エアコンが原因で咳が治らない?室内環境の改善策と受診の目安
在宅ワークで一日中エアコンを使う中、咳が治らないと悩んでいませんか?
室内の乾燥・温度差・エアコン内部のカビなど、もしかすると生活環境が咳を長引かせているかもしれません。
仕事に集中できない咳のつらさを解消するため、呼吸器内科医の視点から、エアコン環境が与える影響と具体的な改善策、さらに症状が改善しない場合に考えられる病気や受診の目安について解説します。
1. エアコン環境で咳が長引く原因

エアコンの効いた部屋に長時間いると、空気の状態が原因で咳が続くことがあります。
エアコン使用によって生じる「乾燥」「カビやホコリ」「急な温度差」の3つの要因が、どのように咳につながるのかを解説します。
1-1. 室内の乾燥による喉への刺激
エアコンは空気を冷やすと同時に湿度も下げるため、部屋が乾燥しやすくなります。
乾いた空気を吸い込むと、喉や気管支の粘膜が乾燥して防御機能(線毛運動など)が弱まり、外部からの刺激に敏感になります。その結果、ホコリなどのわずかな刺激でも咳が出やすくなってしまうのです。
特に長時間エアコンの風に当たっていると喉が乾燥し、「コンコン」という乾いた咳が続きやすくなります。また、在宅勤務ではエアコンの風を直接浴び続けることも多く、喉が冷やされて血行が悪くなることでさらに粘膜の働きが低下し、咳を誘発する悪循環に陥ります。
1-2. エアコン内部のカビ・ホコリによる影響
エアコン内部は湿度が高くホコリも溜まりやすいため、カビが繁殖しやすい環境です。
久しぶりにエアコンを稼働させたとき、内部に蓄積したカビの胞子やハウスダストが風とともに部屋中に撒き散らされることがあります。
それらを吸い込むと、喉や気管支が刺激されてアレルギー反応を起こし、咳の原因になることがあります。特にアレルギー体質の人はこの影響を受けやすく、エアコンのカビやダニによってアレルギー性の咳(喘息など)が悪化したり、後述する「過敏性肺炎」を引き起こしたりするリスクもあります。
エアコン内部の汚れは、長引く咳の直接的な引き金となり得るのです。
◆『カビがアレルギー症状を引き起こす理由と掃除の注意点』について>>
【参考情報】『Health effects associated with dampness and mould』U.S. National Library of Medicine (NLM/Bookshelf)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK143940/
1-3. 急な温度差による気道反応
猛暑の屋外から冷えた室内に入ると心地よいものですが、この急激な温度差が咳を誘発することがあります。
私たちの気道(気管支)は温度の変化に敏感で、急に冷たい空気に触れると反射的に気道が収縮し、咳や喘息のような症状が出やすくなります。
特に喘息やアレルギー体質のある方は、エアコンによる急な寒暖差で症状が悪化しやすい傾向があります。温度差による気道の収縮を防ぐためには、羽織るものなどで体温調節を行うことが重要です。
2. 在宅ワーク中でもできる室内環境の改善策

エアコン環境が原因の咳は、生活環境を工夫することで改善できる場合が多いです。
在宅勤務の合間でも実践しやすい、湿度・温度管理やエアコンのお手入れなど、具体的な対策を紹介します。
2-1. 室温・湿度の適切な管理
部屋の空気を乾燥させないことが、咳を防ぐ基本です。エアコン使用時は室温と併せて湿度にも気を配りましょう。
【室温管理のポイント】
室温に関しては、外気との差を意識しつつも、熱中症を防ぐために無理のない範囲(26〜28℃程度)に設定し、衣服やサーキュレーターで体感温度を調整するのがおすすめです。
【湿度管理のポイント】
湿度は40〜60%程度を保つのが理想的です。必要に応じて加湿器を併用したり、濡れタオルを室内に干すなどして適切な湿度を維持しましょう。湿度管理をしっかり行うことで、喉の粘膜の潤いを保ち、外からの刺激による咳を軽減できます。
2-2. エアコンフィルター清掃とカビ対策
エアコン内部のカビやホコリ対策も重要です。エアコンのフィルターは定期的に掃除し、汚れを取り除きましょう。
フィルター掃除は少なくとも月に1回程度、特にシーズン初めの使用開始前には念入りに行うことが推奨されます。
フィルターだけでなく、エアコン内部に潜むカビも可能なら年に一度は専門業者に依頼してクリーニングすると安心です。「エアコンをつけるとカビ臭い」と感じるときや、「家にいるときだけ咳が出る」という場合はカビの影響が疑われますので、早めにお手入れを行いましょう。
【参考情報】『15 住居とアレルギー疾患』東京都保健医療局
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/zenbun3
2-3. 風向きの調整と喉の乾燥対策
エアコンの風が直接体に当たらないように風向きを調整することも、咳予防には大切です。
風が顔や喉に当たり続けると粘膜が急速に乾燥するため、ルーバー(風向板)の角度を変えて直接風を避けましょう。
また、こまめな水分補給で喉の潤いを保つことも忘れてはいけません。さらに、就寝時に咳がひどい場合はマスクの着用も有効です。寝ている間は口呼吸になりやすく乾燥しがちですが、マスクをすると自分の吐く息で適度な湿度が保たれ、夜間の咳を和らげる効果が期待できます。
2-4. 定期的な換気と空気の循環
エアコン使用中でも適度な換気は欠かせません。
密閉状態が続くと空気が汚れたり乾燥が極端になったりするため、1時間に5〜10分程度は窓を開けて新鮮な空気を取り入れるようにしましょう。
また、サーキュレーターや扇風機を併用して部屋の空気を循環させると、室内全体の温度や湿度が均一になり、局所的な乾燥やカビの発生を抑えられます。
【参考情報】『冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000698866.pdf
3. 環境を改善しても咳が治らない場合に疑われる病気

環境改善策を試しても咳が長引く場合、何らかの病気が潜んでいる可能性があります。
長期間続く咳の多くは呼吸器やアレルギーに関連する病気が原因です。ここでは、代表的な3つの病気について解説します。
3-1. 咳喘息(せきぜんそく)
咳喘息は、乾いた咳だけが続く場合に疑われる喘息の一種です。
【咳喘息の特徴】
特徴的なのは、夜間や早朝に咳込むことが多く、運動後や冷たい空気を吸ったときに症状が悪化しやすい点です。
咳喘息の患者さんは気道が過敏になっており、ホコリや冷気など些細な刺激で咳が出てしまいます。治療には吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などが用いられ、適切に治療すれば症状のコントロールが十分に可能な病気です。
◆『咳喘息とはどんな病気?咳が止まらなくなる原因と治し方』について>>
【参考情報】『夜間や早朝にせきが出ます。』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q03.html
3-2. 夏型過敏性肺炎(トリコスポロンなど)
エアコンのカビが原因で起こる病気として、忘れてはならないのが「夏型過敏性肺炎」です。
エアコン内部や水回りに繁殖する特定のカビ(トリコスポロン)を吸い込むことで、肺がアレルギー性の炎症を起こします。
【夏型過敏性肺炎の特徴】
特徴的なのは、『家や職場にいると咳や微熱が出るが、そこから離れると症状が軽くなる』という点です。ただの風邪や咳喘息と間違われやすいですが、環境そのものを改善しないと繰り返してしまうため、専門医による診断が重要です。
3-3. アレルギー性咳嗽(がいそう)(アトピー咳嗽)
アレルギー性咳嗽は、喉のイガイガ感を伴う乾いた咳が特徴です。
咳喘息と似ていますが、気管支拡張薬が効きにくく、抗ヒスタミン薬(アレルギーの薬)が有効である点などが異なります。
エアコンのホコリやダニなどがアレルゲンとなって咳が悪化するケースがあります。原因物質を遠ざけ、適切な薬物療法を受けることで症状の改善を目指します。
4. 咳が治らないときの受診タイミングと診療科

咳がなかなか治らない場合、いつ、どの診療科を受診すべきかを確認しておきましょう。
早めの受診が適切な治療につながり、症状の悪化を防ぎます。
4-1. 受診の目安 ~咳の続く期間や症状に注目~
一般的に、風邪による咳は1〜2週間程度で落ち着きます。
2週間以上咳が続く場合は、喘息やその他の病気が隠れている可能性があるため受診を検討しましょう。特に以下のような症状があるときは、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
【受診を検討すべき症状チェックリスト】
✓ 咳が2週間以上続いている
✓ 市販の咳止め薬を試しても効果が乏しい
✓ 発熱や強い息切れを伴っている
✓ 痰に血が混じる、または胸の痛みを感じる
✓ 夜間や早朝に咳込んで眠れない日が続いている
これらが見られる場合、自己判断は危険です。高齢の方では「ただの風邪と思っていたら肺炎だった」というケースもあります。咳で眠れない、苦しいといったときは放置せず、医師の診察を受けましょう。
【参考情報】『からせき(たんのないせき)が3週間以上続きます』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q01.html
4-2. 咳で受診するなら何科を選ぶべき?
「咳が止まらない」と迷ったら、まずは呼吸器内科の受診がおすすめです。
長引く咳の原因の多くは、喘息やアトピー咳嗽、過敏性肺炎など呼吸器やアレルギーに関連する病気が占めています。専門的な検査(レントゲンや呼吸機能検査など)や治療が受けられる呼吸器内科が最適と言えるでしょう。
【呼吸器内科とは…肺や気管支、咳や息切れなどの症状を専門的に診断・治療する診療科です】
【他の診療科を選ぶべきケース】
一方で、鼻水や鼻づまりがひどい場合や、明らかに副鼻腔炎(後鼻漏:こうびろう)の症状がある場合には、最初に耳鼻咽喉科を受診するのも一つの方法です。
どの科に行くべきか判断がつかない場合は、まず近くの一般内科で相談しても問題ありません。重要なのは、咳が長引いている事実を医師に伝え、適切な治療につなげることです。
【参考情報】『”The impact of poor housing and indoor air quality on lung and respiratory health in children and adults” by KA Holden et al., European Respiratory Journal / Public Health Research (review article)』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10461733/
5. おわりに
エアコン環境と咳の関係、そして長引く咳への対策について解説しました。
エアコンの乾燥やカビによる咳は、室内の湿度管理や定期的なお手入れで予防・改善できる場合が多くあります。まずは身近にできる環境改善策を試し、それでも咳が治らない場合は早めに医療機関で相談しましょう。
