喘息治療に必須の吸入薬の種類、特徴について。市販薬は?

喘息は、気道の炎症が原因となり呼吸を困難にする慢性の病気です。

症状をコントロールし日々の生活を快適に過ごすためには、適切な治療が欠かせません。

その中でもとくに重要なのが「吸入薬」です。

一方で、吸入薬にはさまざまな種類があり、使い方もさまざまで、どのように使えばよいのか不安に思っている方もいらっしゃるでしょう。

この記事では、吸入薬の特徴や選び方、市販薬に関する疑問についてご説明いたします。

正しい知識を身につけて、安心して喘息と向き合えるようになりましょう。

◆『喘息について』>>

1. 市販の吸入薬は存在しない


喘息治療において重要なポイントのひとつは、現時点で市販の吸入薬は存在しないということです。

喘息は長期的な管理が必要な疾患のため、症状が気になる場合は早めに病院を受診することが大切です。

喘息の吸入薬を使用するためには、必ず医師の診断と処方が必要となります。とくに、呼吸器内科での専門的な診断と治療は、症状を効果的にコントロールするために不可欠だといえます。

確かに、気管支喘息に効くとされている市販薬はありますが、これらは一時的に症状を緩和するだけのもので、根本的な治療にはなりません。

たとえば、気管支を広げる成分を含む市販薬です。一方で、その効果は短期的であり、長期的な管理を必要とする喘息の治療には適していません。

喘息の治療では、医師の診断に基づき、患者さんの症状や重症度に応じた薬が選ばれることが必要です。

たとえば、吸入ステロイド薬(ICS)は、気道の炎症を抑える基本的な薬であり、喘息治療の柱となります。また、長時間作用性β2刺激薬(LABA)や長時間作用性抗コリン薬(LAMA)を組み合わせることで、さらに効果的な治療が可能です。

【長時間作用性β2刺激薬・・・気管支平滑筋のβ2受容体を刺激することによって収縮した気管支平滑筋の緊張を和らげる作用をもつ薬剤。】

【長時間作用型抗コリン薬・・・気管支を拡張させて咳や息苦しさなどの呼吸症状を改善する薬。】

これらの薬剤は正しい吸入方法で使用することが重要であり、医師や薬剤師からの指導をしっかり受けることが必要です。

さらに、市販薬を自己判断で使用することは、本来必要な治療を受ける機会を逃してしまうリスクもあります。

喘息を放置すると症状が悪化し、日常生活や仕事に大きな影響を及ぼす可能性があるでしょう。

また、市販薬には副作用やほかの薬との飲み合わせについて、十分な情報が分かりやすく提供されていない場合があります。そのため、自己判断で使うと、からだに悪い影響が出てしまうこともあります。

たとえば、正しい量を守らなかったり、別の薬と一緒に使ったことで思わぬ副作用が起きたりする可能性です。

こうしたリスクを避けるためにも、適切な治療を受けることが大切です。また、市販の鎮咳薬の中には、コデインの成分が含まれているものもあり、コデインによって強い鎮咳効果が得られる一方で、コデインによる喘息悪化の危険性があります。

繰り返しになりますが、喘息は、適切な治療と長期的な管理によって症状をコントロールできる疾患です。

市販薬に頼るのではなく、医師の診断に基づいた治療を受けることで、安心して日常生活を送ることができます。不安や疑問があれば、早めに専門医に相談することが最善の選択だと言えるでしょう。

2. 喘息の吸入薬の種類について


喘息の吸入薬は、大きく分けて2種類あります。

それは「長期管理薬(コントローラー)」と「発作治療薬(リリーバー)」です。

それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。

2-1. 長期管理薬(コントローラー)

長期管理薬は、喘息の症状をコントロールし、発作を予防するために使用される薬剤です。

気道の炎症を抑えることで喘息症状の改善を図ります。

長期管理薬の主な特徴は以下の通りです。

・毎日定期的に使用する必要があります。
・症状がなくても継続して使用することが重要です。
・効果が現れるまでに時間がかかる場合があります。

長期管理薬にはいくつかの種類がありますが、とくに重要なのが吸入ステロイド薬です。

気道の炎症を直接抑えることで、喘息症状をコントロールします。

吸入ステロイド薬は、喘息治療の中心的な役割を担い、単独で使用されることもありますが、ほかの薬と組み合わせることが多いです。

たとえば、長時間作用性β2刺激薬(LABA)は、気道を広げて呼吸をしやすくする効果があり、吸入ステロイド薬と一緒に処方されることがあります。また、抗コリン薬も気道を拡張する薬で、必要に応じて組み合わせて使われます。

これらの薬は、それぞれ異なる働きを持ちながら、組み合わせることで喘息症状をより効果的に抑えることができるのです。

これらの長期管理薬を適切に使用することで、多くの場合、喘息症状を大幅に軽減し、日常生活への影響を最小限に抑えることが可能です。

また、長期管理薬は慢性的な炎症状態を改善するためにも重要です。

慢性的な炎症状態が続くと気道過敏性が増し、小さな刺激でも発作につながる可能性があります。

そのため定期的かつ継続的な使用によって炎症を抑え込み、その後発作自体も減少させることが期待できます。

さらに、このような長期管理薬は、副作用のリスクも低い場合が一般的です。

ただし、吸入薬も完全に副作用がないわけではありません。副作用については、詳しく第3章でご説明いたします。

長期管理薬は喘息のコントロールに不可欠ですが、患者さんと医療従事者が協力して、効果と副作用のバランスを慎重に管理することが重要です。

2-2. 発作治療薬(リリーバー)

発作治療薬(リリーバー)は、喘息発作が起きたときや症状が悪化した際に使用する薬剤です。

速やかに気管支を広げ、呼吸を楽にする即効性が期待できます。

発作治療薬の主な特徴は以下の通りです。

・発作時や症状悪化時に使用します。
・効果の発現が早く、即効性があります。
・短時間で効果が現れますが持続時間は比較的短いです。
・過度に使用すると副作用リスクが高まるため注意が必要です。

発作時や症状が悪化した際に使用し、短時間で効果を発揮しますが、持続時間は比較的短いため、長時間の症状管理には適していません。

また、使用頻度が多すぎると心拍数の増加や手足の震えといった副作用が現れるリスクが高まるため、適切な使用が重要です。

代表的な発作治療薬として、短時間作用性β2刺激薬(SABA)が挙げられます。

短時間作用性β2刺激薬は気管支を素早く拡張させる効果があり、一般的に「救急用」として位置づけられています。

そのため、リリーバータイプの薬剤のみでは喘息の根本的な治療にはなりません。

治療には、日常的に長期管理用の薬剤(コントローラー)と併用することが大切です。

長期管理用の薬剤を継続的に使用しつつ、発作が起きたときのために外出時にリリーバータイプの薬剤を携帯することが安心感につながります。

また、発作治療薬にはさまざまな種類や製品があるため、ご自分に合ったものを選ぶことも大切です。製品ごとに特徴や使用感が異なる場合があるため、医師や薬剤師に相談しながら選択しましょう。

また、発作治療薬には新しい製品が次々と登場しているため、最新の情報に目を向けることも重要です。

「今使っている薬が本当に自分に合っているのか」「もっと効果的な選択肢があるのではないか」といった疑問があれば、遠慮せず医師や薬剤師に相談してください。ご自分に合った薬を見つけることで、発作時にも落ち着いて対処できる安心感が得られます。

発作治療薬を正しく使うことは、喘息症状をうまくコントロールし、生活の質を向上させるための大切な方法です。

万が一の備えとして持ち歩き、使い方や効果をしっかり把握しておくことで、発作が起きても慌てず対応できるようになるでしょう。

【参照文献】環境再生保全機構『治療 ぜん息の薬』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/medicine.html

3. 喘息吸入薬の副作用


喘息吸入薬は、全身への影響を最小限に抑えながら気道に直接作用するため、副作用は比較的少ないとされています。しかし、完全に副作用がないわけではありません。

主な副作用は以下の通りです。

・口腔カンジダ症(口内カビ感染):口の中にカビが繁殖し、白い斑点や痛みを伴うことがあります。
・声枯れ:声がかすれたり、出しにくくなったりすることがあります。
・喉の違和感や咳:喉に刺激を感じる場合があります。

これらの副作用を防ぐためには、吸入後に必ずうがいをすることが重要です。

水で口をすすぎ、残留した薬剤を取り除くことで、口腔や喉への影響を最小限に抑えられます。

吸入薬を使用した後は、以下の方法でうがいを行いましょう。

1. 適量の水を口に含みます。
2.ガラガラうがいを約5秒間行います。
3.次にクチュクチュうがいを約5秒間行います。

合計で約10秒間のうがいを目安にしてください。この手順を毎回実施することで、口腔内に残留した薬剤を取り除き、副作用の予防につながります。

もし、うがいが難しい場合は、以下の方法で代替することが可能です。

・飲み物で口を軽くゆすいで飲み込む。
・食前に吸入薬を使用し、食事とともに残留薬剤を体内に取り込んで分解させる。
・吸入前に口を湿らせる。
・つばを吐き出す。

発作治療薬(リリーバー)は、即効性が高い一方で、過剰な使用による副作用が懸念されます。主な副作用は次の通りです。

・動悸:心拍数が増加し、ドキドキと感じることがあります。
・手足の震え:筋肉が震えるような感覚を覚える場合があります。
・頭痛:軽い頭痛が現れることがあります。
・筋肉けいれん:筋肉がつるような不快感を感じることがあります。

これらの副作用は通常、軽度で一時的なものですが、使用頻度が多い場合や過剰量を使用した場合に強く現れることがあります。

喘息の発作時には焦りがちですが、冷静に適切な使用量を守ることが大切です。

発作が頻繁に起きる場合は、リリーバーの使用に頼りすぎず、長期管理薬の見直しが必要な場合もあるので、必ず医師に相談しましょう。

喘息吸入薬を正しく使い副作用を最小限に抑えることで、快適な日常生活を維持していきましょう。

4. 喘息吸入薬のデバイス(吸入器)の特徴とは


喘息治療で使用される吸入デバイスにはさまざまな種類があります。

喘息用吸入薬を効果的に使用するためには適切なデバイス(吸入器)の選択と正しい使用方法が非常に大切です。ここでは主なデバイスについてご説明します。

4-1. ディスカス、エリプタ、タービュヘイラー

ディスカス、エリプタ、タービュヘイラーは、いずれもドライパウダー式の吸入薬を使用するデバイスです。

それぞれに異なる特徴があり、使い方を正しく理解することが重要です。

【ディスカス】
ディスカスは円盤型のデザインが特徴で、側面にあるレバーを操作することで1回分の薬を準備します。

残量確認用のカウンターが付いているため、薬の残りを一目で確認できます。薬剤は粉末状で、吸入力によって肺に届ける仕組みのため、正しい吸入テクニックを習得することが大切です。

また、使用後には口腔内に残った薬剤を取り除くため、必ずうがいを行いましょう。

【エリプタ】
エリプタは操作が非常に簡単なデバイスで、カバーを開閉するだけで1回分の薬が準備されます。残量確認用カウンターが付いており、薬の管理がしやすい設計です。

シンプルで使いやすいことから、とくに操作性を重視する方におすすめです。使用後にはうがいが必要なので忘れずに行いましょう。

【タービュヘイラー】
タービュヘイラーは小型で持ち運びに便利なデバイスです。

ダイヤルを回転させて薬を準備する仕組みになっており、残量確認用のカウンターも備えています。

ほかのデバイスと同様、吸入力によって薬を肺まで届けるため、正しい吸入方法を習得することが求められます。使用後のうがいも欠かさず行ってください。

これらのデバイスを効果的に使用するためには、患者さんご自身が正しい操作方法と吸入テクニックを習得することが重要です。

医師や薬剤師から指導を受けながら練習を重ねることで、適切な吸入ができるようになります。使い方を事前にしっかり確認し、自宅でリラックスした環境で練習しましょう。

また、お子さまが使用する場合は、保護者の方がサポートし一緒に練習することが大切です。

4-2. ブリーズヘラー、ハンディヘラー

ブリーズヘラーとハンディヘラーは、いずれもカプセルタイプのドライパウダー式吸入デバイスです。

それぞれの操作方法と特徴を見てみましょう。

【ブリーズヘラー】
カプセルをデバイスに装填し、ボタンを押してカプセルに穴を開けます。

吸入時に「音」が鳴るため、吸えているかどうかを確認しやすい仕様です。

使用後はカプセルを取り出し残量を確認します。口腔内に残留した薬剤を取り除くため、必ずうがいを行いましょう。

【ハンディヘラー】
ブリーズヘラーと同様に、カプセルを装填し、ボタンを押してカプセルに穴を開けます。

吸引時に音が鳴ることで、吸入の状態を把握できます。

使用後はカプセルを取り出して残量を確認します。こちらも使用後にはうがいが必要です。

4-3. レスピマット、エアゾール

レスピマットとエアゾールは液体薬剤を霧化して吸入するタイプのデバイスで、それぞれ異なる特徴を持っています。

【レスピマット】
ゆっくり深く吸入することで効果的に薬剤を取り込めます。

薬剤のロスが少なく、肺への到達率が高いのが特徴です。

電池や推進剤を使用しないため、環境に配慮された設計になっています。

使用後には必ずうがいを行い、口腔内の薬剤を取り除くようにしてください。

【エアゾール】
吸入の際、薬剤が噴霧されるタイミングに合わせる必要があります。

スペーサー(吸入補助器具)を使用することで、より効果的に吸入できるため、とくに初心者やお子さまにはおすすめです。

コンパクトサイズで持ち運びに便利な点が特徴です。使用後にはうがいを忘れずに行いましょう。

エアゾールタイプは、吸入のタイミングにコツが必要な場合もあるため、スペーサーの利用を検討することで使いやすさが向上します。

どちらのデバイスも正しい使い方を習得し、ご自分に合った方法で使用することで、治療効果を最大化できます。

5. おわりに

現時点で市販の喘息吸入薬はありません。治療には医師の診断と適切な吸入薬の使用が不可欠です。

市販薬は一時的な緩和に過ぎず、根本治療にはならない点に注意しましょう。

早めの受診と定期的なフォローアップで、症状の改善と生活の質向上が可能です。

【参考情報】Mayo Clinic “Asthma medications: Know your options”
https://health.clevelandclinic.org/thrush-the-white-stuff-growing-in-your-mouth-and-how-to-get-rid-of-it

◆『呼吸器内科でわかることとは? 受診の目安と一般内科との違い』>>

◆『呼吸器内科受診の目安』>>

◆『喘息治療のゴールについて』>>