夜に咳が止まらず眠れない時はどうすればいい?
「夜になると咳が悪化して眠れない」というお悩みはありませんか。
咳は横隔膜や腹筋など全身の筋肉を総動員して起こるため、長引くとそれだけで体力を消耗させます。
咳がひどくて眠れない状態が続くと、咳で体力が消耗するうえ寝不足になり、日中の生活に支障をきたしてしまいします。
この記事では夜になると咳が出やすくなる原因と対処法、予防法について紹介します。
1.夜になると咳がでるのはなぜ?
夜は自律神経などの働きで元々咳が出やすい時間帯です。
さらに空気が冷えて乾燥していると気道を刺激し、さらに咳が出やすくなります。
夜に咳が出やすいという方は、自分の就寝環境にあてはまるものがないか参考にしてください。
1-1.副交感神経が優位になる
呼吸や咳には「自律神経」が大きく関わっています。
自律神経は「交感神経」と「副交感神経」に分けられます。
交感神経は日中など活動している時に働く神経で、副交感神経は夜間など休息状態にある時に働く神経です。
呼吸に限らず全身の臓器は自律神経の支配を受けており、血圧や胃腸の働きなども自律神経によって無意識に調節されています。
副交感神経が優位になると体の緊張がゆるみ、気管支が狭い状態になって空気が通りにくくなるため、夜間は咳が出やすくなります。
1-2.冷気や乾燥によって気管支が刺激される
日中との温度変化や夜の冷えて乾燥した空気も、咳が出やすくなる要因の1つです。
冷たい空気は気管を収縮させ、気管支の粘膜を乾燥させるため炎症を起こしやすくなり、咳が誘発されます。
冬はもちろんですが、暖かい夏でもエアコンや扇風機をつけっぱなしにして寝ると、温度や湿度が下がりすぎて咳が出やすくなることがあります。
睡眠中に口が開いているとさらに口の中が乾きやすくなり、喉がイガイガして咳が出やすくなります。
特に高齢者や小さい子供は口が開きやすいため、睡眠中の部屋の環境はとても重要です。
高齢になると唾液の分泌量が減り、口の中が乾燥しやすいのに加えて、口の周りの筋肉が衰えて口が開きやすくなります。
子どもの場合は口の周りの筋肉が十分に発達していないため、口が開きやすくなっています。
口が開いた状態で口腔内が乾燥すると、咳を誘発するだけでなく、細菌やウイルスが喉に侵入して風邪などの感染症にかかりやすくなったり、虫歯などのリスクが増加するなどの悪影響を及ぼします。
睡眠中に口が開いてしまう場合は、口周りの筋肉を鍛えることや、部屋の空気が乾燥しないように加湿することが効果的です。
また、薬や病気、アルコール、コーヒー、喫煙によっても口腔内が乾燥し、咳が出やすくなることがあります。
口腔乾燥の副作用を持つ薬は、血圧を下げる薬や、アレルギーを抑える抗ヒスタミン薬、向精神薬など様々です。糖尿病、シェーグレン症候群などの場合にも口腔乾燥の症状が現れます。
アルコールやカフェイン、ニコチンには高い利尿作用があるため、就寝前に過剰に摂取すると脱水状態になり、口の渇きから咳が出やすくなることもあります。
喘息などの呼吸器疾患では、夜や明け方に咳が出やすくなります。
症状が続くようであれば呼吸器内科を受診しましょう。
2.咳がひどい夜にできる応急処置は?
咳が止まらず眠れない場合に、ご自宅でできる対処法をご紹介します。
2-1.寝る姿勢を変える
咳がつらく眠れない時は、横向きや上半身を高くした姿勢がおすすめです。
横向きに寝ると仰向けなどに比べて気道が確保され、上半身を少し起こすと重力で横隔膜が下がるため、呼吸がしやすくなります。
また、鼻水や痰などが喉に流れにくくなるため咳が出にくくなります。
上半身を起こす場合は、クッションなどを背中の下に入れて高さを調整するとより安楽な姿勢になります。
2-2.のどを保温・保湿する
のどが冷えたり乾燥したりすると、気道への刺激となり咳が出やすくなります。
就寝時は次のような対策をすると咳が和らぎます。
・就寝前に白湯など温かい飲み物を飲む
・ネックウォーマーやタオルを巻く
・カイロで胸のあたりをあたためる
・マスクや加湿器、濡れタオルを干すなどして保湿する
特に睡眠中に口呼吸になってしまう方はのどが乾燥しやすいため、咳が悪化しないように保湿を心がけましょう。
2-3.ハチミツを摂る
ハチミツには抗酸化作用や抗菌作用もあり、咳の緩和に効果があると言われています。
ハチミツをお湯で溶かしたものや、生姜湯に入れて飲むとのども温まるので、より効果的です。
ただし1歳未満の子どもは、ハチミツを食べると乳児ボツリヌス症にかかる危険があるため、絶対に与えないでください。
【参考情報】National Library of Medicine『Effect of honey, dextromethorphan, and no treatment on nocturnal cough and sleep quality for coughing children and their parents.』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18056558/
3.咳の予防を!のどを守る5つの方法
咳の予防のためには、普段から感染症予防に努めることも大切です。
少しでものどに違和感がある場合には、次のような方法で咳を予防しましょう。
3-1.正しいうがいをする
うがいは、のどに付着した菌やウイルスを洗い流し免疫力を高める効果や、気管から異物を取り除いて繊毛運動を正常化する効果があります。
〈正しいうがいの方法〉
①水を含み、口の中をきれいにする「ブクブク」うがいをする
②新しい水を含み、上を向いてのどの奥まで「ガラガラ」うがいを2回以上行う
うがいは水道水で行いましょう。市販されているポビドンヨードうがい薬は風邪などの感染症にかかっている場合は効果的ですが、健康な人が日常的に使っていると常在菌も殺してしまい、かえって免疫力を低下させてしまうという研究結果もあります。
【参考情報】日本赤十字社『効果的なうがいの仕方』
https://www.jrc.or.jp/chapter/saitama/about/topics/2021/0501_017471.html
3-2.寝室環境の見直し
アレルゲンによる刺激や、部屋の乾燥は咳の原因となります。
こまめに掃除やシーツ交換をしてホコリやダニなどのアレルゲンを取り除き、エアコンのフィルター掃除も定期的に行いましょう。
乾燥への対策として、加湿器を使用したり、濡れたタオルを干したりして部屋の湿度は60%〜70%程度を保つのが理想的です。
ただし、加湿器の内側にはカビが繁殖しやすいため注意が必要です。
不衛生な状態で使っていると繁殖した雑菌やカビが室内に広がってしまいます。カビやレジオネラ菌を吸い込むことで肺炎を起こす危険性もあるため、加湿器はこまめに洗浄しましょう。
3-3.刺激の強い食べ物、飲み物は控えるようにする
刺激の強い食べ物は喉に刺激を与え、咳が出やすくなります。
のどの調子が悪い時は炭酸やビール、香辛料の強い食べ物、熱すぎる食べ物など刺激の強いものは避け、おかゆやうどん、ゼリーなどのどに刺激の少ないものを食べるようにしてください。
3-4.のどを使い過ぎないようにする
長時間のカラオケやスポーツ観戦などは、のどに負担がかかるため咳が出やすくなります。
調子が悪いと感じる時は声を出さない時間を作り、のどの回復に専念することも大切です。
3-5.禁煙
タバコの煙にはさまざまな有害物質が含まれているため、気道に刺激を与えて咳が出やすくなります。
喫煙による咳がある場合、禁煙をするだけで咳が出なくなる人もいます。慢性的な咳で悩んでいる方は、まずは禁煙してみましょう。
近年流行している新型タバコや水タバコ(シーシャ)も例外ではありません。
紙タバコに比べて害が少ないと誤解されがちですが、有害な化学物質を含んでいることには変わりないため、体には悪影響です。
また、喫煙習慣がない人でも、受動喫煙によって咳が出る場合があります。特に呼吸器系の持病がある方は、受動喫煙が起こる環境を避けるようにしましょう。
【参考情報】日本医師会『そばにいる人のため-禁煙は愛』
https://www.med.or.jp/forest/kinen/assets/pdf/kinen2024.pdf
4.市販の咳止め薬。使用する際に注意すること
市販の咳止め薬は、風邪などによる一時的な咳を軽減する効果があります。
しかし、喘息などが原因で咳が起こっている場合は、充分な効果は期待できません。
市販の咳止め薬には「リン酸コデイン(コデイン)」という成分が含まれているものもありますが、12歳未満の子どもにコデインを含む咳止め薬を使用することは禁忌となりました。
コデインは麻薬性の中枢性鎮咳薬で咳止めの効果は強いものの、呼吸抑制の副作用が問題となったためです。また、喘息患者さんに使用する咳止め薬としても、コデインは望ましくありません。
また、解熱鎮痛剤や風邪薬には、痛みや発熱などの症状を緩和する「アスピリン」という物質が含まれているものもあります。
喘息の患者さんの場合、アスピリンやそれに類似した物質に反応して「アスピリン喘息」を起こす可能性もあるため注意が必要です。
病院を受診して原因に合った治療を行うのが一番ですが、やむを得ずドラッグストアなどで咳止め薬を購入する際は必ず薬剤師に相談しましょう。
【参考情報】厚生労働省『コデインリン酸塩等の小児等への使用制限について』
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000171434.pdf
5.おわりに
夜は自律神経などの働きで元々咳が出やすい時間帯であることに加え、空気が冷えて乾燥していると気道を刺激し、さらに咳が出やすくなります。
咳が2週間以上続いている場合は、喘息などの呼吸器疾患が隠れているかもしれません。
室内環境などを見直して咳が出やすくなる要因を取り除き、症状が改善しないようであれば呼吸器内科を受診しましょう。
また、「咳がどのくらいの期間続いているのか」、「どの時間帯やタイミングで咳が出やすくなるのか」という情報が診断の大きな手がかりとなりますので、受診する際にスムーズに伝えられるようメモしておくことをおすすめします。