咳が出た時、血の味がする。咳や痰に混じる血の特徴や考えられる疾患

咳をしたときに「血の味がした」「痰に血が混じっていた」という症状に気づくと、不安になる方も多いのではないでしょうか。
実際、このような症状はさまざまな原因が考えられ、なかには重大な病気が隠れているケースがあります。
今回の記事では、咳で血の味がするケースや痰に血が混じる「血痰(けったん)」や「喀血(かっけつ)」の違いと、考えられる病気についてわかりやすく解説します。
咳が続いていて血の味がすると感じた方や、痰に血が混じって不安を抱いている方は、ぜひ最後までご覧ください。
1.血痰と喀血について
咳をした際に血が混じる場合、「血痰(けったん)」や「喀血(かっけつ)」と呼ばれます。
これらは似ているようで異なる症状であり、原因や治療方針も異なるため、違いを理解しておくことは大切です。
ここでは、血痰と喀血について詳しく解説します。
1―1.血痰とは
「血痰」とは、血が混じった状態の痰を指します。ピンク色や赤色、または茶色っぽく変色しているなど、混ざり方はさまざまです。
血の量は少なく、糸状に血が混じる場合や、点状に血液が混入する程度のこともあります。
通常、痰は白や透明をしていますが、風邪を引いたり炎症が起きたりすると黄色っぽい色の痰が排出されます。
通常とは違う状態である血痰が出る理由には何らかの原因が考えられます。以下は、血痰が出た場合に考えられる主な原因です。
・激しい咳による粘膜の傷
・気管支炎や肺炎などの感染症
・アレルギー性の気道炎症
・鼻血
血痰だけで、ほかに咳や発熱などの症状がない、もしくは軽度であれば、重篤な病気ではない可能性もあります。
しかし、繰り返し血痰が出る場合や症状が長引く場合は、詳しい検査が必要です。
1―2.喀血とは
喀血は、肺や気管支などの呼吸器からの出血が咳によって排出される状態です。
鮮やかな赤い色をしていたり、泡状の血液が混ざっていたりするのが特徴です。
喀血は、主に呼吸器の病気が原因で起こります。たとえば、気管支拡張症や肺がん、結核、肺塞栓症などの病気です。
喀血は命に関わる重大な病気のサインの可能性があります。とくに、大量の出血や呼吸困難を伴う場合は、すぐに医療機関を受診してください。
【参考情報】『Q4. たんに血が混じりました。』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q04.html
【参考文献】”Signs and Symptoms of Tuberculosis” by Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
https://www.cdc.gov/tb/signs-symptoms/index.html
2.血液が混じる痰以外に症状はある?ない?
痰に血液が混じる以外の症状があるかないかによって、原因が予測できる場合があります。
たとえば、激しい咳などの症状がなく、少量の血液が痰に混じっている場合、口や鼻の粘膜からの出血である可能性が考えられます。
ほかに、咳や発熱などの症状がある状態で、咳や痰に血液が混じっている場合、のどや気管支・肺からの出血の可能性が高いでしょう。
呼吸器だけでなく、食道や胃からの吐血といった可能性もあります。
痰に血が混じるという症状の他に、咳や発熱、腹部の痛みなど、ほかの症状がないか観察してください。
3.血液の色や性状でも見分けることができる
痰に混じる血液の「色」や「性状(見た目や状態)」は、どこから出血しているのかを推測する上でとても重要な手がかりです。
ここでは、血痰・喀血・吐血のそれぞれの特徴について解説します。
【血痰(けったん)】
血痰は、痰の中に少量の血が混じる状態で、次のような特徴があります。
・血の色:ピンク色〜明るい赤色のことが多い
・量:少量(糸状に血が混じる、点々と血が混じるなど)
・性状:粘り気のある痰に血が混じる
・原因:多くは気管支炎や粘膜の小さな傷
血痰は、比較的軽度の炎症や刺激でも起こることがあり、必ずしも重篤な病気とは限りません。
【喀血(かっけつ)】
喀血は肺や気管支などの深部からの出血によるもので、以下のような特徴があります。
・血の色:鮮やかな赤色(動脈血)やピンク色で泡が混ざることもある
・量:中等量〜大量(数ミリ〜数百ミリリットル)
・性状:さらさらしており、泡状になっていることが多い
・原因:気管支拡張症、肺がん、肺炎、結核など
喀血は重篤な病気のサインの場合があるため、早急に受診が必要です。
【吐血(とけつ)】
吐血は消化器(食道・胃・十二指腸など)からの出血です。咳とは無関係に、嘔吐や胃の不快感など、胃腸症状を伴うことが特徴です。
・血の色:黒っぽい赤色やコーヒーかす状の黒褐色
・量:多くの場合中等量〜大量
・性状:どろっとした粘り気がある
・原因:胃潰瘍、食道静脈瘤、胃がんなどがある
受診する場合には、血液の色や状態、咳があったか、嘔吐があったかなど出血前後の症状を必ず伝えることが大切です。
◆『喘息の咳と痰・痰の状態で疑われる疾患について解説!』>>
【参考文献】”Coughing up blood is the spitting up of blood or bloody mucus from the lungs and throat” by MedlinePlus Medical Encyclopedia
https://medlineplus.gov/ency/article/003073.htm
4.咳や痰に血が混じる時に行う検査とは?
血痰や喀血があった場合、まずは医師の診察で聴診や身体診察で呼吸状態を評価します。
その後、原因を正確に把握するために、いくつかの検査を行います。一般的に行われる検査は以下の4つです。
・胸部X線(レントゲン)検査
・気管支鏡検査
・胸部CT検査
・喀痰検査
まず行われるのが胸部X線(レントゲン)検査です。肺炎や結核、肺がん、肺出血などの大きな病変を調べるための基本的な検査です。
ただし、レントゲンでは詳細が分かりにくいケースがあります。
その場合、より詳細な情報を得るために気管支鏡検査や胸部CT検査を行います。
気管支鏡検査は、内視鏡の一種です。鼻や口から細い管を挿入し、気管支や肺の検査を行います。気管支鏡を使った止血も可能です。
CT検査は、肺の内部を立体的に確認でき、気管支拡張症や腫瘍、肺の一部に起こった微細な出血など、小さな異常も発見できます。
また、喀痰検査も重要です。痰に含まれる細菌やがん細胞の有無を調べることで、感染症や肺がんなどの診断に役立ちます。
そのほか、血液検査や心電図、超音波など複数の検査を組み合わせて異常の有無を確認し、総合的に判断します。
【参考文献】”Hemoptysis: Diagnosis and Management” by American Academy of Family Physicians (AAFP)
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2022/0200/p144.html
5.喀血は重篤な疾患の可能性がある
咳とともに鮮やかな血液が出る「喀血」は、身体の異常を知らせる重大なサインである可能性が高いです。
ここでは、喀血の原因となる疾患と特に注意が必要な喀血について解説します。
少量の出血が一時的であれば様子を見て、数日で症状が消失する場合もあります。
しかし、「鮮やかな赤い血液が突然出た」「咳とともに出血が繰り返されている」といった症状がある場合や、大量出血や呼吸困難、長期間続く出血は救急受診が必要です。
少量の出血であっても長引く場合には、安易に考えず早めに受診をしましょう。
5-1.喀血の原因となる疾患について
喀血を引き起こす原因はさまざまですが、その多くは呼吸器疾患によるものです。
喀血を引き起こす原因となる代表的な疾患は以下です。
・気管支拡張症
・非結核性抗酸菌症(NTM症)
・特発性喀血症
・肺アスペルギルス症
・肺結核や肺結核後遺症
・肺がん
【気管支拡張症】
気管支の壁が、何らかの原因で慢性的に広がってしまい戻らなくなる病気です。
気道の粘膜がもろくなり、咳とともに出血しやすくなります。
慢性的な咳や痰、血痰が続くことが特徴です。
【非結核性抗酸菌症(NTM症)】
結核菌以外の非結核性抗酸菌が肺に感染して起こる慢性肺疾患です。
土や水の中に存在している菌で、やせ型の中高年の女性に好発します。
慢性的な咳や痰に加え、血痰がみられることがあります。
【特発性喀血症】
検査をしても明確な原因が見つからないものを「特発性」と呼びます。
この病気は、肺に病気がないのに血管に異常が見つかり、喀血が繰り返される病気です。
呼吸器疾患でよくみられる、息切れや呼吸困難、胸の痛み、咳などの症状がないのが特徴です。
【肺アスペルギルス症】
アスペルギルスと呼ばれるカビが肺に感染することで起こる疾患です。
免疫力が低下している人に多く見られ、咳や血痰などの症状があらわれます。
強い症状では、喀血を伴うことがあるため、注意が必要です。そのほか、発熱や胸痛、呼吸困難などの症状もあらわれます。
【肺結核や肺結核後遺症】
結核菌が肺に感染することで、炎症や破壊を引き起こす病気です。
症状として、咳や血痰、喀血を伴うことがよくあります。
結核治療後にも肺にダメージが残っている場合、呼吸器機能や循環器機能の低下を引き起こし、肺結核後遺症と呼ばれる状態になるケースがあります。
【肺がん】
肺がんは、肺の細胞ががん化し、呼吸機能の障害を引き起こす病気です。
肺がんの症状は、咳や痰、血痰、息苦しさ、胸の痛みなどがありますが、喀血も特徴的な症状です。
とくに咳や体重減少、倦怠感を伴う場合は、喀血が警告サインとなることがあります。
これらの疾患は、進行すると命に関わる可能性が高いため、喀血が見られた場合には必ず呼吸器専門医に相談してください。
【参考情報】『Q5. 血液を喀出(喀血)しました。』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q05.html
5-2.特に注意が必要な喀血
喀血自体、重要な病気の可能性があるため、早めの受診が必要です。
しかし、喀血の中でも、とくに急いで医療機関を受診すべき「緊急性の高い状態」があります。
以下は、緊急性の高い喀血です。
・咳とともに大量の血が出る
・繰り返し喀血が起きる
・出血が止まらない
・出血量が増える
このような場合には、迷わず救急受診してください。
また、喀血と合わせて以下のような症状がある場合も注意が必要です。
・呼吸困難や息切れがある
・筋力低下や立ちくらみ、冷や汗、動悸などの失血症状がみられる
これらの症状は、急性の出血による循環不全や窒息の可能性があるため、救急対応が必要になります。
また、それほど多い喀血ではなく深刻な症状がなくても、喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺がんなどの呼吸器疾患を持っている方の喀血は注意が必要です。
こうした基礎疾患を持つ人は、肺の粘膜が傷つきやすくなっていたり、免疫力が低下していたりするため、喀血をきっかけに症状が悪化することが考えられます。
喀血が少量であっても、「たまたま」「一時的なこと」と自己判断するのは危険です。
かかりつけ医や呼吸器専門医の診察を早めに受けましょう。
【参考文献】”Haemoptysis is the medical term for coughing up blood from your lungs or airways” by Healthdirect (Australia)
https://www.healthdirect.gov.au/haemoptysis-coughing-up-blood
6.おわりに
「咳をしたときに血の味がする」あるいは「痰に血が混じる」という症状があった場合、驚きや不安を感じるかもしれません。
痰に血が混じる場合、軽度の炎症から重篤な疾患まで、さまざまな可能性を示す重要なサインです。
とくに喀血は、気管支拡張症や肺がん、結核など命に関わる疾患の可能性があります。
喀血や血痰が出た場合、血液の色や状態は重要な情報です。落ち着いて観察し、受診時医師へ適切に伝えましょう。
写真を撮っておくと、口頭で伝えるよりも医師に伝わりやすいです。
少しでも異常を感じたら、自己判断せず、専門医の診察を受けましょう。