指定難病「肺動脈性肺高血圧症」とはどんな病気?
肺動脈性肺高血圧症は、肺の血管に異常が生じ、心臓に負担をかける病気です。
息切れや疲労感といった初期症状から始まり、進行すると生活の質が大きく損なわれます。そのため、早期診断と適切な治療が重要です。
この記事では、肺動脈性肺高血圧症の症状や診断方法、治療法についてご説明いたします。
1.肺動脈性肺高血圧症の症状・特徴について
肺動脈性肺高血圧症は、肺動脈の圧力が異常に高くなる病気で、主に心臓と肺に負担をかけます。
肺動脈とは、心臓から肺に血液を送り込む役割がある血管で、酸素を取り込むために血液を肺へ送り出します。
しかし、肺動脈性肺高血圧症では肺動脈が狭くなり、血液の流れが妨げられるため、血管内の圧力が上昇します。
その結果、心臓は強い力で血液を送り出さなければならなくなり、徐々に心臓に負担がかかります。
肺動脈性肺高血圧症の初期症状は、息切れや疲労感など、日常生活の中で感じる程度のものです。
これらの症状はほかの疾患とも共通するため、見逃されがちになります。
動作時の息切れや倦怠感がとくに顕著になり、階段を上る、買い物に出かけるといった通常の活動が難しくなる場合があります。
進行すると、胸痛やめまい、さらには失神といった重篤な症状も現れることがあります。
徐々に進行することが多く、気づいた時には肺動脈性肺高血圧症が深刻化していることも少なくありません。
肺動脈性肺高血圧症の具体的な症状を整理すると、以下のようになります。
・動作時の息切れ
・慢性的な疲労感
・胸の痛み
・めまいや失神
・足のむくみ(浮腫)
症状が進行すると生活の質に大きな影響を与えるため、早期発見が重要です。
【参照文献】一般社団法人日本呼吸器学会『肺動脈性肺高血圧』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/f/f-02.html
【参考情報】Mayo Clinic “Pulmonary hypertension”
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pulmonary-hypertension/symptoms-causes/syc-20350697
2.肺動脈性肺高血圧症の診断・検査について
肺動脈性肺高血圧症の診断には、患者さんが訴える症状や初期検査の結果をもとに、必要に応じて精密検査が行われます。
正確な診断を下すためには、カテーテル検査によって肺動脈圧を正確に測定することが必要です。
【初期の検査】息切れや疲労感がある場合の検査
肺動脈性肺高血圧症が疑われる場合、まずは心エコー図検査、心電図、胸部レントゲン検査などの基本的な検査が行われます。
1. 心エコー図検査
心エコー図検査は、超音波を使って心臓の動きや形状をリアルタイムで映し出し、心臓がどのように機能しているかを評価する検査です。
検査によって、心臓の右側の機能や肺動脈圧の推測が可能です。
肺動脈性高血圧症の患者さんでは、肺動脈圧の上昇により心臓の右側、特に右心室に負担がかかるため、心エコー図によって心臓が過度に拡張していないか、右心室が過剰に働いていないかを確認します。
痛みを伴わず、身体への負担も少ないため、最初に行われることが多いです。
2. 心電図
心電図は、心臓の電気的な活動を記録する検査です。
肺動脈性肺高血圧症では、心臓の右側に負担がかかるため、右心負荷(右心室が過剰に働いている状態)が心電図上で波形に異常が示されることがあります。これは、肺動脈性肺高血圧症が疑われる兆候のひとつです。
3. 胸部レントゲン検査
胸部レントゲンでは、肺や心臓の大まかな状態を確認することができます。
肺動脈性肺高血圧症が進行している場合、肺動脈が拡大している所見や、右心室の肥大が認められることがあります。
これにより、肺動脈にかかる負荷や心臓の異常を推測することが可能です。また、さらなる精密検査の必要性を判断する材料となります。
診断確定のための精密検査
初期の検査結果で肺動脈性肺高血圧症の疑いが強まった場合、次に行うのが「右心カテーテル検査」です。
この検査は、肺動脈性肺高血圧症の診断において最も重要であり、正確な診断を確定するために不可欠です。
【右心カテーテル検査】
右心カテーテル検査では、患者さんの足の付け根(大腿静脈)や腕(肘や手首)から細いカテーテルを挿入し、それを肺動脈まで進めていきます。
カテーテルを使って肺動脈圧を直接測定することができ、肺動脈性肺高血圧症の診断基準である「平均肺動脈圧が25mmHg以上」であるかを確認します。
肺動脈性肺高血圧症の確定診断に必須であり、患者さんの肺動脈性肺高血圧症の進行度を正確に把握することができます。
検査によって、以下のようなデータが得られます。
・肺動脈圧(肺に血液を送る際の血圧)
・右心室圧(右心室がどのくらいの圧力で血液を送り出しているか)
・心拍出量(1分間に心臓から送り出される血液の量)
右心カテーテル検査は、一般的には専門の医療機関で行われ、熟練した医師によって実施されます。
検査自体は約1〜2時間程度で終了し、局所麻酔下で行われるため、比較的安全に受けることができるものです。
検査後は、安静にする時間が必要ですが、入院は通常1日程度が一般的です。
3.肺動脈性肺高血圧症の治療について
肺動脈性肺高血圧症は、根治が難しい病気ですが、適切な治療を行うことで症状を改善し、進行を遅らせることが可能です。
治療にはいくつかの方法がありますが、大きく分けて薬物療法、生活習慣の改善、場合によっては手術療法が選択されます。
まず、薬物療法について説明しましょう。
薬物療法では肺動脈の血管を拡張し、心臓への負担を軽減するための薬が使われます。
これらの薬には、肺血管を広げる効果を持つものや、血管の収縮を抑える効果を持つものがあります。これらを組み合わせることで効果を高めます。
代表的な薬は、プロスタサイクリン系薬、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬などです。
重症例では、外科的治療が必要になることもあります。例えば、肺移植や心肺移植の選択です。
これらの手術は最終的な治療手段となり、他の治療法で効果が見られない場合に検討されます。
手術にはリスクが伴うため、慎重な判断が求められます。
治療は患者さんごとの状態に応じて異なりますが、適切な治療を続けることで、症状の改善や生活の質の向上が期待できます。
そして、症状の管理には生活習慣の改善も重要です。肺動脈性肺高血圧症は、慢性的な疾患であるため、日常生活の中でいかに症状と向き合っていくかが大切です。
適切な治療と並行して、日々の生活の中で工夫することで、症状を和らげ、より快適な生活を送ることが可能になります。
ここからは、生活の中で気をつけるべきポイントや、症状管理に役立つ工夫についてお話ししましょう。
1.適度な運動を取り入れる
肺動脈性肺高血圧症の症状のひとつに、動作時の息切れや疲労感があります。
そのため、「運動は体に悪いのでは?」と思われる方も多いかもしれません。
確かに、過度な運動は心臓や肺に負担をかけるため避けるべきですが、適度な運動は体力の維持や心肺機能の向上に役立つ場合があります。
ただし、運動を行う際には、医師の指導のもとで無理のない範囲で行うことが重要です。
例えば、ウォーキングや軽いストレッチなど、ゆっくりとした運動を継続的に行うことで、体力を維持することができます。
もし、運動中に息切れや胸痛が出た場合はすぐに中止し、医師に相談することも大切です。
運動を始める前には、どのような運動が自分に合っているかを医師に確認しましょう。無理せず、自分のペースで進めることがポイントです。
2.食事管理で心臓と肺を守る
肺動脈性肺高血圧症の管理において、食事も非常に重要な要素です。
とくに塩分の摂取は、心臓や血圧に影響を与えるため、控えることが推奨されています。
塩分の過剰摂取は、体内の水分バランスを崩し、心臓に負担をかけることがあるためです。
日々の食事では、できるだけ減塩を心がけ、加工食品やファーストフードなどの高塩分食品を避けるようにしましょう。
自宅で料理を作る際には、塩や醤油の代わりに、ハーブやスパイスを使って風味を加えると、満足感のある食事を楽しむことができます。
また、水分管理も大切です。
医師の指導に基づいて、必要な水分量を把握し、過剰摂取にならないように気をつけましょう。適度な水分により、心臓や肺への負担を軽減することが可能です。
バランスの取れた食事を心がけ、体調を整えるよう努めましょう。
3.ストレスをコントロールする
肺動脈性肺高血圧症は、心身ともに大きな負担がかかる病気です。
慢性的な症状や日々の治療によるストレスが、症状の悪化を招くこともあります。
そのため、ストレスを上手にコントロールする方法を見つけることが重要です。
ストレスを軽減するための方法としては、リラクゼーションや呼吸法の実践が挙げられます。
呼吸法には深い呼吸を意識的に行うことで、心身をリラックスさせる効果があります。瞑想やマインドフルネスといったメンタルケアの方法も効果的です。
【マインドフルネス・・・過去の経験や先入観にとらわれず、今この瞬間の自分の心身や周りの状況に集中して、ありのままに受け入れる状態のこと。】
日々の生活の中で、家族や友人と積極的にコミュニケーションをとることも、気持ちを軽くする助けのひとつになります。
不安や悩みをひとりで抱え込まず、周囲のサポートを受けながら前向きに過ごすことが大切です。
4.定期的な通院と専門医のサポートを受ける
肺動脈性肺高血圧症は、進行性の病気であり、症状の進行具合や治療効果を常に確認していく必要があります。
そのため、定期的な通院や専門医によるサポートが欠かせません。
定期的な検査を受けることで、治療の効果を確認し、必要に応じて治療法を見直すことができます。
医師とのコミュニケーションをしっかりと行い、ご自分の状態を正確に伝えることで、適切な治療を受けることができます。
さらに、最新の治療法や薬物療法の進展に関する情報を医師から得ることで、病気の管理がより効果的になるでしょう。
【参照文献】国立研究開発法人 国立循環器病研究センター『肺高血圧』
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/pph/
4. おわりに
肺動脈性肺高血圧症は、進行性の病気ではありますが、早期に診断し適切な治療を行うことで症状を抑え、生活の質を改善できる可能性がある病気です。
初期の息切れや疲労感といった症状はほかの疾患と似ているため、放置されがちですが、早めの受診が重要です。そのため、もし日常的に息切れや疲労感を感じるようであれば、医療機関での診察を早めに検討しましょう。
専門的な診断と治療により、病気の進行を遅らせることが可能です。
患者さんひとりひとりに合った治療法を見つけ、生活習慣の改善とともに前向きに治療に取り組むことが大切です。適切な対応が将来の生活の質を大きく左右することになります。
肺動脈性肺高血圧症の治療には多くの選択肢があります。医師とともに最善の方法を見つけましょう。
当院に、肺動脈性肺高血圧症を危惧される患者さんがご来院されました場合は、近隣の大学病院などへ紹介いたします。