咳が止まらない…どこか炎症を起こしてる?

咳がなかなか止まらない日が続くと、不安を感じる方が多いでしょう。
咳は異物や病原体からからだを守るための大切な反応ですが、2週間以上続く場合は、単なる風邪とは違う原因かもしれません。
長引く咳の原因には、肺炎や気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、より深刻な呼吸器の病気の場合があります。
これらの疾患は、気づかないうちに呼吸器に炎症を引き起こし、からだに負担をかけることもあります。
早期に診察と適切な治療を受ければ、症状を和らげたり健康を取り戻したりすることが可能です。
この記事では、長引く咳の原因や考えられる病気について、また、どう対応すればよいのかについてご説明いたします。

1.咳が止まらないときに疑われる病気


咳はからだを守る重要な防御反応ですが、2週間以上続く場合は注意が必要です。長引く咳は単なる風邪ではなく、より深刻な問題が隠れている可能性があります。

ここからは、咳が止まらないときに疑われる病気の例を見ていきましょう。とくに気をつけるべき疾患としては、以下のようなものがあります。

・心不全

心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、全身に必要な血液を十分に送ることができなくなる状態です。これにより、からだのさまざまな部分に負担がかかり、いろいろな症状が現れます。

原因としては、高血圧や狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患、弁膜症、心筋炎、心筋症、不整脈、甲状腺疾患、貧血やビタミンB1不足が挙げられます。

心不全の症状は、労作時呼吸困難や夜間の呼吸困難、座った状態でしか呼吸が楽にならない起坐呼吸など、呼吸器症状が中心です。
また、泡沫状のピンク色の痰や胸水、腹水、体重増加、両下肢の浮腫が見られることもあります。これらの症状が悪化すると、日常生活への支障が大きくなることも少なくありません。
治療は、安静療法や水分制限を含む食事療法が基本となります。
加えて、からだのなかの余分な水分を排出する利尿剤や心臓の働きを助ける強心薬、血管を広げて心臓への負担を軽くするACE阻害薬やARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、心拍数を安定させるβ遮断薬などの薬が用いられます。
また、酸素を供給する酸素療法や、呼吸をサポートする機械を使った治療(非侵襲的陽圧換気療法:NPPV)が必要になることもあります。

・肺がん

肺がんは初期症状がほとんどないため、発見が遅れることが多い疾患です。主な原因には喫煙や受動喫煙、大気汚染、アスベストなどの職業性曝露、遺伝的要因が挙げられます。
症状としては、長期間続く咳や血痰、胸痛、呼吸困難、体重減少、倦怠感などがあります。これらの症状はほかの病気でも見られるため、慎重な診断が求められます。
とくに喫煙歴がある方は、これらの症状が現れた際には速やかに医療機関への受診を検討しましょう。
治療方法はがんの進行度や種類によって異なります。
手術療法は、とくに早期の非小細胞肺がんに有効です。がんの病変部分を取り除くことで根治を目指します。がんが限局している場合、手術が最も効果的な治療法となることが多いです。
放射線療法は、がん細胞を破壊するために高エネルギーの放射線を使用します。
手術が難しい場合や、がんが広がっている場合に行われ、症状を緩和する目的で使用されることもあります。
化学療法では、抗がん剤を使用してがん細胞の増殖を抑える治療が行われます。
進行したがんや再発したがんの治療によく用いられ、放射線療法と併用されることもあります。
分子標的療法は、がん細胞特有の分子を標的として攻撃する薬を使用する治療法です。
副作用が比較的少なく、がん細胞を効率的に攻撃するため、特定の遺伝子変異を持つ患者さんに効果的です。
免疫療法は、免疫システムを活性化させてがん細胞を攻撃する治療です。免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬が使用され、近年注目されています。
これらの治療法は、単独で行われる場合もあれば、組み合わせて使用される場合もあります。

・胃食道逆流症

胃食道逆流症は、胃酸が食道に逆流することでさまざまな症状を引き起こす疾患です。
原因には、加齢や食道裂孔ヘルニアによる下部食道括約筋の機能低下、肥満や妊娠による腹圧の上昇、飲酒や脂っこい食事などの生活習慣が挙げられます。
主な症状は胸やけ、呑酸(酸っぱい液体が喉に上がる感じ)、慢性的な咳、のどの違和感、声枯れ、胸痛などです。
これらの症状は食生活や習慣と密接に関連しており、とくに食後や就寝前に悪化しやすい傾向があります。
治療には、胃酸分泌を抑える薬物療法や、食後すぐに横にならない、刺激物を避けるなどの生活習慣の改善が効果的です。
重症の場合は手術が検討されることもあります。症状が続く場合は医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けましょう。
生活習慣の改善も重要で、食事量を調整したり、就寝前の飲食を避けたりすることが推奨されます。腹部を締め付ける衣服を避けることも症状軽減に役立ちます。

【参照文献】日耳鼻『胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/119/10/119_1273/_pdf

・副鼻腔炎による後鼻漏

副鼻腔炎による後鼻漏は、鼻の奥から喉に鼻水が流れ込む状態を指します。慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、鼻咽頭炎が主な原因です。

後鼻漏による咳は、とくに朝起きたときや長時間の会話の際に顕著になることが多いです。夜間の咳も特徴的で、これが原因で睡眠の質が低下する場合もあります。
治療には、マクロライド系抗菌薬の少量投与や去痰薬の長期療法が行われます。
また、原因疾患(副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎)の治療を並行して行うことが必要です。

・マイコプラズマ感染症

マイコプラズマ感染症は、マイコプラズマ・ニューモニエという病原体によって引き起こされる呼吸器感染症です。

とくに特徴的な咳が続くことで知られており、早期の診断と治療が必要です。

症状は、初期の発熱から始まります。そのあと、1〜2日遅れて咳が出現し、徐々に悪化していきます。以下が主な症状です。
・発熱(初期症状)
・咳(乾いた咳から始まり、痰を伴う咳に変化)
・のどの痛み
・頭痛
・全身倦怠感
・筋肉痛
咳はとくに特徴的で、最初は乾いた状態が多く、進行すると痰が絡むようになります。これらの症状は長期間(3〜4週間)にわたって続く場合があります。
マイコプラズマ・ニューモニエは主に以下の方法で感染します。
・飛沫感染:感染者の咳やくしゃみによって広がる
・接触感染:感染者の分泌物が付着した物に触れることによる感染
潜伏期間は2〜3週間と比較的長いのが特徴です。そのため、感染に気づかないまま周囲に広がることもあります。
治療では、まずマクロライド系抗菌薬が初期治療の第一選択として用いられます。また、症状に応じて、解熱鎮痛剤や去痰薬、咳止めなどの対症療法が併用されることも一般的です。
しかし近年、マイコプラズマ感染症に対する耐性菌の増加が大きな問題となっています。
マクロライド系抗菌薬が効果を示さない場合には、ニューキノロン系などほかの抗菌薬への変更が検討されます。
これらの抗菌薬は、マクロライド系に耐性を持つ菌に対して有効であり、重症例にも使用されることがあります。

2.炎症が生じる呼吸器疾患


炎症とは、からだが外部からの刺激や傷害に対して自己防御するために起こす重要な生体反応です。
この反応は、からだを守るための基本的な仕組みであり、傷ついた組織を修復したり、病原体を排除したりする上で欠かせない役割を果たします。
炎症には以下のような特徴があります。
・発赤(ほっせき)
炎症が起こると、血管が拡張し、その部位の血流が増加します。
・腫脹(しゅちょう)
血管の透過性が高まり、血管から液体が組織内に漏れ出します。これが原因で腫れが生じます。
・熱感
血流が増加し、炎症部位の代謝が活発になることで、炎症が起きた部分が熱く感じられます。
・疼痛(とうつう)
炎症性物質(メディエーター)が神経を刺激するため、痛みが生じます。
・機能障害
炎症が起こった部位では、腫れや痛みの影響で一時的にその部分の機能が低下することがあります。
炎症反応は単純な現象ではなく複雑な過程を経て進行します。その流れを以下に詳しく説明しましょう。

1.血管反応
炎症が起きると、最初に血管が拡張し、その部位への血流が増加します。これにより、炎症を引き起こす原因となる異物や病原体を排除するための白血球や栄養素が、炎症部位に集中します。この過程は発赤や熱感の原因となります。
2.細胞浸潤
炎症部位では、血管の壁を通じて好中球やマクロファージなどの白血球が血管外に移動します。
これらの細胞は、病原体や損傷した組織を取り囲み、分解する役割を果たします。これが腫脹を引き起こす一因でもあります。
3.炎症性メディエーターの放出
サイトカインやヒスタミン、プロスタグランジンといった炎症性物質が分泌されます。
これらは血流をさらに増加させたり、白血球の活動を活性化させたりする一方で、痛みや腫れを引き起こします。
4.組織修復
炎症の最終段階では、損傷を受けた組織の修復が始まります。白血球が異物を排除したあと、新しい細胞を生成して傷ついた部分を修復します。この段階では腫れや痛みが徐々に引いていきます。

上記のような過程で起こる呼吸器系の炎症は、咳、痰、呼吸困難などの症状を引き起こす原因となります。

ここからは代表的な炎症性呼吸器疾患について詳しく見ていきましょう。

2-1.肺炎

肺炎は肺の組織に炎症が生じる深刻な呼吸器疾患です。主にウイルスや細菌などの病原体が肺に侵入することで引き起こされます。

とくに高齢者の方や免疫力が低下している方では重篤化するリスクがあります。

肺炎の主な症状は以下のようなものです。

・持続的な咳(多くの場合痰を伴う)
・発熱(38度以上になることもある)
・呼吸困難や息切れ(とくに動いたとき顕著)
・胸痛(深呼吸や咳をすると悪化)
・全身の倦怠感(体力低下を伴う)

肺炎では、肺胞(酸素と二酸化炭素を交換する小さな空気の袋)に炎症が生じ、その結果、肺胞が液体や膿で満たされ、このような炎症反応によって肺機能が妨げられます。

治療法は原因となる病原体や重症度によって異なるため、専門医による診断が重要です。多くの場合、抗生物質や抗ウイルス薬を使って治療されます。

また、重篤な場合には入院治療が必要になることもあります。

◆『肺炎について』>>

2-2.慢性閉塞性肺疾患(COPD)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は長期間にわたる気道の炎症と肺の損傷によって引き起こされる、進行性の呼吸器疾患です。

主な原因は長年の喫煙ですが、大気汚染や職業上での粉じん(ほこり)を吸い込むことも関係している場合があります。

COPDの主な症状には以下のようなものがあります。

・慢性的な咳(多くの場合痰を伴う)
・息切れ(とくに運動時)
・喘鳴(ゼーゼーという音)
・胸部の圧迫感

COPD(慢性閉塞性肺疾患)では、気道と肺胞に持続的な炎症が起こります。
この炎症により、気道が狭くなって空気の通りが悪くなり、肺胞が破壊されて弾力を失います。その結果、呼吸困難や慢性的な咳、痰が出るなどの症状が現れます。
また、COPDは、呼吸器だけでなく全身に影響を及ぼす可能性があります。全身性の炎症が引き金となり、筋力の低下、骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)、心臓病、糖尿病などの合併症リスクが高まります。
これらの影響は、患者さんの日常生活の質を大きく低下させるため、早期に病気を発見し、適切な治療を受けることが非常に重要です。
治療の基本は禁煙です。
薬物療法としては、気管支拡張薬(吸入薬)や抗炎症薬が使用され、気道を広げたり炎症を抑えたりすることで呼吸を楽にし、症状の悪化を防ぎます。
これらの薬は症状の程度に応じて短時間作用型や長時間作用型が選ばれます。
また、リハビリテーションとして定期的な運動療法や呼吸法のトレーニングが効果的です。
さらに、栄養管理も重要です。体重が減りすぎると筋力が低下して症状が悪化しやすくなり、一方で、過体重の場合は症状を悪化させるため、適切な体重管理が必要です。
また、病気が進行して酸素の取り込みが困難になった場合には、在宅酸素療法が行われることがあります。

◆『COPDについて』>>

【参考情報】Mayo Clinic “COPD”
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/copd/symptoms-causes/syc-20353679

2-3.気管支喘息

気管支喘息は、慢性的な気道の炎症によって引き起こされる呼吸器疾患です。慢性的な炎症により気道が過敏になり、さまざまな刺激に対して過剰に反応します。
気管支喘息の症状には以下のようなものがあります。
・発作性の呼吸困難(とくに夜間や早朝に起こりやすい)
・喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)
・胸部の圧迫感(息苦しさを伴う)
・慢性的な咳(とくに夜間や運動後に悪化することが多い)
主な原因にはアレルギー要因(ダニ、花粉、カビなど)や大気汚染、寒冷な空気などがあります。また、遺伝的な要因も関与している場合があります。

◆『咳が止まらないのはなぜ?アレルギーが原因かもしれません』>>

治療は、長期管理薬と発作時用薬の2つの治療薬を適切に使用することが基本です。

・長期管理薬
主に吸入ステロイド薬が使用され、気道の慢性的な炎症を抑えることで症状の安定化を図ります。また、必要に応じて長時間作用型気管支拡張薬を併用することがあります。
・発作時用薬

発作が起こった際には速効性の気管支拡張薬を使用して、気道を広げ、呼吸を楽にします。

また、生活習慣の改善やストレスの管理も重要です。
規則正しい生活を送り、適度な運動を取り入れることで全体的な健康を保つことが喘息のコントロールにつながります。
喘息はそれぞれの患者さんによって症状や原因が異なるため、医師と相談しながらご自分に合った治療計画を立て、継続的に管理していくことが大切です。

【参照文献】ここが知りたい!炎症反応について(一般論を中心に)オレオサイエンス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/12/3/12_125/_pdf

3.おわりに

咳が2週間以上続く場合、単なる風邪ではなくより深刻な呼吸器問題が原因となっている可能性があります。

肺炎、COPD、気管支喘息など、多くの呼吸器疾患は慢性的な炎症を伴い長引く咳という症状が現れます。

これらの疾患は早期発見と適切な治療が非常に重要です。専門医による適切な診断と治療によって改善できる可能性があります。

そのため、2週間以上咳が止まらない場合には早めに呼吸器内科をはじめとする専門医への受診を検討しましょう。

◆『咳が出たときに行く病院は?』>>

◆『呼吸器内科受診の目安~咳が止まらない・長引く病気』>>