咳がでる!咳止め薬は市販薬?処方薬?

咳はからだを守る重要な防御反応のひとつです。
気道に入った異物や痰をからだの外に排出し、呼吸器系を正常に保つ役割があります。
しかし、長引く咳は日常生活のさまざまな場面で支障をきたし、体力を消耗させてしまいます。
例えば、睡眠を妨げたり、仕事や学業に集中できなくなったりすることもあるでしょう。
そんなときの咳止め薬は、市販薬か処方薬のどちらを選ぶべきか迷われることも多いのではないでしょうか。
この記事では、咳止め薬の選び方や使用上の注意点についてご説明いたします。
1.市販薬と処方薬は何が違う?
咳止め薬には大きく分けて、市販薬と処方薬の2種類があります。ここからは、それぞれの特徴や違いについて、詳しく見ていきましょう。
1-1.市販の咳止め薬
市販の咳止め薬とは、「医師の処方箋なしで購入できる薬」のことを指します。
ドラッグストアやコンビニエンスストア、薬局などで手軽に入手できるため、多くの方に利用されています。
市販薬の最大の特徴は「手軽さ」です。
医療機関での診察を受けることなく、近くの薬局やドラッグストアで購入できるため、時間や手間を節約できます。
とくに、夜間や休日など医療機関が開いていない時間帯に症状が出た場合には、非常に便利です。
軽度の症状であれば、すぐに対処できるという利点もあります。
また、市販薬の咳止めにはさまざまな剤形があり、ご自分に合ったものを選ぶことができます。
例えば、錠剤やカプセル剤は持ち運びに便利で、外出先でも服用しやすいです。水なしでも飲める口腔内崩壊錠もあり、急な咳にも対応できます。
液剤は飲みやすく、のどの痛みを和らげる効果も期待できます。
顆粒タイプの薬もあります。水なしでも服用できるものもあるため、錠剤やカプセルを飲み込むのが難しい方にもおすすめです。また、急な咳に対応しやすいという利点があります。
市販の咳止め薬には、複数の成分が含まれています。以下のようなものが、主な成分です。
【咳を抑える成分】
・デキストロメトルファン
・ノスカピン
・チペピジン
・ジヒドロコデインリン酸塩(麻薬系で効果が強い)
【痰を出しやすくする成分】
・l-メチルエフェドリン塩酸塩(気管支を広げる作用もある)
【アレルギー症状を抑える成分】
・ジフェンヒドラミン塩酸塩
【炎症を抑える成分】
・トラネキサム酸
これらの成分は、ひとつの市販薬に複数組み合わせて含まれていることが多いです。
例えば、ある商品には成分1と成分2が、別の商品には成分1と成分3と成分4が含まれているといった具合です。
これは、より多くの方の症状を緩和するために、幅広く効果的な複数の成分を組み合わせるという考えで作られているためです。
しかしながら、市販薬にはデメリットもあります。
そのひとつが、適切な治療を受ける機会を逃してしまう可能性があるということです。
咳の症状はさまざまな病気のサインである可能性があります。原因を追求せずに市販薬で症状を抑えてしまうことで、重大な病気の発見が遅れてしまう危険性があるのです。
例えば、肺炎や気管支炎、喘息などの病気です。これらの疾患は早期発見・早期治療が重要ですが、市販薬での対応により初期症状としての咳を見逃す可能性があります。
また、ジヒドロコデインリン酸塩は、喘息患者さんの病状を悪化させてしまう危険性を有しております。
また、市販薬は多くの方に効果があるように作られているため、それぞれの症状に最適化されているわけではありません。
そのため、効果が不十分だったり、逆に不必要な成分が含まれていたりする可能性があります。
以下に、主な咳止めの市販薬をご紹介いたします。
・パブロンエースPro
風邪の諸症状に効果を示す総合感冒薬の一種です。咳止め成分としてジヒドロコデインを含んでおり、咳を抑える効果が期待できます。ただし、ジヒドロコデインリン酸塩は、喘息患者さんの病状を悪化させてしまう危険性を有しております。
また、痰を出しやすくする成分も配合されているため、咳と痰の両方に作用します。
ただし、多くの成分が含まれているため、副作用のリスクにも注意が必要です。
・プレコール
咳止め成分により特化した配合になっています。主成分のデキストロメトルファンは、特に乾いた咳に効果的です。
また、アレルギー性の咳を抑える成分も含まれているため、さまざまな種類の咳に対応できる可能性があります。
1日2回の服用で効果を示すため、服用回数が少なくて済むのも特徴です。
・麦門冬湯
漢方薬に分類される咳止め薬です。
気道の潤いを促進することで咳を抑える効果があると考えられています。粉薬だけでなく錠剤タイプもあるため、服用しやすさを選べるのが特徴です。
・メジコンせき止め錠Pro
非麻薬性の咳止め薬で、咳の中枢に直接作用して症状を抑えます。デキストロメトルファンを主成分としており、つらい咳の症状に効果を発揮します。この薬剤に関しては、医師が処方箋で処方する咳止め薬に近い効果が期待されます。
これらの市販薬は、それぞれ特徴が異なるので、ご自分の症状や体質に合わせて選ぶことが大切です。そのため、薬剤師や登録販売者に相談するといいでしょう。
ただし、2週間以上咳が続く場合や、高熱を伴う場合、血痰が出る場合などは、市販薬での対処は適切ではありません。
そのような場合は、速やかに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることを検討しましょう。
1-2.処方された咳止め薬
一方、処方薬は「医師の診察を受けたうえで処方される薬」です。
処方薬の最大の特徴は、患者さん一人ひとりの症状や体質に合わせて、適切な薬が選ばれることです。
処方薬には、市販薬にはない強い効果を持つ成分が含まれていることがあります。
また、薬の種類も豊富で、錠剤や液剤だけでなく、吸入薬や貼り薬なども処方されることがあります。これらの薬剤は、より効果的に症状を改善できる可能性があります。
処方薬を受け取るためには、必ず医師の診察を受ける必要があります。
この過程で、医師は問診や身体診察、必要に応じて検査を行い、咳の原因を突き止めます。
これにより、単なる風邪による咳なのか、それとも喘息や気管支炎などの別の病気が原因なのかを見極めることが可能です。
医師は患者さんの年齢、体重、既往歴、現在服用中の薬などを考慮して、最適な薬を選択します。
また、副作用のリスクや他の薬との相互作用についても十分に検討したうえで処方を行います。
早期に適切な診断を受けられることは、処方薬の大きなメリットのひとつです。症状が改善しない場合や悪化した場合にも、迅速に対応できます。
また、定期的な診察を受けることで、治療の経過を適切に管理することができます。
しかし、処方薬には優れた点が多くありますが、いくつかの課題もあります。まず、処方薬を入手するためには医療機関への受診が必要です。日々の仕事や学業に追われている方にとって、時間的な制約は大きな負担となる可能性があります。
また、医療機関によっては待ち時間が長くなることもあり、急な症状で即座に薬が必要な場合には不便を感じることがあるでしょう。
経済面での考慮も必要です。診察料、検査料、薬代などの医療費が発生するため、症状が軽度の場合は市販薬での対処を選択する方もいらっしゃるかもしれません。
これらの点を踏まえると、症状の程度や患者さん個人の状況に応じて、処方薬と市販薬を適切に使い分けることが大切だと言えるでしょう。
軽度の症状であれば市販薬で対処し、症状が改善しない場合や重症化が疑われる場合には迷わず医療機関を受診するという判断が求められます。
【参照文献】厚生労働省『濫用等の恐れがある医薬品について』
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001062520.pdf
2.処方薬最大のメリットとは
処方薬の最大のメリットは、前述のとおり医師が患者さんの症状に合わせて適切な薬を処方できることです。これは、市販薬にはない大きな利点です。
医師は診察を通じて、患者さんの症状の詳細や、これまでの病歴、生活習慣などを総合的に判断します。
必要に応じて、血液検査やレントゲン検査、肺機能検査などを行うこともあります。これらの情報を基に、医師は咳の原因を特定し、最も効果的な治療法を選択します。
例えば、単純な風邪による咳であれば、症状を和らげる薬を処方します。
一方、喘息が原因の咳であれば、気管支を広げる薬や炎症を抑える薬を処方することになるでしょう。
また、アレルギー性の咳であれば、抗アレルギー薬が効果的だといえます。
◆『咳が止まらないのはなぜ?アレルギーが原因かもしれません』>>
慢性閉塞性肺疾患(COPD)による咳の場合は、気管支拡張薬や抗炎症薬が処方されることがあります。
このように、処方薬は患者さんの状態に合わせて選択されるため、より効果的な治療が期待できます。市販の咳止め薬では対応できない、複雑な原因による咳にも対処できるのです。
さらに、医師の診察を受けることで、咳以外の潜在的な健康問題を発見できる可能性もあります。
例えば、長引く咳が肺炎や気管支炎の初期症状である場合、早期発見・早期治療につながります。
また、咳が心臓病や胃食道逆流症のサインである場合もあり、これらの疾患を見逃さずに適切な治療を開始できる可能性が高まります。
また、喫煙者の方の場合、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリスクが高いことが知られています。医師の診察を受けることで、このような重大な疾患の検査も同時に行うことができます。
慢性閉塞性肺疾患は早期発見・早期治療が重要な疾患です。早期の適切な管理により症状の進行を遅らせることができるでしょう。
処方薬のもうひとつの大きなメリットは、副作用のリスク管理です。
医師は患者さんの体質や既往歴、現在服用中の薬などを考慮して、副作用のリスクを最小限に抑えつつ効果的な治療を行うことができます。
また、定期的な診察を通じて、副作用の有無をモニタリングし、必要に応じて薬の調整を行うことができます。
3.処方薬と市販薬の大きな違いとは
処方薬と市販薬の最も大きな違いは、成分と効果の強さです。
市販薬は、多くの方の症状を緩和できるように設計されています。
そのため、複数の成分が含まれていることが多く、必ずしも全ての患者さんに全部の成分が必要というわけではありません。
例えば、市販の咳止め薬に含まれる「ジフェンヒドラミン塩酸塩」という成分は、抗ヒスタミン作用を持つ成分で、主にアレルギー症状の緩和に使用されます。
しかし、全ての咳がアレルギーによるものではないため、この成分が必ずしも全ての患者さんに必要というわけではありません。
また、この成分には眠気を引き起こす副作用があるため、日中に服用すると仕事や運転に支障をきたす可能性があります。
一方、処方薬は医師が患者さんの症状や体質を考慮して選択するため、不必要な成分を含まないように調整されています。これにより、副作用のリスクを最小限に抑えつつ、最大限の効果を得ることができます。
また、市販薬は安全性を重視して作られているため、その効果は比較的穏やかである場合が多いです。
重症の咳や、特定の疾患に起因する咳には効果が不十分な場合があります。
処方薬は、必要に応じてより強力な成分を含むことができるため、このような場合にも適切に対応できます。
さらに、処方薬には市販薬にはない剤形があります。
例えば、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療に用いられる吸入薬は、処方薬でしか入手できません。これらの薬剤は、直接気道に作用するため、より効果的に症状を改善することができます。
処方薬のもうひとつの大きな利点は、医師による経過観察です。
医師は定期的な診察を通じて、薬の効果や副作用をモニタリングし、必要に応じて薬の種類や用量を調整します。これにより、より安全で効果的な治療を継続することができます。
一方、市販薬を使用する場合は、自己判断で薬を選択し、使用することになります。
そのため、適切な薬を選べなかったり、用法・用量を誤ったりするリスクがあります。
また、症状が改善しない場合や悪化した場合の判断も、自己責任で行わなければなりません。
【参照文献】環境再生保全機構『「もしかしてぜん息?」と思っている方へ』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/check.html
【参考情報】Mayo Clinic 『COPD』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/copd/symptoms-causes/syc-20353679
4.市販薬は効果が弱い?
市販薬の効果が弱いと感じる方は少なくありません。しかし、これは必ずしも市販薬自体の効果が弱いということではありません。
むしろ、自己判断で選んだ薬がご自分の症状に合っていない可能性も考える必要があります。
咳にはさまざまな原因があります。
風邪やアレルギー、喘息、逆流性食道炎など、原因によって適切な治療法が異なります。
市販薬を選ぶ際、多くの方は「咳止め」という大まかな分類で薬を選んでしまいがちです。しかし、ご自分の咳の原因に合った薬を選ばなければ、十分な効果は期待できません。
例えば、アレルギー性の咳に対して、風邪薬タイプの咳止めを使用しても効果は限定的でしょう。
また、喘息による咳に対しては、一般的な咳止め薬ではなく、気管支を広げる薬が必要になります。
逆流性食道炎による咳の場合は、胃酸の逆流を抑える薬が適切です。
さらに、市販薬であっても、用法・用量を守ることが非常に重要です。
効果が弱いと感じて勝手に服用量を増やしたり、服用間隔を短くしたりすることは大変危険です。副作用のリスクが高まるだけでなく、症状を悪化させる可能性もあります。
市販薬を使用する際は、必ず添付文書をよく読み、用法・用量を守って使用しましょう。また、症状が改善しない場合や、悪化する場合は、すぐに使用を中止し、医療機関を受診することが大切です。
市販薬の効果が弱いと感じる場合、以下のような点を確認してみましょう。
・症状に合った薬を選んでいるか
・用法・用量を正しく守っているか
・服用のタイミングは適切か
・十分な期間使用しているか
・生活習慣の改善(十分な睡眠、水分摂取など)を併せて行っているか
これらの点を見直しても効果が感じられない場合は、医療機関の受診を検討しましょう。
咳が長引く場合や、ほかの症状(発熱、呼吸困難、胸痛など)を伴う場合は、自己判断せずに早めに呼吸器内科をはじめとする専門医の診察を受けることが必要です。
5.おわりに
咳はからだを守る大切な防御反応ですが、長引く咳は日常生活に支障をきたし、体力を消耗させてしまいます。
咳止め薬を選ぶ際は、市販薬と処方薬のそれぞれの特徴を理解し、ご自分の症状に合ったものを選ぶことが重要です。
市販薬は手軽に入手でき、軽度の症状には効果的です。一方、処方薬は医師の診断に基づいて処方されます。
咳が2週間以上続く場合や、呼吸困難、発熱、胸痛などの症状を伴う場合は、早めに呼吸器内科をはじめとする医療機関への受診が必要です。
また、市販薬を使用しても症状が改善しない場合も、医療機関の受診を検討しましょう。