大人になって喘息が再発?

喘息は発症する年齢や時期によって異なる特徴を持つ病気です。

子どもの頃に発症する「小児喘息」は、成長とともに症状が軽くなることが多いですが、なかには大人になっても症状が続く方もいらっしゃいます。

一方、「成人喘息」は40代から60代で発症することが多く、小児喘息とは異なるつらさや生活への影響を抱えることがあります。

この記事では、成人喘息について原因や症状、日常生活での対策をご説明いたします。

1. 大人になってから発症する「成人喘息」とは


成人喘息は、18歳以降に発症する喘息のことを指します。小児喘息と比較して、成人喘息ならではの特徴があります。

まず、成人喘息は非アレルギー性(非アトピー型)の割合が高いとされます。

小児喘息ではアレルギー性(アトピー型)が多いのに対し、成人喘息では環境因子やストレスなど、アレルギー以外の要因が関与することが多いです。

◆『小児喘息について』>>

また、症状が重症化しやすい傾向があります。

これは、長年の喫煙習慣やほかの呼吸器疾患の合併など、さまざまな要因が関係しているためです。

さらに、成人喘息は突然発症することが多いのも特徴です。それまで全く喘息の症状がなかった方が、ある日突然息苦しさを感じるようになるケースも少なくありません。

成人の患者さんに喘息であることをお伝えすると、突然喘息に罹患したことについて、受け止めきれない患者さんが多くおられますが、残念ながら喘息はそのような疾患です。

成人喘息の症状は、以下のようなものが挙げられ、小児喘息と同様のものも多くあります。

・息苦しさ
・胸の圧迫感
・咳(特に夜間や早朝に悪化することが多い)
・喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)

これらの症状は、気温の変化や運動、ストレスなどによって悪化することがあります。

なお、成人喘息の患者さんの数は増加傾向にあります。

医師から診断を受け、治療中もしくは症状がある成人(20~45歳)の喘息有病率は、2006年には約5.3%でしたが、2010年には7.7%、2012年には8.9%と年々増加していることが報告されています。

また、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)の症状を訴える頻度についても同様に増加傾向が見られ、2006年の調査では約9.3%、2010年には12.3%、2012年には13.9%と上昇しています。

一方で、喘息による死亡者数は減少傾向にありますが、その多くが65歳以上の高齢者に集中しているのが現状です。これには、高齢になるほど持病の合併や免疫機能の低下、治療への対応が難しくなることが関係していると考えられます。

【参照文献】環境再生保全機構 『 ぜん息とは』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/index.html

2. 気道に炎症があるとどんなリスクがあるか?


喘息の重要な原因となる症状は、気道の慢性的な炎症です。気道に炎症が起こると、さまざまなリスクが生じます。

まず、気道の粘膜が腫れ上がり、気道が狭くなります。これにより、呼吸が困難になり息苦しさを感じるようになります。

また、炎症によって気道の過敏性が高まります。つまり、通常なら問題のない刺激(寒さや軽い運動など)でも、気道が過剰に反応して狭くなってしまうのです。

さらに、粘液の分泌が増加し、気道を詰まらせる原因となります。

これらの要因が重なり、喘息発作が引き起こされます。

なお、成人喘息の発作は、突然起こることが多く、その程度もさまざまです。

軽度の発作では、少し息苦しく感じる程度で日常生活に支障はありませんが、重度の発作では呼吸が困難になり、緊急の治療が必要になることもあります。

とくに注意が必要な点としては、慢性的な気道の炎症が続くと、気道のリモデリングが起こる可能性があることです。これにより、気道の機能が永続的に低下し、喘息のコントロールが難しくなる可能性があります。

気道のリモデリングとは、慢性的な気道炎症によって引き起こされる、気道の構造的な変化を指します。時間の経過とともに気道に不可逆的な影響を与え、喘息の進行や治療の難しさに関係しています。

まず、気道リモデリングの特徴として、気道壁が厚くなることが挙げられます。

これは、上皮細胞が杯細胞(粘液を多く分泌する細胞)に変化する「杯細胞化生」や、気道の壁が分厚くなる変化、気道を動かす筋肉が大きくなり増えることなどのためです。

これらの変化によって気道が狭くなり硬くなって伸縮性が減少します。その結果、気道が過剰に反応しやすくなり、持続的な気道過敏性が増すのです。

一度リモデリングが進むと、変化は元の状態に戻らない不可逆的なものとなります。このため、気道が徐々に狭くなり、喘息発作が起こりやすくなるだけでなく、治療薬への反応も悪くなり、症状が重症化しやすくなります。

リモデリングが起こる主なメカニズムは、慢性的な炎症にあります。

気道に残った炎症細胞、とくに好酸球が炎症を引き起こし続けることで、正常な気道組織が破壊され、変性していきます。こうした炎症が長期間続くことで、リモデリングが進行してしまいます。

気道リモデリングは、喘息の難治化や長期的な肺機能低下を引き起こすため、予防と管理が喘息治療において極めて重要です。

そのため、成人喘息の管理は症状のコントロールだけでなく、気道の炎症を抑えることが非常に重要になってきます。

【参照文献】日呼吸会誌 41(9),2003.『気道リモデリングの病態の理解とその治療への応用』
https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/041090611j.pdf

3. 成人喘息の多くは「非アトピー型」


喘息には大きく分けて、アトピー型(アレルギー性)と非アトピー型(非アレルギー性)の2つのタイプがありますが、前述のとおり、成人喘息は非アトピー型が多いです。

非アトピー型喘息の特徴は以下の通りになります。

・特定のアレルゲン(アレルギーの原因物質)が関与しない
・血液中のIgE抗体(アレルギー反応に関与する抗体)の値が正常範囲内
・家族歴やアレルギー疾患の既往が少ない
・発症年齢が比較的高い(40代以降が多い)
・症状が重症化しやすい傾向がある

原因としては、以下のようなものが考えられています。

・ウイルス感染(風邪やインフルエンザなどの感染症)
・大気汚染
・職業性の刺激物質への曝露
・喫煙
・ストレス
・運動
・気温や湿度の急激な変化

これらの要因が気道に刺激を与え、炎症を引き起こすことで喘息症状が現れると考えられています。

非アトピー型喘息は、アトピー型と比べて症状のコントロールが難しいとされます。原因が特定しにくく、複数の要因が関与していることが多いためです。

そのため、より丁寧で慎重な対応が求められます。

医師としっかり連携しながら、日々の症状や悪化を引き起こす要因を注意深く見極めるよう心掛けましょう。そして、症状に合わせた適切な治療を続けることが大切です。

4. 成人喘息の多くは突然発症する


成人喘息の特徴のひとつとして、多くの場合突然発症することが挙げられます。実際に、成人喘息の患者さんの70〜80%は、大人になってから初めて発症するとされています。

多くは、それまで全く喘息の症状がなかった方が、特定の要因をきっかけに発症するケースです。

これは、小児喘息が徐々に症状が現れることが多いのとは対照的です。

突然の発症は、患者さんに大きな不安をもたらすことがあります。

それまで全く問題なく過ごしてきた方が、ある日突然息苦しさや咳に悩まされるようになるのですから、戸惑いや不安を感じるのは当然のことです。

しかし、ここで重要なのは、早期に適切な診断を受け治療を開始することです。

成人喘息は適切な治療によって、多くの場合良好にコントロールすることができます。

突然発症する成人喘息の原因には、以下のような要因が考えられます。

1. 感染症をきっかけとした発症
風邪やインフルエンザなどの感染症のあとに喘息の症状が現れることがあります。このような感染症によって気道が炎症を起こし、その結果、喘息が引き起こされるのです。
とくに、気管支にウイルスや細菌が侵入すると気道が敏感になり、咳や喘鳴、息苦しさといった喘息症状が現れやすくなります。

2. 環境要因による発症
たばこの煙、大気汚染、急激な気温変化や湿度の変化など、環境の変化が引き金となる場合もあります。たばこの煙や大気汚染は、気道を直接刺激し、炎症を引き起こすことで喘息を誘発します。
また、気象条件の変化に敏感な方は、寒暖差や湿度の変動によって気道が収縮し、息苦しさや喘鳴が突然生じることがあります。

3. ストレスや疲労による発症
精神的なストレスや過度の疲労も、喘息発症のきっかけになることがあります。ストレスや疲労が溜まると、免疫力が低下し、気道が過敏になりやすくなります。
その結果、普段は気にならないような刺激に対しても、気道が過剰に反応して喘息症状が引き起こされる場合があります。

4. 運動による発症
激しい運動のあとに、突然息苦しさや咳が出ることもあります。
とくに、運動後に冷たい空気を吸い込むと、気道が収縮しやすくなり、喘息の症状が誘発されるケースが多いです。これを「運動誘発性喘息」と呼び、運動習慣がある方でも注意が必要です。

◆『注意が必要!喘息と運動のおはなし』>>

5. 季節の変わり目における発症
気温や湿度の変化が激しい季節の変わり目も、喘息発症のリスクを高めます。たとえば、寒い冬や花粉が飛散する春など、環境が急変する時期は気道が刺激を受けやすくなり、喘息の発症リスクが高まります。

◆『季節の変化と喘息発作の予防』>>

また、季節性アレルギーと結びついて症状が悪化することもあります。

これらの要因により、それまで喘息の症状がなかった成人の方でも、突然発症するきっかけになることがあります。

そのため、これらの状況に当てはまる場合は、注意深くご自分の体調を観察し、異変を感じたら早めに医療機関を受診することが大切です。また、生活環境やストレス管理を見直すことで、リスクを減らすことも可能です。

また、小児期に喘息を経験した方が、一度症状が落ち着いた後、成人になって再び症状が現れるケースもあります。再発は決して珍しいことではありません。

むしろ、過去に喘息の経験がある方は、症状の変化に敏感になり、早期に対処できる可能性が高いとも言えます。

症状に気づいたら速やかに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。また、日々の生活の中で自己管理を行うことも、喘息のコントロールには欠かせません。

次の章では、自己管理の重要なツールのひとつである「ピークフローメーター」についてご説明いたします。

5. ピークフローメーターで気道の状態を管理しよう


ピークフローメーターは、喘息の自己管理に非常に有用なツールです。呼気(吐く息)の最大流速を測定する小型の機器で、気道の状態を数値化することができます。

【ピークフローメーター・・・力いっぱい息をはき出したときの息の強さ(速さ)の最大値を測る機械。】

ピークフローメーターを使用することで、以下のようなメリットがあります。

・気道の状態を客観的に把握できる
・症状が悪化する前に気がつくことができる
・薬の効果を確認できる
・医師とのコミュニケーションに役立つ

ピークフローメーターは比較的簡単に使用することができます。

・まっすぐ立つか座る
・メーターのインジケーターを0にセットする
・深く息を吸い込む
・マウスピースをくわえ、唇を密着させる
・できるだけ強く、素早く息を吐き出す
・測定値を記録する
・この操作を3回繰り返し、最も高い値を採用する

測定は毎日、朝と夜の2回行うのが理想的です。測定値を記録し、グラフ化することで、気道の状態の変化を視覚的に確認することができます。

ピークフロー値が通常の80%以下に低下した場合は要注意です。70%以下になった場合は、医師の指示に従って薬の増量などの対応が必要になることがあります。

以上のようにピークフローメーターを使用することで、喘息発作の予兆を早期に察知し、適切な対応をとることができます。これにより、重症の発作を予防し、より安定した日常生活を送ることができるでしょう。

ただし、ピークフローメーターはあくまでも補助的なツールであり、医師の診断や指示に代わるものではありません。測定結果に不安がある場合や、症状が改善しない場合は、必ず医療機関を受診しましょう。

一方、ピークフローメーターを使用することについて、煩わしさを感じられる患者さんもおられますが、これは喘息治療のガイドラインにも定められている正当な喘息の評価方法であり、毎日の測定が困難でも週に2回程度は是非とも定期的に測定をお願い致します。

【参考情報】Cleveland Clinic “Peak Flow Meter”
https://my.clevelandclinic.org/health/treatments/peak-flow-meter

6. 成人喘息でもアレルゲンに注意を


成人喘息の多くが非アレルギー型であることは前述しましたが、だからといってアレルゲン(アレルギーの原因物質)に注意を払わなくてよいわけではありません。

実際、成人喘息の患者さんのなかにも、アレルギー型の方は一定数いらっしゃいます。また、非アレルギー型の方でも、アレルゲンが症状を悪化させる要因になることがあります。

成人喘息で注意すべき主なアレルゲンには以下のようなものがあります。

・ハウスダスト(室内のほホコリ)
・ダニ
・花粉
・ペットの毛やフケ
・カビ
・食物アレルゲン(特定の食品)

これらのアレルゲンは、直接的に喘息発作を引き起こすだけでなく、気道の過敏性を高めることで、ほかの刺激に対しても反応しやすくなる可能性があります。

したがって、成人喘息の患者さんも、ご自分にとって症状を引き起こす原因となるアレルゲンを特定し、それらにできるだけ触れないよう心がけることが重要です。

アレルゲン対策としては、以下のようなことが挙げられます。

・こまめな掃除と換気
・寝具や布団の定期的な洗濯と日光消毒
・加湿器や除湿器を使用し、適切な湿度を保つ
・花粉の季節はマスクの着用や外出後の手洗い・うがいを心がける
・ペットを飼う場合は、寝室に入れないなどの工夫をする

また、食物アレルギーが原因のひとつとして関与している場合は、アレルギーを引き起こす食品を避けることが重要です。ただし、食事制限を行う際には、栄養バランスが偏らないよう十分注意する必要があります。

無理な制限を避けるためにも、必ず医師や栄養士と相談しながら取り組むことが大切です。

アレルゲンの完全な回避は難しいかもしれませんが、できる範囲で対策を行うことで、症状の安定につながります。

ご自分にとって刺激となるアレルゲンを把握し、適切な対策を講じることは、成人喘息の管理において重要な要素のひとつと言えるでしょう。

◆『咳が止まらないのはなぜ?アレルギーが原因かもしれません』>>

7. おわりに

成人喘息は突然発症することが多く、非アレルギー型が多いのが特徴です。しかし、適切な治療と日常生活での自己管理により、多くの場合は良好に症状をコントロールすることができます。

一人ひとり症状や原因が異なるため、ご自分の体調をよく観察し、医師をはじめ医療機関と連携して最適な治療法を見つけることが大切です。

喘息は長期的な管理が必要な慢性疾患のため、症状が落ち着いても自己判断で治療を中断してはいけません。また、咳が長期間続くなどの症状がある方は早めに呼吸器内科への受診を早めに検討しましょう。

◆『呼吸器内科受診の目安』>>

◆『喘息治療のゴールについて』>>