放置すると危険!糖尿病とはどんな病気?

糖尿病は、血糖値が慢性的に高くなることで全身の血管や臓器にさまざまな影響を及ぼす病気です。

初期の段階では自覚症状がほとんどありません。

そのため、気づかないうちに進行してしまうことが多いですが、放置すると失明や腎不全、心筋梗塞など命に関わる重い合併症を引き起こすこともあります。

この記事では、糖尿病の基礎知識についてご説明いたします。

症状や原因、糖尿病の種類、検査方法、治療法、そして日常生活で気をつけたいポイントなどを解説いたします。

1.糖尿病ってどんな病気?


糖尿病とは、体内の血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)が慢性的に高くなってしまう病気です。

本来、血糖値はすい臓から分泌されるインスリンというホルモンによって、適切にコントロールされています。

しかし、糖尿病になるとインスリンの分泌量が不足したり、インスリンがうまく働かなくなったりすることで、血糖値が高い状態が続いてしまいます。
 
血糖値が高い状態が長期間続くと、全身の血管が傷つき、さまざまな合併症が起こります。

とくに、細い血管にダメージが及ぶことで、目の網膜症や腎臓の障害、手足のしびれなどが起きやすくなります。

また、太い血管にも影響が及ぶと、心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる病気のリスクも高まります。
 
糖尿病は「サイレントキラー」とも呼ばれており、初期にはほとんど症状が現れません。

そのため、気づかないうちに進行し、気づいたときには重い合併症を発症していることも少なくありません。

定期的な健康診断や血液検査で早期発見・早期治療を心がけることが大切です。

2.糖尿病の症状とは


糖尿病の初期には、ほとんど自覚症状がありません。

そのため、多くの患者さんが「自分は大丈夫」と思い込んでしまい、発見が遅れることが多いのです。
 
症状が現れる場合、代表的なものとして以下のようなものがあります。

・のどが渇きやすくなる
・尿の回数や量が増える
・体重が急激に減る
・疲れやすくなる、だるさを感じる
・手足のしびれや感覚異常
 
これらの症状は、血糖値が高い状態が続くことでからだが水分を失いやすくなったり、エネルギーがうまく使えなくなったりすることが原因です。

しかし、これらの症状が現れる頃には、すでに糖尿病がかなり進行している場合が多いのが現実です。
 
また、糖尿病が進行すると、先ほど述べたような合併症が発症し、失明や腎不全、足の壊疽(えそ)など重い障害につながることもあります。

自覚症状がなくても、定期的に検査を受けることが大切だと言えます。

【参考情報】Mayo Clinic『Diabetes』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/diabetes/symptoms-causes/syc-20371444

3.糖尿病の原因とは


糖尿病の発症にはさまざまな要因が関与しています。ここからは、主な原因についてご説明いたしましょう。

3-1.暴飲暴食

糖尿病の大きな原因のひとつが、食べ過ぎや飲み過ぎです。

高カロリーな食事や甘いもの、脂っこいものを頻繁に摂取し続けていると、体内で余分なエネルギーが脂肪として蓄積され、インスリンの働きが悪くなります。

また、アルコールの過剰摂取も糖尿病のリスクを高めます。

アルコールには利尿作用があり、飲みすぎた場合には体内の水分が失われやすくなります。

その結果、血糖値がさらに上昇しやすくなり、糖尿病の悪化につながることがあります。

3-2.肥満

肥満、特にお腹まわりに脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」は、糖尿病の大きなリスク要因です。

理由としては、内臓脂肪が増えることで「インスリン抵抗性」が起こりやすくなるためです。

インスリン抵抗性とは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなった状態を指します。

通常、インスリンは食事で上がった血糖値をコントロールする役割を担っていますが、内臓脂肪が多いと脂肪細胞から分泌される炎症性物質や脂肪酸が、インスリンの働きを妨げてしまいます。

その結果、血糖値が高い状態が続きやすくなり、2型糖尿病の発症につながります。

さらに、肥満は「睡眠時無呼吸症候群」の発症リスクも高めます。

肥満によって首まわりや喉の周辺に脂肪がつくと、睡眠中に気道が狭くなり、呼吸が一時的に止まる無呼吸状態が繰り返されます。

睡眠時無呼吸症候群を放置すると、睡眠中に何度も酸素不足が起こり、からだは慢性的なストレス状態になります。

この状態が続くと、インスリン抵抗性がさらに悪化し、糖尿病のリスクが一層高まります。

また、睡眠の質が低下することで、食欲をコントロールするホルモンのバランスも乱れやすくなり、過食や体重増加を招く悪循環に陥ることもあります。

したがって、肥満や睡眠障害は糖尿病の予防や管理において、見逃せない重要なポイントです。

健康的な体重を維持し、良質な睡眠を確保することが、糖尿病リスクを下げるためには欠かせません。

◆『睡眠時無呼吸症候群とは』>>

3-3.運動不足

日常的にからだを動かす機会が少ない運動不足の状態では、消費エネルギーが減り、血糖値が高い状態が続きやすくなります。

運動不足の状態が続くと、筋肉によるブドウ糖の消費が減少し、血液中の糖が余りやすくなるためです。

さらに、運動不足は体脂肪、特に内臓脂肪の増加を招き、これがインスリンの効き目を悪くする「インスリン抵抗性」を進行させる原因となります。

インスリン抵抗性が進むと、血糖値を下げる働きが十分に発揮されず糖尿病の発症リスクが高まります。

また、運動不足は肥満の大きな要因でもあり、前述のとおり肥満とインスリン抵抗性が重なることで、さらに血糖コントロールが難しくなります。

普段からあまり運動をしない方は、日常生活のなかで意識的にからだを動かすことが大切です。

たとえば、徒歩や自転車を利用した移動、エスカレーターやエレベーターの代わりに階段を使う、家事や掃除を積極的に行うなど、身近な活動から始めることができます。

また、筋肉量を維持・増加させることでエネルギー消費が高まり、血糖値の安定にもつながります。

このように、日常的な運動習慣を身につけることは、血糖値の管理や糖尿病予防にとって非常に重要です。

3-4.遺伝

糖尿病には遺伝的な要因も関与しています。

特に2型糖尿病は「糖尿病になりやすい体質」が親から子へ受け継がれることが知られており、家族に糖尿病の方がいる場合、そうでない方と比べて発症リスクが高くなるとされています。

ただし、遺伝するのは「糖尿病そのもの」ではなく、「糖尿病になりやすい体質」です。

糖尿病になりやすい体質に加えて、食べ過ぎや運動不足、肥満、ストレスなどの生活習慣が重なることで、実際に糖尿病を発症しやすくなります。

したがって、ご家族に糖尿病の方がいる場合でも、日々の生活習慣を見直すことで発症リスクを下げることが可能です。

【参照文献】 日本内分泌学会『2型糖尿病|一般の皆様へ』
https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=93

4.糖尿病には種類がある


糖尿病にはいくつかの種類があり、それぞれ原因や特徴が異なります。ここからは、代表的な3つの糖尿病についてご説明しましょう。

4-1.1型糖尿病

1型糖尿病は、膵臓のインスリンを作る細胞(β細胞)が自己免疫の異常によって破壊されることで発症する糖尿病です。

インスリンは血糖値を下げる重要なホルモンですが、1型糖尿病ではインスリンがほとんど、またはまったく分泌されなくなります。

そのため、血糖値が急激に高くなりやすくなります。

1型糖尿病は従来、子どもや若い方に多いとされてきましたが、実際には全年齢で発症する可能性があります。成人になってから発症するケースも少なくありません。

発症の仕方には個人差があり、数日から数週間で急激に症状が現れる「急性発症型」だけでなく、数か月から数年かけて徐々に進行する「緩徐進行型」もあります。

1型糖尿病は生活習慣や食事とは関係なく発症することが多く、発症後はインスリン注射などによる治療が生涯にわたって必要となります。

発症時には、のどの渇き、多尿、体重減少、強いだるさなどの症状がみられることが多いです。特に急激な発症の場合は、早期の診断と治療が重要です。

4-2.2型糖尿病

2型糖尿病は、成人以降に発症することが多いタイプの糖尿病です。日本人の糖尿病患者さんの約9割がこの2型糖尿病に該当します。

2型糖尿病は、インスリンの分泌量が徐々に減ったり、からだがインスリンに対して鈍感になったり(インスリン抵抗性)することで発症します。

主な原因は、過食や運動不足、肥満、ストレス、加齢、遺伝などさまざまです。

初期は自覚症状がほとんどなく、健康診断で偶然発見されることも多いです。

生活習慣の改善が治療の中心となりますが、進行すると薬物療法が必要になることもあります。

4-3.妊娠糖尿病

妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見される糖尿病または血糖値の異常のことを指します。

妊娠中はホルモンバランスが大きく変化するため、インスリンの働きが一時的に悪くなり、血糖値が上がりやすくなります。

妊娠糖尿病を放置すると、母体だけでなくお腹の赤ちゃんにも合併症をもたらす恐れがあります。

例えば、赤ちゃんが巨大児になったり、出産後に低血糖を起こすリスクです。

妊娠糖尿病は出産後に改善することも多いですが、将来的に2型糖尿病を発症するリスクも高くなるため、注意が必要です。

5.検査方法


糖尿病の診断や経過観察には、主に血液検査と尿検査が行われます。ここからは、それぞれの検査についてご説明しましょう。

5-1.血液検査

血液検査は、糖尿病の診断や治療効果の判定に欠かせない検査です。

主に「空腹時血糖値」「随時血糖値」「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」などを測定します。

空腹時血糖値は、食事をとっていない状態での血糖値を調べるもので、基準値を超えている場合は糖尿病が疑われます。

HbA1cは、過去1〜2か月間の平均的な血糖値を反映する指標で、より正確に血糖コントロールの状態を把握できます。

血液検査は定期的に行うことで、治療の効果や合併症のリスクを早期に発見することが可能です。

5-2.尿検査

尿検査では、尿中の糖やタンパク、ケトン体などを調べます。

健康な方の尿には通常、糖は含まれていませんが、血糖値が高くなると尿に糖が出てくることがあります。

また、腎臓に障害が出ている場合は、尿にタンパクが混じることもあります。

尿検査は簡単に行えるため、健康診断などでもよく用いられます。血液検査とあわせて行うことで、より正確な診断や経過観察が可能となります。

6.治療方法


糖尿病の治療は、患者さんそれぞれの症状や重症度によって異なりますが、基本的には「運動療法」「食事療法」「薬物療法」の3本柱で進められます。

ここからは、それぞれの治療法について詳しくご説明しましょう。

6-1.運動療法

運動療法は、糖尿病治療の基本となる方法のひとつです。

運動を行うことで、筋肉がブドウ糖を多く消費し、血糖値を下げる効果があります。

また、運動によってインスリンの働きが良くなり、血糖コントロールがしやすくなります。

ウォーキングや軽いジョギング、水泳、サイクリングなど、ご自身が無理のない範囲で継続できる運動を選びましょう。

運動は毎日続けることが大切ですが、体調や合併症の有無によっては注意が必要な場合もあるため、主治医と相談しながら進めてください。

6-2.食事療法

食事療法も、糖尿病治療の中心となる方法です。

バランスの良い食事を心がけ、適切なカロリーや栄養素を摂取することが大切です。

とくに、炭水化物や脂質の摂りすぎに注意し、野菜や食物繊維を多く取り入れるようにしましょう。

また、食事を食べ始める順番にも気をつけることが重要です。

例えば、野菜や汁物から先に食べることで、血糖値の急上昇を抑える効果が期待できます。

食事療法は長期間続ける必要があるため、無理のない範囲で楽しみながら実践することがポイントです。

6-3.薬物療法

食事療法や運動療法だけでは血糖コントロールが十分に得られない場合、薬物療法が導入されます。

糖尿病の薬物療法には、飲み薬(経口血糖降下薬)と注射薬(インスリンやGLP-1受容体作動薬)など、さまざまな種類があり、患者さん一人ひとりの病態や合併症の有無、ほかの疾患との兼ね合いを考慮して選択されます。

経口血糖降下薬
経口薬には作用機序の異なる多くの種類があり、単剤または複数の薬を組み合わせて使うこともあります。主な薬剤と特徴は以下の通りです。

・スルホニル尿素(SU)薬:膵臓のβ細胞を刺激し、インスリン分泌を促進します。インスリン分泌能が残っている方に有効です。

・速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬):SU薬と同様にインスリン分泌を促しますが、作用が速く短時間で消失するため、食後高血糖の抑制に適しています。

・DPP-4阻害薬:インクレチンというホルモンの分解を抑え、インスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制します。

・GLP-1受容体作動薬(経口・注射):インスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制、食欲抑制作用もあります。

・ビグアナイド薬:肝臓での糖新生や腸からの糖吸収を抑え、インスリン分泌に依存せず血糖値を下げます。体重増加が少ないのも特徴です。

・チアゾリジン薬:脂肪細胞に作用し、インスリン抵抗性を改善します。
・α-グルコシダーゼ阻害薬:炭水化物の分解・吸収を遅らせ、食後の血糖上昇を抑えます。

・SGLT2阻害薬:腎臓での糖再吸収を抑制し、尿中に糖を排出させて血糖値を下げます。

注射薬療法
※当院では注射薬療法が必要な患者さんは病院へ紹介しています

・インスリン療法:1型糖尿病では必須、2型糖尿病でも経口薬でコントロール困難な場合に使用します。インスリン製剤には作用時間の異なる複数のタイプがあり、患者さんの状態に合わせて選択されます。

・GLP-1受容体作動薬:インスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制、食欲抑制など多面的な作用を持ち、注射薬としても使用されます。

上記のような薬の服用や注射は、必ず医師の指示通りに正しく行うことが重要です。

また、薬物療法を始めた場合でも、食事療法や運動療法は引き続き重要です。

薬だけに頼るのではなく、生活習慣の改善を継続することで、より良い血糖コントロールと合併症予防が期待できます。

7.おわりに

糖尿病は、初期にはほとんど自覚症状がないため、知らず知らずのうちに進行してしまうことが多い病気です。

しかし、適切な治療や運動・食事療法など生活習慣の見直しによって、重い合併症を予防することができます。

発症リスクを大きく減らし、健康な生活を送ることも十分に可能です。

さまざまな合併症を防ぐためにも、日頃からご自身のからだの変化に気を配り、定期的な健康診断や血液検査を受けることが大切です。