タバコは喘息悪化の原因に。その理由とおすすめの禁煙方法をお伝えします

タバコが健康に悪影響を与えることは広く知られています。

とくに喘息を持つ患者さんにとって喫煙は、症状を悪化させる大きな要因です。

喫煙は喘息発作を誘発し、治療効果を低下させるだけでなく、周囲の方にも健康リスクを与えます。

この記事では、喫煙が喘息に与える影響、周囲の方へのリスク、禁煙を成功させるための方法についてご説明いたします。

1.喘息の方が喫煙してはいけない理由


喫煙は喘息患者さんにとって非常に危険です。

タバコの煙には約4,000種類以上の有害物質が含まれています。その有害物質の中にはニコチンやタール、一酸化炭素など、多数含まれているのです。

これらの物質は気道に炎症を引き起こし、喘息症状を悪化させる原因となります。

◆『喘息について』>>

喫煙による気道への影響
タバコの煙は気道粘膜を刺激し、慢性的な炎症状態を引き起こします。

炎症が続くことで気道が狭くなり、喘息発作が頻繁に起こりやすくなると考えられます。

また、炎症によって気管支の過敏性が増加し、ホコリや花粉などの刺激に対して過剰に反応するようになります。

さらに喫煙は気管支拡張薬や吸入ステロイド薬などの治療薬の効果を低下させることが知られています。

その結果、治療の効果が少なくなり症状が重症化するリスクが高まります。

喫煙者と非喫煙者の喘息発作リスク
喫煙者の方は非喫煙者の方に比べて喘息発作の頻度が高く、発作時の重症度も高い傾向があります。

特に重度の喘息患者さんの場合、喫煙によって呼吸困難や胸痛などの症状が悪化し、救急搬送されるケースも少なくありません。

また、喫煙者の方は肺機能低下が早く進行するため、長期的な点からも慢性閉塞性肺疾患(COPD)などほかの呼吸器疾患も併発しやすくなります。

◆『COPDについて』>>

2.タバコは周囲の方にもリスクを与える


タバコによる健康被害は喫煙者ご本人だけでなく、副流煙(受動喫煙)によって周囲の方にも及びます。

副流煙には主流煙以上に多くの有害物質が含まれており、副流煙による悪影響は深刻です。

副流煙による健康被害
副流煙にはニコチン、一酸化炭素、有害な微粒子など多数の有害物質が含まれています。

そのため、副流煙は非喫煙者の方でも肺や心臓への負担を増加させ、以下のような健康被害を引き起こします。

・肺機能低下
・慢性気管支炎
・気管支喘息
・心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中)

短時間でも副流煙にさらされると頭痛や頻脈、血圧上昇など急性症状が現れることがあります。

また長期的には肺癌や慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリスクも増加すると言えるでしょう。

◆『気管支炎とは』>>

お子さまへの影響
特にお子さまへの影響は深刻です。保護者の方が喫煙する家庭では、以下のような問題が報告されています。

・気管支喘息やアレルギー疾患の発症率増加
・中耳炎や感染症への罹患率上昇
・乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスク増加

お子さまは大人の方よりも呼吸器系が未熟であるため、副流煙による影響を受けやすいと言われています。

また妊婦さんが喫煙すると胎児にも悪影響を及ぼし、低体重出生や早産などのリスクが高まります。

そのため、禁煙することが推奨され副流煙も吸わないようにする注意が必要です。

完全禁煙以外では防げない副流煙
受動喫煙を防ぐためには、完全禁煙以外に有効な方法はありません。

残念ながら分煙や換気では副流煙による害を十分に防ぐことはできないと言えます。

そのため、ご自宅や職場で完全禁煙を徹底する必要があります。

3.喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)のオーバーラップについて


ここからは、喘息-COPDオーバーラップ症候群(ACO)についてご説明いたします。

喘息-COPDオーバーラップ症候群(ACO)とは、喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)が併存する状態のことです。

ACOの状態では呼吸機能障害が複雑化し、治療が難しくなる傾向があります。

ACO患者さんには以下の特徴があります。

・気道炎症が複雑化している
・肺機能低下が早く進行する
・発作時に重篤化しやすい

ACOは慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者さんのおよそ20〜50%に見られると言われています。早期診断と適切な治療が重要です。

【参考情報】National Institutes of Health (NIH)『Asthma-COPD Overlap Syndrome』
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9146831/

喘息-COPDオーバーラップで禁煙が重要な理由
ACO患者さんの場合では、喫煙による悪影響がさらに深刻化します。

そのため、喫煙による気道炎症の悪化と肺機能の低下や進行を防ぐためには、以下の理由から禁煙が不可欠です。

1. 病態進行の抑制
喫煙は気道炎症や肺機能低下を加速させるため、早期禁煙によって進行を防ぐことができます。

2. 治療効果の最大化
吸入ステロイド薬や長時間作用性気管支拡張薬(LABA/LAMA)の効果が向上し、症状管理が改善されます。

3 予後改善
禁煙によって呼吸機能悪化速度が遅くなり、将来的な健康向上にも役立ちます。

ACO患者さんには医師との連携による包括的な治療計画が必要ですが、その基盤となるのは禁煙です。

禁煙することで炎症状態を改善し、治療効果を最大限引き出すことができます。

4.おすすめの禁煙方法について


禁煙は健康を守るために非常に重要な取り組みですが、ご自身の力だけで実行するのは難しい場合があります。

タバコにはニコチン依存性があるため、禁煙を成功させるには計画的な対策や専門的なサポートが必要です。

ここからは、禁煙を成功させるための具体的な方法をご紹介します。

喫煙の習慣を断つことは、肺や呼吸器の健康だけでなく、全身の健康改善にもつながります。

以下の方法を参考にして、無理なく禁煙を進めてみましょう。

4-1.吸いたくなる原因を考えて対策する

禁煙を成功するためには、ご自身がタバコを吸いたくなるタイミングや原因を把握し、それらを避ける対策をすることが重要です。

例えば、以下のような対策があります。

・飲み会でタバコを吸いたくなる場合
飲み会への参加回数を減らすか、「禁煙宣言」をして周囲からサポートしてもらう。

・ストレスを感じた時に吸いたくなる場合
ストレス解消方法を考える。例えば、趣味や運動など別の活動に取り組むなど。

・自宅でつい吸ってしまう場合
タバコ関連品(ライター・灰皿)を処分し、「吸えない環境」を作る。

このような対策によって、習慣的な喫煙行動から脱却する第一歩となります。

4-2.タバコの代用となるものを摂取する・運動する

口寂しさからタバコを吸う習慣がある場合、代用品を活用することや運動を取り入れることで、禁煙を成功させる助けになります。

例えば、ガムや飴、水分補給などは、口寂しさを和らげるだけでなく、禁煙中のストレス軽減にも役立ちます。

また、軽い運動は気分転換となり、喫煙欲求を抑える効果が期待できます。

具体的には以下のような内容です。

・ガムや飴:
ニコチンガム以外にもノンシュガーガムがおすすめ。

・水分補給:
1. 水やお茶:水分摂取は体内からニコチンを早く排泄するのに役立ち、気分転換にも効果的です。
ただし、緑茶や紅茶はカフェインを含むため、カフェイン摂取量に注意しましょう。

2. フルーツジュースやソフトドリンク:柑橘系やベリー系のフルーツフレーバーは、爽やかな気分転換に役立ちます。

3. エナジードリンク:一部の商品は禁煙カートリッジとしても利用されており、気分転換に役立つとされています。

・軽い運動:
ウォーキングやヨガなど日常的に取り組めるもの。
これら代替行動はニコチンの禁断症状軽減にも役立つため、積極的に取り入れてみましょう。

4-3.禁煙補助薬の使用

禁煙を成功させるためには、禁断症状を軽減することが重要です。

医師から処方される禁煙補助薬は、喫煙欲求を抑えながら、禁煙を継続しやすくする効果があります。

以下は代表的な禁煙補助薬です。

ニコチンパッチ
ニコチンパッチは肌に貼ることで少量のニコチンを体内に供給し、禁断症状を緩和します。

タバコに含まれる有害物質(タールや一酸化炭素)を摂取せずにニコチン依存からの脱却を目指す方法です。

肩や腕、腹部など毛が少なく汗をかきにくい場所に貼り付けて使用します。

貼る部位は毎日変えることで皮膚のかぶれを防ぎましょう。

ニコチンパッチ使用中は喫煙するとニコチンの過剰摂取となり、不整脈や吐き気などの副作用が出ることがあるため、完全な禁煙が必要です。

ニコチンガム
ニコチンガムは口腔内からニコチンを吸収することで、喫煙による離脱症状を和らげます。

タバコが吸いたくなるタイミングで噛むことで即効性が期待できるのが特徴です。食後や休憩時間など喫煙習慣があった場面で活用することで効果的に使えます。

1日の使用量は個人差がありますが通常4〜12個から始めて調整します。

噛む際には「ゆっくり噛んで休む」を繰り返しニコチンの吸収効率を高めましょう。

副作用として口内炎や味覚異常などが報告されているので、医師・薬剤師との相談のうえで適切な使用量を決定してください。

禁煙補助薬の選び方
ここまでにご紹介した補助薬は、それぞれ異なる特徴や効果があります。

たとえば、即効性を重視する場合はニコチンガムがおすすめですが、長時間安定した効果を得たい場合はニコチンパッチが適しています。

医師との相談によって、ご自分の生活習慣や依存度に合った補助薬を選択することが重要です。

また、副作用についても事前に理解しておくことで安心して治療に取り組むことができます。

禁煙補助薬のメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。

・離脱症状(イライラ、不安感など)を軽減
・喫煙欲求を抑制
・禁煙成功率の向上

注意点
禁煙補助薬は妊娠中や授乳中の方には使用できない場合があります。

また、副作用が現れた際には速やかに医師へ相談してください。

これらの薬と正しい禁煙プログラムを組み合わせることで、安全かつ効果的な禁煙への道筋を作ることができます。

禁断症状に悩む方や自己流で禁煙できなかった方は、ぜひ一度医療機関で相談してみましょう。

専門的なサポートによって禁煙への成功率は大幅に向上します。

4-4.禁煙外来を受診する

禁煙外来は、喫煙依存症の治療を専門とする医療機関であり、禁煙を成功させるための強力なサポートを提供します。

特に喘息患者さんにとって禁煙は症状改善の鍵となるため、禁煙外来の活用は非常に効果的です。

禁煙外来は喫煙依存症の治療を専門とする医療機関です。

禁煙を成功させるために、患者さんそれぞれの状態に合わせた治療計画やサポートが可能なため、非常に効果的です。

特に喘息患者さんの場合、禁煙は症状改善のために重要となります。禁煙外来を活用することで、禁煙成功への道がより確実なものとなるでしょう。

禁煙外来で受けられるサポート
禁煙外来は、喫煙を依存症という「病気」として捉え、以下のような専門的な治療とサポートを提供します。

・個別の診断と治療計画
禁煙外来では、喫煙依存度や生活習慣を詳しく診断し、それぞれの患者さんに最適な禁煙プログラムをご提案します。

例えば、ニコチン依存度が高い方にはニコチン補助薬を中心とした治療が行われます。

・禁煙補助薬の処方
禁煙補助薬として、前述のようなニコチンパッチが処方されます。
これらはニコチン不足によるイライラやストレスを軽減しながら、禁煙成功率を高めます。

・心理的サポート
喫煙は身体的依存だけでなく心理的依存も伴います。禁煙外来では医師や看護師が患者さんの悩みや不安に寄り添い、励ましながら禁煙を支援します。

・保険適用による経済的負担軽減
条件を満たせば禁煙治療は保険適用となり、経済的な負担が軽減されます。当院での禁煙治療は、保険適用対象となる条件を満たす患者さんに対してのみ、ニコチンパッチを用いて実施しております。

禁煙外来の利用方法
禁煙外来は呼吸器内科や総合病院などで広く提供されています。

まずは近隣の医療機関に問い合わせてみましょう。予約制の場合が多いため、事前に電話で確認することがおすすめです。

禁煙による喘息改善の具体例
禁煙が喘息症状に与える影響については多くの研究や体験談があります。

例えば、ある患者さんが長年喫煙を続けた結果、喘息発作が頻繁に起こり治療効果も低下していました。

しかし禁煙を決意したことで以下のような改善が見られました。

・気道炎症の軽減
喫煙による気道刺激がなくなることで炎症が治まり、発作頻度が減少しました。

・薬物療法の効果向上
禁煙後には吸入ステロイド薬や気管支拡張薬の効果が向上し、症状管理が容易になりました。

・生活の質(QOL)の向上
発作頻度が減少したことで日常生活が楽になり、運動や社会活動への参加も増えました。

このように禁煙は喘息患者さんにとって非常に大きなメリットがあります。

禁煙による長期的な健康効果
目黒区健康推進課によるデータでは、禁煙開始後に以下のような健康改善効果があったと示されています。

・数時間後:一酸化炭素濃度正常化
・数日後:味覚・嗅覚改善
・数週間後:慢性気管支炎症状改善
・1年後:肺機能回復
・5年後:肺癌リスク大幅低下
・10年後:咽頭癌リスク60%減少

このように禁煙は短期・長期双方で多くのメリットがあります。喘息患者さんだけでなく全ての喫煙者の方にとって有益です。

【参照文献】目黒区「たばこをやめるとこんな効果が… | 目黒区」
https://www.city.meguro.tokyo.jp/kenkousuishin/kenkoufukushi/kenkou/kouka.html

5.おわりに

タバコは喘息悪化だけでなく周囲の方への健康リスクも与える有害物質です。

健康な生活と快適な呼吸環境を維持するためには禁煙が第一歩となります。

もし禁煙に苦労している場合には、お一人で悩まず医師や専門家と相談しながら進めましょう。

特に禁煙外来では個別対応によるサポートが受けられるため成功率も高まります。

喘息症状改善だけでなく生活全体が変わる可能性があります。

あなたご自身と周囲の方の健康を守るためにも、この機会にぜひ禁煙へ挑戦しましょう。