肺性心ってどんな病気?
肺の病気の影響により、肺高血圧が起こることで心臓の右室が肥大することを「肺性心」といいます。
原因としては慢性閉塞性肺疾患(COPD:主にタバコが原因で息切れ、咳などの症状が出る病気)によるものが最も多く、呼吸困難感、顔や脚のむくみなどの症状が現れます。
進行すると右心不全の状態になり、命に関わる病気です。
1.原因
肺性心の原因は、胸郭に障害がある「換気障害性」と肺血管に障害がある「肺血管性」に分けられます。
換気障害性は、さらに「肺内性」と「肺外性」に分けられます。
肺内性の原因疾患には次のようなものがあります。
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・間質性肺炎
・肺結核の後遺症
・肺切除後
・気管支拡張症(気管支に傷がつくことで慢性的な炎症が起き、気管支が広がった状態)
肺外性の原因疾患には次のようなものがあります。
・睡眠時無呼吸症候群
・呼吸中枢異常や高度肥満による低換気症候群(呼吸による空気の交換が不十分になり、体内に二酸化炭素がたまっていく状態)
・神経筋疾患
・脊椎後側弯症(脊柱が背中側に曲がる状態)などの胸郭異常
肺血管性の原因疾患には次のようなものがあります。
・肺塞栓症(足の静脈などにできた血栓などが移動して、突然肺動脈に詰まる病気)
・肺動脈性肺高血圧症
・肺静脈閉塞性疾患
【参考情報】『最新ガイドラインに基づく呼吸器疾患診療指針2023-2024』総合医学社
https://www.sogo-igaku.co.jp/esp/prd936.html
1-1.慢性閉塞性肺疾患(COPD)
肺性心の原因として最も多いのが慢性閉塞性肺疾患(COPD)です。
COPDとは、タバコの煙などの有害物質を長期間吸い続けることで肺の中の気管支に炎症が起こり、咳や痰などの症状が現れます。
このように慢性的な気管支炎の状態が続くと肺胞が破壊され、肺気腫という状態になります。
肺気腫になると酸素の取り込みや二酸化炭素を排出する機能が低下し、息切れや呼吸困難のような症状が現れます。
血液中の酸素が不足すると肺の血管が収縮し、肺高血圧症の状態になります。
また、一度破壊された肺胞は元に戻ることはないため、早期に受診、治療や禁煙を開始することが大切です。
【参考情報】日本呼吸器学会『慢性閉塞性肺疾患(COPD)』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html
【参考情報】Cleveland Clinic 『Cor Pulmonale』
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/24922-cor-pulmonale
1-2.間質性肺炎
間質性肺炎は、炎症が肺胞壁(間質)に起こっている肺炎のことです。
原因としては、膠原病(免疫が正常な自分の組織を攻撃してしまう病気)、じん肺症(細かい粉塵を長期間吸い込むことで肺が傷つく病気)、薬剤、放射線治療によるものなどさまざまですが、原因不明なものを「特発性間質性肺炎」と呼びます。
肺胞とは吸い込んだ空気を入れる小さな袋のことで、炎症によって肺胞壁が厚く・硬くなると酸素を取り込みにくくなってしまいます。
このように肺胞壁が厚く・硬くなることを「線維化」と言い、治療によっても元に戻らないことが多いです。
十分に酸素を取り込めなくなってしまうため、息切れや労作時の呼吸困難などの症状が見られます。
肺の線維化によって心臓から肺に血液を送り出すための力が大きくなり、肺動脈圧が高くなります。
【参考情報】日本呼吸器学会『間質性肺炎』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/d/d-01.html
1-3.肺高血圧症
肺高血圧症とは、心臓から肺へ血液を送る血管(肺動脈)の血圧が高くなる病気です。
肺動脈の血圧が高くなると、血液を送り出すために必要な力が大きくなるため心臓に負荷がかかります。
肺高血圧症を治療せず放置すると、右心不全に進行し命に関わることもあります。
【参考情報】国立循環器病研究センター『肺高血圧症』
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/pph/
【参考情報】難病情報センター『肺動脈性肺高血圧症』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/171
【参考情報】Mayo Clinic『 Pulmonary-hypertension』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pulmonary-hypertension/symptoms-causes/syc-20350697
2.症状
先ほど紹介したような肺疾患などがあると、肺高血圧の状態になります。
心臓は左心室から全身へ、右心室から肺へと血液を送り出すポンプの役割をしているため、肺の血圧が高くなると右心室に負荷がかかり、血液を肺に送り込むのが大変になります。
このように右室から肺に送り出される血液の量が減る(心拍出量減少)と「右心不全」という状態になります。
肺高血圧症や右心不全による症状には次のようなものがあります。
・呼吸困難
・咳
・血痰
・顔面、下肢の浮腫(むくみ)
・腹部膨満感、食欲不振
・うっ血肝(心不全などにより、肝臓に血液がたまる病気)による右上腹部の不快感
・倦怠感
・失神
・動悸
・頸静脈怒張(首の血管が浮き出る)
・肝腫大(肝硬変などが原因で、肝臓の一部や全体が大きくなること)
・腹水貯留
呼吸困難は、最初は動いたときに息苦しくなる「労作性」ですが、肺性心が進行すると安静にしていても息苦しく感じるようになります。
3.検査
症状や聴診から肺性心が疑われる場合、次のような検査を行い、肺性心の程度や原因疾患を調べます。
3-1.血液検査
血液検査によって、どのくらい右心に負荷がかかっているのかを調べることができます。
心臓に負荷がかかるとBNP(心室性ナトリウム利尿ペプチド)、NT-proBNPなどの数値が上昇します。
3-2.動脈血ガス分析
動脈血ガス分析は通常の血液検査とは異なり、動脈に穿刺して血液を採取します。
肺から全身への酸素供給の状態や、肺胞における換気の状態を調べることができます。
慢性閉塞性肺疾患に伴う肺高血圧症の場合は低酸素血症やアシドーシス(酸性の状態に傾いていること)になっているため、その程度から重症度を判断します。
3-3.心電図・心エコー(超音波検査)
心電図や心臓の超音波検査で心臓に異常がないか確認します。
3-4.画像検査
胸部X線検査(レントゲン)やCTで心臓の大きさや、肺高血圧症の原因となっている肺疾患を確認します。
肺高血圧症による肺動脈の拡張や、心負荷による心臓の拡大などを見ることができます。
3-5.右心カテーテル検査
右心カテーテル検査は肺の血圧を測るために行います。
頚部または鼠径部(足の付け根)から細い管を挿入し、肺動脈圧や肺血管抵抗(血液の流れにくさ)、心拍出量を直接測定します。
比較的患者さんに負担の大きい検査で、一部の病院でしか実施できませんが、正確に肺性心の状態を確認するために重要となることもあります。
【参考情報】日本循環器学会『肺高血圧症治療ガイドライン』
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/10/JCS2017_fukuda_h.pdf
4.治療
肺性心の治療では、肺の血管抵抗や血圧を下げて心臓への負担を減らすことが大切です。
原因となっている肺疾患の治療の他に、次のような治療を行います。
4-1.生活習慣の改善
COPDなどの肺疾患が原因となっている場合は禁煙を徹底して行います。
心臓の負担を減らすために水分や塩分の制限を行うこともあります。
また、呼吸器感染症による増悪を防ぐためインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種を行い感染予防に努めることも大切です。
4-2.薬剤治療
肺の血圧を下げるために肺血管拡張薬などを使用します。
右心不全まで進行している場合は利尿薬や強心薬を投与し、心不全のコントロールを行います。
4-3.酸素療法
低酸素血症がある場合や急激に悪化した場合には、酸素療法を行います。
血中酸素濃度が低下していると、肺血管が収縮してさらに肺高血圧症を悪化させてしまいます。
そのため、重症の場合は在宅酸素療法で継続的に酸素を投与する必要があります。
5.おわりに
肺性心は治療せずに放っておくと右心不全が起こり、命に関わる病気です。
受診が遅れて重症化すると予後が悪く、制限や治療により今まで通りの日常生活を送るのが難しくなってしまいます。
COPDなどの持病があり、呼吸困難感やむくみ、倦怠感などの症状がある場合は早めに呼吸器内科を受診してください。