要注意!喘息・COPD患者さんが見逃しがちな肺炎のサイン

「痰の色がいつもと違う気がする」「咳の勢いが急に強くなって止まらない」――慢性的な呼吸器の持病がある方で、このような変化に気付いたら、いつもの症状だからと油断せず、肺炎の可能性を考えることが大切です。
肺炎は細菌やウイルスが肺に感染して起こる病気で、日本人の死亡原因の中でも上位を占める深刻な病気の一つです(厚生労働省の統計では、がん・心疾患に次ぐ第3位)。
特に高齢者や喘息・COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの慢性呼吸器疾患をお持ちの方は肺炎を発症しやすく、重症化しやすい傾向があります。
風邪による咳や持病の喘息症状と肺炎の症状は一見よく似ていますが、肺炎は進行すると命に関わる場合もあるため注意が必要です。
この記事では、慢性呼吸器疾患をお持ちの皆さんが見逃しがちな肺炎の兆候と、早期発見・治療の重要性について呼吸器内科医の視点から解説します。
ご自身の体調の変化にいち早く気づき、適切な医療を受けることで、大切な肺を守っていきましょう。
【参考情報】『ストップ!肺炎』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/file/stop_pneumonia2024.pdf
1. 咳が止まらない時、肺炎を疑うべきサインとは?
喘息や咳喘息、COPDなどの慢性呼吸器疾患があると、普段から咳や痰(たん)が出やすくなります。そのため、「またいつもの症状だろう」と思ってしまいがちですが、普段と違う咳が続く場合は肺炎を起こしている可能性があります。
肺炎になると、病原体の感染によって肺に強い炎症が起こり、咳や痰だけでなく発熱や息苦しさなど全身の症状が現れることがあります。
特に持病のある方は肺の機能や免疫力が低下しているため、軽い風邪症状からでも肺炎に移行しやすく、「ただの風邪」「持病の悪化かな」と油断しているうちに重症化する危険性があります。
そもそも肺炎の症状は風邪とよく似ています。咳・痰、発熱、倦怠感(体のだるさ)など、初期の症状だけで見分けるのは難しい場合が少なくありません。
しかし肺炎と風邪の決定的な違いは症状の重さと進行の速さです。
肺炎では肺の中で炎症が起こるため、適切な治療をせずに放っておくと呼吸困難に陥ったり、高熱が続いたりして、入院治療が必要になるケースもあります。
一方、持病の喘息やCOPDの症状悪化(増悪)でも咳や息切れは起こりますが、高熱が出たり、肺に直接的な感染が広がったりするケースは、一般的な風邪とは異なる注意が必要です。
もちろん、風邪をきっかけに喘息やCOPDが悪化することもありますので、判断が難しい場合は専門家への相談が最も重要です。
「いつもの咳」と明らかに様子が違うと感じたら、それは肺炎からくる咳の可能性があります。
次章では、慢性呼吸器疾患のある方が特に注意すべき肺炎の兆候について具体的に説明します。
【増悪とは…持病の症状が一時的に強く悪化することを指します】
【参考情報】『肺炎の症状』健康長寿ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/haien/shoujou.html
【参考文献】“About Pneumonia” by CDC
https://www.cdc.gov/pneumonia/about/index.html
2. 肺炎を疑うべきサインとは
慢性の呼吸器疾患がある方が、「もしかして肺炎かも?」と疑うべきサインにはどのようなものがあるでしょうか。
ここでは痰の性状変化、咳の急な変化、発熱や息切れといった全身症状の3つの観点から、肺炎の兆候を見ていきます。
普段のご自身の症状と比べて、以下のような変化がないか、ぜひ確認してみてください。
2-1. 痰の色や性状の変化
痰の様子がいつもと違う場合は、肺炎を疑う重要なサインです。
普段は透明~白っぽい痰しか出ない人でも、肺や気管支に感染が起こると痰に色がついて黄色や黄緑色になることがあります。また、痰の量が増えたり、粘り気が強くなって切れにくくなるのも肺炎時にみられる変化です。
さらに、痰に血が混じる場合も注意が必要です。肺炎のタイプによっては痰が淡い茶色(鉄さび色)やピンク色になることがあります。
少量でも血痰が出たときは放置せず必ず医療機関を受診してください。
痰の色・性状の変化は自分でも気付きやすいポイントです。「痰の色がおかしい」「膿のような痰が出る」と感じたら、それは感染による肺炎が起きているサインかもしれません。
◆「血痰が出た!原因と呼吸器内科を受診する目安を解説します」>>
2-2. 咳のリズムや強さの急変
咳の出方に急な変化が現れた場合も肺炎を疑いましょう。
喘息やCOPDでは慢性的な咳が続きますが、「咳の頻度や強さが普段と比べて急に悪化した」というときは要注意です。
たとえば、いつもは吸入薬でコントロールできていた咳が急に夜通し止まらなくなった、咳込むと息ができないほど激しくなった、あるいは咳の音質が乾いた感じから痰が絡む湿った咳に変わった――こうした変化が当てはまる場合、肺炎を発症している可能性があります。
特に肺炎では、肺の炎症によって咳がひどくなり、息苦しさが増すことがあります。
慢性疾患で日頃から咳が出ている方ほど変化に気付きにくいかもしれませんが、「咳の質やパターンがいつもと違う」と感じたら肺炎を疑いましょう。
◆「喘息の咳と痰・痰の状態で疑われる疾患について解説!」>>
2-3. 発熱や息切れなど全身の変化
肺炎では発熱や息切れなど全身状態の変化を伴うことが多いです。
喘息やCOPDの症状悪化(増悪)でも発熱を伴うことはありますが、特に38℃以上の高熱や強い悪寒(寒気)がある場合は、肺炎などの感染症を強く疑う必要があります。
特に高齢の方や免疫を抑える薬を使用中の方は、肺炎になってもあまり熱が上がらないケースもあります。そのため「熱がないから大丈夫」とは限らない点に注意が必要です。
息切れ(呼吸困難)の悪化も重要なサインです。肺炎を合併すると安静にしていても息苦しい、少し体を動かしただけですぐゼーゼーするといった状態に陥ることがあります。
そのほか、胸の痛みも肺炎の兆候の一つです。
咳をすると胸や脇腹が痛む、深呼吸すると胸がチクチク痛む場合、肺の表面を覆う胸膜まで炎症が及んでいる可能性があります。
また全身倦怠感や食欲不振、頭痛など、「風邪のときのような症状だけど治らずむしろ悪化している」という場合も要警戒です。
いつもの持病では感じない全身のだるさや体調不良を伴う咳――それは感染性の肺炎が隠れているサインかもしれません。
【参考文献】“Pneumonia Symptoms and Diagnosis” by American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/pneumonia/symptoms-and-diagnosis
3. 慢性呼吸器疾患の人はなぜ肺炎になりやすいのか
喘息やCOPDなど慢性の呼吸器疾患を持つ人が肺炎にかかりやすいのには、いくつか理由があります。
持病があると身体の免疫力・抵抗力が常に低下気味になり、健康な人であれば感染しないような病原体でも肺炎を発症してしまうことがあります。
ここでは慢性呼吸器疾患の方が肺炎を起こしやすい主な要因をまとめます。
●免疫力の低下
喘息やCOPDなどの持病があると、それに対抗するために体のエネルギーが日々使われる状態になり、免疫機能が健常者より弱まりがちです。特に高齢者では加齢そのものでも免疫力が低下するため、持病がある高齢の方はダブルのリスクを抱えています。
●気道防御機構の低下
COPDでは気管支の線毛機能が損なわれ、喀痰の排出がうまくいかないことがあります。肺の掃除機能が低下した状態では、細菌やウイルスが侵入しても除去しきれず繁殖しやすくなります。
●肺炎の重症化リスク
持病があると一旦肺炎にかかったときに重症化しやすい点にも注意が必要です。例えばCOPDの患者さんが肺炎になると、咳や痰、息切れが引き金となって急性増悪(きゅうせいぞうあく)と呼ばれる持病の劇的な悪化を招くことがあります。
以上のように、慢性呼吸器疾患を持つ方は肺炎になりやすく、また肺炎になった場合に重症化しやすいのが現実です。
「自分は長年この病気と付き合っているから慣れている」と油断せず、日頃から肺炎の予防と早期発見に努めることが大切です。
【参考情報】『COPD(慢性閉塞性肺疾患)』厚生労働省
https://kennet.mhlw.go.jp/slp/event/disease/copd/index
【参考文献】“Why are people with asthma susceptible to pneumonia?” (review)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30887658/
4. 定期通院による早期発見と早期対応の重要性
肺炎は、早期に発見し適切な治療を開始することで、症状の悪化を防ぎ、より早期の回復が期待できる病気です。
特に喘息やCOPDなどの持病がある方にとって、肺炎の早期対応は持病悪化を防ぐためにも重要な意味を持ちます。
定期的に通院しているクリニックがある場合は、症状の変化を感じた時点でできるだけ早く医師に相談しましょう。
早期に受診すれば、医師は聴診や血液検査、胸部レントゲン検査ですぐに肺炎の有無を評価してくれます。
肺炎と診断された場合でも、初期段階であれば、飲み薬の抗生物質による外来治療で回復に向かうケースが多く見られます。一方、受診が遅れて肺炎が悪化してしまうと、入院して点滴治療を受けなければならなくなることもあります。
「もう少し様子を見よう」という判断が、時に重症化を招くこともあります。少しでも迷いや不安を感じた際は、早めに医療機関を受診するよう心がけましょう。
日頃から定期的に通院している呼吸器内科のクリニックがあれば、ちょっとした変化でも相談しやすいでしょう。
かかりつけ医であれば患者さんの平常時の状態を把握していますから、「今回は普段と違う」ということに自分以上に気付いてくれる場合もあります。
また、慢性呼吸器疾患のある方は定期通院自体が肺炎の予防・早期発見につながることも知っておきましょう。
特に高齢の患者さんでは肺炎を発症しても熱が上がらず自覚症状が乏しいこともあるため、第三者である医師のチェックは有効です。
持病の調子が良いときでも決められた通院を守り、もし少しでも「おかしいな」と思う症状があれば次の予約日を待たずすぐに受診することが、重篤化を防ぐ秘訣です。
【参考文献】“Clinical Features and Guidelines for Pneumonia” (Guidelines for evaluation)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7112285/
◆「喘息は、定期通院がかかせません。その理由を紹介します。」>>
5. 呼吸器専門医による継続的モニタリングの価値
喘息やCOPDなど慢性の呼吸器疾患をお持ちの方は、呼吸器の専門医による継続的なモニタリング(経過観察)を受けることをおすすめします。
呼吸器専門医のいる医療機関で定期的に診てもらうことには、次のようなメリットがあります。
●肺の状態を常に把握できる
専門医は肺の音や呼吸機能のわずかな変化にも精通しています。定期検査を通じて、患者さん本人が気付きにくい初期の肺炎や気管支炎の兆候を捉えられる可能性があります。
●持病の悪化と合併症を予防できる
継続的なモニタリングにより、喘息やCOPD自体の症状コントロールが良好に保てます。専門医は、発作や増悪のリスクを低減するための治療プランを提案してくれます。これにより、結果として肺炎などの感染症への罹患リスクを抑えることにもつながります。
●適切な予防策の提案
呼吸器の専門医は、肺炎予防のための的確なアドバイスをしてくれます。インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種は特に推奨されます。
◆「自治体から案内がきたら肺炎球菌ワクチンを接種しましょう」>>
【参考情報】『市中で起こる肺炎』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-04.html
●安心感と迅速な対応
定期的に診てもらっている専門医がいると、「何かあったらすぐ診てもらえる」という安心感につながります。
いざという時に頼れる医師がいることで、患者さん自身も症状の変化に敏感になり、早めに相談しようという意識を持てるでしょう。
このように、呼吸器専門医による継続的なフォローアップは、肺炎の予防・早期発見だけでなく慢性疾患の安定管理にも大きな価値があります。
まだ専門医にかかっていない方も、長引く咳や呼吸器の不安があれば一度専門医の診察を受けてみると良いでしょう。
【参考文献】“Bacterial Pneumonia Clinical Manifestations” by StatPearls / NCBI
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK513321/
6. まとめ
慢性の喘息やCOPDなどをお持ちの方は、「いつもの咳だから」と油断せず、普段と異なる症状があれば肺炎を疑うことが大切です。
痰の色が黄色や緑色に変わる、咳の強さや出方が急に変化する、熱や息苦しさ・胸の痛みを伴うといったサインが見られたら、早めに呼吸器内科を受診しましょう。
肺炎は早期に発見して治療すれば重症化を防げる一方、見逃すと持病の悪化につながり命に関わる恐れもあります。
日頃から呼吸器専門医の下で定期的にチェックを受け、異変を感じたらすぐ相談することが健康な肺を守るポイントです。
いつもの症状と違うと感じたら自己判断せず、医療機関で適切な対応を受けるように心がけましょう。