喘息患者は安静にしないといけないの?

喘息は気道の慢性的な炎症性疾患ですが、適切な管理と生活習慣の改善によって、多くの患者さんが日常生活を制限なく送ることができます。
一方で、「喘息だから運動してはいけない」「喘息の場合は常に安静にしていなければならない」といった誤解も少なくありません。
この記事では、喘息患者さんが快適に過ごすための生活習慣や注意点についてご説明いたします。安静と活動のバランスを取ることが、より良い生活を送るために必要です。
1.生活習慣で気を付けるべきこと
喘息患者さんが日常生活で気を付けるべきポイントは多くあります。
まず、規則正しい生活リズムを保つことが非常に大切です。
寝不足が続くと、からだの免疫機能が低下し、アレルゲンに対する過敏反応が起こりやすくなります。
また、心身にストレスがかかる状態が続いた場合、気道の炎症が悪化し、喘息発作が起こりやすくなります。そのため、十分な睡眠時間を確保し、ストレス管理を行うことが大切です。
次に、日頃からできる健康管理として、以下のような習慣を身につけるといいでしょう。
1. 帰宅時の手洗い・うがいの徹底
外出先で触れたさまざまな物には、喘息を悪化させる可能性のある微生物やアレルゲンが付着している可能性があります。帰宅後すぐに手洗い・うがいを行いましょう。
2. 人混みでのマスク着用
マスクは、空気中の粉塵やアレルゲン、ウイルスなどの侵入を防ぐ効果があります。とくに花粉症の方は、花粉飛散時期にはマスクの着用が重要です。
◆『喘息予防、発作予防にも有効なマスクの選び方と使い方』>>
3. インフルエンザワクチンなどの予防接種
喘息患者さんは、インフルエンザなどの呼吸器感染症にかかると症状が悪化しやすい傾向があります。そのため、感染対策の一環として予防接種を検討しましょう。
4. バランスの取れた食事
暴飲暴食を避け、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。適切な栄養摂取は、免疫機能の維持に役立ちます。
5. 適度な運動
喘息があっても、適度な運動は体力や肺機能の向上に役立ちます。ただし、運動の種類や強度については、主治医と相談のうえで決めることが大切です。
2.体調が悪い時は安静に!
喘息患者さんにとって、体調が悪い時の対応は非常に重要です。
風邪をひいている時や疲労が蓄積している時は、喘息発作が起こりやすい状態にあります。
このような時には、症状が軽くても無理をせずに休養を取ることが大切です。
体調不良の時には以下のような対応を心がけましょう。
1. 激しい運動を控える
無理に運動をすると喘息症状が悪化する可能性があります。
2. 十分な睡眠時間を確保する
睡眠はからだの回復に不可欠です。普段よりも長めの睡眠時間を確保し、からだを休めることが大切です。
3. 適切な室内環境を維持する
室温は22〜25℃、湿度は50〜60%程度に保つことが理想的です。とくに乾燥は気道を刺激するため、加湿器の使用も検討しましょう。
4. 水分補給を忘れずに
十分な水分摂取は、気道の粘膜を潤し痰の排出を助けます。冷たい飲み物ではなく、ぬるま湯やハーブティーなどを少しずつ飲むようにしましょう。
5. 処方された薬を正しく使用する
主治医から処方された薬は、指示通りに使用することが基本です。また、症状が悪化した場合の対応について、あらかじめ主治医と相談しておきましょう。
3.喘息が悪化する要因とは
喘息の症状を悪化させる要因はさまざまですが、主なものとして以下が挙げられます。
3-1. アレルゲンによるもの
アレルゲンは、喘息悪化の最大の要因のひとつです。主なアレルゲンには以下のようなものがあります。
・ハウスダスト(ダニ)
・花粉
・カビ
・ペットの毛や皮屑
・ゴキブリの死骸や糞
ご自分にどのようなアレルギーがあるかを知ることは、喘息の管理において非常に重要です。アレルゲンは、アレルギー検査(血液検査や皮膚テスト)で特定することができます。
効果的なアレルゲン対策として、以下のような方法があります。
・週に2回以上、掃除機がけを行う
・ベッドや寝具類に防ダニカバーを使用する
・布製品は定期的に洗濯や日光消毒を行う
・空気清浄機を活用する
・花粉の季節は窓を閉め、外出時はマスクを着用する
・ペットを飼っている場合は、寝室に入れないようにする
◆『咳が止まらないのはなぜ?アレルギーが原因かもしれません』>>
3-2.喫煙・タバコの煙によるもの
タバコの煙は、喘息患者さんにとって非常に有害です。
喫煙は気道粘膜を直接刺激するだけでなく、気道の炎症反応を増幅させます。また、タバコの煙は喘息の治療薬の効果を低下させることも知られています。
また、喫煙者ご本人だけでなく、受動喫煙(副流煙を吸うこと)でも喘息症状が悪化する可能性があります。
さらに、ご家族や周囲の方がタバコを吸う場合、喘息患者さんを守るために対策が必要です。
最も効果的なのは、喫煙者の方に禁煙を勧めることです。禁煙が難しい場合は、禁煙外来の受診をおすすめしましょう。
すぐに禁煙することが困難な場合は、屋外での喫煙をお願いするなどの配慮が必要です。
また、喫煙後はしばらくの間、喘息患者さんに近づかないよう協力を求めることも重要です。
やむを得ず室内で喫煙した場合は、十分な換気を行うことを忘れないでください。
さらに、近年普及している電子タバコについても注意が必要です。電子タバコの蒸気にも有害物質が含まれているため、喘息の症状悪化につながります。
3-3.呼吸器の感染症によるもの
呼吸器感染症は、喘息患者さんにとって重大なリスクです。
風邪、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、RSウイルス感染症、マイコプラズマ肺炎、ヒトメタニューモウイルス感染症などは、喘息症状を悪化させる可能性が高いことが知られています。
とくに新型コロナウイルス感染症は、喘息患者さんが感染した場合、肺炎の悪化や呼吸不全の重症化リスクが高まる可能性が指摘されています。
また、インフルエンザ罹患後の長引く咳は、喘息の発症や再発のきっかけとなる可能性もあります。
これらのリスクを踏まえ、喘息患者さんは感染予防対策を徹底し、症状の変化に注意を払うことが重要です。
また、定期的な受診と処方された薬の適切な使用を継続することが、感染症罹患時のリスク軽減につながります。
感染症にかかってしまった場合は、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。
普段から主治医と相談し、感染症にかかった際の対応方法(薬の使い方の変更など)を確認しておくとよいでしょう。
【参考情報】Cleveland Clinic『Human metapneumovirus』
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/22443-human-metapneumovirus-hmpv
3-4.その他の要因
喘息を悪化させる要因は、前述に加えて、メタボリックシンドローム・肥満やストレスも重要なものとして知られています。ここからは、それぞれについてご紹介しましょう。
【メタボリックシンドローム・肥満】
喘息の症状悪化には、メタボリックシンドロームや肥満が大きく関わっています。
研究によると、BMIが25以上の方は喘息症状が1.7倍増加し、吸入薬の効果が約30%低下するリスクがあります。
また、気道の炎症が持続しやすくなり、呼吸機能も低下する傾向にあります。
これらの問題を解消するには、適切な体重管理が不可欠です。
バランスの取れた食事や適度な運動(主治医と相談のうえで)、十分な睡眠時間の確保、そしてストレス管理を心がけることが重要です。
【ストレス】
ストレスも喘息症状を悪化させる主要な要因のひとつです。
持続的なストレスは、ストレスホルモン(コルチゾールなど)の分泌を増加させ、気道の炎症を悪化させます。
さらに、自律神経のバランスを崩し、気管支の収縮を引き起こしやすくします。
また、免疫機能の低下により感染症にかかりやすくなり、睡眠の質も低下して回復が遅れる可能性があります。
ストレス管理には、深呼吸やリラックス法の実践、趣味を楽しむ、適度な運動、十分な睡眠が効果的です。
必要に応じて心理カウンセラーなどの専門家に相談することも検討しましょう。
【大気汚染】
大気汚染も喘息症状の悪化要因となります。
PM2.5、オゾン、二酸化窒素などの大気汚染物質は喘息症状を悪化させる可能性があります。
大気汚染が深刻な日は外出を控え、やむを得ず外出する場合はマスクを着用しましょう。
帰宅後はうがいと手洗いを行い、室内では空気清浄機の使用を検討するといいでしょう。
【気象条件の変化】
気象条件の変化も喘息症状を誘発することがあります。
気温や湿度の急激な変化、寒冷刺激などに注意が必要です。
急激な温度変化を避けるため、エアコンの設定温度に気を付け、寒い日は口や鼻を覆うマスクやマフラーを使用しましょう。
また、室内の湿度を50〜60%程度に保つことも重要です。
【強い感情や笑い】
強い感情(怒りや興奮など)や大笑いが喘息発作のきっかけになることもあります。
これらを完全に避けることは難しいですが、呼吸法を身につけるなどして対処しましょう。
【月経前症候群(PMS)】
女性の場合、月経前に喘息症状が悪化することがあります。
これは、ホルモンバランスの変化が影響していると考えられています。症状が悪化する傾向がある場合は、主治医に相談し、対策を立てましょう。
これらの要因を理解し、適切に対処することで、喘息のコントロールを改善することができます。
ただし、患者さん個人によって喘息に影響のある要因は異なるため、ご自分の症状をよく観察し、主治医と相談しながら対策を立てていくことが大切です。
【参照文献】日呼吸誌『肥満を有する成人喘息患者の病態と治療への展望』
https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/008060365j.pdf
4.習慣にするべきこと
喘息患者さんが日常生活で心がけるべき習慣についてご説明いたします。
これらの習慣を取り入れることで、喘息のコントロールを改善し、より快適な生活を送ることが可能です。
4-1.より良い睡眠をとれる環境をつくる
質の良い睡眠は、喘息管理において非常に重要です。
睡眠不足が続くと、疲労が蓄積し、免疫力が低下してアレルゲンに反応しやすくなります。また、夜間や早朝に喘息症状が悪化しやすい傾向があるため、睡眠環境の整備は特に重要です。
・適切な室温と湿度の管理
室温は18〜22℃程度、湿度は50〜60%程度に保つことが理想的です。季節に応じて加湿器や除湿機を活用し、室内環境を調整しましょう。
・寝具の選択と管理
アレルギー対策を施した寝具を選び、ダニ対策として、羽毛布団よりも化学繊維素材の布団を検討しましょう。
シーツや枕カバーは定期的に交換し、こまめに洗濯することで衛生的な睡眠環境を維持できます。
・就寝前のルーティン
入浴は就寝2時間前にすませ、お湯の温度は38〜40℃程度が適切です。
また、就寝前は携帯電話やパソコンなどブルーライトを発する機器を使うのを控えましょう。
読書や軽いストレッチなどリラックスできる活動で、質の高い睡眠への準備を整えることができます。
・寝室の環境整備
寝室の照明は300ルクス以下の暖色系を使い、静かで暗い環境を作ります。
必要に応じてアイマスクや耳栓を使って、快適な睡眠空間を作ることが大切です。
また、寝室には花粉や埃を持ち込まないよう、寝る前に衣服を払うといいでしょう。
・規則正しい睡眠リズムの維持
毎日同じ時間に起床・就寝する習慣をつけ、休日も平日と同じリズムを保つよう心がけましょう。
一定のリズムを維持することで、体内時計を整え、より質の高い睡眠をとることが可能です。
4-2.ストレスをためないようにする
ストレスは喘息症状を悪化させる大きな要因です。強いストレスは気道の炎症を悪化させ、気管支の収縮を促進します。
効果的なストレス管理には、リラクセーション技法が有効です。
深呼吸法、漸進的筋弛緩法、マインドフルネス瞑想などを通じて、心身をリラックスさせることができます。
【漸進的筋弛緩法・・・看護においてリラクゼーション技術として活用される方法です。筋肉を緊張させ、その後弛緩させることを繰り返し、身体全体をリラックスさせることを目的とします。】
適度な運動も効果的です。
ウォーキングやヨガなどを行うことで気分転換とストレス解消につながります。ただし、運動誘発性喘息がある場合は医師に相談してから運動しましょう。
趣味や楽しみの時間を持つことも大切です。園芸、読書、音楽鑑賞など、ご自分が楽しめる活動を定期的に行うことで気分をリフレッシュできます。
また、ご家族やご友人との交流、喘息のサポートグループへの参加も心理的な支援となります。
さらに、タイムマネジメントは、ストレスを減らす効果的な方法です。ご自分のやるべき項目を整理し、大切なことに集中することで、焦りや混乱を防ぐことができます。
優先順位をしっかり決めることで、何から手をつけるべきかがわかり、重要なことに時間を使えます。無駄な作業を減らすことが可能になり、ストレスの軽減につながります。
「ノー」と言う勇気や「やらない」と決めることも大切です。
すべてのことを引き受けるのではなく、ご自分にとって本当に大切なことに力を入れることで、ストレスを減らせます。
また、必要に応じて、心理カウンセラーや精神科医などの専門家にサポートを求めることも検討しましょう。
4-3.タバコは吸わない
喫煙は喘息患者さんにとって最も避けるべき習慣のひとつです。
タバコの煙は気道を直接刺激し、炎症を悪化させるだけでなく、喘息の治療薬の効果も低下させます。
また、受動喫煙(副流煙を吸うこと)でも喘息症状が悪化する可能性があるため、周囲の方の喫煙にも注意が必要です。
禁煙が難しい場合は、ためらわずに禁煙外来を受診しましょう。専門医のサポートを受けることで、禁煙成功率が大幅に向上します。
また、禁煙補助薬を使用することで、禁煙時の離脱症状を軽減し、より楽に禁煙を進めることができます。
4-4.適度な運動
適度な運動は、喘息患者さんにとっても重要です。
運動は全身の健康を維持するだけでなく、肺機能の向上や喘息症状の改善にも役立ちます。
ただし、運動誘発性喘息(EIA)というタイプの方は、運動を始める前に必ず主治医に相談し、適切な方法や注意点を確認することが大切です。
5.おわりに
喘息は慢性の疾患ですが、適切な管理と生活習慣の改善によって、多くの患者さんが制限のない日常生活を送ることができます。
さまざまな対策や習慣を日々の生活に取り入れることで、喘息症状のコントロールを改善し、より快適な生活を実現することが可能です。
ただし、患者さんそれぞれによって症状や悪化要因は異なるため、ご自分の体調をよく観察し、主治医と密に連携しながら、ご自分に合った管理方法を見つけていくことが大切です。
喘息があっても、旅行やスポーツ、仕事など、病気のない方と変わらない日常生活を送ることは十分にできます。
喘息と上手に付き合いながら、自分らしい生活を送れるよう、安静と活動のバランスを取りましょう。