どんな病気?アスピリン喘息とは
アスピリン喘息は、一般的な喘息とは違って、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれる薬がきっかけで発作が起こる特殊な喘息です。
20〜40代の女性に多く見られる傾向があり、薬を飲んだあとに急に激しい喘息発作や鼻づまりといった症状が現れることがあります。
風邪をひいた時や頭が痛い時に使う市販薬にも、非ステロイド性抗炎症薬が含まれていることがあり、アスピリン喘息の方にとっては大きなリスクとなります。そのため、何気なく使う薬にも注意を払う必要があります。
この記事では、アスピリン喘息がどんな病気なのか、発作を予防しながら安心して暮らすための方法についてご説明いたします。
アスピリン喘息を正しく理解して対策をすることで、発作を防ぎましょう。
1. アスピリンとは何なのか?
アスピリンは、広く使われている医薬品で、主成分はアセチルサリチル酸です。
解熱、鎮痛、抗炎症効果を持っており、痛みや炎症を抑える薬として知られています。アスピリンは、一般の薬局で簡単に購入できる市販薬の中にも含まれているため、どなたも一度は使用したことがあるかもしれません。
たとえば、次のような場合に使われます。
・頭痛や歯痛などの痛みを抑える
・発熱時の解熱剤として
・関節炎や筋肉痛などの炎症を抑える
・心筋梗塞や脳梗塞の予防として、低用量で血栓を防ぐために長期間使用される
このようにアスピリンは、幅広い用途で使われ、高い有効性が認められています。しかし、アスピリン喘息の患者さんにとっては、アスピリンや同じ効果を持つ薬が、発作を引き起こす危険があるため、注意が必要です。
2. アスピリン喘息はどんな病気か?
アスピリン喘息は、薬剤がきっかけで喘息発作を引き起こす特別なタイプの喘息です。
普段は症状が出なくても、特定の薬剤を服用することで突然強い発作が起こることがあり、注意が必要です。
原因としては、アスピリンやロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬が挙げられます。
アスピリン喘息を理解するためには、まず「喘息」がどのような病気であるかを知っておくことが重要です。一般的な喘息とアスピリン喘息には共通点も多いですが、原因や発作の引き金が異なります。
それでは、まず「喘息」について説明したあと、アスピリン喘息の詳細についてご説明しましょう。
2-1.喘息とはどんな病気?
喘息は、気道の慢性的な炎症によって引き起こされる呼吸器疾患です。空気の通り道である気道が狭くなり、呼吸が困難になることが特徴です。
気道の炎症が持続することで過敏になり、わずかな刺激でも反応してしまうようになります。
症状は、せきやたん、胸の圧迫感、息切れ、ゼーゼー、ヒューヒューという音を伴う呼吸(喘鳴)などがあります。
喘息は、主にアレルギー反応が深く関わっており、アレルゲンが引き金となって発作が起こることが多いです。とくに次のような要因が、喘息の発症や悪化に関与しています。
・花粉(とくに季節性のもの):春や秋に飛散する花粉がアレルゲンとなり、気道を刺激します。スギやヒノキの花粉がよく知られていますが、そのほかの花粉も原因となることがあります。
・ハウスダスト(ダニの死骸や糞など):家の中にたまりやすいハウスダストやダニが喘息の大きな原因です。ダニは、寝具やカーペットなどに多く存在します。
・食品(アレルギーを引き起こす特定の食品):ピーナッツ、卵、乳製品などの食品が原因となることもあります。
・タバコの煙:喫煙者の方だけでなく、副流煙も気道に悪影響を及ぼします。タバコの煙は、アレルギーを持たない方でも喘息の症状を悪化させる強い刺激物です。
・ストレスや精神的な緊張:精神的なストレスや過労、緊張状態も喘息の悪化要因となります。ストレスにより気道が過敏になり、発作が起こりやすくなります。
・気道感染:風邪やインフルエンザ、COVID-19、気管支炎、肺炎などの気道の感染を生じると、同じ気道の疾患である喘息を発症・悪化させることがあります。
・運動:運動誘発性喘息という状態があり、運動後に気道が狭くなることで症状が出ます。とくに寒い場所での運動や激しい運動後に発症することが多いです。
・薬剤:一部の解熱鎮痛剤、特にロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬は、喘息患者さんにとっては発作の引き金になることがあり、アスピリン喘息と呼ばれます。アスピリン喘息については後述いたします。
喘息の発作は、夜間や早朝に発生することが多く、運動後や冷たい空気にさらされたときにも起こりやすいです。
喘息患者さんの気道は慢性的に炎症を起こしているため、健康な方と比べてダメージを受けやすい状態になっています。
炎症が続くと、気道の粘膜が腫れてむくみやすくなり、たんの分泌も増えます。その結果、さらに気道が狭くなり、空気の通りが悪くなってしまうのです。
喘息は、個人の体質や、周囲の環境の影響を受けやすい病気です。
遺伝的要因やアトピー素因、気道の過敏性などの個体因子が、喘息の発症リスクを高めます。
とくに、両親が喘息を持っている場合、お子さまも喘息になるリスクが3〜5倍程度高くなると言われています。
また、アトピー体質の方は、環境中にあるアレルゲン(花粉やホコリなど)に対してアレルギー反応を起こしやすい状態です。
このため、アレルギー反応を引き起こす抗体(IgE抗体)が多く作られ、それが喘息の発症リスクを高める要因となっています。
環境因子としては、前述の通り、喫煙、大気汚染、呼吸器感染症、食物、アレルゲン(ダニ、ホコリ、花粉など)などが挙げられ、これらも喘息発作を引き起こす原因となります。
これらの環境因子に対しては予防策を講じることで、喘息の発症リスクを減らすことができます。
成人の喘息には、アレルギーが原因ではない「非アトピー型喘息」が多くみられるのも特徴です。
非アトピー型喘息では、アレルギー反応によらないため、原因を特定しにくく、治療が難航することが多いとされます。
さらに、成人喘息は「気管支のリモデリング」が進行しやすいという特徴もあります。リモデリングとは、炎症が長期間続くことで気道が硬くなり、気道が狭くなってしまうことです。
このような状態になると、治療しても気道の狭窄が元に戻りにくく、喘息の症状が慢性的になりやすくなります。
【参照文献】環境再生保全機構『はじめてぜん息と診断された方へ』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/first.html
◆『咳が止まらないのはなぜ?アレルギーが原因かもしれません』>>
2-2.アスピリン喘息とは?
アスピリン喘息は、解熱鎮痛薬(NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬)を服用した際に、激しい喘息発作や鼻症状が引き起こされる特殊な喘息です。
アスピリン喘息を持つ方は、アスピリンだけでなく、すべての非ステロイド性抗炎症薬に対して過敏な体質を持っていると考えられています。そのため、これらの薬剤を使用する際には細心の注意が必要です。
「薬剤性の喘息」とも呼ばれ、特に20〜40代の成人に多く見られます。
男性よりも女性に多く、鼻茸(はなたけ、鼻ポリープ)や副鼻腔炎を併発していることがしばしばあり、嗅覚が低下することも特徴です。
これらの症状がみられる患者さんは、アスピリン喘息のリスクが高いため、医師や薬剤師に相談してから薬を使用する必要があります。
アスピリン喘息の発症メカニズム
アスピリン喘息がどのように発症するかについての詳細なメカニズムは完全には解明されていませんが、非ステロイド性抗炎症薬が「プロスタグランジン」という炎症を調整する物質を減少させることで、気道の過敏反応を引き起こすことがわかっています。
プロスタグランジンの減少により、気道の炎症が悪化し、強い喘息発作が引き起こされます。また、マスト細胞という免疫細胞が活性化され、気管支の収縮や鼻の症状、さらに消化器症状などをもたらすことがあります。
アスピリン喘息の症状
アスピリン喘息の主な症状には、以下のようなものがあります。
・激しい喘息発作:気道が急激に狭まり、呼吸が困難になる場合もあります。
・強い鼻づまり、鼻汁:鼻が完全に詰まってしまい、鼻水が大量に出ることが多いです。
・顔面紅潮や目の充血:薬剤服用後に顔が赤くなったり、目が充血することがあります。
・腹痛や吐き気、下痢:消化器系の不調として、腹痛や吐き気、下痢などが現れることがあります。
・胸痛やじんま疹:まれに胸の痛みや皮膚にじんま疹が出ることもあります。
これらの症状は、解熱鎮痛薬を服用してから約1時間後に出現し、症状は半日から1日程度続くことが多いです。場合によっては、湿布薬や塗り薬、座薬などでも同様の反応が見られることがあります。
3.アスピリン喘息の注意すべき点
アスピリン喘息は、通常のアレルギー検査(血液検査や皮膚テスト)では診断が難しいため、すべての喘息患者さんが注意する必要があります。
前述の通り、鼻ポリープ(鼻茸)や副鼻腔炎を併発している方、成人してから喘息を発症した方は、解熱鎮痛薬を使用する際にとくに注意しましょう。解熱鎮痛薬を使用する前に、必ず医師や薬剤師に相談することが大切です。
アスピリン喘息は、内服薬だけでなく、座薬や注射、湿布や塗り薬といった外用薬でも症状が現れることがあります。
これは成分が皮膚から吸収され、体内に入ることによって喘息症状が引き起こされるためです。そのため、外用薬を使用する場合も、事前に成分を確認し、安全な薬かどうかを確認する必要があります。
また、非ステロイド性抗炎症薬に対する過敏反応は一生涯続くとされているため、ぜん息の症状が落ち着いていても、再度薬剤を使用すると発作が起こる可能性があります。症状が軽快したからといって油断することなく、引き続き注意しましょう。
ただし、非ステロイド性抗炎症薬以外の薬剤、たとえば抗菌薬などは、アスピリン喘息の患者さんでも安全に使用できます。
すべての薬が使えないわけではないので、薬を使う際には、適切な薬を選んでもらうために必ず医師や薬剤師・登録販売者など専門家に相談しましょう。
特に、市販薬は気軽に購入できるため、自己判断で使用するのは避けるべきです。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)にはさまざまな種類があり、どの薬がアスピリン喘息に影響を与えるかを正しく把握することが大切です。以下に、病院で処方される主な薬や、市販で購入できる薬を紹介します。
【解熱鎮痛薬(NSAIDs)の種類】
病院で処方されるNSAIDs
・アスピリン(バファリン®など):痛みや炎症を抑える効果があり、広く使用されています。
・ロキソプロフェン(ロキソニン®など):強力な鎮痛剤としてよく知られています。
・ジクロフェナク(ボルタレン®など):関節痛や筋肉痛の緩和によく処方されます。
・インドメタシン(インダシン®など):鎮痛効果が高く、特に炎症が強い場合に用いられます。
・イブプロフェン(ブルフェン®など):多くの痛み止めや解熱剤に含まれています。
・メフェナム酸(ポンタール®など):鎮痛効果があり、炎症を抑えるために使用されます。
・スルピリン(メチロン®など):発熱や痛みの緩和に効果的な薬です。
市販薬のNSAIDs
・アスピリン(バファリンA®など):市販の解熱鎮痛薬としてよく知られています。
・ロキソプロフェン(ロキソニンS®など):手軽に購入できる市販薬として、多くの方に使用されています。
・イブプロフェン(イブ®など):風邪薬や頭痛薬に含まれており、一般的な市販薬として使用されています。
・エテンザミド(ノーシン®、新セデス®など):鎮痛効果を持ち、風邪薬などに配合されています。
・イソプロピルアンチピリン(セデス・ハイ®など):痛みを和らげる成分で、市販薬に広く使われています。
【参考情報】ClevelandClinic“NSAIDs”
https://my.clevelandclinic.org/health/treatments/11086-non-steroidal-anti-inflammatory-medicines-nsaids
代替薬の選択
NSAIDsを避けるために、代替薬として「アセトアミノフェン(カロナール)」が比較的安全とされています。アセトアミノフェンは、多くの解熱鎮痛薬に使用されており、アスピリン喘息の方でも安全に使用できる可能性が高いです。
ただし、すべての患者さんにとって必ずしも安全とは限りません。使用する際には、必ず専門家に相談し、ご自分に合った薬を選んでもらいましょう。
食品添加物への注意
一部の食品添加物がアスピリン喘息の発作を誘発することがあります。とくに「安息香酸ナトリウム」などの保存料や、発色剤などが含まれる食品は注意が必要です。加工食品や飲料を購入する際は、成分表示を確認し、添加物が含まれていないかをチェックする習慣を身につけましょう。
新しい薬を使用する際の注意点
アスピリン喘息の患者さんが、今まで使用したことのない薬を服用する際には、必ず医師や薬剤師に相談することが大切です。自己判断で確認するのは危険です。
発作時の対処法
アスピリン喘息の発作は、通常の喘息発作と基本的に同じ対処法を用いますが、特有の注意点がいくつかあります。
1. 発作の重症度を見極める
軽度、中等度、重度の発作を見極め、迅速に対応することが大切です。
2. 気管支拡張薬の使用
短時間作用性β2刺激薬(SABA)の吸入が発作時の初期対応として有効です。効果がない場合は、すぐに医療機関を受診しましょう。
3. 医療機関への早期受診
アスピリン喘息の発作は重症化しやすいため、症状が改善しない場合は、早めに医療機関を受診します。
4. アスピリンやNSAIDsの回避
アスピリンやNSAIDsは発作の引き金となるため、これらを避け、アセトアミノフェンなどの比較的安全な薬剤を使用します。
5. ロイコトリエン受容体拮抗薬の使用
ロイコトリエン受容体拮抗薬は、アスピリン喘息患者に有効な薬で、発作時に使用されることがあります。
6. 脱感作療法
一部のアスピリン喘息患者さんには、少量のアスピリンを徐々に増やして耐性をつける「アスピリン脱感作療法」が行われます。専門医の管理下で慎重に行われる治療法です。当院では、対応しておりません。
【参照文献】環境再生保全機構『さまざまなぜん息 アスピリンぜん息(解熱鎮痛薬ぜん息』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/aspirin.html
4.おわりに
アスピリン喘息は、アスピリンやNSAIDsといった解熱鎮痛薬に過敏な体質が原因で引き起こされる特殊な喘息です。
アスピリン喘息の患者さんが解熱鎮痛薬を使用する際には細心の注意を払う必要があり、薬剤の成分をよく確認しなければなりません。また、新しい薬を試す際には、必ず医師や薬剤師に相談し、自分に適した薬を選んでもらうことが大切です。
適切な管理を行うことで、発作を防ぎながら日常生活を快適に送ることが可能です。患者さんご自身がご自分の体質についてしっかりと理解し、医師と連携して適切な治療を続けることで、症状をコントロールしましょう。