嚢胞性肺疾患って?

嚢胞性肺疾患は、肺に嚢胞ができる病気の総称です。

「嚢胞」とは、正常な肺の中には見られない袋状の組織を指します。

嚢胞の中は、空気が入っていたり、液体で満たされていたりとさまざまです。

嚢胞性肺疾患は、「先天性」と「後天性」にわけることができます。

今回の記事では、嚢胞性肺疾患について詳しく解説します。

1.嚢胞性肺疾患とは


嚢胞性肺疾患には、さまざまな原因や病態があります。

肺の中にある1㎜以下の薄い壁を持つ1㎝以上の嚢胞を「ブラ」と呼びます。

ブラは、自然気胸(外傷などの原因がないのに、肺に穴が開いて空気が漏れること)の原因となる可能性があります。

また、巨大なブラが正常な肺を圧迫して呼吸困難につながる可能性もあります。

巨大なブラに関しては、治療せず放置していると、増大するにしたがって肺炎を起こしたり、癌化していくリスクがあります。

1-1.発生異常

嚢胞性肺疾患は、胎児の時に気管支や肺の組織が正常に作られずに肺に嚢胞ができる「先天性」のものと、生後なんらかの原因で発症する「後天性」のものがあります。

先天性嚢胞肺疾患には、主に以下のような種類があります。

・肺分画症:正常な肺の外側や内側に、異常な肺組織ができてしまう病気。
・先天性嚢胞状腺腫様奇形(CCAM):胎児期に気管支上皮が増殖し、肺にさまざまな大きさの囊胞を形成する病気。
・気管支原性嚢胞:胎児期の気管支の形成過程に異常があり、気管や気管の周囲、肺内に嚢胞を形成する病気。
・気管支閉鎖症:胎児期の気管支の形成過程に異常があり、気管支が部分的または完全に閉じてしまう病気。

最近では、胎児の肺異常として、出生前診断をされるケースもあります。

また、出生前に診断された症例のうち、10~15%に以下のような重篤な症状があらわれることがわかっています。

・胎児水腫(胎児の皮膚の下や胸腔、腹腔内、心臓を包む心包腔に液体が溜まっている状態。)
・子宮内胎児死亡
・生直後の呼吸不全

出生直後に呼吸器症状がない場合であっても、9割以上のケースで幼児期に反復する肺感染症などを発症する可能性が高いです。

そのため、早い段階での外科的治療が必要だと考えられています。

【参考情報】『先天性嚢胞性肺疾患』小児慢性特定疾病情報センター
https://www.shouman.jp/disease/details/03_12_014/

1-2.非感染性肺病変

自己免疫疾患などに関連し、肺に嚢胞ができる場合があります。

リンパ球性間質性肺炎、リンパ脈管筋腫症、アミロイドーシスなどがあります。

リンパ球性間質性肺炎(LIP)は、肺の間質(肺胞と肺胞間の空間)にリンパ球(免疫細胞の一種)が異常に増えて炎症を引き起こす病気です。

リンパ脈管筋腫症(LAM)は女性に多く、指定難病になっています。
平滑筋細胞(血管や内臓の壁に多く分布する、収縮力のある細胞)に似た特徴を持つ「LAM細胞」という異常な細胞が、肺やリンパ節、腎臓などで異常に増殖し、リンパ管や小気管支を詰まらせてしまう病気です。

アミロイドーシスとは、臓器に「アミロイド」という異常なタンパク質が沈着する病気です。病変部が肺にある場合は「肺アミロイドーシス」と呼び、気胸や胸痛、息苦しさなどの症状が現れる場合があります。

1-3.感染性肺病変

繰り返す肺炎(特にぶどう球菌性肺炎)や結核、細菌、寄生虫などの感染が原因です。

感染を起こし、炎症が起こると肺に嚢胞ができる場合があります。

1-4.遺伝性肺病変

遺伝性疾患が原因で、肺に嚢胞ができる場合があります。

主な遺伝性の疾患として、神経線維腫症や結節性硬化症などがあげられます。

神経線維腫症は、皮膚の下にできるやわらかいしこりと、平らな斑点(カフェオレ斑)が特徴的な病気です。まれに肺にもこのような神経線維腫が発生することがあり、呼吸困難や咳、胸痛などの症状が現れます。

結節性硬化症は皮膚、中枢神経系、腎臓、心臓などに腫瘍や結節(しこり)が生じる病気です。
肺にできる結節硬化症としては「リンパ脈管筋腫症(LAM)」が代表的で、肺機能の低下や気胸などを引き起こします。

1-5. 腫瘍性

癌などの腫瘍が原因で、肺に嚢胞ができる場合があります。

2.症状


嚢胞が小さいうちは無症状で経過していきます。

胎児診断されるケースもある疾患ですが、出生後も無症状で経過する場合も多いです。

重症の場合は、出生直後から多呼吸や陥没呼吸(息を吸うときに鎖骨の上がへこむような苦しい状態の呼吸)、チアノーゼなどの呼吸困難症状があらわれます。

嚢胞が大きくなってくると、正常な肺が圧迫されて息苦しさや胸の痛みなどを感じるようになります。

また、嚢胞は感染を起こしやすいという特徴があります。

そのため、肺炎を繰り返すことも多く、これをきっかけに診断されるケースもあります。

感染を起こすと、発熱や咳、痰、呼吸困難などの症状があらわれます。

嚢胞が破れた場合は、気胸を起こし、咳や胸の痛み、呼吸困難があらわれ、急激に呼吸状態が悪化します。

◆『肺炎について』>>

【参考情報】『嚢胞性肺疾患』日本小児外科学会
http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/nouhousei-haishikkan#:~:text=%E7%97%87%E7%8A%B6,%E7%97%87%E7%8A%B6%E3%81%8C%E3%81%BF%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

新 呼吸器専門医テキスト 改訂第2版 南江堂

3.検査


先天性嚢胞性肺疾患は、妊婦健診でおこなう超音波検査(エコー)でわかる場合があります。

超音波検査で胎児診断された場合には、重症度や出生後の緊急手術の必要性を判断するために、MRI検査をおこないます。

胎児診断以外では、胸部X線検査やCT検査が主におこなわれる検査です。

胸部X線検査では、嚢胞の大きさや数、位置を確認します。

CT検査では、胸部X線検査よりもさらに詳しい情報を得ることが可能です。

また、嚢胞の性質や周囲組織の状態も確認することができます。

診断のためだけでなく、治療中や治療後も定期的な検査が必要です。

◆『呼吸器内科で行う検査の種類と目的を紹介します』>>

【参考情報】National Institutes of Health『Cystic Lung Disease』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7534033/

4.治療


胎児診断されたケースでも、嚢胞が一時的に大きくなりますが、徐々に縮小していくことがほとんどです。

しかし、嚢胞が大きくなり胎児水腫などを併発する場合、胎児死亡の恐れがあります。

そのような場合は、嚢胞に針を刺して内容物を抜く胎児治療や母体へのステロイド投与などの治療が検討される可能性が高いです。

嚢胞性肺疾患の治療は、病変部分の外科的切除が原則とされています。

ただし、肺炎に伴う後天性の肺嚢胞は、手術の必要性はありません。

また、嚢胞の状態によっては、肺炎の併発に注意しながら経過観察をおこなうケースもあります。

感染症を起こしている場合には、抗菌薬や去痰薬で治療をおこない、呼吸の補助や胸腔ドレナージ(胸腔内に細い管を入れ、溜まった空気や液体を排出すること)などの治療もおこなわれます。

【参考情報】『新生児・乳児の嚢胞性肺疾患』日本周産期・新生児学会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspnm/57/3/57_409/_pdf/-char/ja

5.おわりに

嚢胞性肺疾患とは、さまざまな原因により、肺に嚢胞ができる病気の総称です。

「嚢胞」とは、正常な肺の中には見られない袋状の組織を指します。

「先天性」と「後天性」にわけられ、胎児診断されるケースも少なくありません。

肺嚢胞があっても無症状の場合もありますが、肺炎を繰り返すことも多く、嚢胞が大きくなると正常な肺を圧迫する場合があります。

そのような状態で、治療せず放置すると、呼吸困難を起こしたり癌化したりする可能性もあります。

気になる症状があれば、当院のようなクリニックでは対応できない疾患が多いため、入院設備のある病院の小児科を受診しましょう。