アデノウィルス感染症がどんな病気か知り、対策をしよう

アデノウィルス感染症は非常に感染力が強く、とくに6歳以下のお子さまがかかりやすい病気です。
しかし、大人の方も感染する可能性があるため油断はできません。さらに、複数の型があるため一度かかっても再び感染することがあります。
高熱や喉の痛み、目の充血などの症状が特徴的で、適切な対策と治療が重要です。
この記事では、アデノウィルス感染症の詳細と予防法についてご説明いたします。
1.アデノウィルス感染症はどんな病気?
アデノウィルス感染症は、アデノウィルスという非常に感染力の強いウイルスによって引き起こされる病気です。
とくに6歳以下の乳幼児がかかる割合が高いことが知られています。
アデノウィルスは、呼吸器や目、消化管など、人間のからだの多くの臓器に感染する能力を持っています。
そのため、感染すると現れる症状はさまざまです。
子供の病気だと思われがちですが、実際には大人の方も感染する可能性があります。どの年齢の方でも感染する可能性があるのです。
また、アデノウィルスの特徴として複数もの血清型が存在することが挙げられます。
このため、一度感染して免疫ができても別の型のアデノウィルスに感染する可能性があります。
つまり、アデノウィルス感染症は何度もかかる可能性がある病気なのです。
一般的には、アデノウィルス感染症は「プール熱」や「流行り目」として知られている感染症を引き起こします。
「プール熱」という名前から夏の病気というイメージがありますが、実際には一年中かかる可能性があります。
感染経路としては、主に感染者の方の咳やつばなどと一緒にウイルスが放出され、それをほかの方が吸い込むことで感染します。
また、感染者の目やにや便からも感染する可能性があるため、注意が必要です。
【参照文献】国立感染症研究所『アデノウイルス感染症 2008~2020年』
https://www.niid.go.jp/niid/ja/adeno-pfc-m/adeno-pfc-iasrtpc/10290-494t.html
2.アデノウィルス感染症の症状とは
アデノウィルス感染症にかかると、さまざまな症状が現れます。ここからは、主な症状についてご説明しましょう。
2-1.発熱
アデノウィルス感染症の特徴的な症状のひとつが高熱です。
一般的には、38〜40度程度の高熱が4〜5日続くことが多いとされています。場合によっては、1週間以上続く高熱が続くこともあります。
特徴として、1日の間に40°Cと37°Cの間を上がったり下がったりする弛張熱が見られることがあります。高熱が続くため、脱水症状を起こす危険性が高くなるといえます。
そのため、必ずこまめな水分補給を心がけることが重要です。
とくにお子さまの場合、ぐったりしている、尿量や回数が減っているなどの様子が見られたら、すぐに病院への受診を検討しましょう。
2-2.のどの症状
アデノウイルス感染症では、のどの症状が顕著に現れることが特徴です。代表的な症状として、のどの痛みや腫れが挙げられます。
感染すると、のどに強い痛みを感じ、会話や食事に支障をきたすほど激しくなることもあります。また、扁桃腺が腫れ、のどの奥に白い膿栓(のうせん)ができることもあります。
これがさらなる炎症を引き起こし、痛みを悪化させる要因となります。
とくにお子さまは、のどの痛みが原因で食事を摂るのが難しくなり、栄養不足や脱水のリスクが高まる可能性があります。そのため、食事は無理をせず、食べやすいものを選ぶことが大切です。
のどの痛みを和らげる方法としては、冷たい飲み物やアイスクリームを食べるのが効果的な場合があります。ただし、極端に冷たいものは刺激となることもあります。そのため、適度な温度のものを選ぶことも大切です。
2-3.咳
アデノウイルス感染症では咳の症状が現れることがあり、初期の乾いた咳から次第に痰を伴う咳へと変化するのが一般的です。
咳は感染の初期段階から見られることがあり、発熱やのどの痛みが治まったあとも長引くことがあります。
とくに注意が必要なのは、アデノウイルスの型によっては重症の肺炎を引き起こす可能性がある点です。
2-4.目の症状
アデノウイルス感染症では、目の症状も特徴的で、その代表的なものが結膜炎です。
結膜炎にかかると、目の充血や腫れ、目やにの増加といった症状が現れます。
アデノウイルスは感染力が非常に強いため、多くの場合、片目だけでなく両目に広がることが特徴です。アデノウイルス感染症の目やには最初は水っぽいものですが、次第に粘り気のある黄色や緑色のものへと変化することがあります。
目やには非常に感染力が強いため、手でこすったり、タオルで拭いたりすることで簡単にほかの方に感染してしまいます。
また、目の症状としては、痛みや異物感、まぶしさ(光をまぶしく感じる症状)が見られることもあり、これにより目を開けるのが困難になるケースもあります。
目の症状への対処法として、以下のものが挙げられます。
・清潔なガーゼや脱脂綿でやさしく目やにを拭き取る
・手洗いを徹底し、感染を広げないようにする
・タオルや枕カバーの共用を避ける
症状が重い場合や長引く場合は、早めに眼科を受診することが大切です。とくに、強い痛みや視力低下を感じる場合は、速やかに眼科専門医の診察を受けましょう。
2-5.鼻の症状
アデノウイルス感染症では、鼻の症状が現れることもあります。主な症状としては、鼻水や鼻づまりです。
鼻水は、初期段階では透明で水っぽいものが出ますが、感染が進むにつれて粘り気のある黄色や緑色へと変化することがあります。
鼻水には大量のウイルスが含まれているため、感染拡大の原因となる可能性があるため注意が必要です。
鼻づまりは、呼吸をしづらくするだけでなく、睡眠の質を低下させる要因にもなります。
とくに乳幼児の場合、鼻づまりが原因で授乳や食事が困難になることがあり、注意が必要です。
また、鼻の症状が長引くと副鼻腔炎(ふくびくうえん)を引き起こすことがあります。
副鼻腔炎になると頬や額に痛みを感じたり、頭痛が続いたりするほか、鼻水に強い臭いを伴うことがあります。
鼻の症状への対処法として、以下のものが挙げられます。
・こまめに鼻をかんで、鼻腔内を清潔に保つ(ただし、強くかみすぎない)
・加湿器を使用して室内の湿度を適度に保つ(50~60%が理想)
・鼻うがいや蒸しタオルで鼻の通りを良くする
・就寝時に頭を少し高くすることで鼻づまりを軽減する
症状が長引いたり、副鼻腔炎の疑いがあったりする場合は、早めに医療機関への受診を検討しましょう。
2-6.胃腸の症状
アデノウイルス感染症では、胃腸の症状が現れることもあります。主な症状は下痢、嘔吐、腹痛などです。
アデノウイルスによる胃腸炎は、ほかのウイルス性胃腸炎よりも下痢の期間が長いのが特徴です。
通常、胃腸炎は2〜3日で改善することが多いですが、アデノウイルス感染症では1週間以上続くこともあります。
下痢は、水様性のものから粘液や血液を含むものまでさまざまです。
頻繁な下痢は脱水のリスクを高めるため、とくにお子さまや高齢者の方は注意が必要です。
嘔吐は感染初期に起こりやすく、食事や水分を摂ることを困難にすることがあります。さらに、嘔吐物を通じてウイルスが拡散しやすいため、適切な処理が欠かせません。
腹痛は、軽度のものから激しいものまでさまざまです。
とくにお子さまの場合、腹痛をうまく表現できないことがあるので、ぐったりしている、お腹を抱えているなどの様子に注意を払う必要があります。
胃腸の症状への対処法としては以下のものが挙げられます。
・こまめな水分補給(経口補水液を少しずつ摂るのが効果的)
・消化に良い食事を選ぶ(刺激の強いものは避ける)
・症状が重い場合や長引く場合は医療機関を受診
特に脱水症状(口の渇き、尿の減少、倦怠感など)が見られる場合は、早めの対応が必要です。
2-7.その他
アデノウィルス感染症では、上記の症状以外にもさまざまな症状が現れることがあります。ここでは、そのほかの重要な症状や合併症についてご説明いたしましょう。
出血性膀胱炎は、主に学童期以降のお子さまや若い成人に見られる合併症です。
症状として、排尿時の痛みや頻尿、血尿などが現れます。
多くの場合、十分な水分摂取により自然に治癒しますが、症状が重い場合は医療機関での治療が必要となることがあります。
肝炎も、アデノウィルス感染症の合併症として報告されています。症状として、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、倦怠感、食欲不振などが現れることがあります。
肝炎の症状が見られた場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
また、まれではありますが、心筋炎や髄膜炎などの重篤な合併症を引き起こすこともあります。
【心筋炎・・・心臓の筋肉(心筋)に炎症が起こる病気です。心臓のポンプとしての働きが低下し、心不全や不整脈などの症状を引き起こすことがあります。】
【髄膜炎・・・脳の表面にある膜(くも膜・軟膜)に起こる炎症です。 多くはウイルス感染により起こりますが、細菌・結核菌・カビの感染などでも発症します。】
さらに、感染症後数週間から数か月にわたって倦怠感や体調不良が続くことがあります。これは「後遺症」と呼ばれ、日常生活に支障をきたす場合もあります。
【参考情報】CDC『About Adenovirus』
https://www.cdc.gov/adenovirus/about/index.html
3.アデノウィルスの検査と治療とは
アデノウィルス感染症の診断は、主に症状と検査結果を総合的に判断して行われます。医師は、必要に応じて以下のような検査を行います。
・迅速抗原検査:鼻咽頭ぬぐい液や便を用いて、短時間でアデノウィルスの存在を確認する検査です。
・PCR検査:ウイルスの遺伝子を検出する高感度な検査方法です。
・血液検査:炎症反応や肝機能などを確認します。
・胸部レントゲン検査:肺炎の有無を確認するために行われることがあります。
治療に関しては、アデノウイルスはウイルスの一種であるため、抗菌薬は効果がありません。また、現在のところ、アデノウイルスに対する特効薬は存在しません。
そのため、治療の基本は、ウイルスが体外に排出されていくのを待ちながら、症状を和らげる対症療法となります。
具体的な治療方法としては、以下のようなものがあります。
1. 十分な休養と水分補給
体力回復と免疫力維持のため、しっかり休み、こまめに水分を摂る。
2. 解熱鎮痛薬
高熱や痛みがある場合、医師の指示で使用する。ただし、お子さまへのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は避ける。
3. 目薬
結膜炎の症状がある場合、抗炎症作用のある目薬を使用する。
4. 吸入療法
咳が強い場合、吸入療法で症状を和らげる。
5. 点滴治療
脱水がひどく経口摂取が困難な場合、点滴で水分補給をする。
6. 合併症への対応
肺炎や中耳炎などの細菌性合併症がある場合、抗菌薬で治療する。
治療中は十分な休養をとり、バランスの良い食事を心がけ、ストレスを避けるなど、免疫力を高める生活を送ることが大切です。
症状が長引く場合や、呼吸困難、意識障害などの重篤な症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診してください。
アデノウイルス感染症は、多くの場合1〜2週間程度で自然に治癒しますが、個人差があり、完全に回復するまでに時間がかかることもあります。
とくに乳幼児や高齢者、基礎疾患のある方は、症状が急激に悪化する可能性があるため、慎重な経過観察が必要です。
4.感染予防の対策は?
アデノウイルスは感染力が強いウイルスですが、適切な予防策を講じることで感染リスクを大幅に減らせます。
感染経路には飛沫感染、接触感染、糞口感染があり、咳やくしゃみの飛沫、ウイルスが付着した物を触った手で目や口を触ること、感染者の便を介して広がります。
予防の基本は正しい手洗いとうがいです。石鹸を使い、指先や爪の間、手首までしっかり洗い、流水で十分にすすぎます。
うがいは水で数回行った後、うがい薬を使うと効果的です。また、マスクの着用も重要で、鼻と口をしっかり覆い、隙間を作らないようにしましょう。
さらに、環境の清潔を保つことも欠かせません。
ドアノブや手すりはアルコールや次亜塩素酸ナトリウムで定期的に消毒し、室内の換気を1時間に1回、5〜10分行いましょう。また、タオルの共用を避け、個人専用のものを使うことが感染防止につながります。
最後に、基本的なことですが、免疫力を高めるためにはバランスの良い食事と十分な睡眠が重要です。
感染が流行している時期には人混みを避け、発熱やのどの痛みなどの症状がある場合は外出を控えましょう。
なお、現在一般向けのアデノウイルス感染症ワクチンはありませんが、今後の開発が期待されています。これらの予防策を日常的に実践することで、アデノウイルスの感染リスクを下げることができます。
5.注意が必要な激しい咳がでる病気
アデノウイルス感染症以外にも、激しい咳を引き起こす病気があります。ここでは、代表的な3つの疾患について説明します。
5-1.マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ・ニューモニエという細菌による肺炎で、乾いた咳(とくに夜間悪化)、発熱、倦怠感、のどの痛みが主な症状です。
初期は風邪に似ていますが、次第に咳が激しくなります。
お子さまや高齢者の方、慢性疾患のある方は重症化しやすいため注意が必要です。
治療にはマクロライド系などの抗菌薬を使用し、十分な休養と水分補給が回復を早めます。
5-2.百日咳
ボルデテラ・ペルタシスという細菌による感染症で、長期間続く激しい咳が特徴です。
初期は風邪に似た症状ですが、次第に「ヒュー」という音を伴う発作的な咳や嘔吐が現れます。
とくに乳幼児は重症化しやすく、肺炎や脳症のリスクがあります。抗菌薬は早期に使用することが重要で、予防には定期的なワクチン接種が有効です。
5-3.クループ症候群
主にウイルス感染が原因で、喉頭や気管が炎症を起こします。
犬の遠吠えのような咳やゼーゼーとした呼吸音が特徴で、夜間に悪化しやすいです。重症化すると呼吸困難やチアノーゼを引き起こすため、速やかな対応が必要です。
治療は水分補給や加湿を基本とし、重症の場合はステロイドやアドレナリン吸入が行われます。
◆『子どもが変わった咳をしてる。それって「クループ症候群」かも?』>>
これらの疾患は、原因や症状が異なるものの、いずれも激しい咳を伴います。長引く咳や呼吸困難がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
6.おわりに
アデノウイルス感染症をはじめ、激しい咳を伴う病気には早期発見と適切な対応が重要です。
体力の回復とウイルスと闘うための免疫力を維持するために、十分な休養をとることが大切だと言えます。
とくに解熱してから2日間は学校や仕事を休むようにしましょう。これはご自身の回復のためだけでなく、ほかの方への感染を防ぐためにも必要です。
水分補給をこまめに行い、栄養バランスの取れた食事を心がけることも大切です。
症状の悪化や長引く咳がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
また、マスク着用や手洗いなどの感染予防を徹底し、生活環境を清潔に保つことも重要です。