「特発性肺ヘモジデローシス」とはどんな病気?

特発性肺ヘモジデローシス(IPH)は、非常にまれな病気で、肺の中で繰り返し出血を起こします。
その結果として、ヘモジデリンと呼ばれる鉄を含む色素が肺に沈着してしまうことが特徴です。
特発性肺ヘモジデローシスは非常にまれな病気であり、原因や治療法についてはまだ十分にわかっていない部分も多いです。
今回の記事では、特発性肺ヘモジデローシスの特徴や症状、診断、検査、治療について詳しく解説します。
特発性肺ヘモジデローシスについて詳しく知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。
1.特徴
特発性肺ヘモジデローシスは、肺からの出血が原因で発症する病気です。しかし、なぜ出血が起こるのか、その出血の原因ははっきりとわかっていません。
しかし、さまざまな症例からステロイドを主体とした免疫抑制治療の効果が報告されており、なんらかの免疫が関係しているのではないかと考えられています。
ヘモジデリンとは、赤血球が破壊される過程で生成される鉄を含む色素で、通常は少量しか体内に存在しません。
特発性肺ヘモジデローシスは、ヘモジデリンと呼ばれる鉄を含む色素が肺の組織に沈着し、さまざまな症状があらわれます。
肺と腎臓は、ヘモジデリンが沈着しやすい部位とされており、ヘモジデリン沈着症とも呼ばれます。
主に子どもに多く発症するとされており、以前は年齢が若いほど予後は不良とされていました。
しかし、現在では、ステロイド薬や免疫抑制剤を使用した治療で状態が良くなるケースが多く報告されています。
ただし、再発を繰り返すケースや合併症を引き起こすケースも少なくなく、治療がスムーズに進まないことも多いです。
再発を繰り返すと、肺線維症への進行や肺高血圧症、右心不全などを引き起こす恐れがあり、注意が必要です。
【肺線維症・・・肺胞の壁が炎症や損傷によって厚く硬くなり、呼吸がしづらくなる病気。肺胞の壁が硬くなると酸素の取り込みが難しくなり、深呼吸もできにくくなる。】
また、特発性肺ヘモジデローシスは成人に発症するケースもありますが、比較的まれな症例で、子どもに比べ慢性的な経過が報告されています。
【参考情報】『特発性肺ヘモジデローシス』小児慢性特定疾病情報センター
https://www.shouman.jp/disease/details/03_08_010/
2.症状
特発性肺ヘモジデローシスでは、以下のような症状があらわれます。
・慢性的な咳
・血液交じりの痰(血痰)
・息切れ(呼吸困難)
・貧血
それぞれどのような症状か、具体的に解説します。
【慢性的な咳】
特発性肺ヘモジデローシスの最もよく見られる症状のひとつです。
最初は乾いた咳(乾性咳嗽)が続くケースが多いですが、病状が進行すると痰が出るようになります。
咳の頻度や強さは人によって異なりますが、日常生活に支障をきたすほど激しくなることもあります。
【血液交じりの痰(血痰)】
血痰は頻繁にあらわれるわけではありませんが、特発性肺ヘモジデローシスの特徴的な症状です。
血痰は、肺の毛細血管が破れることで、血液が痰に混じり排出されます。
この病気では、肺胞(肺の小さな空気の袋)に赤血球が漏れ出し、血痰が発生します。
一度でも血痰が確認された場合は病気の進行を示している可能性があります。また、血痰は、ほかの呼吸器疾患でもあらわれる症状です。
そのため、血痰が出る場合、速やかに医師の診察を受けることが必要です。
【息切れ(呼吸困難)】
肺にヘモジデリンが蓄積すると、肺の中の酸素と二酸化炭素を交換する能力が低下します。
その結果、息切れや呼吸困難があらわれます。日常的な動作でも息切れを感じる場合は注意が必要です。
病状が進むと、安静時にも呼吸が苦しくなるケースがあります。
呼吸困難は、肺の機能低下が進行しているサインでもあるため、早期に適切な治療を受けることが重要です。
【貧血】
特発性肺ヘモジデローシスでは、出血を繰り返すため貧血症状を引き起こします。
肺で微小な出血が繰り返されるため、体内の鉄分が失われ、鉄欠乏性貧血を引き起こします。
貧血が進行すると、以下のような症状があらわれます
・疲れやすい
・顔色が悪い(蒼白)
・めまいや立ちくらみ
・全身のだるさ
貧血が進むと日常生活にも影響を及ぼすため、血液検査で早期に異常を発見し、治療を進めることが大切です。
これらのような症状がある場合、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
3.診断・検査
特発性肺ヘモジデローシスの診断には、以下のような基準があります。
・症状や画像検査で肺に異常が見られること
・肺胞洗浄液や肺生検でヘモジデリンの蓄積が確認されること
・他の肺疾患(肺炎、肺がんなど)が否定されていること
そして、特発性肺ヘモジデローシスを疑う場合、以下の検査を行います。
・血液検査
・胸部画像検査
・気管支鏡検査と肺胞洗浄液検査
・肺生検
問診や身体診察に加え、さまざまな検査を組み合わせて状態を把握します。
それぞれの検査の役割について詳しく解説します。
【血液検査】
血液検査は、全身状態や貧血の程度を確認するために行います。
ヘモジデリンの蓄積が原因で体内の鉄が不足している場合、血液中のヘモグロビン値が低下します。
【胸部画像検査】
胸部画像検査では、X線検査とCT検査で肺の状態を確認します。
この検査では、肺にヘモジデリンが蓄積している部位や、肺の構造の変化が確認されるケースが多いです。
肺に「粒状の影」や「すりガラス状の影」がみられ、境界が不明瞭であるのが特徴です。
X線検査より、CT検査の方がより詳しく状態を把握できます。
【気管支鏡検査と肺胞洗浄液検査】
気管支鏡を使って肺の中を直接観察し、肺胞洗浄液を採取して検査する方法です。
採取した液体に含まれる細胞を調べることで、ヘモジデリンを含むマクロファージ(白血球の一種)の存在を確認します。
ヘモジデリン貪食マクロファージが多い場合、特発性肺ヘモジデローシスの可能性が非常に高いです。
そのため、この検査は、特発性肺ヘモジデローシスの確定診断のためには重要です。
【肺生検】
肺生検は、肺の組織を一部採取して詳しく調べる検査です。病気の種類や進行状況を正確に判断するために行われます。
これにより、ヘモジデリンの蓄積や肺組織の損傷の程度を直接確認できます。
肺生検は以下の3つの方法で実施します。
・気管支鏡肺生検
・経皮針肺生検
・外科的肺生検
肺生検は侵襲的な検査であるため、ほかの検査では診断が難しい場合に行われます。
上記の検査以外に、尿検査や各種培養検査、心臓超音波検査などで、ほかの病気との鑑別も行います。
【参考情報】『特発性肺血鉄症』メディカルノート
https://medicalnote.jp/diseases/%E7%89%B9%E7%99%BA%E6%80%A7%E8%82%BA%E8%A1%80%E9%89%84%E7%97%87
4.治療
特発性肺ヘモジデローシスの治療法は確立されておらず、定まった治療法はありません。
そのため、治療はまず「肺内出血の制御」と「全身状態の改善」を目的とし、その後は「再発の予防」を目指します。
治療は以下のような方法で行われます。
・ステロイド療法
・免疫抑制療法
・酸素療法
・貧血の治療
・肺移植
それぞれの治療方法を詳しく解説します。
【ステロイド療法】
特発性肺ヘモジデローシスの治療において最も一般的に行われている治療法が、ステロイド療法です。コルチコステロイドと呼ばれる薬が使われます。
コルチコステロイドの使用は、肺内で発生している炎症を抑え、血管の損傷を減らします。
また、合併症である肺線維症の進行を抑える可能性があるとされています。
肺の出血を抑えれば、ヘモジデリンの蓄積を減少させることができます。貧血症状が軽減され、息切れや立ちくらみ、血痰などが改善する場合が多いです。
【免疫抑制療法】
特発性肺ヘモジデローシスの原因が自己免疫的なメカニズムに関連している場合、免疫抑制薬を使用します。
この薬は、体の過剰な免疫反応を抑え、肺内の出血や炎症を抑える働きがあります。
【参考情報】ClevelandClinic “Immunosuppressants”
https://my.clevelandclinic.org/health/treatments/10418-immunosuppressants
【酸素療法】
病気が進行し、肺の酸素交換機能が低下している場合には、酸素療法が必要になります。
これは、酸素吸入を通じて体に必要な酸素を補給し、全身の酸素不足を改善する治療法です。
日常的に息切れがひどい場合や、安静時にも血中酸素濃度が低い場合に行われます。疲労感や呼吸困難の緩和に役立ち、生活の質が向上します。
【貧血の治療】
特発性肺ヘモジデローシスでは、慢性的な肺内出血が原因で鉄が失われます。そのため、貧血の治療も欠かせません。
貧血の治療は、鉄剤の服用や点滴投与によって鉄分を補う治療を行います。
出血がひどく貧血が進行している場合には、輸血が必要なケースもあります。
【肺移植】
病気が進行して肺の機能が極端に低下し、通常の治療では改善が見込めない場合、肺移植が検討されることがあります。
肺移植は、最終手段として選択されるものであり、適応となる患者は限られています。
上記で紹介した治療法以外にも、肺機能を維持して体力を保つために、日常生活の中で以下のようなポイントを意識しましょう。
・栄養管理
・感染予防
・定期検査
・無理をしない
・禁煙
・感染予防
また、特発性肺ヘモジデローシスは牛乳アレルギーに起因した発症も報告されており、そのような場合は、アレルゲンとなる牛乳を除去した対応が必要です。
特発性肺ヘモジデローシスは再発の可能性があるため、治療後も定期的な通院をして、経過観察が必要です。
5.おわりに
特発性肺ヘモジデローシスは、原因不明の肺内出血を起こし、ヘモジデリンが肺に沈着する非常にまれな呼吸器疾患です。
初期段階では軽い咳や息切れといった症状だけの場合もあり、早期の診断が難しく見過ごされる可能性もあります。
しかし、症状が進むと、血痰や貧血、倦怠感などの深刻な状態に発展し、日常生活に大きく影響を及ぼします。
咳や息切れ、血痰などの症状が続く場合には、専門医の診察を受けることが大切です。
気になる症状があれば、早めに呼吸器内科を受診しましょう。