こどもが変わった咳をしてる。それって「クループ症候群」かも?
夜中にお子さまが突然、胸を押さえながら犬の遠吠えのような甲高い咳をし始めたら、多くの方はとても不安でしょう。
息を吸い込むたびにヒューヒューとした音がし、顔が真っ赤になったり、逆に青白くなったりすることもあります。そんなとき考えられるのがクループ症候群です。
とくに1〜3歳の幼児に多く見られ、上気道の炎症が原因で呼吸困難を引き起こしやすく、夜間に症状が悪化しやすいことが特徴です。
この記事では、突然の発症にも冷静に対応できるよう、クループ症候群の原因や症状、自宅での応急処置のポイントをご説明いたします。
お子さまの呼吸が楽になるための情報を把握しておきましょう。
1. クループ症候群の原因・特徴について
クループ症候群(喉頭気管気管支炎)は、主にウイルス感染によって引き起こされる上気道の炎症性疾患です。1〜3歳の幼児に多く見られ、秋から冬にかけて発症することが多いのが特徴です。
原因となるウイルスには、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルスなどがあります。これらのウイルスが喉頭や気管に感染することで、炎症や腫れが生じ、気道が狭くなります。
クループ症候群の特徴として、以下のようなものが挙げられます。
1.突然の発症:多くの場合、夜間に症状が出現し、急激に悪化することがあります。
2.年齢層:1〜3歳の幼児に多く見られますが、6ヶ月〜5歳くらいまでの範囲で発症することがあります。
3.季節性:秋から冬にかけて多く発症します。
4.繰り返し起こる可能性:一度かかった方でも再び発症することがあります。
5.自然軽快:多くの場合、3〜7日程度で自然に症状が改善します。
クループ症候群は、お子さまの年齢や症状の重さによって重症度が変わります。
軽い場合や中程度の場合は、自宅で様子を見ながら休息することで自然に回復することが多いですが、症状が重い場合は病院での入院治療が必要になることもあります。
保護者の方はお子さまの状態をしっかり観察し、少しでも不安な症状が見られたら早めに医療機関を受診することが大切です。
【参照文献】日医大医会誌 2007; 3(2)『小児の呼吸器感染症 クループ症候群』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/manms/3/2/3_2_105/_pdf/-char/ja
【参考情報】Mayo Clinic 『Croup』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/croup/symptoms-causes/syc-20350348
2. クループ症候群の症状とは?
クループ症候群の症状は、上気道の炎症や腫れが原因で引き起こされます。以下で代表的な症状をご紹介しましょう。
1. 特徴的な咳
最も特徴的なのは、犬の遠吠えのような「ケンケン」という咳や、オットセイの鳴き声のような「オウッオウッ」という咳です。咳は乾いた感じで、金属音のような響きがあり、普通の風邪のものとは異なる印象を与えます。
2. 喘鳴(ぜんめい)
息を吸うときに「ヒューヒュー」や「ゼーゼー」といった音が聞こえることがあります。これは、気道が狭くなっていることで起こる症状です。吸気時にこの音が強くなるのが特徴です。
3. 嗄声(させい)
声がかすれたり、しゃがれ声になることもよく見られます。喉頭の炎症が原因で、声がいつもと違うように感じられることがあります。
4. 呼吸困難
症状が進むと、呼吸が苦しくなることがあります。とくに息を吸うときに、胸やのどのあたりがへこむ「陥没呼吸」が見られる場合は、早急な対応が必要です。
5. 発熱
軽度から中等度の発熱を伴うことが多く、風邪と似た症状から始まることがあります。
6. その他の症状
クループ症候群には、鼻水や鼻づまり、のどの痛みなど、一般的な風邪に似た症状が一緒に見られることもあります。
クループ症候群の症状は、多くの場合、夜間に突然現れ、翌朝にはいったん落ち着くことがあります。しかし、夜になると再び悪化するケースも少なくありません。
とくに注意が必要なのは、呼吸が苦しそうな様子が見られるときです。呼吸が速くなったり、息をするたびに胸やのどが大きくへこんで見える場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
また、クループ症状は泣いたり興奮したりすることで悪化しやすいため、できるだけお子さまを落ち着かせ、安静に保つことが大切です。
3. クループ症候群の診断・検査について
クループ症候群の診断は、症状と身体所見をもとに行われます。
医師は、咳の音や呼吸の状態、既往歴などを詳細に確認し、必要に応じて検査を実施します。ここからは、診断の流れと主な検査内容をご紹介しましょう。
1. 問診
医師は、症状の経過や発症のタイミング、悪化と改善のパターンについて聞き取ります。お子さまの年齢や既往歴、アレルギーの有無も確認します。
これにより、クループ症候群である可能性を絞り込み、ほかの病気との鑑別に役立てます。
2. 身体診察
喉の観察や、聴診器を使って呼吸音の確認を行います。とくに、特徴的な犬のような咳や喘鳴(ぜんめい)、呼吸困難が見られるかどうかを重点的に確認します。
呼吸のたびに胸やのどがへこむ陥没呼吸が見られる場合は、重症と判断されることがあります。
3. 酸素飽和度測定
パルスオキシメーターを使って、血液中の酸素濃度を測定します。これにより、呼吸機能がどの程度低下しているかを客観的に評価できます。
4. X線検査
必要に応じて、頸部や胸部のX線撮影を行います。X線画像では、気道が狭くなった状態が「ステープルサイン」として確認されることがあります。また、肺の状態を調べて、ほかの疾患との区別に役立てます。
【ステープルサイン(steeple sign)・・・喉頭の狭窄所見でクループ症候群に特徴的な所見の一つ。】
5. 血液検査
重症例やほかの病気を除外するために、血液検査が行われることもあります。とくに、細菌感染が疑われる場合は、炎症の有無や感染の指標を確認するための検査が有効です。
このような問診と身体診察だけで、多くの場合は診断がつきますが、重症例や診断が難しい場合には、より詳細な検査が必要です。
また、クループ症候群と似た症状を示す他の疾患(喘息、異物誤嚥、細菌性気管炎など)との鑑別も重要です。
保護者の方は、医師の質問に対してできるだけ詳しく答え、お子さまの症状の経過や変化について正確に伝えることが大切です。
4. クループ症候群の治療について
クループ症候群は、適切な対応と治療で多くの場合は数日で回復します。対症療法が中心ですが、重症例では入院治療が必要になることもあります。
ここからは症状の程度に応じた治療法をご紹介しましょう。
【軽症の場合:自宅での対応】
(環境調整)
加湿器の使用や洗濯物を室内干しするなどで、空気を湿らせましょう。
シャワーの蒸気を利用するのも効果的です。
(症状緩和)
お子さまを楽な姿勢にし、十分な水分補給を心がけます。
背中をやさしくさすったり、軽くたたいたりすると咳が和らぐことがあります。
温かい飲み物を少量ずつ与えるのもよいでしょう。
(注意点)
安静にさせ、泣いたり疲れたりしないよう気をつけます。
症状が重い時は入浴を控え、からだを拭くだけにとどめましょう。
【中等症から重症の場合:医療機関での治療】
(薬物療法)
コルチコステロイド:気道の腫れを抑えるために使用します。
アドレナリン吸入:呼吸症状の改善に効果があります。
その他:解熱剤、気管支拡張薬、去痰薬なども症状に応じて使用されます。
(入院治療)
お子さまの呼吸困難が強い場合や、症状が急激に悪化する場合には、入院治療が必要になることがあります。必要に応じて集中治療室(ICU)での管理を行うこともあります。入院中の主な治療内容は以下の通りです。
1. 酸素投与
呼吸が苦しく酸素が不足している場合、酸素マスクや鼻カニューラを使用して酸素を投与します。
2. 点滴による水分補給
飲食が難しい場合や、発熱によって体内の水分が不足している場合は、点滴で水分や必要な電解質を補い脱水症状を防ぎ、体力の回復を助けます。
3. 薬物療法の継続
以下の薬物療法が行われます。
ステロイド薬:喉の炎症を抑え、気道を広げて呼吸を改善します。
アドレナリン吸入:一時的に気道を広げ、急な呼吸困難を和らげます。
解熱剤や鎮痛剤:発熱やのどの痛みを緩和するために使用されます。
(予防と注意点)
クループ症候群は夜間に症状が悪化しやすいため、就寝中もお子さまの呼吸状態を定期的に確認することが大切です。
呼吸音が変わったり、咳がひどくなったりする兆候があれば、早めに対応できるよう準備を整えておきましょう。
症状が完全に治まるまでは、無理をさせず、保育施設や学校を休ませて自宅で安静に過ごさせることが必要です。体をしっかり休ませることで、回復を早め、再発のリスクを減らします。
なお、クループ症候群はウイルス感染が原因となるため、抗生物質は通常使用しません。ただし、細菌感染が併発したごくまれなケースでは、医師が必要と判断した場合に限り、抗菌薬が処方されます。
5. 受診の目安と診療科
クループ症候群を疑う場合、どのようなタイミングで、どの診療科を受診すべきでしょうか。ここからは、受診の目安と適切な診療科についてご説明します。
【受診の目安】
お子さまがぐったりとして呼吸が苦しそうに見える場合、息をするたびに胸やのどがへこむ、心拍が異常に速いと感じたときは、緊急の対応が必要です。
さらに、唇や顔が青白くなったり紫色に変わるチアノーゼが見られた場合は、命に関わる危険性があるため、直ちに医療機関を受診するか、迷わず救急車を呼んでください。
また、極度の疲労で反応が鈍く、起こしてもぐったりとしている場合や、脱水が進み口の乾きや尿の減少が確認されたときも、迅速な対応が必要です。
わずかな異変でも決して見過ごさず、迷わず医師に相談し、お子さまの安全を最優先に行動しましょう。
【適切な診療科】
クループ症候群の診療に適した診療科は以下の通りです。
・小児科
クループ症候群は小児に多い疾患であるため、小児科が最も適切な診療科です。小児科医は小児疾患に精通しており、適切な診断と治療を行うことができます。
・耳鼻咽喉科
喉の症状が主な場合、耳鼻咽喉科を受診するのも良いでしょう。ただし、小児のクループ症候群に対応できる耳鼻咽喉科を選ぶ必要があります。
・救急外来
夜間や休日、または症状が重い場合は、近くの救急外来を受診しましょう。多くの総合病院の救急外来では、小児科医が対応しています。
・かかりつけ医
日頃からお子さまの健康管理をしているかかりつけ医がいる場合は、まずそちらに相談するのも良いでしょう。状況に応じて適切な医療機関を紹介してもらえます。
受診の際は、以下のような点に注意しましょう。
症状の経過や程度、発症のタイミングなどをできるだけ詳しく医師に伝えてください。
お子さまが普段服用している薬がある場合は、お薬手帳を持参するなど薬剤名を医師に伝えてください。
夜間や休日に受診する可能性がある場合は、あらかじめ近くの救急医療機関の場所や連絡先を確認しておきましょう。
呼吸困難が強い場合は、無理に病院まで連れて行こうとせず、救急車を呼ぶことを検討してください。
クループ症候群は適切な治療により良好な経過をたどることが多い疾患ですが、症状の程度によっては緊急性の高い状態になることもあります。
お子さまの様子がいつもと違う、または心配な点がある場合は、ためらわずに医療機関を受診しましょう。
医師の診察を受けることで、適切な診断と治療を受けられるだけでなく、保護者の方の不安も和らぐでしょう。
【参考情報】CievelandClinic 『Croup』
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/8277-croup
6. 自宅でのケア方法
前述でも記載したとおり、症状が軽い場合や、医師の診察を受けた後に入院が必要ない場合は自宅で療養するのが一般的です。この際の自宅でのケアが、回復を助ける大きな支えになります。
まず、お子さまが咳き込んで苦しそうなときは、部屋の湿度を高めることが有効です。
たとえば、夜中に咳がひどくなった場合、加湿器を使って部屋の湿度を調整したり、お風呂場で温かいシャワーを出し、浴室の湯気を吸わせるのも効果的です。
浴室で少し湯気を吸い込ませると、「すぐに咳が楽になった」という保護者の方の声も多くあります。ただし、湿度が高すぎると空気がこもってかえって不快になるため、加湿のしすぎには注意が必要です。
また、のどの乾燥を防ぐために水分をこまめに補給することも大切です。
温かいスープや麦茶など、消化に負担のかからないものを選び、無理なく飲ませてあげてください。
脱水を防ぐためにも、1回に多く飲ませる必要はなく、少しずつでも頻繁に水分を取ることがポイントです。
普段はあまり水を飲まないというお子さまには、好きなジュースを少量ずつ与えるのもよいでしょう。
お子さまが興奮したり泣きわめいたときには、咳や呼吸困難が悪化することがあります。
そのため、できるだけ安静に過ごさせることが重要です。静かな遊びや絵本の読み聞かせなどで気持ちを安定させてあげましょう。
眠るときには、上体を少し起こした姿勢が呼吸を楽にします。枕を2枚重ねたり、ベビーベッドの場合は背中にタオルやクッションを入れて少し傾斜をつけると、お子さまが楽に寝られる姿勢を作れます。
室温の調整も回復には欠かせません。20〜22度を目安にし、エアコンや加湿器を上手に活用しながら、からだが冷えすぎないよう調整しましょう。
冬場であれば、薄手のパジャマを重ね着させるなどして体温の調節がしやすい服装を選ぶこともポイントです。暑すぎたり寒すぎたりしない環境が、呼吸を安定させるのに役立ちます。
さらに、部屋の清潔を保つことも大切です。日中にしっかり換気を行い、ほこりがたまらないよう掃除することで、空気の質を整えます。
医師から処方された薬がある場合は、正しい時間と量で服用させることを忘れないでください。不明な点があれば薬剤師や医師に相談し、適切に管理することが早期回復につながります。
症状の変化を注意深く観察することも欠かせません。とくに、夜間の呼吸が不安定なときは、早めの受診が安心につながります。
これらのケア方法は、あくまでも補助的なものです。症状が重い場合や、自宅でのケアで改善が見られない場合は、必ず医療機関を受診してください。また、医師から具体的な指示がある場合は、それに従うことが最も重要です。
7. おわりに
クループ症候群は、幼児に多く見られる上気道の炎症性疾患で、特徴的な咳や呼吸困難を引き起こします。とくに夜間に悪化しやすいため、早めの観察と医療機関の受診が大切です。
自宅での適切なケアで症状を和らげることも可能ですが、改善が見られない場合や悪化した場合は、迷わず医師に相談しましょう。