高齢者はとくに注意を!誤嚥性肺炎について

誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)は、高齢者を中心に多く見られる肺炎の一種です。

この病気は、食べ物や飲み物、唾液などが誤って気管や肺に入り、細菌が繁殖して炎症を引き起こすことで発症します。

飲み込む力が低下している高齢者はとくに注意が必要です。

今回の記事では、誤嚥性肺炎の症状や特徴、検査、治療、予防方法までわかりやすく解説します。

身近に高齢者がいる方は、誤嚥性肺炎のポイントを理解しておけば早期発見につながるでしょう。

ぜひ、最後までお読みください。

◆『肺炎について』>>

1.症状・特徴


通常、飲み込む際は、食べ物や飲み物が食道(食べ物の通り道)に運ばれますが、誤って気道に入り込んでしまうことを「誤嚥(ごえん)」といいます。

誤嚥をすると肺で炎症を引き起こします。誤嚥が原因の肺炎は、「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」と呼ばれます。

食べ物や飲み物以外にも、唾液、口腔内の細菌や食べかす、逆流した胃液などでも誤嚥は起こります。

誤嚥性肺炎を起こすリスクが高い方は、以下のような人です。

・高齢者
・脳血管障害や神経疾患がある方
・飲み込む力(嚥下機能)が低下している方
・咳き込む力が弱い方
・寝たきりの方

上記以外にも、使用している薬の影響や免疫力の低下なども、誤嚥性肺炎のリスクを高めます。

誤嚥性肺炎を起こすと、以下のような症状があらわれます。

・咳やむせが頻繁におこる
・痰が出る
・発熱
・息切れや呼吸困難
・食欲不振や体重減少

誤嚥性肺炎は、風邪のような症状から始まるため、風邪と間違いやすく注意が必要です。

誤嚥性肺炎のリスクが高い方は、とくに注意して観察することで早期発見につながるでしょう。

症状をそれぞれ詳しく解説します。

◆『知っておきたい「風邪」の基本知識と対処法』>>

【咳やむせが頻繁におこる】
誤嚥性肺炎の初期症状として、咳が頻繁に出るようになります。

特に食事中や食後に咳き込んだり、むせたりすることが増えた場合、誤嚥の可能性が高いです。

これは、食べ物や飲み物が誤って気管の方へ入ってしまった場合に、異物を排出しようとする身体の自然な反応です。

咳やむせが頻繁に起こる場合は、誤嚥性肺炎のリスクが高いことを示しているため、注意しましょう。

◆『長引く咳は風邪じゃない?高齢になると肺炎に注意』>>

【痰が出る】
誤嚥していると痰が出るようになったり徐々に痰が増えたりします。色も黄色や緑色になり、膿のような痰が出る場合があります。

これは、炎症が進んでいるサインです。

また、声帯の近くに炎症がある場合、声がかすれることもあります。

他の症状とともに、痰の変化にも注意しておきましょう。

【発熱】
誤嚥性肺炎では、発熱はよくみられる症状で、高熱が出ることもあります。

しかし、高齢者の場合は微熱や全く熱が出ないこともあるため注意が必要です。

発熱は、身体が感染と戦っている状態ですが、高齢者や体力が落ちている方にとっては軽度の発熱でも体に大きな負担になります。

咳や痰があり発熱がある場合には、早めに医療機関を受診しましょう。

【息切れや呼吸困難】
誤嚥によって肺に炎症が広がると、酸素を取り込みにくくなるため、息苦しさを感じたり息切れを起こしたりします。

誤嚥性肺炎が進行している場合、日常生活の中で少しの動作で息切れを感じるようになります。

【食欲不振や体重減少】
誤嚥性肺炎にかかると、食べ物を飲み込む際のむせ込みや胸の不快感があり、食事を避けるようになる方もいます。

食欲がなくなると食事量が減り、結果的に体重の減少や体力の低下につながります。

また、食欲不振や体重減少による体力低下に加え息苦しさがあると、だるさや疲れやすさを感じるようになります。

このような症状は、本人だけでなく周りの家族や介護者も気づきやすい症状です。

様子の変化に気づいたら、早めに医療機関を受診しましょう。

【参考情報】『誤嚥性肺炎』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/file/disease_a12.pdf

2.診断・検査


誤嚥性肺炎の診断には、いくつか検査が必要です。

まずは、患者の症状や生活習慣について詳しく問診します。

・食事中にむせることが多いか
・頻繁に咳をしているか
・発熱や倦怠感があるか
・日常生活で感じている不調があるか
・飲み込みにくさや食事中の違和感があるか

上記のような内容を問診します。その他、気になることがあれば医師に伝えておきましょう。

問診のあとは、身体の診察をおこないます。聴診器で胸の音を聞いたり、のどや胸の状態を確認したりします。

誤嚥や肺炎の兆候を確認し、その後、必要な検査をおこないます。

検査は以下のようなものです。

・胸部X線検査(レントゲン)
・血液検査
・喀痰(かくたん)検査
・胸部CT検査
・嚥下機能検査

検査について、詳しく解説します。

【胸部X線検査(レントゲン)】
誤嚥性肺炎を疑った場合、最初に行われるのが胸部X線検査です。

レントゲン検査は、健康診断で受けたことがある方も多いでしょう。

食べ物や唾液などを誤嚥し肺炎を引き起こしていた場合、レントゲンで撮影した肺の一部に白い影が映ります。

胸部X線は、痛みがなく、比較的短時間で結果が出るため、診断の第一歩としてよく行われる検査です。

【血液検査】
血液検査も、誤嚥性肺炎の診断に欠かせない検査です。

採血をおこない、血液を調べることで、炎症の有無や程度、細菌感染の有無が分かります。

血液検査で見る主な項目は、「白血球」と「CRP(C反応性タンパク)」です。

細菌感染が起きている場合、白血球もCRPも上昇します。

白血球は、体の免疫システムが働いているときに増加するため、肺炎やほかの感染症でもこの数値が上がることがあります。

CRPは体内の炎症の度合いを示すタンパク質です。数値が高いと体のどこかで強い炎症が起きていることを示しています。

これにより、誤嚥性肺炎の重症度や進行具合を確認することができます。

血液検査は、採血が必要なため痛みが伴いますが、比較的簡単に行える検査です。

血液検査の結果をもとに炎症の程度を把握し、誤嚥性肺炎の診断と治療計画を立てていきます。

【喀痰(かくたん)検査】
喀痰検査とは、患者さんが咳き込んだ際に出る痰を採取して、細菌を調べる検査です。

喀痰を採取する方法は、強く咳払いをして痰を専用容器に吐き出します。この時、容器内に鼻水や唾液を入れないよう注意しましょう。

また、喀痰を採取する前には、口をゆすいだり歯を磨いたり、口腔内の常在菌を減らしておくことも大切です。

誤嚥性肺炎の場合、誤って肺に入り込んだ食べ物や唾液が原因で炎症を起こすことが多いですが、感染を引き起こしている細菌を特定することも重要です。

喀痰検査をおこなうことで、どの抗菌薬が有効か見極めることができ、より効果的な治療につなげることができます。

【参考情報】Mayo Clinic “sputum test”
https://my.clevelandclinic.org/health/diagnostics/25174-sputum-culture

【胸部CT検査】
医師が必要と判断した場合には、胸部CT検査が行われることもあります。

CT検査はX線よりも詳しい画像が得られるため、肺の炎症がどの程度進行しているか、また誤嚥によってどの部分が影響を受けているのかを詳細に確認できます。

CT検査は、X線で不明瞭だった場合や、より精密な診断が必要な場合に使われます。

CT検査は少し時間がかかりますが、病状を詳しく把握するために必要な検査です。
当院では、CT検査が必要な場合、CT装置のある他院へ依頼して撮影しております。

【嚥下機能検査】
嚥下(えんげ)機能検査は、飲み込む力が弱まっているかを確認するためにおこないます。

嚥下機能検査は以下のような種類があります。

・嚥下造影検査(VF)
・嚥下内視鏡検査(VE)

嚥下造影検査は、造影剤を飲み込んでもらい、X線を当てながらその流れを見ます。食べ物や飲み物がどのように通過するかを観察し、誤嚥の状態を評価します。

飲み込む際にどのように誤嚥が起きているのか、またどの部分が弱っているのかを調べることができる検査です。

嚥下内視鏡検査は、鼻から内視鏡を入れ、咀嚼して飲み込むまでの流れを調べる検査です。

そのほか、嚥下のスクリーニング検査では「反復唾液嚥下テスト」「改訂水飲みテスト」「フードテスト」がおこなわれます。

嚥下機能が低下していると誤嚥のリスクが高まるため、これらの検査の結果をもとに、リハビリや食事形態の調整をおこないます。

今後の誤嚥性肺炎を予防するために、適切な対策をしていきましょう。
嚥下機能検査は、専門医療機関の一部で実施されています。

【参考情報】『誤嚥性肺炎の診断|健康長寿ネット』長寿科学振興財団
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/engeseihaishikkan/shindan.html

【参考情報】Mayo Clinic “Aspiration Pneumonia”
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/21954-aspiration-pneumonia

◆『呼吸器内科で行う検査の種類と目的を紹介します』>>

3.治療


誤嚥性肺炎は、以下のような方法で治療します。

・抗菌薬による治療
・酸素療法
・点滴による栄養補給や水分補給

肺炎の原因となる細菌に対し、抗菌薬を使用し治療をします。

肺に入ってしまった唾液や食べ物の中に含まれる細菌を退治することで症状が改善します。

使用する抗菌薬は、患者の状態や感染している細菌の種類によって選択します。

抗菌薬は、きちんと飲み続けることが大切です。

途中で薬をやめると、細菌が完全に退治されず、症状が悪化したり再発したりする可能性があります。抗菌薬の使用は、医師に指示された通りに服用しましょう。

抗菌薬の治療と並行して、酸素療法や点滴治療をおこなうケースがあります。

酸素療法は、息切れや呼吸困難など肺機能の低下がある場合におこなわれます。

体に必要な酸素量を補うことで、呼吸が楽になり、体の疲れや苦しさが改善されるでしょう。

酸素療法は一時的で、肺炎が治ると必要なくなる場合が多いです。しかし、肺のダメージが大きい場合は、長期間の酸素療法が必要になるケースもあります。

また、誤嚥性肺炎により、食事を摂ることが難しくなる場合があります。

食欲が低下したり、むせ込みがひどかったりするために、十分な栄養や水分が取れない状態が続くと、体力の低下や回復の遅れを招きます。

そのような場合に、点滴での栄養補給や水分補給をします。

状態が落ち着いてきたら、嚥下リハビリテーションや在宅医療、介護サポートなど、必要なサービスを検討しましょう。

また、誤嚥性肺炎を繰り返さないための対策も大切です。

高齢者の場合、長期的なサポートが必要になることが多いため、周りの協力が欠かせないでしょう。

4. 予防方法


誤嚥性肺炎は予防が大切です。食事の時には以下のポイントに気をつけましょう。

・食事中はしっかり噛む
・早食いせずゆっくり食べる
・一口の量を少なくする
・身体を起こして食べる
・食後すぐに横にならない
・口腔ケアを徹底する

誤嚥は食べ物を飲み込む際に起こるため、急いで食べたり一口の量が多すぎたりするとリスクが高まります。

年齢とともに飲み込む力が弱くなるため、高齢者は意識してしっかり噛むことが大切です。

身体を起こして正しい姿勢で食事をしましょう。

寝たきりやベッド上での食事は、誤嚥のリスクが高いです。できるだけ体を起こし、食べ物が気道に入りにくい姿勢で食事を摂るようにしましょう。

誤嚥性肺炎の予防には、毎日の歯磨きやうがいなど、口腔内の清潔を保つことも重要です。

特に、入れ歯を使用している方は、入れ歯の洗浄も怠らないようにしましょう。口の中が清潔であることは、誤嚥性肺炎の予防にとても効果的です。

また、誤嚥性肺炎の予防には、家族や介護者のサポートが重要になります。

知らず知らずのうちに誤嚥してしまう不顕性誤嚥では、誤嚥性肺炎に自力で気づくことが難しいでしょう。

家族や介護者が早期に異変に気づき、適切な対応を取ることが大切です。

たとえば、以下の点に注意して観察しましょう。

・食事中にむせる回数が増えた
・咳が続いている
・食欲が低下している
・微熱が続いている
・以前より疲れやすくだるさを訴える

これらの兆候を感じたら、早めに医療機関を受診することが重要です。

誤嚥性肺炎は、適切な治療を受ければ改善することが多いですが、放置すると命に関わるケースもあります。

特に高齢者や持病を抱えている方は、症状の進行が早い場合もあるため、油断せずに早期対応を心がけましょう。

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5.おわりに

誤嚥性肺炎の症状は、咳やむせ込み、発熱、息切れなどが代表的で、特に高齢者に多く見られます。

食事中のむせや体調不良が続く場合は、早めに医療機関を受診し、早期に対処することが大切です。

誤嚥性肺炎は、適切な予防と早めの治療で改善できる病気です。

家族や周りの方が生活のなかでの変化に気づくことが早期発見につながります。

また、いずれ自身に起こる可能性もあります。

誤嚥性肺炎について理解し、予防していくことが大切です。