百日咳の症状・検査・治療について

百日咳は小児に多く、ワクチンで予防可能な病気ですが、予防接種の効果が切れてしまった大人も感染する可能性があります。

特に6か月未満の乳幼児は重症化することもあるため注意が必要な病気です。

長引く咳や、息継ぎの余裕がないほどの咳発作が続く場合は早めに病院を受診してください。

1.百日咳とは


百日咳とは、百日咳菌に感染して発症する急性の呼吸器感染症です。

咳が治まるまで約100日間と長い時間がかかることから百日咳と呼ばれています。

成人でもかかることがありますが、小児に多い病気です。

患者の多くは乳幼児で、特に1歳以下の乳児が感染すると重症化しやすく、合併症として肺炎や脳症になる場合もあります。

重症化すると入院管理が必要になり、特に6か月未満の乳児では死亡する危険性も高い病気です。

感染経路は飛沫感染と接触感染であり、発症から2~3週間は排菌の可能性があります。

感染力がかなり強く、学校保健法では「特有の咳が消失するまで又は5日間の適正な抗菌薬療法が終了するまで出席停止」とされています。

【参考情報】Mayo Clinic『whooping cough』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/whooping-cough/symptoms-causes/syc-20378973

2.症状


百日咳の症状には次のような3つの段階があります。

1-1.カタル期
1~2週間ほどの潜伏期の後に風邪のような症状が1~2週間ほど続き、最も感染力が強い時期です。

1-2.痙咳(けいがい)期
発作的に短い咳(痙咳)が連続して起こり、息を吸う間がないため、静脈圧が高くなり顔面の紅潮、眼瞼浮腫(がんけんふしゅ)、顔面の点状出血、眼球結膜の出血などが現れます。

この短い咳が治まった後に急に深く息を吸うため、「ヒューヒュー」のような笛声(てきせい)が聞かれます。

咳と笛声が繰り返される「レプリーゼ」という状態になりますが、発作が無い時はほとんど無症状なのが特徴です。

発作は夜間に多く、咳のしすぎで吐いてしまう場合もあります。

また、乳児では特徴的な咳が見られないことも多く、無呼吸発作やチアノーゼ、痙攣(けいれん)を引き起こし呼吸停止に至る場合もあります。

特徴的な咳が無くても、息を止めて苦しそうな様子があれば要注意です。

痙咳期は4週間ほどで次第に激しい咳発作は少なくなりますが、百日咳菌はしばらく体内に残るため咳自体は2か月ほど続きます。

1-3.回復期
咳発作は減少し2~3週間程度で落ち着きますが、この間に風邪などにかかってしまうと再び激しい咳発作が現れることがあります。

【参考情報】国立感染症研究所『百日咳とは』
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/477-pertussis.html

3.検査・治療


百日咳の初期症状は風邪とよく似ているため、診断がついたときにはすでに感染力が強いカタル期が過ぎてしまっている場合も多いです。

そのため、特徴的な咳など気になる症状があればすぐに病院を受診し、治療することが感染拡大防止にも繋がります。

では実際に病院に行って、どんな検査や治療をするのか説明します。

3-1.検査

小児の場合は特徴的な咳発作から診断が可能ですが、成人の場合は症状が軽いことも多く診断が困難です。

百日咳の確定診断としては、血液検査、培養検査、百日咳菌の遺伝子検査(百日咳菌LAMP法やPCR法)を行います。

血液検査では検査キットを使って、百日咳菌に対するIgM/IgA抗体(免疫に関わる物質)を測定します。

培養検査は年齢や保菌量によっては菌を特定するのが難しい場合があります。

LAMP法やPCR法は迅速に結果が出ることが特徴です。

年齢、発症日数、ワクチンの接種歴などの情報をもとに、上記の中から適切な検査を選択して行います。

【参考情報】国立感染症研究所『百日咳の検査診断』
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2404-related-articles/related-articles-444/7081-444r06.html

3-2.治療

百日咳の治療としては、主にマクロライド系の抗菌薬が使用されます。

抗菌薬で適切な治療を行うことで、服用開始から5日程度で排菌がほぼ無くなります。

また、痙咳への対処療法として、鎮咳去痰薬や気管支拡張薬が使われることもあります。

4.予防


百日咳はワクチンで予防することができる病気です。

百日咳ワクチンは「4種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)」という形で生後3か月から受けることができ、1歳半頃までに計4回接種します。

しかし、百日咳ワクチンの予防効果は徐々に弱まり、10~12年後には無くなってしまいます。

そのため子どもの頃に接種したワクチンの効果が切れた頃に感染してしまい、家庭内での感染も問題になっています。

成人の場合は特徴的な咳が見られないことが多く、軽症で済むため見逃されがちですが、周囲に感染を広げないためにも適切な対処が必要です。

子どもへの感染を防ぐ為にも、周囲の大人は手洗い・うがい、マスクなどの感染対策を行いましょう。

5.百日咳と似てる、激しい咳の出る病気


激しい咳や長引く咳の場合は、百日咳以外の病気の可能性もあります。

病気によって治療法が異なる為、咳が続いている場合は早めに病院を受診してください。

5-1.喘息

喘息は、気道に繰り返し炎症が生じることで気道が狭くなり、発作的に咳や呼吸困難などの症状が現れる病気で、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」のような喘鳴(ぜんめい)を生じることもあります。

喘息と百日咳は「咳が長引く」「発作的に咳が出る」という点では似ていますが、次のような違いがあります。

・息を吐くときに「ゼーゼー」という喘鳴がするのが喘息
・咳の後息を吸うときに「ヒューヒュー」という笛声がするのが百日咳

喘息の患者さんは、症状がない時でも気道に慢性的な炎症が起きている状態で、少しの刺激でも反応しやすい過敏な状態となっています。

過敏になっている気道に、風邪、運動、アレルゲン、タバコ、ストレス、気温や気圧の変化などさまざまな刺激が加わることで発作が起こります。

早期に治療を開始し、吸入ステロイド薬や気管支拡張薬の服用と自己管理で適切にコントロールすることができれば、健康な人と同じような生活を送ることができます。

【参考情報】『気管支ぜんそく』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html

◆当院の喘息治療について>>

5-2.咳喘息
咳喘息は咳のみが症状として現れる喘息の前段階の状態です。

喘息は「ゼーゼー」のような喘鳴を伴うこともありますが、喘鳴がなく咳だけで呼吸機能検査は正常の場合を咳喘息と言います。

咳喘息は特に風邪などの後に起こり、その3〜4割は本格的な喘息へと移行します。

喘息の段階まで進行する前に、早めに治療を開始することが大切です。

咳喘息と百日咳も症状が似ていて、特に成人の百日咳の場合は特徴的な咳が見られないこともあるため判別が難しい場合があります。

【参考情報】『咳喘息』日本内科学会雑誌第109巻第10号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/10/109_2116/_pdf

◆当院の咳喘息治療について>>

5-3.マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎は、痰が絡まない乾いた咳、発熱、倦怠感、のどの痛み、頭痛など風邪に似た症状が現れます。

熱が下がった後も咳が3~4週間ほど続き、「咳が長引く」という点では百日咳に似ている病気です。

次のような重篤な合併症が起こる場合もあります。
・ギランバレー症候群(感染症などが原因で免疫システムが異常をきたし、急に筋力が低下する病気)
・無菌性髄膜炎(脳や脊髄を覆う髄膜が炎症を起こし、頭痛や発熱、嘔吐などの症状が現れる病気)
・心筋炎(心臓の筋肉が炎症を起こし、胸痛や息切れ、不整脈などの症状が現れる病気)
・関節炎 など

マイコプラズマ肺炎も百日咳と同様に細菌感染症のため、マクロライド系などの抗菌薬(抗生物質)を用いて治療を行います。

【参考情報】Cleveland Clinic『Pneumonia』
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/4471-pneumonia

5-4.喘息性気管支炎

喘息性気管支炎は、喘息のような喘鳴が伴う気管支炎のことです。

名前は似ていますが、喘息や咳喘息とは異なる病気です。

小さいお子さんは気管支の発達が未熟なため、喘息性気管支炎を繰り返すことも稀ではありません。

6.おわりに

百日咳は感染力が強く、風邪だと思って放っておくと周囲に感染が広がってしまいます。

初期症状が風邪に似ているため判断に迷う場合もあると思いますが、咳が激しくなったり、短い連続性の特徴的な咳発作を繰り返している場合は早めに呼吸器内科を受診してください。

子どもの場合は、小児科でも構いません。

また、咳が長引いている場合は百日咳以外にも喘息など他の病気も考えられますので、一度受診すると安心でしょう。