咳が止まらない場合に考えられる病気と検査・治療・予防について
咳は風邪などでもよく見られる身近な症状ですが、長引く場合は他の病気が隠れているかもしれません。
また、小さいお子さんの場合は気管の壁がやわらかく狭いため、わずかな刺激でも咳が出やすい傾向にあります。熱などは無くても咳が長引いて心配な方も多いのではないでしょうか。
咳が長引く場合は原因を特定し、それに合わせた治療を行うことが大切です。
考えられる病気、検査、治療や予防法について詳しく紹介しますので、咳が止まらなくて困っている方はぜひ参考にしてください。
1.咳はなぜ出るのか?
咳は感染症を防ぐために欠かせない生体防御反応であり、呼吸器疾患で最も多くみられる症状です。
気道は、上気道(鼻腔、咽頭、喉頭)と下気道(気管、気管支、細気管支)に分けられます。
基本的に下気道や肺は無菌状態です。
そこに細菌やウイルスなどが侵入すると、気管支炎や肺炎を起こしてしまいます。
そのため、肺などに異物が侵入しないように気道から取り除こうとして咳が起こります。
咳が出る病気としては次のようなものが考えられます。
咳が出る原因 | 例 |
---|---|
感染症 | 風邪、気管支炎、肺炎、RSウイルス感染症、COVID-19など |
腫瘍 | 肺がん、喉頭がんなど |
アレルギー | 気管支喘息、咳喘息、アトピー咳嗽(乾いた咳と喉のかゆみが続くアレルギー疾患)など |
心血管系 | 左心不全、肺血栓塞栓症(肺の血管に血のかたまりが詰まる病気)など |
薬剤性 | ACE阻害薬(高血圧や心不全の治療薬)など |
その他 | 心因性咳嗽、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気胸、副鼻腔炎、胃食道逆流症など |
細菌やウイルス以外にも痰やほこりなどの異物が侵入したり、気道に炎症が起きたりすると、咳受容体が刺激され、脳にある咳中枢に伝えられて咳が出るという仕組みです。
また、咳中枢は脳の大脳皮質によってコントロールされているため、ストレスが原因の「心因性咳嗽」が起こる場合もあります。
咳が長引く場合は、慢性的な呼吸器疾患が隠れているかもしれません。慢性的な病気と感染症が併発して治りにくくなっている場合もあります。
「ただの風邪」と思って放置せず、呼吸器内科を受診して原因に合わせた治療を受けましょう。
2.咳の種類
咳は、痰の有無によって「乾性咳嗽(かんせいがいそう)」と「湿性咳嗽(しっせいがいそう)」に分けられます。
2-1.乾性咳嗽
乾性咳嗽とは、痰を伴わない(もしくは出ても少量の)「コンコン」「ケンケン」という咳のことです。
気管支喘息、咳喘息、アトピー咳嗽、百日咳、マイコプラズマ肺炎、肺がんなどの場合に多く見られます。
また、心不全などの心原性の疾患や、ACE阻害薬などの薬の副作用でも乾性咳嗽が見られることがあります。
主に次の2つが原因となって起こるのが乾性咳嗽です。
・咳受容体の感受性が亢進し、少しの刺激でも咳が出やすくなる(アトピー咳嗽、ACE阻害薬など)
・気管支平滑筋の収縮によって周りの咳受容体が刺激される(気管支喘息、咳喘息など)
【参考情報】日本内科学会雑誌第101巻第7号『慢性咳嗽の診断・治療の最前線』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/101/7/101_2072/_pdf
2-2.湿性咳嗽
湿性咳嗽とは、痰が絡んだ「ゴホンゴホン」「ゲホゲホ」のような咳のことです。
原因としてはウイルスや細菌による感染症のものが多く、痰や鼻汁のような気道からの分泌物を排出しようとしている状態です。
風邪やインフルエンザ、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺水腫(心不全などが原因で肺に液体が溜まり、上手く換気ができない状態)、気管支拡張症(気道の壁が損傷を受けて気管支が広がったまま元に戻らなくなる病気)、肺結核などの場合に見られます。
【参考情報】日本咳嗽学会『咳について』
https://www.kubix.co.jp/cough/c_doctor.html
3.咳が止まらなくなる原因は?
感染症やアレルギー、タバコの煙などが原因で咳が止まらなくなる場合があります。
3-1.ウイルスや細菌
かぜ症候群(風邪)の原因微生物はさまざまで、ライノウイルスやコロナウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、肺炎球菌などがあります。
一般的な風邪の場合は自然に治癒することも多く、咳症状も次第に落ち着きます。
しかし、最初はただの風邪でも、二次感染を起こすことで気管支炎や肺炎に発展することもあり、咳が長引く原因になります。
風邪の場合はのどや鼻といった上気道に感染して炎症を起こしますが、肺炎の場合は肺胞という部位に炎症を起こします。
そのため、肺炎は風邪に比べて症状が重く、重症の場合は入院治療が必要になることもあります。
「風邪がなかなか治らない」「高熱や咳、息切れが続く」ということがあれば、肺炎を起こしている可能性が高いです。
また、ウイルスや細菌が原因となって起こる感染症の中には、「クループ症候群」や「百日咳」など、特徴的な咳が出るものもあります。
クループ症候群は特に乳幼児によく見られる病気です。
ウイルスや細菌、アレルギーなどが原因となってのどに炎症が起こり、気道が狭くなることで咳や声のかすれなどの症状が起こります。
犬の鳴き声のような「ケンケン」という咳や、オットセイの鳴き声のような「オウッオウッ」という咳の音が特徴的です。
百日咳は名前の通り、咳が治まるまで約100日と長い時間がかかる病気です。
百日咳菌が原因で起こる感染症で、感染力が強く重症化する危険性や命に関わることもあります。
最初は軽い咳やくしゃみ、鼻水といった風邪と同じような症状ですが、徐々に咳が悪化していきます。
症状が悪化すると発作的な短い咳が特徴的で、咳が治まった後に急に深く息を吸うため、「ヒューヒュー」といった笛声(てきせい)が聞かれます。
息継ぎの余裕がないほどの激しい咳発作が続くため、息ができずに顔が真っ赤になったり、咳のし過ぎで吐いてしまったりすることもあります。
ただの風邪だと思っていても、咳が長引いたり、咳の音が特徴的な場合はすぐに治療が必要な場合もあります。
特に感染症が原因の場合は、周りに感染を広げないため、重症化を防ぐためにも、早めに病院を受診しましょう。
【参考情報】日本呼吸器学会『かぜ症候群』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-01.html
【参考情報】国立感染症研究所『百日咳とは』
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/477-pertussis.html
3-2.アレルギー
感染症にかかっていなくてもダニやホコリ、ペットの毛、花粉などのアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)によって咳が出る場合があります。
また、喘息や咳喘息、アトピー咳嗽などアレルギーに関係する病気の場合は、すでに炎症が起きて過敏になっている気道にアレルゲンが刺激を加えることで咳がひどくなります。
特定の季節や場所で咳が出やすい場合は、アレルギーが原因かもしれません。アレルギーの検査は病院で受けることができますので、思い当たる症状がある場合は一度相談してみましょう。
◆『咳喘息とはどんな病気?咳が止まらなくなる原因と治し方』>>
3-3.たばこなどの有害物質
タバコの煙には、約4,000種類以上の化学物質が含まれています。
三大有害物質と言われているニコチン、タール、一酸化炭素以外にも、ホルムアルデヒドやアクロレインなどの刺激性物質が含まれており、これらが気道粘膜を刺激して咳が出やすくなります。
喫煙者はこれらの刺激によって、「慢性気管支炎」の状態にあります。長期間喫煙を続けていると気道への刺激が蓄積され、「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」など呼吸器の慢性疾患へと発展して咳がひどくなることもあります。
また、たばこ以外の有害物質が原因となるものとして「じん肺」という職業性肺疾患があります。
じん肺は、土埃や金属の粒、粉塵などを長い期間吸い込み続けることで肺の組織が線維化して硬くなり、咳や息切れ、痰などの症状が現れる病気です。
【参考情報】厚生労働省『じん肺について』
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/0309-1a_0002.pdf
4.検査
原因に合わせた適切な治療を行うためにも、まずは受診して検査を行うことが大切です。
4-1.呼吸機能検査
呼吸機能検査は、肺や換気機能の程度を測定し、呼吸機能に異常がないか調べる検査です。
喘息やCOPDなど呼吸器の病気が疑われるときや、治療効果を確認する時などに実施されます。
「スパイロメーター」や「モストグラフ」などの機械を使って、息を吸い込む力、吐く力、酸素を取り込む能力などを調べます。
【参考情報】日本呼吸器学会『肺機能検査とはどのような検査方法ですか?』
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q29.html
4-2.画像検査
胸部X線検査やCT検査などの画像検査は、肺の状態を確認するために行います。
肺炎や肺がん、COPD、肺結核、気胸、肺水腫、じん肺などが疑われる時や、治療経過を確認するために実施されます。
また、喘息などの病気が疑われる場合でも、他の呼吸器疾患の可能性を排除するために画像検査を行うことがあります。
4-3.アレルギー検査
喘息、咳喘息、アトピー咳嗽、花粉症などアレルギーに関係する病気が疑われる場合に行う検査です。
血液検査でアレルゲンを特定したり、アレルギーを起こしやすい体質かどうかを調べたりすることができます。
症状の改善のためにはアレルゲンを避けることが大切ですので、まずは検査を受けて自分のアレルギーを把握しましょう。
5.治療
咳止め薬などで対症療法を行いながら、原因となっている病気の治療も行います。
5-1.感染症による咳の場合
一般的なかぜ症候群の場合は、安静にして水分と栄養補給を行い、解熱剤や咳止め薬で対症療法を行えば症状が落ち着くことがほとんどです。
インフルエンザや肺炎、肺結核などの場合は、検査で病原体を特定し、それに応じた抗菌薬や抗ウイルス薬を使って治療を行います。
5-2.感染症以外による咳の場合
喘息やCOPDなど慢性呼吸器疾患の場合は、長期的に治療を行う必要があります。
定期的な通院や服薬はもちろんですが、日常生活での自己管理も行い、症状をコントロールすることが大切です。
肺がんの場合はがんの種類や進行度に合わせて、手術や薬物療法、放射線治療などを組み合わせて行います。
6.予防
感染症にかかると、悪化して咳が止まらなくなったり、喘息の持病がある方は発作の原因になることもあります。
手洗い、うがい、マスクの着用など基本的な感染対策を心がけましょう。
インフルエンザや肺炎球菌などの予防接種も受けておくと安心です。
また、喫煙は咳を誘発するだけでなく、COPDや肺がん、喘息などの呼吸器疾患の原因にもなります。
周囲の人も受動喫煙によって病気のリスクが高まるなど、タバコは百害あって一利なしです。
ひとりで禁煙するのが難しい方は、禁煙外来に相談するのもおすすめです。
【参考情報】Cleveland Clinic “Secondhand Smoke”
https://my.clevelandclinic.org/health/articles/10644-secondhand-smoke-dangers
7.おわりに
咳が長引くと、不眠や体力の消耗により生活に支障が出ることもあります。
咳は風邪などでもよく見られる症状のため軽く考えがちですが、咳が2週間以上続いている場合は治療が必要な病気が隠れているかもしれません。
重症化して手遅れにならないためにも早めに呼吸器内科を受診し、原因に合わせた治療を受けましょう。