喘息などアレルギー症状を引き起こすカビと、掃除での注意点

カビは、「真菌」と呼ばれる微生物の一種です。
カビは目に見えにくい存在ながら、喘息などのアレルギー症状を悪化させる大きな原因のひとつです。
そのため、喘息がある方は、カビへの対策を十分に行う必要があります。
今回の記事では、家庭内でよく見られるカビの種類や、発生しやすい場所、掃除をする際の注意点についてわかりやすく解説します。
喘息とカビの関係が理解できれば、対策や予防が可能です。カビによる影響を最小限にとどめるために、ぜひ参考にしてください。
1.家の中で見かける3つのカビとは
私たちが日常生活を送る家の中には、さまざまな種類のカビが存在しています。
カビは300種類以上もあるといわれていますが、そのなかでも黒カビ、赤カビ、青カビの3種類は、住宅内でよく見られる代表的なカビです。
これらのカビは見た目や特徴が異なり、健康へさまざまな影響を及ぼします。
ここでは住宅内でよくみられる3種類のカビの特徴と喘息への影響を解説します。
1-1.黒カビ
黒カビは、アスペルギルス属やクラドスポリウム属と呼ばれる種類のカビです。
黒く点々とした見た目が特徴で、最も目にする機会の多いカビのひとつです。
黒カビは、湿気が高い場所や結露しやすい場所に発生します。
そのため、住宅内では浴室や窓のサッシ、押し入れの壁、エアコンなどは黒カビが発生しやすい環境といえるでしょう。
空気中にも浮遊している黒カビですが、エアコン内に発生すると、カビを含んだ空気が部屋中に充満するため注意が必要です。
特にアスペルギルスは、吸い込むことで気管支に刺激を与え、喘息の症状を悪化させる可能性があります。
長期間吸い続けると、慢性的なアレルギー症状や呼吸機能の低下を招きます。
1-2.赤カビ
赤カビは、フザリウム属と呼ばれる種類のカビで、見た目がピンク色をしており繁殖速度が速いのが特徴です。
赤カビは、湿度が高く水分の多い環境を好みます。
そのため、住宅内では、洗面台やキッチン、風呂場の排水口周辺などが発生しやすいポイントです。
赤カビは、一見してカビと気づきにくいですが、放置すると黒カビのエサとなり、黒カビ発生の原因になります。
また、黒カビに比べ人体への影響は少ないですがゼロではないため、赤カビに気づいたら早めに除去しましょう。
1-3.青カビ
青カビは黒カビ同様、空気中に多く浮遊しており、パンや果物、チーズなどの食品に発生しやすいカビです。
青緑色の粉が付着したような見た目をしています。青カビは、ペニシリウム属と呼ばれる種類のカビで、抗生物質ができる元となったカビです。
青カビは、湿度が高い場所や通気性の悪い場所、適度な温度を好みます。
そのため、住宅内では、押し入れの壁や家具の裏、浴室、地下室など、青カビが発生しやすい場所です。
空気中に漂うカビの胞子を吸い込むことで、アレルギー反応や喘息発作を誘発する場合があります。
特に古い住宅や換気が不十分な場所では、青カビが繁殖しやすいため注意が必要です。
これらのカビは、日常生活の中で発生しやすく、喘息をお持ちの方にとっては症状を悪化させるリスクがあります。
カビの種類を理解し、早期発見・対策を行うことが喘息のコントロールにとって重要です。
2.カビが発生しやすい場所と条件とは
カビは高温多湿な環境を好み、特定の条件がそろうと急速に繁殖する傾向があります。
喘息の症状を悪化させないためには、家の中でカビが発生しやすい場所や条件を把握し、予防策を講じることが大切です。
ここでは、カビの発生しやすい場所や条件を解説します。
2-1.カビが発生しやすい場所
住宅内でカビが発生しやすい主な場所は以下です。
・浴室・脱衣所
・キッチン・シンク周辺
・窓枠・サッシ
・押し入れ・クローゼット
・エアコンや加湿器
それぞれの場所のポイントを解説します。
【浴室・脱衣所】
家の中でも浴室や脱衣所は、その性質上、湿度が非常に高くなる場所です。
また、石けんカスや皮脂などの汚れがカビの栄養源になるため、最も繁殖しやすい場所のひとつです。
天井や壁、換気扇、サッシ、ゴムパッキンなどの部分は、黒カビが発生しやすいので注意しましょう。
【キッチン・シンク周辺】
キッチンやシンクは、水を頻繁に使う場所であり、温度も比較的高めなことからカビの温床になります。
排水口や三角コーナーのぬめり、水切りカゴ、冷蔵庫の中も注意が必要です。
【窓枠・サッシ】
外気との温度差により結露が発生しやすく、その水分がカビの原因になります。
とくに冬場は、室内に結露しやすいため要注意です。
【押し入れ・クローゼット】
必要時以外締め切っていることが多いため通気性が悪く、湿気がこもりやすい場所です。
押し入れやクローゼットは、衣類や布団など吸湿性の高いものが多いため、湿気がたまりやすくカビが好む条件に当てはまります。
【エアコンや加湿器】
エアコンは、冷房運転をすると、内部に結露が発生しやすくなります。加湿器も水を使って加湿するため、エアコンと同様です。
また、内部にはカビのエサとなるホコリや汚れも溜まりやすく掃除がしにくいため、カビが好む環境です。
2-2.発生しやすい条件
以下は、カビが発生しやすい条件です。
・湿度が70%以上
・気温20〜35℃
・汚れやホコリ、水分が多い環境
カビは湿度70%以上で活発に繁殖します。特に梅雨時期や夏場の湿気の多い季節は注意が必要です。
人が快適と感じる温度帯は、カビにとっても繁殖しやすい環境だと覚えておきましょう。
また、カビは有機物を栄養源とするため、掃除を怠ると発生しやすくなります。
喘息の症状を予防するためには、これらの条件を満たす場所を定期的に掃除し、湿度管理や換気を徹底することが重要です。
また、除湿機や換気扇を活用して、カビの繁殖しにくい環境を整えることも有効です。
【参考情報】『室内のカビ対策』東京都保健医療局
https://www.hokeniryo1.metro.tokyo.lg.jp/allergy/pdf/indoor03.pdf
3.喘息の人がカビを掃除する場合に注意すべき点
カビは喘息に悪影響を及ぼすため、こまめな掃除が大切ですが、掃除を行っていても、カビが発生してしまう場合があります。
しかし、喘息をお持ちの方が自らカビ掃除をするのはおすすめしません。可能であれば健康な家族や掃除代行業者に依頼するのがいいでしょう。
カビを除去する際には、胞子が空気中に舞い上がり、それを吸い込んでしまうと気管支を刺激し、発作を引き起こすリスクがあるためです。
どうしても自分で行わなければならない場合には、3つの注意点があります。
掃除の方法によっては、喘息症状を引き起こす可能性があるため、注意点を意識し慎重に行いましょう。
【カビ取り剤の刺激に注意】
市販されている漂白剤やカビ取り専用薬剤は、強い臭いや揮発性の成分を含んでおり、喘息発作の引き金になるケースがあります。
たとえば、塩素系のカビ取り剤は独特のツンとした臭いがあり、吸い込むことで呼吸が苦しくなったり、咳が止まらなくなったりすることがあります。
使用する際には十分注意しましょう。
【掃除時の服装と換気の徹底】
掃除を行う場合は、以下のような服装で行います。
・マスクの着用(臭いや舞い上がった胞子を吸い込むのを防ぐ)
・ゴーグルの装着(目からの刺激を防ぐ)
・ゴム手袋の使用(皮膚への接触を防ぐ)
また、掃除後はすぐに衣服を着替え、体に付着したカビの胞子をシャワーで洗い流すことも大切です。
掃除中は、窓を開けたり換気扇を使ったりして空気を入れ替え、十分な換気を行いましょう。
【無理せず応急処置にとどめる】
カビ掃除は、喘息の方にとってリスクを伴います。
家族や業者に掃除をしてもらうまで、無理に自分で掃除を行わず、アルコールで拭き取るなどの応急処置だけでも効果的です。
4.カビが原因となる病気
カビは喘息の悪化を招くだけでなく、さまざまな病気の原因になります。
特にカビの胞子は空気中を漂っており、吸い込むことで呼吸器に炎症を起こすケースがあります。また、肌や爪にも影響を及ぼします。
ここでは、カビが関与する代表的な病気と特徴、その症状について詳しく解説します。
【夏型過敏性肺炎(なつがたかびんせいはいえん)】
夏型過敏性肺炎は、住宅内のエアコンや天井裏、壁の内部などに発生したカビ(トリコスポロンおよびトリコフィートンと呼ばれるカビ)が原因で引き起こされる病気です。
吸い込むことで、アレルギー症状を引き起こします。
カビは、梅雨時期から夏場に向けて多く繁殖する傾向です。エアコンの使用頻度が上がる夏場に多く発症し、以下のような症状があらわれます。
・発熱
・咳
・息切れ
・倦怠感
最初は夏風邪のような症状から始まりますが、放置すると徐々に症状が重くなり肺炎症状があらわれます。
慢性化すると肺の繊維化が進行し、肺線維症を引き起こす可能性が高く、呼吸機能の低下を招きます。
予防には、カビの発生源となる場所を定期的に掃除・換気し、湿気対策を行うことが大切です。
また、夏に欠かせないエアコンは、カビの温床となりやすいため使用前に掃除しておくと安心でしょう。
【参考情報】『過敏性肺炎における診療のポイント』日本内科学会雑誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/6/111_1084/_pdf
【肺アスペルギルス症】
肺アスペルギルス症とは、アスペルギルスというカビが肺に感染して起こる病気です。
アスペルギルスは、空気中を漂うカビのなかでも肺に感染を起こしやすい特徴があります。
免疫力が低下している人や慢性の肺疾患がある人に発症しやすく、以下のような症状があらわれます。
・慢性的な咳
・痰や血痰
・胸痛
・息苦しさ
重症化すると肺の組織が破壊され、生命に関わるケースもあります。
また、喘息のある人がアスペルギルスにアレルギー反応を起こし、「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)」という特殊な病態を引き起こすこともあります。
【参考情報】『肺アスペルギルス症』日本内科学会雑誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/9/110_1808/_pdf
【参考情報】Mayo Clinic『Aspergillosis』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/aspergillosis/symptoms-causes/syc-20369619
【白癬(はくせん)・カンジダ症などの皮膚真菌症】
爪や皮膚に感染するカビの一種に、白癬菌やカンジダ菌があります。
白癬は、足の皮膚や爪などにできやすく、水虫とも呼ばれます。
発症すると、かゆみや皮膚の剥がれ、爪の変色などの症状を引き起こす病気です。
つぎに、カンジダ症は、カンジダ菌によって引き起こされる病気で、常在菌のため自己感染することが多い菌です。
カンジダ菌は、陰部や口腔内、消化器、泌尿器などの粘膜で増殖します。
増殖の原因として、免疫力の低下や体調不良、ホルモンバランスの変化などがきっかけになります。
また、カンジダ菌が高温多湿の環境を好んでいることも原因のひとつです。
発症すると、陰部のかゆみや排尿時の痛み、口腔内に白い斑点が発生するなど、さまざまな症状を引き起こします。
5.カビとホコリ、ダニの関係性について
カビ、ホコリ、ダニは密接な関係があります。アレルギーがある方にとって住宅内の環境を悪化させる要因として、互いに影響し合っています。
喘息の症状を悪化させないためには、カビだけでなく、ホコリやダニにも目を向けることが重要です。
以下に、その関係性と対策について詳しく解説します。
【ホコリにはカビやダニが含まれている】
ホコリは、糸くずやペットの毛、髪の毛、皮膚の垢などの目に見えるゴミだけでなく、目に見えない微細な物質も多く含まれています。
その微細な物質のなかには、カビの胞子やダニの死骸・フンなどのアレルゲンが含まれています。
つまり、ホコリがたまることで、知らないうちにカビやダニへの曝露が増え、喘息の症状を悪化させる危険性が高まるのです。
【ホコリはカビの栄養源】
ホコリは、さまざまな有機物で構成されています。これらはカビにとって格好の栄養源であり、湿度や温度などの条件が整えば、すぐにカビが繁殖します。
とくに掃除の行き届きにくい場所や、風通しが悪い部屋では、ホコリを介してカビが広がりやすくなります。
【ダニの繁殖にもホコリが関係している】
ダニはホコリが大好物です。また、カビをエサにする種類のダニも存在するため、ホコリの中で繁殖したカビをダニが食べるという関係もあります。
そのため、ホコリが多い住宅内では、ダニも大量に繁殖しやすくなります。
【ホコリ対策がカビとダニ対策に繋がる】
カビの発生を防ぐためには、ホコリをためないことが大切です。
以下のような対策を日常的に行うと効果的です。
・床はこまめに掃除機をかけ、特に家具の裏や隅を念入りに掃除する
・空気清浄機や除湿機を活用し、湿度と空気中のアレルゲンをコントロールする
・カーテンや布製ソファなどのファブリック製品も定期的に洗濯する
・布団や枕は天日干しや乾燥機でしっかり乾燥させる
・風通しの悪い部屋は意識して空気の入れ替えをする
ホコリ対策を徹底することが、カビやダニの増殖を抑え、喘息の症状の予防と改善につながります。
6.おわりに
カビは、喘息をはじめとしたアレルギー症状を引き起こす大きな要因のひとつです。
特に、アトピー型喘息は、カビやホコリ、ダニなどのアレルゲンを吸い込むことで発作を誘発するため、アレルゲンの少ない環境を維持することが大切です。
そのため、住環境に潜むカビの種類や発生条件、清掃時の注意点、ホコリやダニとの関係性を理解し、適切な対策をおこないましょう。
こまめな掃除や湿度管理、適切な換気を心がけ、健康的な生活環境を整えることも、喘息の管理のひとつです。
適切な対策をとり、安心して過ごせる住まいをつくりましょう。