もしかして完治?喘息治療の落とし穴と薬と付き合うヒント

ぜんそくの治療を長年続けていると、「症状が落ち着いてきたし薬をやめられるかも」と感じるのではないでしょうか。

医師に「薬をやめたい」と言い出しづらく、自己判断で治療を中断してしまい悪化する方もいます。

ぜんそくは完治できる病気なのでしょうか?この記事では、ぜんそくは完治できるのか、症状が安定したときに薬をどうするべきかについて解説します。ぜひ最後までお読みいただき、ぜんそく治療への理解を深めてください。

1. 喘息は完治するの?


まず、ぜんそくという病気が現在の医学で完治できるのかどうかを確認しましょう。

ぜんそくは高血圧症や糖尿病と同じように「慢性疾患」に分類されます。

慢性疾患とは治療や経過に長い時間がかかり、治療を続けながら徐々に症状が出なくなる状態(寛解〈かんかい〉)を目指すタイプの病気です。

そのため、特効薬を使って数日で治るインフルエンザなどの病気とは異なり、ぜんそくの治療にはどうしても長い期間が必要になります。治療には時間がかかるため、途中で投げ出さずに根気強く続ける姿勢が大切です。

【寛解とは…病気の症状がほとんど出なくなり、普段の生活に支障がない状態のことです。ただし病気そのものが完全になくなったわけではありません】

残念ながら、ぜんそくは今の医学では根本から完治させることが難しい病気です。

しかし、適切な薬物療法と自己管理を続ければ、健康な人と変わらない日常生活を送ることもできます。

実際、近年は治療薬の進歩により、多くの患者さんがぜんそくの症状をうまくコントロールできるようになっています。

特に小児(子ども)のころに発症したぜんそくは、成長とともに症状がほとんど出なくなる寛解に至るケースもあります。ただし、症状が治まっていても気道の炎症自体がなくなったわけではないため、治療を自己判断で中断すると再び症状があらわれる可能性が高い点に注意が必要です。

信頼できる医療機関で定期的に診察を受けながら治療を続け、日々の自己管理をしっかり行うことが大切です。

◆「喘息について」>>

【参考情報】『気管支喘息の疫学、診断、治療と保健指導』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-07-0001.pdf

【参考文献】“Overview: Asthma” by National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI, NIH)
https://www.nhlbi.nih.gov/health/asthma

2. 小児喘息と成人喘息の違い


同じぜんそくでも、子どもの喘息(小児喘息)と大人になってから発症する喘息(成人喘息)とでは、原因や経過に違いが見られます。

小児喘息の多くは、ハウスダスト(ダニやホコリ)、ペットの毛、花粉などのアレルギーが引き金となって起こります。

ご両親がアレルギー体質の場合、お子さんも喘息を発症しやすいことがわかっています。また、小児喘息は乳幼児期(2歳頃まで)に発症する例が多く、生後まもなく症状が出始めるケースもあります。

一方で、成人喘息は子どもの頃の喘息が治らずに持ち越されたケースだけでなく、大人になってから初めて発症するケースも少なくありません。

成人の場合、過労やストレス、大気汚染、タバコの煙など生活環境が誘因となって喘息を発症することが多く、もともとアレルギー体質でない人でも喘息になる可能性があります。

実際、成人喘息では明確なアレルゲンが見つからない非アトピー型(アレルギーによらないタイプ)の例も多くみられます。

小児喘息の5~6割程度は成長とともに症状が改善し、思春期までに症状が出なくなる(寛解する)とされています。しかし残りの4~5割は大人になっても喘息が続くことになり、治療を継続する必要があります。

また、小児喘息がいったん寛解した後でも、成長してから再び喘息症状が出る例もあります。例えば、子どもの頃に治まっていた人が大人になって喫煙を始めたことで再発するケースも報告されています。

つまり、大人になってからの喘息は自然に完治することがほとんどなく、長期にわたりうまく付き合っていく必要があるのです。

◆「大人になって喘息が再発?」>>

【参考情報】『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン』日本小児アレルギー学会
https://www.jspaci.jp/assets/documents/childhood-asthma-guideline.pdf

3. 喘息治療の基本:長期的なコントロールが目標


ぜんそく治療では、症状をしっかりコントロールして発作を起こさない状態を維持することが最大の目標です。

そのために、薬物療法と生活環境の改善を組み合わせて総合的に治療を行います。

かつては発作時だけ気管支を拡げる薬を使う対症療法が行われていましたが、それでは気道の炎症が残って喘息が悪化しやすいことがわかっています。現在では、吸入ステロイド薬によって炎症を抑える予防的な治療が喘息治療の柱となっています。

ぜんそくの治療は短期間で終わるものではなく、症状が一時的に治まってもすぐに薬をやめることはできません。

症状の有無にかかわらず、炎症を抑えるための薬を毎日続ける「長期管理」が重要になります。

ぜんそく治療の基本となる薬は、気道の慢性的な炎症を鎮める吸入ステロイド薬です。

この吸入ステロイド薬を継続して使用することで、気道粘膜の炎症を抑え、発作を予防します。吸入薬は気道(肺)に薬を直接届けるため効果的であり、適切に使えば副作用も少なく安全性の高い治療法です。

ぜんそくの重症度に応じて吸入ステロイド薬の用量を調整したり、必要に応じて気管支拡張薬など他の薬剤を追加したりして治療が行われます。

特に注意したいのは、症状が安定しているときでも治療を自己判断で中断しないことです。

症状がない日が続くと、つい吸入薬を使い忘れたり、「もう治ったから薬はいらないのでは」と考えてしまう方もいます。しかし、ぜんそく治療の目標は「症状が出ない状態を維持すること」です。

たとえ調子が良い日が続いていても、気道の炎症は完全には消えていないため、薬によるコントロールを続ける必要があります。

◆「喘息治療のゴールについて」>>

◆「喘息などの呼吸器疾患の治療で使う「吸入薬」とは」>>

4. 薬を自己判断でやめるのはなぜ危険?


症状が良くなったからといって、医師に相談せずに治療を中断してしまうのは非常に危険です。

ぜんそくの薬を自己判断でやめてしまうと、見えないところで進行していた気道の炎症が再び悪化し、時間の経過とともに咳や喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー・ゼーゼーという音)などの症状が戻ってくるおそれがあります。

特に風邪をひいたときや季節の変わり目など、なんらかのきっかけで一気に喘息発作が起こり、救急受診が必要になるケースも少なくありません。実際、ぜんそくは治療の進歩した現代においても毎年約1,400人前後の方が命を落としている病気です。

こうした重篤な発作を防ぐためにも、症状が落ち着いている間も油断せず治療を続けることが大切です。

さらに、炎症が長期間放置されると、気道の壁が分厚く硬くなって元に戻らなくなることがあります。これを気道のリモデリングといい、気道が慢性的に狭くなった状態になるため、以前よりも喘息症状が治りにくくなってしまいます。

治療を中断している間に気道の状態が悪化すると、再開したときに薬が効きにくくなり、症状をコントロールすることが難しくなる恐れがあります。このように、自己判断で薬をやめてしまうことはメリットよりデメリットのほうが大きいのです。

もちろん、症状が長期間安定している場合には、医師が判断して薬の量を減らしたり(ステップダウン)、治療内容を簡略化できる可能性もあります。しかしその場合でも、患者さん自身の自己判断ではなく、必ず主治医と相談のうえで方針を決めるようにしましょう。

◆「喘息は、定期通院がかかせません。その理由を紹介します。」>>

【参考情報】『気管支ぜんそく』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html

【参考情報】『はじめてぜん息と診断された方へ』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/first.html

5. 喘息と上手に付き合うための日常管理


最後に、ぜんそくと長く付き合っていく上で心がけたい日常生活での管理ポイントを紹介します。

まず、ぜんそくの発作を誘発する原因をできるだけ避けることが重要です。

ハウスダストやダニ、ペットの毛、カビ、花粉などアレルゲンとなる物質にできるだけ触れないように、室内の掃除や換気を徹底しましょう。寝具類はこまめに洗濯し、ダニ防止カバーの利用も効果的です。

さらに、香水やヘアスプレー、塗料の強いにおいなども気道を刺激する場合があるため、身の回りでの使用は控えめにすることをおすすめします。また、ご本人やご家族が喫煙している場合は、副流煙も含めてぜんそくの症状悪化につながるため禁煙を検討しましょう。

次に、風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症を予防することも大切です。

これらの感染症がきっかけで喘息が悪化することがあるため、手洗いやうがいの励行、人混みを避ける、マスクの着用など基本的な感染対策を心がけましょう。特に秋冬シーズンはインフルエンザの予防接種を検討してもよいでしょう。

日頃から十分な睡眠と栄養バランスの良い食事を心がけ、体力や免疫力を高めておくことも喘息悪化の予防につながります。

さらに、季節や天候の変化にも注意が必要です。梅雨時や台風の前後、寒暖差が大きい時期などは体調を崩しやすく、喘息の症状が出やすくなります。季節の変わり目にはいつも以上に体調管理に気を配り、規則正しい生活と十分な休養を心がけてください。

そして、症状が安定していても定期的に医療機関を受診し、肺機能のチェックや薬の効果を確認してもらうことも忘れないようにしましょう。主治医と相談しながら治療を継続することで、必要に応じて治療内容の調整(増薬や減薬)も適切に行えます。

日々の管理と適切な治療によってぜんそくをコントロールし、発作のない快適な生活を目指しましょう。

◆「喘息と気管支炎の症状と予防法」>>

6. まとめ

ぜんそくは残念ながら現時点では完治が難しい病気ですが、治療を継続することで症状をコントロールできます。

症状が安定していても、自己判断で薬を中止すると危険です。治療を自己判断で中断せず、主治医と二人三脚で改善に取り組む姿勢も重要です。

医師と相談しながら根気よく治療と自己管理を続けていきましょう。正しい知識と対策によって、ぜんそくと上手に付き合いながら快適な毎日を送りましょう。