風邪との違いがわかる!子どもの呼吸器感染症と家庭での対処・受診ガイド

お子さんが咳をしているとき、「ただの風邪だろう」と思いがちですが、実は様々な呼吸器感染症の可能性があります。

特に小さなお子さんの場合、症状が急に悪化することもあるため、保護者の方が正しい知識を持つことがとても大切です。

この記事では、子どもによく見られる呼吸器感染症の見分け方から、家庭でのケア方法まで、わかりやすく解説します。

1. 「風邪」だけじゃない?呼吸器感染症とは何かを知ろう


実は、私たちが普段「風邪」と呼んでいるものも、呼吸器感染症の一種です。

1-1.呼吸器感染症とは

「呼吸器感染症」とは鼻や喉などの上気道から、気管・気管支・肺といった下気道までの呼吸器に起こる感染症の総称です。

一般的に「風邪(かぜ)」と呼ばれるものもこの呼吸器感染症に含まれ、原因の多くはウイルスです。

【参考文献】“About Respiratory Illnesses” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/respiratory-viruses/about/index.htm

1-2. 子どもが呼吸器感染症にかかりやすい理由

子どもが大人よりも呼吸器感染症にかかりやすいのには、いくつかの理由があります。

まず、免疫システムがまだ未熟であることが大きな要因です。生まれたばかりの赤ちゃんは、お母さんからもらった抗体で守られていますが、生後6か月頃からその効果が薄れ始めます。そして、自分の免疫システムが完成するまでには時間がかかるため、感染症にかかりやすい時期が続きます。

【免疫システムとは…体の中に入ってきたウイルスや細菌を見つけて退治する防御の仕組みのことです】

また、保育園や幼稚園、学校など集団生活の場では、ウイルスや細菌が広がりやすい環境にあります。

子ども同士が密接に接触することも多く、一人が感染すると次々に広がってしまうことがよくあります。そのため、「また風邪をひいてしまった…」と感じるほど何度も感染してしまうことも珍しくありません。

【参考情報】『小児の呼吸器疾患』三島市医師会
https://website2.infomity.net/8120000094/course/nr.html

【参考文献】“People at Increased Risk for Severe Respiratory Illnesses” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/respiratory-viruses/risk-factors/index.html

2. 子どもに多い呼吸器感染症の種類と見分け方


「咳や鼻水が出ているけれど、これは普通の風邪だろうか?それとも他の感染症かも…?」と悩むことはありませんか。

子どもの呼吸器感染症にはいくつか代表的な病気があり、それぞれ症状に特徴があります。

ここでは症状の違いから代表的な感染症を見分けるポイントを整理してみましょう。

2-1. 普通の風邪(かぜ)

普通の風邪は子どもの呼吸器感染症でもっとも身近なものです。

主な原因はライノウイルスなどのウイルス感染で、鼻や喉など上気道に炎症が起こります。

症状はくしゃみ、鼻水、鼻づまり、喉の痛み、咳などが中心で、発熱しても微熱(37℃台)程度か、出ないことも多いです。

全身の倦怠感はそれほど強くなく、食欲や元気が比較的保たれるのも普通の風邪の特徴です。多くの場合、特別な治療をしなくても数日〜1週間程度で症状は落ち着くことが多いです。

ただし原因となるウイルスは非常に多種多様であるため、一度治ってもしばらくすると別の風邪をひいてしまうこともあります(「ぶり返した」と感じるときは、実は別のウイルスに連続して感染していることが少なくありません)。

◆『知っておきたい「風邪」の基本知識と対処法』>>

【参考文献】“Upper Respiratory Tract Infections With Focus on The Common Cold” by NCBI Bookshelf
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK532961/

2-2. インフルエンザ

インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症で、症状の重さが普通の風邪とは異なります。

典型的には38℃以上の高熱が突然出て、強い寒気や頭痛、関節痛・筋肉痛など全身の痛みを伴うのが特徴です。咳や鼻水などの呼吸器症状も出ますが、発熱と全身倦怠感が顕著で、子どももぐったりして食欲も低下しがちです。

インフルエンザは放置すると肺炎を併発したり、まれにインフルエンザ脳症という重い合併症を起こすこともあります。

そのため、高熱が出てぐったりしている場合や、「いつもの風邪と様子が違う」と感じた場合には早めに小児科を受診し、必要に応じてインフルエンザの検査や治療(抗インフルエンザ薬の投与など)を受けることが大切です

◆『インフルエンザとはどんな病気?』>>

2-3. RSウイルス感染症

RSウイルス感染症とは、乳幼児に多くみられる呼吸器のウイルス感染症です。

RSウイルスは一般的なウイルスで、2歳までにほぼすべての子どもが感染を経験します。

症状は発熱、咳、鼻水など風邪とよく似た軽い症状から始まりますが、初めて感染したとき(特に生後6か月以内の赤ちゃん)は細気管支炎や肺炎といった下気道の重い症状に進みやすいことが知られています。

ゼーゼーと喘鳴(ぜんめい)が聞こえたり、呼吸が苦しそう(息が速い、胸やお腹がペコペコとへこむ)な様子が見られたら注意が必要です。

RSウイルス感染症には特効薬がなく、重症化した場合は入院のうえ酸素投与や点滴などの対症療法を行います。特に生後数ヶ月の乳児で咳がひどい場合やミルクが飲めない場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

◆『RSウイルス感染症について』>>

【参考情報】『RSウイルス感染症に関するQ&A』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rsv_qa.htm

【参考情報】『RSウイルス感染症とは』国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/317-rs-intro.html

【参考文献】“RSV in Infants and Young Children” by CDC
https://www.cdc.gov/rsv/infants-young-children/index.html

2-4. 気管支炎・肺炎

気管支炎や肺炎は、風邪よりも下気道まで炎症が広がった状態です。

初めは上気道炎(風邪)として鼻水や咳が出ていたものが、ウイルスや細菌の感染が気管支や肺に及ぶと、症状が悪化していきます。

【気管支炎】
気管支炎では強い咳が特徴で、初期は乾いた咳が続いた後、次第に痰(たん)が絡む湿った咳に変わることがあります。発熱を伴う場合もありますが、熱が出ないこともあります。肺炎まで進行すると、38℃以上の高熱が出ることが多く、咳とともに呼吸が荒く速くなるのが特徴です。

【肺炎】
乳児では機嫌が悪くなったり、ミルクを飲む元気がなくなったりすることも肺炎のサインです。肺炎になると呼吸が苦しくなるため、鼻翼呼吸(鼻の穴をヒクヒクさせて息をする)、陥没呼吸(息を吸うときに鎖骨や肋骨の間がくぼむ)といった呼吸困難の徴候が見られることがあります。これらの症状が出ている場合は早急な受診が必要です。

ただ、症状だけで風邪と気管支炎・肺炎を完全に見分けるのは難しい場合も多いです。

咳がひどくなってきたり、熱が高く続く場合、呼吸が普段より早かったり苦しそうに見える場合には、「ただの風邪だから…」と様子を見すぎずに受診しましょう。

◆『肺炎について』>>

【参考情報】『肺炎-解説-』東京都こども医療ガイド
https://www.guide.metro.tokyo.lg.jp/sick/haien/index.html

【参考文献】“Respiratory tract infections (RTIs)” by NHS (UK)
https://www.nhs.uk/conditions/respiratory-tract-infection/

3. 家庭でできる初期対応 症状別のケアと観察ポイント


お子さんに呼吸器感染症の症状が現れた時、家庭でできるケアについて症状別に紹介します。

3-1. 咳が出たときのケア

お子さんに咳が出ているときは、まずは喉と気道を潤すことを心がけましょう。

部屋の空気が乾燥していると咳込みがひどくなることがあるため、加湿器を使ったり濡れタオルを干すなどして室内の湿度を適度に保つと効果的です。水分も少しずつこまめに補給して、喉を潤し痰を出しやすくしてあげてください。

また、部屋の温度にも気を配りましょう。夏場に冷房で空気が冷えすぎると喉を刺激することがありますので適温を保ちます。

咳がひどいときには、上体を少し起こした姿勢にしてあげると呼吸が楽になります。寝ている場合は枕やタオルで背中を少し高くするとよいでしょう。

痰がからんで苦しそうな咳の場合は、胸や背中を優しくトントンと叩いてあげると痰が出やすくなります。

◆『咳が止まらない…どこか炎症を起こしてる?』>>

◆『熱はないけど咳が止まらない時に考えられる疾患とは?』>>

3-2. 鼻水や発熱時の家庭対応

鼻水や鼻づまりがひどいときは、お子さんが苦しくないように鼻を通してあげる工夫をしましょう。

就寝時に鼻づまりがあると呼吸がしにくく咳が出ることもあるため、上半身を少し起こした体勢にしたり、加湿をしっかりすることで楽になることがあります。

発熱により体内の水分が失われやすくなりますので、こまめに水や薄めたイオン飲料等を飲ませます。食欲がない場合は無理に食事をとらせる必要はありませんが、水分だけは少しずつ与えましょう。

熱が上がり始めで子どもが「暑い」と汗ばむ様子なら、衣服を一枚脱がせたり薄着にして身体を冷まします。額や首筋、脇の下、足の付け根(大動脈が通る部分)などに冷たいタオルや保冷剤を当てるのも効果的です。

発熱時は部屋の温度も快適に保つ必要があります。夏場なら25〜28℃、冬場は20〜23℃前後を目安に室温を調整すると良いとされています。

【参考情報】『18②発熱時の対応』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/hoiku02_0003.pdf

3-3. 「食欲があるか」「元気があるか」をチェック

家庭でお子さんを看病する際には、体温や咳の有無だけでなく全身状態にも目を配りましょう。

具体的には「普段と比べて元気があるか」「食欲はあるか」「機嫌はどうか」といった点が重要です。高熱があってもお子さんが遊んだり食べたりできていれば、緊急性はそれほど高くない場合が多いです。

逆に、熱がそれほど高くなくてもぐったりとして元気がない、水分も受け付けずおしっこが減っているようなときは脱水症状や重症化のサインかもしれません。

いつもと違うぐずり方をしたり、呼びかけに対する反応が鈍いと感じた場合も注意が必要です。 普段お子さんを一番近くで見ている保護者の「なんだかいつもと様子が違う」という直感も大切です。

4. 受診すべきタイミングとは?迷ったときの判断基準


お子さんの症状が出てから時間が経つにつれ、「もう病院に連れて行くべきかな?それとももう少し様子を見るべき?」と悩む場面が出てきますよね。

ここでは受診のタイミングの目安について、症状の程度ごとに考えてみましょう。

4-1. こんなときは受診を検討

次のような場合は、緊急ではないものできるだけ早めに受診したほうが良いでしょう。

・発熱が続く
高熱(38℃以上)が丸2日以上続いている、または微熱でも4〜5日以上長引いている。特に3か月未満の赤ちゃんで37.5℃を超える発熱がある場合はすみやかに受診してください。

・咳や鼻水が長引く・ひどくなる

・咳が最初より悪化してきている、ゼーゼー・ヒューヒューと喘鳴が聞こえる

・食欲や水分摂取が落ちてきたり、熱が出てから徐々に食事や水分がとれなくなってきている。
おしっこの量が普段より減っている場合は脱水を起こしかけている可能性があります。

・熱はないが元気がなく機嫌が悪い、夜も眠れずぐずっている

上記のようなケースでは、平日の日中であればその日のうちに受診することをおすすめします。

夜間であれば翌朝を待っても大丈夫なことが多いですが、悪化する可能性もありますので、必要に応じて夜間診療所に相談してもよいでしょう。

【参考情報】『子どもの救急ってどんなとき?~せき・息が苦しい時』群馬県医務課
https://www.pref.gunma.jp/page/4127.html

4-2. すぐに救急受診が必要な症状(ためらわず緊急対応)

次のような危険なサインが見られるときは、時間帯に関係なく直ちに医療機関を受診してください。

深夜や休日でも救急外来への受診を検討し、必要に応じて119番で救急車を呼んでください。

・お子さんの顔色が明らかに悪い、唇が紫色になっている(チアノーゼ)

・ぐったりとして反応が鈍い、呼びかけても目を開けない、あるいは意識がもうろうとしている

・呼吸が明らかに苦しそう(ゼーゼー・ヒューヒューと激しい呼吸音、息をすると肋骨の間がへこむ、呼吸数が普段より極端に多い)

・嘔吐を繰り返している、全く水分がとれない(脱水の危険があります)

・オットセイのような咳やヒューヒューという呼吸音があり、明らかに普段と違う苦しみ方をしている

以上のような状態は命にかかわる可能性がありますので、一刻も早い対応が必要です。

特に小さなお子さんは症状の進行が早いことがあるため、「迷ったら救急へ」くらいの気持ちで構いません。

夜間救急に駆け込むことをためらう方もいるかもしれませんが、お子さんの状態を最優先に考えましょう。

4-3. 判断に迷った時は「#8000」を活用

「症状はそれほど重くなさそうだけど、やっぱり心配…受診するべき?」と判断に迷うときは、各都道府県で実施されている「小児救急電話相談(#8000)」を利用しましょう。

この電話相談は、夜間や休日など病院が空いていない時間帯に子どもの急な病気やケガについて、小児科医師や看護師から助言を受けられるサービスです。

原則として夜間(18時〜翌朝8時頃)に対応しており、都道府県ごとに実施時間が異なります。事前にお住まいの自治体の対応時間を確認しておくと安心です。

なお、明らかに緊急性が高い症状の場合は、迷わず直接救急車を呼ぶことを優先してください。

【参考情報】『子ども医療電話相談事業(♯8000)について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/newpage_55223.html

5. まとめ

風邪・インフルエンザ・RSウイルスなど子どもの呼吸器感染症の症状や家庭でできるケア、受診のタイミングを詳しく解説しています。

受診すべきか判断に迷うときは#8000など公的な相談窓口も活用し、必要に応じて迅速に医療の手を借りることが大切です。