風邪ではないのに咳が長引く…原因は遅延型食物アレルギーかもしれません

「風邪もひいていないのに咳がいつまでも続く…」そんなお悩みはありませんか?
もし食事の後によく咳き込む、または特定の食品を口にした後に喉のイガイガや咳が出ることが多い場合、食物アレルギーが原因で咳が起きている可能性があります。
心当たりのある方はぜひ参考にしてください
1.遅延型食物アレルギーとは?その特徴と症状
遅延型食物アレルギーとは、食物アレルギーの中でも症状がすぐに現れず遅れて出るタイプのことです。
まずは即時型と遅延型の違いを確認しましょう。
1-1.即時型(IgE)と遅延型(IgG)の違い
食物アレルギーには大きく分けて即時型と遅延型の2種類があります。
即時型では、原因食物を食べておおむね2時間以内にじんましんやくしゃみ、呼吸困難など様々な症状が速やかに誘発されます。
この即時型アレルギー反応は免疫グロブリンE(IgE)(免疫グロブリン(抗体)とは、体内でウイルスや細菌などの異物と戦うために作られるたんぱく質の一種で、IgEやIgGはその種類です)が関与しており、アレルゲン(アレルギー反応を引き起こす原因物質(食品や花粉など)のこと)に対するIgE抗体が引き金となって症状が現れます。
たとえば卵や乳製品を食べた直後に皮膚が赤くなったり、呼吸がゼーゼーしたりするようなケースがこれにあたります。
一方、遅延型の食物アレルギーでは免疫グロブリンG(IgG)という別の種類の抗体が関与すると考えられています。
この場合、症状は食後数時間~翌日以降など遅れて現れるのが特徴です。
たとえば原因となる食品を食べてもその場では何も起こらず、半日後や翌日に咳や倦怠感、肌荒れなど体調不良が出現することがあります。
症状が遅れて出るため原因となる食べ物との因果関係が分かりにくく, 見過ごされやすいのが遅延型アレルギーの厄介な点です。
【参考情報】『食物アレルギーの症状について』環境再生保全機構
https://allergyportal.jp/knowledge/food/
【参考文献】“Food Allergy” by National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID)
https://www.niaid.nih.gov/diseases-conditions/food-allergy
1-2.遅延型食物アレルギーによる症状の特徴
即時型の食物アレルギーでは蕁麻疹や呼吸困難など比較的分かりやすい症状が多いですが、遅延型の場合、症状は多岐にわたり慢性的になりやすい傾向があります。
遅延型アレルギーでは、以下のような症状が報告されています。
・呼吸器症状:咳、喉の違和感、喘息様の呼吸(ゼーゼー・ヒューヒュー)など
・消化器症状:胃もたれ、腹部膨満感、下痢・便通の乱れ
・皮膚症状: 慢性的な湿疹、肌荒れ、かゆみ
・全身症状: 倦怠感、頭痛、集中力の低下、不眠 など
このように、遅延型では単一の臓器にとどまらず様々な不調として現れることがあります。
その中でも咳や喉の不調は見逃されやすい症状の一つです。慢性的な咳が遅れて出るため、「ただの風邪の残り」や「年のせいによる慢性の咳」と思われがちで、食事との関連に気づきにくいのです。
遅延型食物アレルギーは医学的にまだ評価が定まっておらず、保険診療で一般的に行われるアレルギー検査(IgE抗体検査や皮膚テストなど)では確認できないとされています。そのため、診断には医師による問診や食事記録なども重要です。
【参考情報】『アレルギー総論』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-17.pdf
2.喘息や胃食道逆流症と誤診されやすい隠れアレルギー
長引く咳では、まず喘息や胃食道逆流症が疑われることが多く、実際に原因としてこの2つが多いと報告されています。
しかし、治療しても改善しない場合は、食物アレルギーが関与している可能性もあります。
ここでは、それぞれの病気と食物アレルギーとの関係を解説します。
2-1.喘息とは
喘息は、気道に慢性的な炎症が起こり、咳や呼吸困難、時に喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒュー)が出る病気です。気道が過敏になっており、アレルギー反応やウイルス感染、冷気、運動などが引き金になります。
中には咳だけが主な症状で呼吸機能検査が正常な咳喘息というのもあります。
食物アレルギーが背景にある場合、炎症が悪化して咳が長引くことがあります。
2-2.胃食道逆流症による咳
胃食道逆流症は、胃酸が食道に逆流してしまう病気です。
胸やけなど胃の症状が有名ですが、実は慢性的な咳の原因にもなり得ます。
胃酸が喉や気道に微小に逆流することで粘膜が刺激され、咳反射が起こるためです。特に喘息と合併することも多く、咳が食後や就寝時に悪化しやすいのが特徴です。
2-3.見落とされがちな食物アレルギーによる咳
喘息や胃食道逆流症は慢性の咳によくある原因ですが、治療で改善しない場合には食物アレルギーによる咳が見落とされていないか考えてみましょう。
隠れアレルギーによる咳は、これら他疾患の陰に隠れて誤診されやすい傾向があります。
食物アレルギーによる咳は、特に医師から見逃されやすいと言われます。
実際、日本アレルギー学会は食物に対するIgG抗体検査(遅延型アレルギーの検査)について「診断的有用性は証明されておらず推奨できない」という公式見解を発表しています。つまり現状の一般的な医療では、遅延型アレルギーが咳の原因であることを断定するのが難しく、医師も診断に結び付けにくいのです。
しかし、だからといって可能性がゼロというわけではありません。「咳の原因は一つではない」ことを頭に入れておきましょう。
◆『咳が止まらないのはなぜ?アレルギーが原因かもしれません』>>
3.咳の原因となりやすい食物アレルゲン
では、咳との関係で問題になりやすい食物は何でしょうか。
ここでは、遅延型アレルギーで咳の原因として特に挙げられることの多い「小麦」「乳製品」の2つについて見てみます。
3-1.小麦(グルテン)による咳への影響
小麦はパンや麺類、お菓子など私たちの食生活に欠かせない食品ですが、アレルギーの観点では注意が必要な代表的食材です。
小麦に含まれるタンパク質(グルテンなど)に対するアレルギー反応は、即時型・遅延型の両方で起こり得ます。
小麦アレルギーの即時型ではじんましんや喘鳴など典型的な症状が出ますが、遅延型の場合は消化不良や慢性的な咳として現れることがあります。
【グルテンとは…小麦に含まれるたんぱく質の一種で、パンや麺のもちもち感を作る成分です】
たとえば、小麦を常食していることで気道に慢性の炎症が起こり、咳が続くケースがあります。
小麦は日常的に摂取する機会が多いため、原因として気づきにくいですが、毎日のパンや麺をやめてみたら咳がおさまったというケースも少なくありません。
3-2.乳製品(牛乳・チーズなど)による影響
乳製品アレルギーの即時型では蕁麻疹や嘔吐、喘鳴などが出現しやすいですが、遅延型の場合、喉の違和感や痰が絡む感じ、慢性的な空咳といった症状が現れることがあります。
「乳製品を摂ると喉がイガイガする」「牛乳を飲むとなんとなく咳払いが増える」と感じる人もいるかもしれません。
牛乳由来のタンパク質(カゼインなど)に対する軽いアレルギー反応や、乳糖不耐症による刺激が関与している可能性があります。
特に就寝前の牛乳は胃酸逆流を招きやすく胃食道逆流症の悪化要因にもなりますので、夜間の咳が気になる方は避けたほうが良いでしょう。
◆『喉がムズムズ、イガイガして咳がでるときはどうする?』>>
4.遅延型食物アレルギーの検査方法と診断
この章では、一般的なアレルギー検査と遅延型アレルギー特有の検査法の説明と注意点について解説します。
4-1.一般的なアレルギー検査(IgE抗体検査など)
病院で行われる標準的な食物アレルギー検査としては、特異的IgE抗体検査(いわゆる血液によるアレルギー検査)や皮膚プリックテストがあります。
特異的IgE検査では、疑わしい食品ごとにIgE抗体の有無や量を調べ、陽性であればその食品がアレルゲンである可能性が高いと判断します。また、皮膚プリックテストでは少量の食物エキスを皮膚に付け反応を見ることで即時型アレルギーを調べます。
さらに確定診断には、医療機関での食物経口負荷試験(実際に少し食べて反応を見る)が行われることもあります。
しかし、これらの検査はいずれも即時型(IgE介在型)のアレルギー反応を検出することを目的としています。
したがって、遅延型アレルギーではIgE検査は陰性になる場合が多く、標準的な検査では「アレルギーはありません」と言われてしまうケースも少なくありません。
4-2.遅延型食物アレルギーの検査(IgG抗体検査)
近年、遅延型フードアレルギーの可能性がある患者さんに対して、IgG抗体の検査を行うクリニックも増えてきています。
これは血液中の食物特異的IgG抗体の有無や量を測定する検査で、数十~数百種類の食品に対するIgG反応を一度に調べることができます。
検査自体は採血で行い、結果が出るまでに少し時間がかかりますが、自費診療で受けられるクリニックも存在します。
ただし、IgG検査の解釈には注意が必要です。日本アレルギー学会は「IgG抗体検査に基づくアレルゲン除去食の診断的有用性は証明されておらず推奨できない」と公式に表明しています。
これは、IgG抗体はそもそも正常な免疫応答の一部であり、健康な人でも食べたものに対してIgGが産生されるため、IgGが陽性でも必ずしもそれが症状の原因とは限らないという考えによります。
また、IgG検査の結果だけを頼りに過度な食事制限をすると、かえって栄養バランスを崩すリスクも指摘されています。
診断の決め手にはなりませんが、自分の食生活を見直すきっかけとして利用されることが多いです。
4-3.診断と検査を受ける際の注意点
食物アレルギー(特に遅延型)の診断には、上述のように不確実性が伴います。
現状では、患者さん自身の症状経過や食生活の聞き取りが非常に重要です。
医療機関で検査を受ける場合も、検査結果だけで即判断するのではなく、医師と相談しながら総合的に判断することが大切です。
例えば、「血液のIgG検査で小麦が陽性だったが、自覚症状としては乳製品をやめたときに一番咳が軽減した」という場合もあります。
このように検査結果と実際の症状が必ずしも一致しないこともあるため、医師は患者さんの日々の食事内容、症状日誌なども参考にしながら、除去すべき食品を絞り込んでいきます。
また、自己判断で次々と食品を除去することはおすすめできません。
特に成長期のお子さんの場合、必要な栄養素が不足する恐れがあります。
必ず医師の指導のもとで代替食品を取り入れながら進めるようにしましょう。
正しい診断のためには、アレルギー専門医や栄養の知識を持つ医療機関に相談することをお勧めします。
【参考情報】『血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起』日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/modules/important/index.php?content_id=51
5.遅延型食物アレルギーへの対策:除去食と生活改善
原因となる食物アレルギーが疑われる場合、その基本的な対策は原因食品を避けること(除去)です。
ここでは、実際にどのように除去食を行うか、生活改善のポイントや注意点について説明します。
5-1.原因となる食材の除去(アレルゲン回避)
まずは検査や症状の経過から疑わしい食品を特定し、その食品の摂取を一定期間やめてみます。
例えば「小麦かもしれない」と思えばパン・麺類・小麦菓子を、「乳製品かも」と思えば牛乳・ヨーグルト・チーズなどを、それぞれ2〜4週間程度完全除去してみます。
原因食品を摂らないことで体内の免疫反応がおさまり、咳などの症状が改善するか経過を観察します。
除去している間に明らかに咳が良くなった場合は、その食品が原因である可能性が高まります。
5-2.除去食を進める上での注意点
除去食をすると栄養管理が難しくなります。
そのような場合は医師や管理栄養士に相談し、無理のない範囲で順番に除去試験を行っていくことが望ましいです。例えば「まずは小麦だけ1ヶ月抜いてみて、その後乳製品も抜いてみる」というように段階的に進めると良いでしょう。
さらに、除去食は長く続けすぎないこともポイントです。
原因食材を避けるのは治療上必要ですが、永久に食べられなくなるわけではありません。
一定期間除去して体調が改善したら、医師と相談しながら少しずつ食事に戻していくことも検討します(いきなり元の量に戻すのではなく、週に1回少量から始めるなど段階的に)。
【参考情報】『食物アレルギー』徳島県医師会
https://www.tokushima.med.or.jp/kenmin/doctorcolumn/pc/1364-920
6.まとめ
明確な風邪の症状もないのに長引く咳の背景には、遅延型の食物アレルギー(隠れアレルギー)が潜んでいる可能性があります。
咳喘息や胃食道逆流症と診断されても治りにくい場合は、普段の食生活を見直して原因食品を探ってみましょう。
小麦や乳製品など身近な食材が気づかぬうちに気道を刺激しているケースもあります。
通常のアレルギー検査で異常がなくても油断せず、必要に応じてIgG検査や除去食を試すことも一つの方法です。
食事面から原因にアプローチし、適切な除去と生活改善によって咳の改善がみられる場合もあります。
長引く咳にお困りの方は、医師に相談のうえで食物アレルギーの観点もぜひ考慮してみてください。