい)が特徴的です。
喘息になると、症状がない時でも気道に慢性的な炎症が起きているため、少しの刺激でも反応しやすい過敏な状態となっています。
過敏になっている気道に、風邪、運動、アレルゲン、タバコ、ストレス、気温や気圧の変化などさまざまな刺激が加わることで発作が起こります。
発作時は激しい咳が起こり、特に夜間や明け方に悪化します。
このような状態が長く続くと、咳によって呼吸筋(胸部や首筋の筋肉)が疲労し、筋肉痛になってしまうこともあります。

市販の咳止めでは根本的な治療ができないため、早めに呼吸器内科を受診し、専門の治療を受けましょう。

【参考情報】日本呼吸器学会『気管支ぜんそく』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html

◆『喘息について』>>

◆『小児喘息とは』>>

2-2.咳喘息

咳喘息は咳のみが症状として現れる喘息の前段階の状態で、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」のような喘鳴を伴わないのが特徴です。

喘息と同様に、咳が長期間続くため筋肉痛になる場合があります。
咳喘息は特に風邪などの後に起こり、その3〜4割は本格的な喘息へと移行します。
そのため、喘息の段階まで進行する前に、早めに治療を開始することが大切です。

◆『咳喘息とはどんな病気?咳が止まらなくなる原因と治し方』>>

2-3.新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス感染症の症状は、人によって軽症から重症まで様々です。

軽症の場合は咳、発熱、全身の倦怠感や味覚障害など、風邪と似た症状が見られます。
咳症状が強く出る場合は、筋肉が疲労して筋肉痛になってしまうこともあります。

しかし高齢者など免疫力の低下している方、喫煙習慣のある方、糖尿病、高血圧、心臓病、COPDなどの基礎疾患のある方は重症化しやすいと言われており、高熱や肺炎、呼吸困難などの症状が出る場合があります。

基本的には、症状が落ち着けば咳や胸の痛みも緩和されますが、後遺症により咳が長期間続く場合もあります。

◆『咳を伴うウイルス感染症の種類と具体的な対処法』>>

◆『新型コロナの咳の特徴や対処法、受診目安について解説』>>

2-4.マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎の症状としては、痰がからまない乾いた咳、発熱、倦怠感、喉の痛み、頭痛などが多く、初期症状は風邪に似ています。

咳は解熱後も3~4週間ほど続き、特に夜間や早朝に悪化しやすい傾向にあります。
激しい咳が長引くことで、筋肉痛の症状が出る場合もあります。

また、人によっては耳の痛みや吐き気、下痢、湿疹、喘鳴などの症状が見られる場合もあります。

軽症で済むことも多い病気ですが、まれに胸膜炎、脳炎、溶血性貧血、ギランバレー症候群などの合併症を起こすこともあるため、早めに治療を開始することが大切です。

【参考情報】厚生労働省『マイコプラズマ肺炎に関するQ&A』
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou30/index.html

2-5.百日咳

百日咳は名前の通り、咳が治まるまで約100日と長い時間がかかる病気です。

最初は軽い咳やくしゃみ、鼻水といった風邪と同じような症状ですが、徐々に咳が悪化していきます。
症状が悪化すると、発作的に短い咳を繰り返すのが特徴的です。
咳が治まった後に急に深く息を吸うため、「ヒューヒュー」といった笛声(てきせい)が聞こえます。
息継ぎの余裕がないほどの激しい咳発作が続くため、咳のし過ぎで吐いてしまったり、筋肉痛になったりすることもあります。

特に6か月未満の乳幼児は重症化することもあるため注意が必要な病気です。感染を広げないためにも、当てはまる症状がある場合は早めに病院を受診しましょう。

◆『百日咳の症状・検査・治療について』>>

3.咳による胸の痛みに対し、呼吸器内科で行う検査


咳と胸の痛みの両方の症状がある場合、原因を特定するために次のような検査を行います。

3-1.画像検査

胸部X腺検査(レントゲン)やCT検査では、肺や心臓に炎症などの異常がないかを確認します。

X線検査は肺炎や肺がん、COPD、肺結核、気胸、肺水腫などの診断に役立ちます。

CT検査では、心臓の影などX線検査では重なってしまって見えにくい部分も映し出すことができます。

3-2.血液検査

血液検査では、炎症やアレルギーの有無を調べることができます。

肺炎などの感染症が原因で咳が出ている場合、「CRP」や「白血球」の値が上昇します。
CRPは「炎症マーカー」と呼ばれていて、体の中の炎症の状態を反映しています。
白血球は、体内に侵入した異物を細胞内に取り込んで無害化する免疫細胞です。

喘息はアレルギーが原因となって発症することも多いため、血液検査でIgE値(アレルギーを起こしやすい体質かどうか調べる指標)や、アレルゲン(アレルギーの原因となる物質)を調べます。
また、喘息の場合は好酸球(白血球の一種で、アレルギーに関わる免疫細胞)の値が上昇します。

3-3.呼吸機能検査

呼吸機能検査は、喘息やCOPDなどの慢性呼吸器疾患が疑われる場合や、治療効果を確認するために行う検査です。

「スパイロメトリー」や「モストグラフ」、「呼気一酸化窒素濃度測定(FeNO)」などの種類があり、気道の状態や肺機能を調べるのに役立ちます。

【参考情報】日本呼吸器学会『肺機能検査とはどのような検査法ですか?』
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q29.html

◆『呼吸器内科で行う検査の種類と目的を紹介します』>>

4.激しい咳に、自宅でできる対処法とは?


咳のしすぎで胸が痛い場合、咳症状が落ち着けば胸の痛みも少し緩和します。
自宅でできる咳の対処法についてご紹介します。

4-1.水分摂取

のどが乾燥していると、乾燥が刺激となってさらに咳が悪化してしまいます。
こまめに水分補給をすることでのどが潤い、ウイルスや細菌などの異物を排出する「浄化作用」も活発になります。
また、痰が出ている場合は水分補給によって痰が切れやすくなり、咳やのどの違和感が緩和します。

冷たい飲み物や炭酸飲料などの刺激となるものは避け、気道を温める効果もある温かい飲み物がおすすめです。

4-2.部屋の加湿

空気が乾燥していると、気道が刺激されて咳が出やすくなります。
冬はもちろんですが、夏でもエアコンをつけたまま眠ると空気が乾燥しすぎてしまうこともあるため、注意が必要です。

加湿器やマスクの使用、室内に濡らしたタオルを干すなどして加湿を心がけましょう。

4-3.ハチミツの摂取

ハチミツは栄養価が高いだけでなく、抗菌・抗炎症作用がある成分が含まれていて、粘膜を保護する効果もあるため、昔から自然の咳止めとして使われてきました。

寝る前にスプーン1杯程度のハチミツを摂取することで、子どもの咳が改善したという研究もあります。
お子さんの咳がつらそうな場合は、ハチミツをお湯などに溶かしたものをあげると良いでしょう。

ただし、1歳未満の子どもの場合は乳児ボツリヌス症の危険があるため、絶対に与えないようにしましょう。

【参考情報】”Effect of honey, dextromethorphan, and no treatment on nocturnal cough and sleep quality for coughing children and their parents”
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18056558/

5.おわりに

咳と胸の痛みがある場合、大きく分けて次の3つの原因が考えられます。
①咳のしすぎによる筋肉痛
②肺疾患の炎症が胸膜などに広がって起こる胸痛
③心臓疾患が原因の胸痛

咳のしすぎで筋肉痛になっている場合は、原因となる病気が治って咳症状がなくなれば胸痛も無くなります。
しかし、呼吸器の慢性疾患や命に関わる心臓疾患が隠れている場合もありますので、痛みが強い場合や咳が2週間以上続いている場合は病院を受診しましょう。