喘息治療薬「エナジア」の特徴
エナジアは、喘息治療薬の一つです。
β2受容体刺激薬(気管支を拡張して呼吸を楽にする薬)と吸入ステロイド薬(気道の炎症を抑える薬)を配合した吸入薬とは異なり、「抗コリン薬」という成分も配合されているのが特徴です。
抗コリン薬は、気管支を拡張させる働きがあり、β2受容体刺激薬と合わせることでより高い治療効果が期待できます。
今回は、エナジアについて治療効果や副作用、注意点などを解説します。
1.エナジアとはどのような薬か(薬剤の説明)
エナジアは、β2受容体刺激薬の「インダカテロール酢酸塩」と抗コリン薬の「グリコピロニウム」、吸入ステロイド薬の「モメタゾンフランカルボン酸エステル」の3つの有効成分が配合された喘息治療薬です。
喘息は、呼吸をするときに空気が通る道(気道)に炎症が起きることで、発作などによって気道が狭くなってしまう疾患です。
そのため、喘息治療は、狭くなった気道を広げる、炎症を抑えて気道が喘息発作を起こさないようにします。
気管支は、自律神経に支配されており、「交感神経(活動時や興奮時に優位になる神経)」が働くと気道が拡張され、「副交感神経(リラックスしている時に優位になる神経)」が働くと気道が狭くなります。
気管支の交感神経に存在するアドレナリンβ2受容体を刺激することで、気管支が拡張されるので、β2受容体刺激薬であるインダカテロールは喘息によるつらい症状を和らげることが可能です。
抗コリン薬であるグリコピロニウムは、副交感神経の神経伝達物質であるアセチルコリンの働きを阻害することで、交感神経の働きを優位にして気管支を広げます。
吸入ステロイドであるモメタゾンフランカルボン酸エステルは、炎症を抑える働きとアレルギー反応を抑える働きがあります。
気管支の炎症を抑えることで、様々な刺激による喘息発作を予防し、気管支粘膜を健康な状態に戻すことも可能です。
エナジアは、「ブリーズヘラー」という吸入器具を用いる吸入薬です。
ブリーズヘラーは、吸入器にカプセルを装填してボタンを押すことで、吸入できるデバイスですが、比較的弱い力の吸入力で薬剤が吸えるメリットがあり、重度の喘息患者にも利用できる特徴があります。
エナジアには、エナジア吸入用カプセル中用量とエナジア吸入用カプセル高用量が存在します。
【参考情報】『気管支ぜんそく』一般社団法人日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html
【参考情報】European Medicines Agency ”Enerzair Breezhaler”
https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/enerzair-breezhaler
2. エナジアの使い方(服用方法)
エナジアは、プリーズヘラーという吸入器具にエナジア吸入用カプセルをセットして1日1回、吸入します。
エナジアの具体的な吸入方法は、以下のようになっているので参考にしてください。
1.吸入器にエナジア吸入用カプセルを1つセットします。
2.緑色のボタンをしっかり押さえてから離します。押さえたままだと吸入がうまくできない可能性もあるので注意が必要です。
3.息を吐き出してから正面を向いたまま、できるだけ深く吸入します。
4.吸入が終わったら吸入器に入っている空のカプセルを捨てます。
エナジアは、1日1回吸入する薬であり、時間を問わずに使用できますが、吸入を忘れた場合は気づいたタイミングで使用してください。ただし、1日に2回吸入するのは副作用のリスクがあるのでやめてください。
3.エナジアの副作用
・発声障害
・筋痙攣
・頻脈
・口内乾燥
・排尿困難
エナジアには、吸入ステロイド薬とβ2受容体作動薬、抗コリン薬が配合されています。
吸入ステロイド薬には、発声障害(嗄声:させい など)が多く見られ、エナジアにおいては8.7%の発生率が報告されている副作用です。
β2受容体刺激薬では、交感神経の働きから頻脈や動悸などが見られることもありますが、手の震えなどの筋痙攣が見られることもあります。
抗コリン薬の副作用として代表的なもので口内乾燥(口渇)や排尿困難があげられます。
喘息治療に使われる吸入薬は、気管支に局所的に働きかけるため、全身の副作用も少ない特徴もありますが、口や喉などに副作用があらわれることもあるので注意が必要です。
吸入後はうがいをして薬剤を洗い流すことが、エナジアの副作用を防ぐためにも重要です。
めったに見られない重篤な副作用として、以下のものが存在します。
・アナフィラキシー
・重篤な血清カリウム値の低下
アナフィラキシーは、血管浮腫や呼吸困難、蕁麻疹などがあらわれ、適切な処置をしないと死に至る場合もあります。
血清カリウム値が低下すると不整脈のリスクが上昇することもあるので注意が必要です。
アナフィラキシーや血清カリウム値の低下が疑われる症状が出た場合は、薬の使用を中止して医療機関へ受診してください。
4.使用上の注意点
喘息を治療する吸入薬には、喘息の症状を安定させて発作が出ないようにコントロールする「長期管理薬」と喘息発作を速やかに抑える「発作治療薬」が存在し、エナジアは長期管理薬に分類されます。
そのため、喘息発作が起きてから使用するのではなく、日常的に長期管理薬を使用して喘息発作を予防することがエナジアの目的となります。
喘息発作が起きた場合は、別に発作治療薬を使用することが重要です。
そのほかにも、エナジアの使用に、注意が必要な人の特徴を以下のようにまとめています。
【妊婦、授乳婦】
エナジアは、お腹の赤ちゃんに影響したり、母乳に薬剤が移行したりする可能性があるため、妊娠している人や授乳している人は、エナジアの使用を主治医に相談する必要があります。
【呼吸器の感染症】
エナジアに配合されている吸入ステロイド薬は、アレルギーなどの免疫の暴走を抑制することで炎症を抑える働きがあります。
感染症に伴う症状を悪化させる可能性があるので注意が必要ですが、喘息患者さんへの使用に関しては、感染症発症時の気道の炎症悪化を改善するといった、良い面の報告も多数あります。
ほかに、感染症などの疾患がある場合は、医師に相談してください。
【デスモプレシンを使用している人】
デスモプレシンは、夜尿症(5歳以上が睡眠中に排尿してしまうこと)や中枢性尿崩症(脳腫瘍などが原因で薄い尿が大量に作られること)の治療薬です。
デスモプレシンを使用している人は、エナジアを吸入すると低ナトリウム血症が発現する可能性があります。
低ナトリウム血症は、重症化すると痙攣や意識消失、最悪の場合は死に至ることもあります。
そのため、エナジアとデスモプレシンと併用でません。
5.エナジアの薬価
・エナジア吸入用カプセル中用量
薬価1カプセル290.3円
・エナジア吸入用カプセル高用量
薬価1カプセル331.5円
エナジアの代わりに使えるジェネリック医薬品や市販薬はありません。
6.おわりに
エナジアは、β2受容体刺激薬と抗コリン薬、吸入ステロイド薬の3種類を配合した喘息治療薬です。
β2刺激薬と抗コリン薬で気管支を拡張し、吸入ステロイド薬によって気管支の炎症を
抑えることで、喘息発作を予防する「長期管理薬」に分類されています。
エナジアを、指示通りに継続して使用することで、高い治療効果が期待できますが、副作用があらわれたり、喘息の症状が改善されなかったりする場合は、他の治療薬を検討する必要があります。
喘息の症状にお悩みの方は、医療機関にて相談してみてください。