肺真菌症ってどんな病気?
肺真菌症は、真菌による肺の感染症です。主に空気中の真菌を吸い込むことによって引き起こされます。
真菌とはカビのことで、たとえば、皮膚の「水虫」 は白癬菌(はくせんきん)というカビによって起こる表在性真菌症(皮膚や爪など、体の表面に感染する真菌症)の代表です。
この記事では、肺真菌症についての原因や症状、検査や治療、そして対策についてご紹介します。
1.原因
肺真菌症の原因は、カビとも呼ばれる真菌が肺に感染し、炎症を引き起こすことです。真菌は空気などの環境中に広く存在しています。
感染の経路としては、真菌を吸い込んだり、口や皮膚に付着したりすることで体内に侵入することが挙げられます。
肺真菌症は、通常、免疫力が低下している方に見られます。主にステロイド剤や免疫抑制剤の使用、白血病や抗がん剤による白血球減少などによる免疫低下がある方です。
クリプトコッカスやアスペルギルスを吸入した場合は、健康な方でも感染する可能性があります。クリプトコッカスとはハトの排泄物を含んだ土壌にいる真菌の名称です。
【参照文献】Annals of palliative medicine
https://apm.amegroups.org/article/view/73865/html
2.肺真菌症の種類
主な原因となる真菌にはアスペルギルス、クリプトコッカス、カンジダ、ムコールなどがあります。
【参照文献】一般社団法人 日本呼吸器学会『呼吸器の病気. 感染性呼吸器疾患 肺真菌症』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-09.html
2-1.肺アスペルギルス症
肺アスペルギルス症は、アスペルギルスというカビの一種による感染症です。アスペルギルスは自然界に広く存在し、多くの種類があります。肺真菌症の中で最も多いものは肺アスペルギルス症です。
免疫力が低下している方や、アスペルギルスに対してアレルギーを持っている方の場合は、菌を吸い込むことでアレルギー反応により病気を発症します。
肺アスペルギルス症には慢性肺アスペルギルス症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、侵襲性アスペルギルス症の3つの病型があります。
このうち、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症では、アスペルギルスに対して気管支や肺が過剰に反応して、重度の喘息を生じる疾患です。
原因となるのはアスペルギルス・フミガートスという種類です。また稀にアスペルギルス以外のカビに対しても同様の病気を発症することがあります。
【参照文献】『アレルギー性気管支肺アスペルギルス症』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-04.html
2-2.その他
肺アスペルギルス症以外には、肺クリプトコッカス症、肺カンジダ症、肺ムコール症などがあります。
<肺クリプトコッカス症>
肺クリプトコッカス症は、クリプトコッカスという真菌による感染症です。
この真菌は土壌や鳥の糞などに広く存在しており、それらを吸い込むことで感染が起こります。重症化すると中枢神経系にも影響を及ぼすことがあります。
<肺カンジダ症>
カンジダと呼ばれる酵母菌による感染症です。
通常は体内の自然な菌の一部ですが、免疫力が低下している方の場合には発症の原因になる可能性があります。
重症化すると血流中に菌が侵入し全身に感染が広がることがあります。
<肺ムコール症>
肺ムコール症は、ムコールと呼ばれる真菌によるものです。
この真菌は土壌や植物の腐敗物などに存在し、ムコールを吸い込むことで感染します。重症化すると全身に感染が広がり重篤な状態をもたらすことがあります。
3.症状
症状は、真菌の種類や肺の病変の形態によって異なりますが、以下のような症状が一般的です。
• 発熱
• 胸痛
• 咳
• 血痰または喀血
• 倦怠感
• 体重減少
• 呼吸困難
これらの症状は、結核や肺炎など他の肺疾患と似ているため、真菌が原因とは疑われにくいことがあります。急激に進行する場合もあれば、緩やかな進行の場合もあります。
肺に感染があっても無症状で、全く自覚症状がないままのこともあるので、定期的に健康診断や人間ドックを受けることが重要です。
4.検査
肺真菌症の検査は胸部エックス線検査や胸部CT検査などが用いられます。
これらの画像で肺に影が見られる場合がありますが、肺真菌症に特徴的であるとは断定しにくいといわれています。
より具体的な診断のために、喀痰検査(たんの検査)や気管支鏡検査が行われます。肺の病巣部から採取した分泌物を培養し、真菌の存在を確認します。
また、血液検査も診断に役立つことがあります。
5.治療
治療は真菌の種類や病変の状態によって異なります。病変が1カ所に限定している場合には手術で切除することもあります。
肺アスペルギルス症の治療では、抗真菌薬が中心となり、内服薬や注射薬が使用されます。
治療期間は通常数か月以上にわたり、治療を中断すると再発する可能性があるため、生涯にわたって治療を受けることがあります。
肺クリプトコックス症など他の肺真菌症の治療期間は、月単位から1年余りに及ぶことが多いとされています。
治療には副作用や持病との相互作用などに注意が必要であり、定期的な経過観察が重要です。
6.悪化を防ぐための対策
肺真菌症の悪化を防ぐためには、日常生活での対策が重要です。
真菌は空気、土、水など、あらゆる環境に存在しています。これらを完全に避けることは不可能ですが、次のような対策を取ることでリスクを減らすことができます。
まず、家の中ではこまめにカビを取り除くことが重要です。とくに、湿気の多い場所ではカビが生えやすいため、定期的な清掃が効果的です。
エアコンや加湿器も、内部にカビが発生しやすいので、常に清潔に保ちましょう。
また、部屋の通気性を良くするために定期的な換気が有効です。部屋の湿度を下げ、カビの成長を抑えることができます。
工事現場や長い間放置された家屋など、ホコリやカビが多い場所は避けるようにしましょう。これらの場所には真菌が多く存在する可能性があるためです。
さらに、タバコを吸わないことも重要です。喫煙は呼吸器系に悪影響を及ぼし、真菌症のリスクを高める可能性があります。
7.おわりに
真菌症には、皮膚や爪、口の中など体の表面に発症する「表在性真菌症」と、肺や脳、肝臓など体の内部に発症する「深在性真菌症」があります。
深在性真菌症は、とくに肺に発症することが多く、肺真菌症として知られています。
咳や呼吸困難など、肺に関連する気になる症状がある場合には、まずは呼吸器内科の受診を検討しましょう。
肺真菌症の疑いがある時は、体力や免疫力が低下している可能性が高いといえます。そのため感染症にかかりやすい状態です。なるべく人混みを避け、外出時にはマスクを着用し風邪などの感染症を防ぎましょう。