結核かもしれないと思ったら呼吸器内科へ受診を!

結核は、多くの方が過去の病気だと思われているかもしれません。しかし、結核は今なお、注意が必要な感染症のひとつです。
結核の症状は一見、普通の風邪と見分けがつきにくいことがあります。
一方で、長引く咳、痰、発熱などの症状が2週間以上続く場合は、結核の可能性を考慮し、早めに医療機関を受診することが重要です。
とくに、痰に血が混じるような症状や呼吸困難感がある場合は、速やかな受診が必要だといえます。
早期発見・早期治療は、結核対策にとても大切です。
適切な治療により結核は完治可能な病気ですが、診断が遅れれば重症化のリスクが高まり、周囲への感染も拡大する恐れがあります。
この記事では、結核の基本的な知識や症状、検査、治療法をご説明いたします。気になる症状がある方は、早めに呼吸器内科の受診を検討しましょう。
1. 結核ってどんな病気?
結核は、結核菌という細菌によって引き起こされる感染症です。主に肺に感染しますが、その影響は全身に及ぶ可能性があります。
かつて日本では「国民病」と呼ばれるほど猛威を振るった結核ですが、国を挙げての予防や治療の取り組みにより罹患者数は大幅に減少しました。
しかし、決して過去の病気ではありません。
2021年、日本は「結核低まん延国」の仲間入りを果たしました。
これは長年の努力の成果によるものです。ですが、2022年の統計によると、新たに結核と診断された患者さんの数は依然として注意が必要な水準にあります。
現在でも年間約1万人以上の新規の患者さんが報告されており、とくに高齢者の方や免疫力の低下した方にとって、今もなお、重大な感染症となっています。
結核は空気感染する病気です。感染者の方の咳やくしゃみによって空気中に放出された結核菌を、ほかの方が吸い込むことで感染が広がります。
ただし、結核菌に感染したからといってすぐに発病するわけではありません。
多くの場合、免疫システムが結核菌の増殖を抑え込みます。
しかし、ストレスや不規則な生活、糖尿病などの基礎疾患により免疫力が低下すると、潜伏していた結核菌が活動を始め発病に至ることがあります。
結核は適切な治療を受ければ完治が可能な病気です。しかし、診断の遅れや不適切な治療は、重症化や薬剤耐性菌の出現につながる可能性があります。
そのため、早期発見・早期治療が非常に重要です。
【参考情報】Mayo Clinic 『Tuberculosis』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/tuberculosis/symptoms-causes/syc-20351250
2. 結核の原因
結核の直接的な原因は結核菌への感染です。しかし、前述のとおり、結核菌に感染したすべての方が発病するわけではありません。
では、何が結核の発病リスクを高めるのでしょうか。
主な要因として、以下のようなものが挙げられます。
・免疫機能の低下
・過度なストレス
・喫煙
・不規則な生活習慣
・栄養不良
・糖尿病などの基礎疾患
免疫機能の低下は、結核発病の最も重要なリスク因子のひとつです。
HIV感染症やがん、臓器移植後の免疫抑制剤使用など、免疫力が著しく低下する状況下では、結核発病のリスクが高まります。
また、過度なストレスや喫煙などの生活習慣も、結核のリスクを上げるといわれています。
ストレスは免疫機能を低下させ、結核菌に対して感染しやすくなります。喫煙は肺の防御機能を弱め、結核菌の感染や増殖を簡単にする可能性があります。
不規則な生活習慣や栄養不良も抵抗力を低下させ、結核発病のリスクを高める要因となります。
十分な睡眠と栄養バランスの取れた食事は、健康な免疫システムを維持するために重要です。
さらに、糖尿病などの基礎疾患も結核発病のリスクを高めることが知られています。
糖尿病は免疫機能に影響を与え、結核菌に対する防御力を弱める可能性があります。
これらの要因は、単独でなく複合的に影響し合うこともあります。
たとえば、ストレスの多い生活が不規則な食生活や睡眠不足を招き、それが免疫機能の低下につながることもあるでしょう。
したがって、結核予防のためには、健康的な生活習慣を心がけ、免疫力を維持することが重要です。
十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動、ストレス管理などに気を付けましょう。また、喫煙者の方は禁煙を検討することが大切です。
定期的な健康診断を受けることも、結核の早期発見・早期治療につながります。とくに、高齢者の方や免疫機能が低下している方は、より注意が必要です。
3. 結核の症状とは
結核の症状は、一般的な風邪やインフルエンザと似ている部分があり、初期段階では見分けがつきにくいことがあります。
一方で、結核特有の症状もあるため、それらを知っておくことが早期発見につながります。
主な結核の症状には以下のようなものがあります。
1. 長引く咳(2週間以上続く)
2. 痰(たん)
3. 発熱
4. 寝汗
5. 体重減少
6. 倦怠感(けんたいかん)
7. 胸痛
8. 呼吸困難
これらの症状のなかでも、とくに注意が必要なのは「2週間以上続く咳」です。
通常の風邪やインフルエンザであれば、1〜2週間程度で症状が改善するのが通常ですが、結核の場合は咳が長引くことが特徴的です。
また、痰に血が混じる「血痰」は、結核を疑う重要な症状のひとつです。血痰が見られた場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
◆『血痰が出た!原因と呼吸器内科を受診する目安を解説します』>>
発熱も結核の典型的な症状ですが、高熱が出るとは限りません。微熱が続く、あるいは平熱と高熱を繰り返すといったパターンもあります。
また、夜間に汗をかく「寝汗」も結核に特徴的な症状です。
体重減少や倦怠感は、結核菌との闘いで体力を消耗していることを示す症状です。食欲不振を伴うこともあります。
さらに、結核が進行すると、呼吸が苦しくなるなどの重篤な症状を発現する可能性もあります。胸痛や呼吸困難感が現れた場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。
ただし、これらの症状がすべて現れるわけではありません。また、初期段階ではほとんど症状が現れないこともあります。
そのため、定期的な健康診断を受けることが重要です。
とくに、高齢者の方や免疫機能が低下している方は、症状が非典型的であったり、進行が早かったりする場合があるので、より注意が必要です。
また、結核は肺以外の臓器にも感染することがあります(肺外結核)。
その場合、感染した臓器に応じてさまざまな症状が現れます。
例えば、リンパ節結核ではリンパ節の腫れ、腎結核では血尿、脊椎結核では背中の痛みなどが生じることがあります。
結核の症状は個人差が大きく、また、ほかの疾患との区別が難しいこともあります。
そのため、上記のような症状が2週間以上続く場合や、通常の治療で改善しない場合は、結核の可能性も考え、呼吸器内科の専門医による診察を検討しましょう。
早期発見・早期治療が、結核の治療と周囲への感染防止のために必要です。気になる症状がある場合は、ためらわずに医療機関を受診しましょう。
【参照文献】結核予防会 結核研究所『結核の基礎知識』
https://jata.or.jp/about/basic/
4. 結核の検査と治療
結核の疑いがある場合、医師はさまざまな検査を行って診断を確定し、適切な治療方針を決定します。
ここでは、結核の主な検査方法と治療法についてご説明しましょう。
【結核の検査】
結核の診断には、以下のような検査が用いられます。診断では、単一の検査結果だけでなく、複数の検査結果を総合的に判断することが重要です。
1.胸部X線検査
胸部X線検査は、結核診断の基本となる検査です。肺に異常な影があるかどうかを確認します。
胸部X線検査で、結核を疑う所見を認めた場合、当院では、結核の検査治療が対応可能な病院へ紹介いたします。
2. 喀痰(かくたん)検査
当院から紹介いたしました病院を受診しますと、通常はCT検査などに加えて、喀痰検査が実施されます。喀痰検査は、痰の中に結核菌がいるかどうかを調べる検査です。
顕微鏡で直接菌を観察する塗抹検査と、培地で菌を培養する培養検査があります。多くの病院では3回喀痰を採取して、検査をすることが多いです。
最近では、結核菌の遺伝子を検出する核酸増幅検査も行われており、より迅速な診断が可能になっています。
3. インターフェロン-γ遊離試験(IGRA)
インターフェロン-γ遊離試験(IGRA)は、血液検査で結核感染を調べる方法です。従来のツベルクリン反応検査と比べて、より正確で信頼性の高い検査方法だとされています。
インターフェロン-γ遊離試験の最大の強みは、BCG接種の影響を受けないことです。
これは、日本のようにBCGワクチン接種が広く普及している国において、特に重要です。
従来のツベルクリン反応検査では、BCG接種者の方や一部の非結核性抗酸菌感染者さんでも偽陽性を示すことがありましたが、インターフェロン-γ遊離試験ではこの問題はありません。
4. CT検査
CT検査は、X線検査よりも詳細に肺の状態を観察することができます。初期の病変や、X線では見えにくい部位の異常を発見するのに役立ちます。
5. 気管支鏡検査
気管支鏡検査は、喀痰検査で結核菌が見つからない場合などに行われることがあります。気管支から直接検体を採取し、より確実な診断を行います。
【結核の治療】
結核は空気感染する疾患であるため、治療初期には入院が必要となる場合があります。診断直後の入院は感染拡大防止のために重要です。
一般的な入院期間は約2〜3ヶ月ですが、適切な治療により2〜3週間でほぼ感染力は無くなります。しかし、安全を期して入院が継続されることが多いです。
退院の判断の基準は、結核の症状(咳、発熱、結核菌を含む痰等)が消失し、さらに異なる日の喀痰培養検査結果が連続して3回陰性となることです。退院後は、外来治療になります。
結核の治療は、複数の抗結核薬を組み合わせた長期的な薬物療法が基本です。
標準的な治療法では、6ヶ月間の多剤併用療法(複数の薬を一緒に使う治療法)が行われ、これは初期2ヶ月の集中治療期と、その後4ヶ月の維持期に分けられます。
治療の流れは以下のようになります。
【集中治療期(初期2ヶ月)】
この期間は、以下の4種類の抗結核薬を併用します。
・リファンピシン(RFP):細菌のRNA合成を阻害し、タンパク質合成を停止させる。
・イソニアジド(INH):結核菌の細胞壁合成を阻害する。
・ピラジナミド(PZA):結核菌の細胞内pHを低下させ、代謝を阻害する。
・エタンブトール(EB):結核菌の細胞壁成分の合成を阻害し、細胞分裂を抑制する。
これらの薬剤を併用することで、異なる作用機序により結核菌の増殖を効果的に抑制します。
【維持期(後期4ヶ月)】
集中治療期の後、リファンピシンとイソニアジドの2剤を継続して服用します。
標準的な治療期間は6ヶ月ですが、患者さんの状態や治療反応によっては延長されることがあります。具体的には、以下のような状況です。
1. 重症例:病状が深刻で、標準的な治療では十分な効果が得られない場合。
2. 治療反応不良:通常の治療期間内で期待される改善が見られない場合。
3. 空洞性病変の存在:肺に空洞性の病変が認められる場合。これは結核菌の増殖に適した環境を提供し、治療をより困難にする可能性があります。
4. 治療開始2ヶ月後の培養検査陽性:初期治療後も結核菌の存在が確認される場合。
これらの状況の場合では、結核菌の完全な除去と再発リスクの低減を目的として、治療期間を9ヶ月に延長することがあります。
延長する治療期間は、個々の患者さんの臨床経過や検査結果に基づいて、担当の医師により慎重に決定されます。
治療の延長は、結核の完全な治癒を確実にするために重要で、再発を防ぎ、患者さんが完全に健康を取り戻すための大切な対策です。
結核治療の最終目標は、患者さんを治すこと、そしてほかの方への感染拡大を最小限に抑えることです。
適切な治療を受けることで、かつては「不治の病」とされた結核も、現在では完治が可能な疾患となっています。
治療のためには、医師の指示通りに薬を服用し続けることが大切です。
服薬を中断したり、自己判断で用量を変更したりすると、治療効果が著しく低下し、薬剤耐性菌が出現するリスクが高まります。
抗結核薬には副作用の可能性がありますが、多くの場合、適切な管理下で安全に治療を行うことができます。
主な副作用は、関節痛、視力・視野の異常、全身倦怠感、吐き気、食欲不振、発熱、皮疹、かゆみなどです。
また、結核治療中は健康的な生活を心がけ、免疫力を高めることが重要です。とくに、栄養バランスの取れた食事を摂ることが治療の一環となります。
結核の治療中は、患者さんの生活に大きな影響がありますが、完治のために生活上の支援が行われます。
まず、就業制限です。これは、ほかの方に結核をうつさないようにするためです。
結核は、感染症法という法律の適用対象となる疾患です。このため、結核患者さんには、法律に基づいた様々な対応や制約を伴います。
【感染症法・・・感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関し必要な措置を定めることにより、感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図り、もって公衆衛生の向上及び増進を図ることを目的とする。】
患者さんは「接客業、そのほかの多数のものに接触する業務」に就くことができません。この制限は、結核菌がからだから無くなるまで続きます。
次に、DOTSという支援があります。
DOTSとは、患者さんが確実に薬を飲めるよう手伝う仕組みです。入院中は看護師が、退院後は保健所の方やご家族が薬を飲むのを確認します。これは、途中で薬を飲むのをやめてしまわないようにするためです。
結核の治療は長く続きますが、周りの方のサポートがあれば、多くの場合完治できます。
このように、結核の治療は薬を飲むだけでなく、生活全体をサポートする取り組みが必要で、医療スタッフや周囲の方の支援が不可欠です。
【参照文献】厚生労働省『結核(BCGワクチン)』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/index.html
5. おわりに
結核は、かつて「国民病」と呼ばれた感染症ですが、現在では適切な治療で治せる病気になりました。しかし、まだ完全に過去の病気ではありません。
早期発見・早期治療は、患者さんご自身の健康と周囲への感染防止に重要です。
とくに注意すべき症状は、2週間以上続く咳、血痰、呼吸困難感です。これらの症状がある場合は、速やかに呼吸器内科をはじめとする医療機関を受診しましょう。
また、高齢者の方や慢性疾患のある患者さん、ストレスの多い生活を送る方はとくに注意が必要で、定期的な健康診断も重要です。
結核と診断されても、適切な治療を受ければ完治することができます。
ただし、長期間の服薬が必要で、医師の指示に従い、自己判断で治療を中断しないことが大切です。
治療中は感染防止のため一時的に生活制限がかかることがありますが、これは社会復帰のためのステップです。
正しい知識を持つことで、不必要な不安や偏見を減らせます。
適切な感染対策を行えば、日常生活の多くを通常通り送れます。医療スタッフは、治療だけでなく心理的な支援も含めた総合的なケアを行っています。
結核は恐れるべき病気ではありませんが、軽視してはいけません。正しい知識を持ち、早期発見・早期治療を心がけることが大切です。