喘息と診断された人向け  ~喘息と上手につきあうために知っておきたいこと~

喘息は気道の慢性的な炎症による病気です。

適切な治療と自己管理により発作をおさえ、症状をコントロールできます。

この記事では、喘息の原因や治療法、日常生活での注意点など、喘息と上手につきあうためのポイントをご説明いたします。

1.喘息の原因とは?


喘息の原因は複雑で、さまざまな要因が関係しています。主な原因は、アレルギー反応と気道の過敏性です。

アレルギー反応は、からだが特定の物質(アレルゲン)を異物と認識し、過剰に反応することで起こります。

喘息の場合によくみられるアレルゲンは、ハウスダスト、ダニ、ペットの毛や皮屑、花粉、カビなどです。

これらの物質を吸い込むことで、気道に炎症が起こり、喘息症状が引き起こされます。

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気道の過敏性は、気道が通常よりも敏感になっている状態のことです。

過敏になっている気道はタバコの煙、強い香り、冷たい空気、運動などの刺激に対して過剰に反応し簡単に狭くなってしまいます。

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また、遺伝的な要因も喘息の発症に影響を及ぼすと考えられています。家族に喘息を持つ方がいる場合、その影響で喘息を発症するリスクが高まる可能性があります。

さらに、大気汚染や職業上の化学物質への暴露、ストレス、肥満なども喘息の発症や悪化に関与する可能性があるといえます。

喘息の原因は複数の要因が組み合わさっていることも多いため、ご自分の喘息の引き金となる要因を把握することが重要です。

【参照文献】 日本呼吸器学会『C-01 気管支ぜんそく』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html

【参考情報】National Library of Medicine “Sensitization and exposure to pets”
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5756688/

2.喘息にはどんな治療がある?


喘息の治療は、症状をコントロールし、発作を予防することが目的です。日常生活をより快適に過ごせるように、薬の使い方や生活習慣の工夫が重要になります。

主な治療法には、薬物療法、自己管理、心肺機能の向上や自律神経のバランスを整える方法などがあります。

薬物療法は喘息治療の中心です。主に使われる薬には、次のようなものがあります。

長期的に症状を抑える薬(コントローラー)

・吸入ステロイド薬:気道の炎症を抑える基本的なお薬です。

・長時間作用型β2刺激薬(LABA):気管支を長時間にわたって広げ、呼吸を楽にします。

・ロイコトリエン受容体拮抗薬:気道の炎症を抑えながら、気管支を拡張する効果があります。

発作を和らげる薬(リリーバー)

・短時間作用型β2刺激薬:発作が起きたときに即効性があり、気管支拡張効果で呼吸を楽にします。

喘息を上手にコントロールするためには、ご自分で日々の体調をチェックすることも大切です。以下のポイントを心がけましょう。

・呼吸の状態を確認する:ピークフローメーターを使って、呼吸の状態をチェックします。

・症状や薬の使用記録をつける:いつ症状が出たのか、どの薬を使ったのかをメモしておくと、治療の参考になります。

また、からだ全体の健康を高めることも喘息のコントロールに役立ちます。具体的には以下のようなものです。

・適度な運動:水泳やウォーキングなど、無理のない範囲で有酸素運動を取り入れましょう。

・呼吸法の練習:腹式呼吸やゆっくりした深呼吸を行うことで、リラックス効果も期待できます。

・ストレス管理:ストレスは喘息を悪化させることがあります。瞑想やヨガなど、ご自分に合った方法で心を落ち着ける時間を作りましょう。

3.喘息の悪化を防ぐためにできること


喘息の悪化を防いだり、発作をおさえたりするために、日常生活でさまざまな工夫を取り入れることができます。

まず、外出時や空気が悪い環境ではマスクの着用を心がけましょう。

マスクを使うと、花粉やほこり、冷たい空気などの刺激物質を吸い込む量を減らすことができます。

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また、天気予報をチェックして、気温や湿度の急激な変化、台風や黄砂が予想される日はとくに注意が必要です。

これらは喘息を悪化させる可能性があるため、外出を控えたり、外出する際はマスクを着用したりするなど、適切な対策を取りましょう。

室内の環境を整えることも喘息悪化を防ぐために効果的です。

湿度を50〜60%に保ち、こまめな換気を心がけることでカビの発生を抑えることができます。浴室やキッチンなど湿気の多い場所は定期的に清掃し、観葉植物の管理にも気を付けましょう。

また、ハウスダストやダニを減らすために、掃除機をかける習慣をつけることも大切です。

寝具は定期的に日光消毒し、シーツは週1回以上交換するのが理想です。カーペットやぬいぐるみは最小限にとどめ、アレルゲンが溜まりにくい環境を作ることを意識しましょう。

さらに、喫煙や受動喫煙を避けることは非常に重要です。

タバコの煙は喘息を悪化させる強力な刺激物質のひとつなので、喫煙者は禁煙を検討し、周囲の協力も求めましょう。

規則正しい生活リズムを心がけることは、喘息の症状を安定させるためにとても大切です。

睡眠不足やストレスは喘息の症状を悪化させることがあります。十分な睡眠をとり、ストレスをため込まないようにすることが大切です。

たとえば、軽いウォーキングや深呼吸を意識したリラックス法など、ご自分に合った方法で心身の健康を保つことを心がけてください。

また、処方された薬を医師の指示通りに服用することも、喘息の悪化を防ぐうえで欠かせません。症状が安定していても、自己判断で薬の服用を中止するのは避けましょう。

喘息患者さんの中には、症状が軽快すると治療を自己判断で中止される方がおられます。

この行為は、気道のリモデリング進行を起こし、症状再発時に治療薬が効きづらくなり、ひいては喘息の悪化を招きますので、自己判断での中止はやめていただくようお願いいたします。そして、定期的に通院し、治療計画を見直すことも重要です。

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4.喘息発作が起きたら…


喘息発作が起きた場合は、落ち着いて適切な対処をすることが重要です。

まず、発作の程度を把握することが必要です。軽度から中等度の発作の場合、以下の手順で対処しましょう。

1. 安全な場所に移動し、楽な姿勢をとる
座位や前かがみの姿勢で、肘を膝について上体を支えると呼吸が楽になります。

2. ゆっくりと深呼吸を心がける
口をすぼめて、ゆっくりと息を吐き出すことで、気道を開きやすくなります。

3. 発作治療薬(リリーバー)を使用する
医師から処方された短時間作用型β2刺激薬などを使用します。

4. 水分を摂取する
喉が渇いている場合は、水を飲むことで粘液を薄める効果があります。

5. 周囲の環境を整える
可能であれば、発作の引き金となる要因から離れましょう。

6. 15〜20分様子を見る
薬の効果が現れるまでしばらく待ちます。

しかし、以下のような症状がある際は「大発作」の可能性があり、危険な状態です。

・呼吸が非常に苦しく、会話が困難
・唇や爪が青白くなる
・発作治療薬を使用しても症状が改善しない、または急速に悪化する

このような場合は、すぐに救急車を呼んでください。自己判断で様子を見ることは危険です。

また、発作が収まったあとも油断せず、以下のことに注意しましょう。

・24時間程度は安静に過ごす
・水分を十分に摂取する
・発作の引き金となった要因を記録し、医師に報告する
・次の定期受診まで待たずに、早めに医療機関を受診する

喘息発作は突然起こることがあります。常に発作治療薬を携帯し、周囲の方にも喘息であることを伝えておくことが大切です。

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5.日常生活で知っておきたいこと


ここからは、喘息管理に役立つ日々の工夫や知っておくべき情報についてご説明します。

5-1.旅行での注意点は?

喘息の方の旅行は、事前の準備と旅行中での注意が大切です。

まず、薬の準備が最も重要です。以下のことに注意しましょう。

・普段使用している薬(長期管理薬と発作治療薬)を十分な量持参する
・予備の薬も用意する(紛失や破損に備えて)
・薬は手荷物に入れ、常に身近に置く
・処方箋のコピーや英文の診断書を持参する(海外旅行の場合)

次に、旅行先の環境について事前に調べておくことも必要です。

・目的地の気候や花粉情報をチェックする
・高地や寒冷地への旅行は喘息を悪化させる可能性があるため、主治医に相談する
・宿泊先の環境(禁煙ルームの有無、ペットの受け入れ状況など)を確認する

また、旅行中は、喘息を悪化させないために以下のようなことに注意しましょう。

まず、機内や車内など乾燥しやすい環境では、マスクを着用して喉や気道を保護し、こまめに水分を摂ることが大切です。

長時間移動する場合は、定期的にからだを動かしたり、深呼吸をしたりして気道をリラックスさせることを忘れないようにしましょう。

旅行先でも規則正しい生活リズムを保つよう意識し、十分な休息を取ることが症状の安定につながります。新しい食べ物を試す際には、アレルギーの可能性がないか十分に確認してから食べることが大切です。

とくに海外旅行では、次のような事前の準備が重要です。

渡航先の医療情報を調べ、近くの病院や薬局の場所を確認しておきましょう。また、旅行保険に加入する際には喘息の既往歴を正確に申告することが必要です。

現地での緊急時に備えて、「喘息です」「薬が必要です」といったフレーズを現地の言葉で覚えておくと安心です。

5-2.ペットを飼っている場合は?

喘息の方がペットと暮らす場合、症状の悪化を防ぐために特別な注意が必要です。

まず、掃除を徹底することが重要です。

・毎日掃除機をかけ、とくにペットがよく過ごす場所は入念に清掃する
・高性能の空気清浄機を使用し、定期的にフィルターを交換する
・ペットの毛やフケが付着しやすいカーペットやソファは、可能であれば取り除くか、頻繁に洗濯や掃除をする
・寝具は週に1回以上洗濯し、ペットを寝室に入れないようにする

次に、ペットのケアも大切です。

・定期的にブラッシングを行い、抜け毛を減らす(できれば屋外で行う)
・ペットを定期的に洗う
・ペットの爪を短く保ち、引っかき傷を防ぐ

また、生活空間の工夫も効果的です。

・ペットの立ち入り禁止エリアを設ける(寝室や書斎など)
・ペット用のベッドや遊び場を決め、その周辺を重点的に清掃する
・換気を十分に行い室内の空気を清浄に保つ

さらに、以下のような対策も考えられます。

・アレルゲン除去スプレーを使用する
・ペットにアレルゲン低減フードを与える(獣医師に相談の上)
・家族や同居人の協力を得て、ペットの世話を分担する

ただし、これらの対策を行っても症状が改善しない場合や、重度の喘息やアレルギーがある場合は、ペットとの同居を再考する必要があるかもしれません。

その場合は、主治医とよく相談し、適切な判断をすることが大切です。

また、新しくペットを迎える予定がある場合は、事前に動物アレルギーの検査を受けることをおすすめします。また、アレルギー反応の少ない犬種や猫種を選ぶこともひとつの選択肢です。

5-3.妊娠した場合は?

喘息のある女性が妊娠した場合、適切な管理と治療の継続が母体と胎児の健康のために非常に重要です。

まず、喘息の女性も妊娠・出産することは十分に可能です。適切な治療を続けることで、健康な妊娠期間を過ごし、安全に出産できます。

妊娠中の喘息管理で最も重要なのは、症状のコントロールを維持することです。

喘息が適切にコントロールされていない場合、妊娠合併症のリスクが高まる可能性があります。そのため、以下のことに注意しましょう。

・定期的に主治医を受診し、症状や薬の使用状況を報告する
・処方された薬を医師の指示通りに継続して使用する
・自己判断で薬の使用を中止しない

多くの吸入ステロイド薬や気管支拡張薬は、適切な用量で使用すれば妊娠中も安全とされています。

赤ちゃんへの影響を心配して薬の使用をためらう方もいますが、喘息をコントロールせずに放置することの方が、母体と胎児の両方にとってリスクが高くなります。

また、妊娠中は体調の変化により喘息症状が変わることがあります。

約3分の1の女性で症状が改善し、3分の1で悪化、残りの3分の1では変化がないといわれています。そのため、症状の変化に注意を払い、変化があれば速やかに医師に相談することが大切です。

授乳中の薬の使用については、医師と相談して適切な選択をしましょう。喘息治療薬の多くは、授乳中の使用でも特に問題ないものが多いです。

産後は、環境の変化や睡眠不足などがストレスとなり、喘息症状に影響を与える可能性もあるため、周囲のサポートを得ながら、十分な休息をとることも大切です。

◆『喘息の女性が妊娠中に気になる不安と疑問』>>

5-4.喘息のお子さまが幼稚園や保育園に入る場合は?

喘息のお子さまが入園する際には安全と健康を守るために、保護者と園側の密接な連携が重要です。

まず、園側に喘息について正確に情報を伝えましょう。

・お子さまの喘息の程度や症状の特徴
・普段の薬の使用状況
・アレルゲンや喘息の引き金となるもの
・発作が起きた時の対処法

とくに、発作が起きた時の対処法については、園の先生方に詳しく説明し、必要であれば実際に薬の使用方法などをデモンストレーションすることも有効です。

また、園側に以下のような配慮をお願いすることも検討しましょう。

・室内の清掃や換気の徹底
・アレルゲンとなる可能性のある植物や動物との接触に注意を払う
・運動や外遊びの際の見守りを強化する
・喘息発作時の対応手順を確認し、全職員で共有する

遠足などの行事については、事前に内容を確認し、必要な対策をすることが重要です。

・行き先の環境(花粉の多い場所や動物との接触など)を確認する
・必要な薬を持参し、使用方法を引率の先生に説明する
・長時間の移動がある場合は、休憩時の対応を相談する

花火など煙が発生する行事については、主治医と園側に相談し、お子さまの参加の可否や注意点を確認しましょう。場合によっては、代替活動を提案することも考えられます。

さらに、お子さまの自己管理能力を育てることも大切です。年齢に応じて、以下のようなことを教えていきましょう。

・自分の体調の変化に気づき、先生に伝える
・薬の必要性を理解し、決められた時間に服用する
・アレルゲンや喘息の引き金となるものを避ける

また、園の友達や先生に対して、お子さま自身が喘息について説明できるよう支援することも大切です。これにより、周囲の理解が深まり、適切なサポートを受けやすくなります。

定期的に園と情報交換を行い、お子さまの状態や園での様子を共有することも大切です。また、喘息の状態に変化があった場合は、速やかに園に伝えましょう。

6.おわりに

喘息は完治が難しい病気ですが、適切な治療と自己管理を続けることで、喘息でない方と変わらない生活を送ることが可能です。

喘息の管理において最も重要なのは、継続的な治療と自己管理です。薬を正しく使用し、定期的に医療機関を受診することで、症状をコントロールし、生活の質を維持・向上させましょう。

喘息があっても、適切な対策で、旅行やペットとの生活、妊娠・出産、お子さまの園生活など、さまざまな生活シーンを楽しむことができます。

◆『喘息治療のゴールについて』>>