咳と乾燥の関係、乾燥対策について

「咳が続いてつらい……。これは乾燥が原因かもしれない。」と感じたことはありませんか?

とくに秋冬の季節やエアコンが効いた室内では、注意が必要です。乾燥した空気により、のどや気道が刺激を受けて咳が出やすくなることがあります。

このような状況が続くと、「この咳はいつまで続くのだろう……」と不安を感じられる方もいらっしゃるかもしれません。

乾燥は、のどや気道に負担をかける要因となり、咳の原因のひとつとなります。

この記事では、咳と乾燥の関係について解説し、のどや気道を守るための乾燥対策をご紹介いたします。「咳が出るたびに辛い」「乾燥でのどが痛い」とお悩みの方はぜひ参考にしてください。

1.咳と乾燥の関係とは?


咳は、からだが異物やウイルスなどの刺激を排除しようとする自然な防御反応です。

乾燥した空気のなかに長時間いると、のどや気道の粘膜が潤いを失い、その結果、防御力が低下してしまいます。

粘膜が乾燥すると、わずかな刺激でものどや気道が敏感になり、咳が出やすくなるのです。

とくに、冬場やエアコンが効いた室内環境では、空気中の湿度が低下しやすく、のどや気道が乾燥しやすい状態になります。

そのため、咳が長引いたり、頻繁に発生することがあります。さらに、乾燥により粘膜が弱まると、ウイルスや細菌が侵入しやすくなり、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。

◆『知っておきたい「風邪」の基本知識と対処法』>>

◆『インフルエンザとはどんな病気?』>>

これにより、からだは異物を排除しようとしてさらに咳が増える悪循環が生じることもあります。

つまり、乾燥は咳を引き起こすだけでなく、感染症にかかりやすくすることで、間接的に咳を悪化させる要因にもなります。

とくに冬は、外の冷たい空気と室内の暖房による乾燥という二重の影響を受けやすいため、この時期に咳に悩む方が増える傾向です。

咳が頻繁に出る方は、乾燥対策をしっかり行うことが、予防のために大切です。

2.のどと気道の働きとは?


のどと気道は、からだの呼吸器系において非常に重要な役割を果たしています。

まず、のどの構造についてご説明しましょう。

のどは主に咽頭(いんとう)と喉頭(こうとう)から構成されています。咽頭は鼻腔の後ろから食道の入り口までの部分で、空気と食べ物の通り道として機能しています。

喉頭は咽頭の下の部分にあり、声帯を含む器官です。

のどの主な役割は以下の3つです。

1.呼吸:空気を肺へ送り、二酸化炭素を含んだ空気を体外に排出します。
2.嚥下(えんげ):食べ物や飲み物を口から食道へ送ります。
3.発声:声帯を振動させて音を作り出します。

気道は、空気が通る通路全体を指し、上気道(鼻腔、咽頭、喉頭)と下気道(気管、気管支、肺)に分けられます。主な役割は、空気を肺まで運び、同時に空気を浄化、加温、加湿することです。

のどと気道の機能として、からだを守るための重要な役割があります。

そのひとつが粘膜と線毛による防御システムです。

粘膜は気道の内側を覆い、湿った環境を保ちます。線毛は粘膜上にある微細な毛で、常に動いて異物を捕らえて促し、のどの方向へ運び出します。

さらに、のどには免疫システムの一部である扁桃(へんとう)があります。扁桃は侵入してきた細菌やウイルスと戦う役割を担っています。

これらの防御システムが正常に機能している場合、快適に呼吸することが可能です。

しかし、乾燥や刺激物、病原体などによってこのシステムが乱れると、さまざまな症状が現れます。そのひとつが咳です。

前述の通り、咳は、気道に侵入した異物や刺激物を排出するための重要な防御反応です。咳は以下のようなメカニズムで引き起こされます。

1.気道の粘膜に刺激が加わると、神経が刺激されます。
2.その刺激が脳に伝わり、咳反射中枢が活性化されます。
3.脳からの指令で、急激に空気を吐き出す動作(咳)が起こります。

咳の重要な役割は、気道を清浄に保ち、肺を保護することです。一方で、過度の咳は喉の痛みや疲労を引き起こす原因になる可能性があります。

のどや気道が乾燥すると、粘膜の防御機能が低下し、刺激に敏感になります。

その結果、咳が頻発したり、長引いたりすることがあります。また、乾燥によって粘液の粘度が高くなり、線毛の働きが妨げられることで、異物の排出が困難になり咳につながることもあります。

このように、のどと気道の働きは密接に関連しており、咳の発生や長引く咳に大きく影響します。

その結果、乾いた空気を吸い込んだだけでも、のどがイガイガしたり、咳が出やすくなるのです。

のどや気道が乾燥することで、咳以外にも以下のような症状が現れることがあります。

・のどの痛みや違和感
・声がかすれる
・呼吸がしにくい

乾燥した状態が続くと、これらの症状が悪化することがあるため、のどや気道を乾燥させないことが重要です。

【参照文献】奈良県立医科大学耳鼻咽喉科学教室『異物摘出に必要な気管 ・気管支の構造 と機能』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbes1950/40/1/40_1_68/_pdf/-char/ja

【参考情報】Cleveland Clinic “Cough”
https://my.clevelandclinic.org/health/symptoms/17755-cough

3.咳が出る人におすすめ!乾燥対策


咳を予防するためには、のどや気道の潤いを保つことが大切です。日常生活で簡単にできる工夫を取り入れるだけで、咳の予防ができます。

ここからは、代表的な乾燥対策をご紹介しましょう。無理のない範囲で可能な対策から取り入れるのがおすすめです。

3-1.のどの粘膜を乾燥させない

のどの粘膜を潤すことは、咳を減らすのに非常に重要です。以下のような方法を日常生活に取り入れてみましょう。

1.こまめな水分補給
水やお茶などの飲み物をこまめに飲むことで、のどの粘膜を潤すことができます。
とくに温かい飲み物は効果的です。ただし、カフェインを含む飲み物は利尿作用があるため、摂り過ぎには注意しましょう。

2.のど飴やガムの利用
のど飴をなめたり、ガムを噛んだりすることで、唾液の分泌が促進されます。これにより、のどの粘膜が潤います。ただし、糖分の取り過ぎには注意しましょう。

3.うがいの習慣化
うがいは、のどの粘膜を潤すだけでなく、細菌やウイルスを洗い流す効果もあります。塩水やお茶でのうがいがおすすめです。

4.加湿マスクの使用
就寝時や外出時に加湿マスクを使用することで、のどの乾燥を防ぐことができます。市販の加湿マスクのほか、通常のマスクの内側にガーゼを当てる方法もあります。

5.保湿スプレーの活用
のど用の保湿スプレーを使用することで、直接のどの粘膜を潤すことができます。外出先でも手軽に使えるので便利です。

これらの方法を組み合わせることで、より効果的にのどの乾燥を防ぐことができます。ご自分に合った方法をみつけて、継続的に実践することが大切です。

また、日常的にのどを守るためには、以下の点にも注意が必要です。

・大声を出さないようにする
・乾燥した環境での長時間の会話を避ける
・タバコの煙を吸わない

喉を酷使しすぎると、粘膜が傷つきやすくなり、乾燥が進む原因になるので、適度に休ませることも大切だと言えます。

3-2.部屋の加湿

乾燥を防ぐために、室内の湿度管理も重要です。とくに冬場は、エアコンをはじめとする暖房器具を使用すると室内が非常に乾燥します。

湿度が40%以下になると、のどや気道が乾燥しやすくなるので、室内は40〜60%程度の湿度に保つのが理想的です。湿度計を利用して、定期的にチェックするのがいいでしょう。

部屋全体の湿度を適切に保つために、以下のような方法で部屋の加湿を行いましょう。

1. 加湿器の使用
もっとも効果的な方法は、加湿器を使用することです。加湿器にはさまざまな種類があります。部屋の広さや使用環境に合わせて選びましょう。

・超音波式:静かで省エネですが、水垢が飛散する可能性があります。
・気化式:フィルターで水垢を除去しますが、やや音が大きいです。
・スチーム式:確実に加湿できますが、消費電力が大きいです。

2. 自然加湿法
加湿器がない場合や、より手軽に加湿するには、以下のような方法がおすすめです。

・洗濯物を室内干しする
・観葉植物を置く(植物が蒸散する水分が、部屋の湿度を自然に上げる効果が期待できる)
・水の入った容器を置く
・濡れたタオルを干す

これらの方法は、加湿器よりも効果は劣りますが、少しずつ湿度を上げることが可能です。

3. こまめな換気
加湿と同時に、こまめな換気も大切です。換気によって空気を入れ替えることで、カビの発生を防ぎ、室内の空気質を保つことができます。

4. 暖房の使い方の工夫
暖房は空気を乾燥させやすいので、使用時はとくに注意が必要です。加湿器と併用したり、設定温度を少し下げるなどの工夫をしましょう。

また、エアコンを使う際には、風が直接当たらないように設定したり、空気を循環させることで、乾燥を防ぐことができます。

これらの方法を組み合わせることで、快適な湿度環境を作ることができます。ただし、加湿し過ぎるとカビの原因になることもあるので、適度な加湿を心がけましょう。

【参照文献】日本看護学会抄録集 看護総合『冬季における室内の加湿方法の検証』
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902236089150189

4.おわりに

乾燥はのどや気道に大きな影響を与え、咳を引き起こす原因となる可能性があります。日常生活で乾燥対策をしっかりと行うことで、咳の予防やのどの健康維持が期待できるでしょう。

ただし、乾燥対策だけでは咳の問題を完全に解消することは難しい場合があります。

とくに、以下のような場合は注意が必要です。

・咳が2週間以上続く
・咳とともに発熱や胸痛がある
・咳に血が混じる
・呼吸が苦しい

これらの症状がある場合は、早めに呼吸器内科を受診しましょう。

呼吸器内科の専門医による適切な診断と治療を受けることが、症状の改善への近道となります。

また、乾燥対策は咳の予防だけでなく、快適な生活を送るうえでも大切です。ご自分に合った方法を見つけて、日常的に実践しましょう。

長引く咳をはじめ、少しでも不安な症状がある場合には、早めに呼吸器内科への受診を検討しましょう。